初手でアウト喰らう模様。
「…結局、パァになっちゃったなぁ」
はぁ、とため息をつき、熱狂に包まれている会場を見やる。
こんな危機を知ってまで、のうのうと雄英体育祭を観覧しようとは思わない。
僕の対応ひとつに、地球のすべての生命がかかっている。
迂闊さの塊である僕が慎重に言葉を選んでも、ボロが出るだけだ。
僕は出来るだけ心を落ち着けながら、売店で買った綿菓子にはしゃぐIAさんに問いかける。
「惑星ARIAって、どんな星なの?」
「……それは話したことなかったかなぁ?
ONEちゃん、どうだっけ?」
「話したことないね。そもそも、話せるようなことなんてないから」
「話せることがないって…、文明も文化もある星なんじゃ…?」
「ないよ。私たち以外いないし、何もないから、何を話していいのかわかんないの」
…彼女たちの知る僕は、対話の「た」の字も知らなさそうなこの二人とどうやって交友関係を結んでいたのだろうか。
そんな疑問が浮かぶものの、僕は出揃った情報を口に出し、考察を広げていく。
「この二人以外、何もないってことは、生態系というサイクル自体も機能していないってことで…。イタコさんが言うには、この二人は『体』という有機的且つ物理的な器が存在せず、ただ魂だけが形を成している…。つまりはプラトンが説いた『イデア論』のイデアがそっくりそのまま歩いてると推察できる。となれば、ARIAという惑星も物理的な法則が一切通じない、いわゆる『イデアの世界』と呼ぶべき存在で、それがヒメちゃんとミコトちゃんのように意識を切り離したのが彼女たちなのかも…」
「イズクが気持ち悪いモード入っちゃった」
「うぐっ」
記憶の中の僕も、こんな感じみたいだ。
無邪気な顔で放たれた言葉に呻き声をあげると、ONEさんが呆れたため息を吐いた。
「調和すれば、話すとか、考察するなんて余計なプロセスは要らないんだけど…」
「余計だとは思わないかな?
わからないことを考える、知ろうとするって、自分の目線で自分以外をきちんと見てるって感じがして、僕は好きだけど」
「……よくわかんない。わかんないのって、気持ち悪いし」
「気持ち悪いって思うのも、自然なことだと思うよ。でも、その気持ち悪さが一気にじゃなくてさ、ちょっとずつ消えていくのが楽しいんだ。
IAさんたちの価値観でわかるかは、ちょっとわからないけど…。そう言う思想もあるんだなって知識は持っておいて欲しいな」
僕が言うと、IAさんたちは目を丸くしたのち、ふっ、と笑った。
「……イズクって、記憶を失くして、なんかちょっと変わったよね。
私、こっちのイズクも好きだよ」
「話してて、スッキリするって言うか…。
私たちに歩み寄ってくれてる、一緒に話してるって感じがするよね」
「もしかして、その…。君たちが知ってる僕って、けっこうひどい男だった…?」
「ひどくはないよ。一匹狼な感じ」
「余裕がなさそうだった。それでも、私たちのことを自分なりに解ろうとしてくれてた」
僕が一匹狼だと言われても、正直なところ、想像もできない。
僕は孤独を体感したことがない。辛い時はお母さんが寄り添ってくれたし、先生と出会ってからは、先生とばかり一緒にいた。
あの日、先生と出会ったから、僕は一等星という仲間を得られたのだ。
だから、僕は疎外感を感じることはあっても、孤独でいるなんて考えたことはない。
そんな僕に向けて、二人は寂しそうな、悔しそうな笑みを浮かべた。
「だから、使命に背いて先延ばしにしちゃったんだよね。
…あんなボロボロの星を、ここまで直しちゃうんだもん。イズクはすごいよ」
「ボロボロの星…?」
「ああ、そっか。忘れちゃってたんだよね」
「イズクが私たちと会った時、この星は…」
────『第三次世界大戦』がキッカケで、その八割が死の星になっていたんだよ。
ひゅっ、と喉から空気が漏れ出す。
第三次世界大戦。あかりちゃんが生まれるきっかけとなり、自らの心を殺すきっかけとなった戦争。
僕は愕然としかけるも、それを無理矢理に押さえつけ、IAさんたちが語る「過去の地球」について耳を傾ける。
「その理由は、環境汚染とかじゃない。
個性因子が原因だったの」
「…個性特異点」
「うん。ちょっとは思い出したのかな?」
「ああ、いや…」
個性特異点。かっちゃんが至った、ソレ。
以前、提唱されていた『人が抑えきれないほどの個性の進化』を、かっちゃんは『個性と混じり合うことで手懐け』、その危機を乗り越えてみせた。
しかし、過去のソレは違ったのだろう。
僕の想像を肯定するかのように、二人は神妙な面持ちで頷く。
「個性特異点が生まれたことをキッカケに、人は個性という生命体の凶暴性を知った。
時は既に遅く、個性は人の枠組みを超えて、大地を、海を、空を『食い』始めた」
「……食うって…?」
「文字通りだよ。個性因子は進化の果てに行き着いた。その結果、人の体に寄生するだけでは自己を維持できなくて、手当たり次第に星を取り込み始めたんだよ。
私たちみたいなのには、関係ない話だったけどね」
…成る程。
かっちゃんの場合、僕が作ったイズクメタル製のスーツが防護壁になって、人の形を保っていられたのだろう。そう仮定すれば、意図していないスーツの変形にも理解が及ぶ。
スーツのない人間が個性特異点に至れば、二人が語るように、個性は手当たり次第にあらゆるものを取り込む怪物と化す。
彼女たちの知る僕は、「過去の」第三次世界大戦勃発時に生きていて、個性特異点を止める術を探っていた。
…いろんなことがわからずじまいだ。
そもそも、数億年前に人類が栄えている…ないし、人類が生誕しているわけがない。
個性が発現したのも、人類史が近代に入ってからだし、地球の八割が死ぬ程の戦争が数億年もの過去にあったとも思えない。
いや。大前提として、彼女らの言う「一年」がどれだけの周期なのかもわからない。時間という概念も曖昧そうだし。
僕が悶々と頭を悩ませていると、二人は「でも」と付け足し、笑みを浮かべた。
「イズクはさ、それを止める方法を見つけちゃったんでしょ?
ダイナマイトの体が何よりの証明だし」
「あー…。アレ完全に偶然っていうか…」
「偶然でもいいじゃん。だってさ、もう…」
その先の言葉が紡がれることはなく。
────敵だァァァァッ!!!!
最終種目が開催されようとしていた会場から、凄まじい悲鳴が轟いた。
僕たちが疑問を口にする前に、僕の懐が、ぶるり、と揺れる。
懐から携帯を取り出すと、先生の文字が浮かんでいた。
「もしもし?」
『敵の襲撃!プロヒーローが対応にあたってますが、正直なところ結構キツイ!!』
驚愕するべき事実なんだろうけど、生憎とこういう状況には慣れた。
プロヒーローが何百、何千と集まる中で襲撃など、大それたことをするな、と軽く思考を放棄しかけるも。
僕はふと、あることに気づく。
「……それ、もしかしなくても、人工個性でデタラメしてるとか?」
『してるから連絡してんでしょうが!!』
「すぐ向かいます!!」
先生の怒鳴り声に、僕は慌てて通話を切り、監視カメラをジャミングする。
流石にここで正体バレは避けたい。
僕は周りを確認すると、いつものように、武装プロセスを展開する。
「Messiah!今、どんな状況!?」
『……地上での起動は久方ぶりな気がしますね、イズク様』
「ご、ごめん!これからはなるべく使うから、早く教えて!」
サポートAIに感情が芽生えてきてる。
拗ねた『Messiah』に叫ぶと、仕方がないと言わんばかりに音声を紡ぎ出した。
『以前、交戦した個体名「ミラー」、及び「アーミー」に類似した人工個性を持つ敵が三年会場に襲撃。
来場していたホークス等の公安組織含む、多数のプロヒーローが戦闘に当たっていますが、増える質量に押されています』
「おぅふっ…」
公安とかいうすっげぇ面倒なのいる。
大丈夫?どさくさ紛れで先生とかが殺されかたりしない?そういう警戒もしてるだろうから、そこまで心配はしないけど。
状況を整理すると、i・アイランドを襲ったあの二人に似た敵が会場に襲来。
プロヒーローが対応にあたるも、質量に負けている。
一般人もヒーローも巻き込めないから、高火力の武装は使えない。
なら、求められているのは…。
「電光石火の突破力ってとこか」
セイカさんに貸し出している物に加え、飯田くんに作ったスーツが「疾風迅雷」というコンセプトなのだが…。
無い物ねだりをしていても仕方がない。
いつものようにイズク1号『シリウス』を纏い、バイク…イズク2号『ペルセウス』を顕現させる。
「わぁー…。すっごぉ」
「みんなには内緒ね。避難所まで行ってくれると助かるかな」
「ん。わかった」
少なくとも、IAさんたちに構っていられる状況ではなくなった。
僕はそれだけ言うとアクセルをひねり、狂乱の会場へと駆け出した。
願わくば、彼女たちの爆弾が爆発しませんように。
…僕がこんなこと思うと、大抵最悪の結果引くんだけど。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「おい、もう追ってきてんぞ!?」
切島の言葉に、俺たちは背後を見やる。
通路をバキバキと破壊しながら、突き進む歪なシルエット。
女の裸体に、無理矢理にラバースーツを貼り付けたような肌。剥き出しになった脳に、伸びた髪。
まさしく怪人と呼ぶべき存在が、幾重にも増殖してこちらへと向かっていた。
「おい、爆豪!お前、アレまとめて吹き飛ばせねーのか!?」
「やっとるわボケェ!!殲滅出来ねーくらいのスピードで増えてンだよちったぁ考えてからモノ言えや単細胞!!」
「こっから爆発見えねーんだもん!!」
俺たちは現在、両脇に音街と東北を抱え、出口に向けて全力疾走していた。
3年の部最終種目が開催されている最中、襲撃してきた怪人により、会場は大パニック。
最初は二体だけだった怪人も、今や会場を覆いつくさんばかりに増えている。
よくよく見ると、爆破を食らって吹っ飛ぶ中に、ぱりん、と音を立てて割れる影が確認できた。
「え…っ!?う、嘘やろ…!?」
「麗日、どォした?」
「あの怪人、もしかしたら、もしかしたら、やで?」
────i・アイランドん時の、あの女の子二人かも知れん。
その言葉に目を見開く暇もなく、黒の手が俺たちへと迫る。
と。その瞬間だった。
『ジャスティスストライク!!』
正面から現れた影が赫の雷を纏い、集団を蹴りで殲滅したのは。
しかし、怪人は傷口から増殖しようと、不気味な音を立てて膨れ上がり、あるいは鏡のような物体を形成する。
俺はガキ二人を下ろして手汗を気化させ、周囲にばら撒いた。
『かっちゃん!監視カメラはジャミングした!
今ならスーツが着れる!』
「クソデク!テメェ仕事が遅ェんだよ!!』
ばら撒いた気体を爆破させ、爆炎に包まれながらスーツへと着替える。
ちらり、と背後を見ると、麗日たちもスーツへと着替えており、増殖した怪物どもに応戦していた。
俺たちは隣り合わせに立つと、構えを取る。
『退け、僕がヒーローだ…!』
『お天道様が赦しても、俺の正義が赦さねェ』
さて。ここまでの情報で答えに辿り着けたかな?
感想の返信はもうちょい待ってください。余裕ができたらやります。