そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


今、瓦解する

『「ソル・カノン 」!!』

『「ジャスティスブラスター」!!』

 

爆炎と光の奔流によって怪人が穿たれ、鏡と炭の雨が降る。

出来るだけまとめてぶっ飛ばしても、それを補填するかのようにあり得ない速度で増殖する怪人に、思わず舌打ちする。

流石にキリがない。ジリ貧とも呼べる状況を前に、僕は歯を強く噛み締めた。

 

『i・アイランドの時より増殖が早い…!』

『くっそ…!コイツら、猫の盾作戦も取りやがる…!碌に火力出せねェ…!』

『猫の盾…?』

『雄英の生徒、盾に使ってやがんだよ!!』

 

飯田くんの問いに、かっちゃんが叫びながら、顔が腫れ上がった男子生徒を盾に迫る怪人の側頭部を蹴り砕く。

そう。あろうことか、あの怪人たちは最終種目に参加していた生徒たちを捕らえ、盾として活用しているのだ。

その人数は、確認するだけでも12名。ビッグ3とずん子さんは魔の手から逃れることが出来たらしい。

裏を返せば、それほどの実力がなければ、この質量に耐えきれないということだ。

かっちゃんは男子生徒の腕を引き、増殖した怪人たちを鎧袖一触に撃破していく。

 

「ぁ、う…」

『痛がってる暇あンなら退け!死ぬぞ!』

「ぁ、ぁ…、りが、と…」

 

足を引き摺り、壁にもたれかかりながら避難する男子生徒。

これで捕らえられている生徒は11人。

レーダーで確認する限り、ずん子さんもこちらへと向かっているようだ。

…なんであの人、スーツ無しで奥さんと似たようなこと出来るの?

 

『…ずん子さんってもしかして、ボクたちより強いのではないか…?』

『…まぁ、あの人、範囲攻撃ないから』

 

地獄の『奥さんズブートキャンプ』を乗り切った猛者なのだ。

心配はそこまでしなくてもいいだろう。

そんなことを考えつつ、僕は盾にされた女子生徒二人を引っ張り出す。

彼女らが避難するのを横目で確認し、僕は右手の砲身をより大きく展開した。

 

『へーパイストスの武器庫…!

「アーレスの槍」!!』

 

どぅん、と、大地を揺らすかのような轟音が鳴り響く。

槍とは名ばかりの光の奔流が敵を、果ては雲をも穿ち、一瞬だけ晴天を取り戻した。

アーレスの槍。オリュンポス十二神の一柱、軍神アーレスの名前を頂いた武装。

その一撃に目をひん剥いているのか、晴れた空を見上げて切島くんが叫ぶ。

 

『おい、ブッパして大丈夫なのか!?』

『計算した。人質にはかすりもしてない』

『…バケモン過ぎんか、コイツの頭?』

『今更だろ』

 

失礼な。茜さんの方が数倍デタラメだ。

そんなことを考えながら、開けた道を潜ろうとするも、即座に増殖した怪人に囲まれる。

やはり、貫通しても即座に塞がれてしまう。

右手の砲身を分解し、背中にブースターを展開する。

 

『かっちゃん、僕に捕まって!』

『……墜落したら殺すからな』

『ごめん自信ない!!』

 

この中で怪人の本体を打倒できそうなのは、かっちゃんしかいない。

僕はかっちゃんの手を取ると、背中のブースターを点火する。

刹那。世界は線へと変化した。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「先生、伏せて!」

 

ずん子の言葉に、ミッドナイトは即座に頭を下げる。

瞬間。彼女の拳が怪人の顔面を捉え、その体が鏡のように崩れ落ちた。

ずん子は続け様に構えを取り、四方八方を取り囲む怪人を撃破していく。

ずんだアローさえあれば、逃げ道の確保が出来たというのに、ずんだもんと距離があり過ぎて、呼び出すこともままならない。

この状況に思わず眉間に皺が寄るが、即座に無表情へと戻り、迫り来る怪人の頭部を踏みつけ、跳躍した。

 

「はぁあああっ!!」

 

同じく飛んだ怪人の喉元を掴み、そのまま宙で回転するずん子。

勢いをつけたことにより、肉の鎚と化した怪人を、塊となった群れへと叩き込んだ。

これが無個性の人間なのだろうか。

あまりに洗練された動きを前に、ミッドナイトの頭にそんな言葉がよぎる。

 

「東北さん…、あなた、強いのね…」

「そりゃ、どう…もっ!」

 

ミッドナイトの賞賛を流し、足払いで殺到する怪人の体勢を崩す。

バランスを崩し、ガラ空きになった顎を穿ち、ずん子は滴る汗を払う。

その時だった。

 

轟音と共に、光が降り立ったのは。

 

「な、なに…!?」

 

暴風と共に散乱する怪人の破片を受けながら、ミッドナイトがそちらを見やる。

立ち上る砂煙を払うように、二つのシルエットが動き出し、怪人を殴り倒した。

風で揺れる髪の間に見えたのは、星を象った装飾が散りばめられた装甲の戦士が二人。

その戦士が指を鳴らすと共に、赫の雷と白の太陽が降り注いだ。

 

「……そんな、デタラメな…」

「………」

 

あまりにも、規模が違いすぎる。

2匹の怪人によって作り出された地獄絵図は、二人の戦士によって打破された。

それでも、まだ視界の八割を埋めつくほどに膨大な怪人たちが蠢くが、二人の戦士はある一点に目を向け、駆け出した。

 

「速い…!!」

「なんだあれ!?プロヒーローか!?」

「いや、見たことないぞ!?」

 

怪物に隠れて見えないのか、さまざまな憶測があちこちから飛び交う。

そんなことも気にせず、戦士二人は二体の怪物を投げ飛ばし、空へと跳ぶ。

怪物が増殖しようと、体の一部を歪ませるものの、更に天高く蹴り飛ばされ、あっという間に見えなくなってしまった。

 

「な、なんだったの、今の…?」

 

ミッドナイトが呆然と呟く。

と、背後からセメントスや生徒たちの素っ頓狂な声が響いた。

 

「お、おい!増殖が止まったぞ!?」

 

ミッドナイトはその言葉に、慌てて怪人の様子を見やる。

目の前には、増殖しようとしたのだろう、一部が歪に膨らんだ怪人が立っている。

しかし、上手くいかなかったのか、膨らんだ箇所が徐々に引っ込んでいくではないか。

あたりを見渡すと、増殖を図っていた怪人らも、歪なシルエットから一点、すらりとした雌型の怪人の姿へと戻っていく。

 

「もしかして…、さっきのが本体だったんじゃないか…?」

「あ、ああ…。誰だかわからないが、助けられてしまったな…」

 

生徒たちの会話を聞き流しつつ、ミッドナイトは鞭で残った怪人を殲滅して回る。

そんな中で、ずん子が祈るように、天を見つめているのが見えた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「思った通りだ!知性が死んだことで、人工個性がかなりデチューンされてる!

本体が居ないと、正確な行動が取れないみたいだ!」

 

がしゃん、と音を立てて、空中に浮かんでいた僕特製の空中牢獄が閉じる。

だだっ広く、殺風景な空間に戦慄くでもなく、狼狽えるでもなく、怪人たちは即座に増殖し、僕たちへと迫った。

容赦ない範囲攻撃で殲滅していると、かっちゃんが口を開く。

 

「つくづく解せねぇ…。フィクサーがこんなヘタな手を打つか…?

そもそも、コレは何を狙っての襲撃だ?

雄英潰すンなら、アイツならもっと上手くやったはずだろ。

…きなクセェとこが目立つな」

「そっちも気になるけど!気になるけども、今はあの地獄絵図をIAさんたちが見る前に片付けないと!!」

「…そォだった、地球全生命の危機なんだったわ。忘れてた」

 

断言する。彼女らがあれを見たら、絶対に生命の統合を図る。

分かり合えないわけじゃない。理解はできないだろうけど、きっと、受け入れようとはしてくれていたんだ。

僕は焦燥を拳に込めて、取り残された本体の怪人に叩き込もうと駆け出した。

 

『…………ぱ、ぱ。い、ち…味』

 

その言葉に、思わず拳が止まった。

知性は死んでいる。死んでいるのだろう。

が。その魂の残穢とも呼ぶべきモノが、そこに残っていた。

フィクサーに酷似した、悍ましい何かに触れているような、そんな感覚。

もしもだ。もしものことだが。あかりちゃんがこうなってしまったなら。

そんな悪い想像が頭を駆け巡り、僕は歯を食いしばった。

 

「ふざけるなよ…」

 

脳が剥き出しになり、瞳はどこを向いているかもわからない。

怪人と成り果てた姿に、i・アイランドで出会った少女の諦め切った笑顔が重なった。

 

「ふざけるなよ…!!」

 

レーダーからわかる。生物学的には、彼女たちはもう死んでいる。

どうやっても取り戻せない命を前に、胸の奥からふつふつと怒りが湧き上がってくるのがわかった。

と。かっちゃんが僕の頭を鎧越しに叩く。

 

「落ち着け。…背負うモンが増えただけだ」

「……うん」

 

その言葉に、熱が冷めていく。

そうだ。背負う覚悟は出来ている。その怒りを吐き出す時は、今じゃない。

僕は構えを取り、怪人に告げた。

 

「遅くなってごめんね。今、助ける」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「イズクの言葉、やっぱりわかんないや」

 

空を見上げ、IAが呟く。

目の前に広がるのは、怪人に蹂躙された人々のおびえる姿。

出久が言ったように、別々だからこそ感じることのできる素晴らしさが存在することは、なんとなく理解できる。

しかし。だからといって、そこに存在する苦しみがなくなったわけじゃない。

現に目の前にいる人たちは、失う恐怖に喘ぎ、不安を顔に出している。

いや、それだけじゃない。異常を察知し、駆け出した時の出久の表情。

彼はあの時、全くと言っていいほどに笑えていなかった。

寧ろ、これから死地に立つ戦士のように、悲痛な覚悟が透けて見えた。

IAはONEに目を向け、頷く。

 

「…やっぱりさ、やろう?

イズクがこれ以上苦しむ必要なんて、もうないと思うの。

だってさ、あんなに頑張ったんだよ…?

数え切れないくらい頑張って、数え切れないくらい失って、数え切れないくらい狂いそうになって…。

だから…、もう救われてもいいと思うの」

「……うん。私も、そう思う」

 

きっと、イズクは声を大にして反対するだろうな。

そんなことを思いつつ、二人は手を取り合い、息を吸い込む。

と。それに気付いたのか、コウは慌てて二人を止めようと、口を開いた。

 

「待って…!!」

「「─────」」

 

制止はすでに遅く。

滅亡へ向かう歌が今、紡がれた。




近いうちにこの章は終われるといいな。
尚、二人を説得できる唯一の人間である緑谷出久が近くにいないため、状況は最悪な模様。

ジュウガとかランペイジバルカンとかみたいに、マンモスのエフェクトで踏み潰すのとかカッコ良すぎって思うの。動物パゥワーで暴れ回るスーツとか取り入れたいけど、それやりだすといよいよ仮面ライダーなんでやらない。

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