今回で未来人編はおしまいです。
指摘があったので、クルマの種類をぼやけさせました。
結論から言おう。
鎌倉山頂点付近が、ものの見事に割れた。
幸いにも人的被害は無かったが、初めて活動による周囲への被害が発生したことにより、緑谷くんはひどく落ち込んでいた。
まぁ、すぐに立ち直ったが。
…状況が状況なだけに、今回ばっかりは怒る気にもなれない。
「……」
「京町セイカ、大丈夫ですか?」
「あっ、水奈瀬さん…」
そんな彼らを放って、僕は京町セイカの肩を叩く。
流石に、厄介払いで追い出された挙句、殺されかけたのだ。
心が磨耗しているのは、見て取れた。
「…その。本当にごめんなさい。
私のために、緑谷さんたちと体を張ってくださったんですね」
「自惚れも大概にしたらどうです?
『緑谷くんが負ける=僕ら死ぬ』でしたので、自分のためにやったんですよ」
僕が言うと、京町セイカは笑みを浮かべた。
「…やっぱりあなた、きりたんが言ってたみたいに、性格悪いですね」
「自覚はあります。治す気はないですが」
よっこらせ、と呟きながら、彼女のすぐ側に腰掛ける。
目の前に広がるのは、修復していく破壊の痕跡。
緑谷くんのナノマシンと、紲星あかりのセルフギフトとやらで、山を癒しているのだ。
気絶した未来人は、起きて暴れないように『重力を強化する個性』で縛り付けているため、問題はないという。
「…自分が厄介者扱いされてるのなんて、とっくに知ってたんです」
「ええ。まぁ、あれで自覚して無かったら、流石に馬鹿が過ぎてます」
「前々から思ってましたけど、そんなはっきり言います!?」
「僕は嘘つきですが、他人への評価に関しては嘘をつきませんので」
評価というのは、薬だ。
人や種類によって効果は違うし、劇薬にも良薬にも変わる。
小学生の人格を形成する上で、重要な部分だと言える。
だから僕は、頭ごなしに褒めることも、貶すこともしない。
無論、度が過ぎれば批判するし、ちゃんと成果を出せば褒める。
「…でも、緑谷さんが倒した…私の上司は、凄く良い人だったんです。
私のミスを、いつだって笑って、『お前はミスから立ち上がれるヤツだ』って褒めてくれるんです」
「そうは見えませんでしたが」
「…多分、ずっと我慢してたんだと思います。そうですよね…。
こんなポンコツの尻拭いばっかさせられて、殺したくないわけないですよね…」
言うと、彼女はぽろぽろと涙をこぼす。
それなりに年齢を重ねてる影響か、緑谷くんや東北さんのように、大声で泣き叫ぶことはない。
…教え子にはあまり言わないようにしているが、彼女の年齢であれば大丈夫か。
「これは先生やってる人間からのアドバイスです。
受け入れる評価は、選んだ方が良いですよ。
中には、評価という名の薬に紛れて、毒物がありますからね」
子供の中には、この言葉を曲解する奴が必ず現れる。
だから僕は、この言葉を生徒に送ったことはない。
「…ちゃんと、付け足した方がいいですよ。
『称賛ばかりを受け入れろって意味じゃない』って」
ポンコツのくせに、こう言うところは鋭いのか。
「なんでも答えを出し示す職じゃないんですよ、先生というのは。
痛い目を見ずに育った人間なんて居ません。
間違いに気づかずに生きてきた人間なんて居ません。
誰にも批判されずに生きてきた人間なんて居ません。
そういうことを学ばない輩を、『バカ』って言うんですよ」
ま、限度がありますが、とだけ付け加え、僕はぼりぼりと頭を掻いた。
「…車、紲星さんのセルフギフトでなんとかなりますかねぇ」
「いい話の余韻台無しですよ!?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「車は、これでいいですか?
『直す個性』で手当たり次第の破片から、車を作り出しました!」
「違う違う違う違う!!
車の種類も…なんなら道具の用途までも、なにもかもが違う!!」
直った車を前に、僕…緑谷出久である…は、ツッコミを入れた。
彼女、紲星あかり…本人の希望であかりさんと呼ぶ…の隣にある、謎のオブジェ。
どう見ても、マリオカートで出てきそうなモンスターマシンだ。
「先生のは普通の軽自動車!!
使い古されたフッツーの中古車なの!!
イズクメタル使用してないの!!」
「…?このくらいの装甲がないと、生き残れませんよ?」
「それは!!君の時代が戦時中だからでしょ!?
この時代は少なくとも、そんな物騒…いや、物騒か…?
とにかく!!未来に比べりゃ平穏な時代なの!!」
この子、抜けてる。
兵器として暮らしていた彼女に、僕らの普通は難しそうだ。
こてんと首を傾げる彼女に、「とりあえず、破片に戻して」と指示する。
が。その指示の仕方が悪かったのか、彼女は車をぶん殴ってスクラップにした。
「……あれ?もしかして、普通じゃありませんでした?」
「あ、うん。ハッキリ言うと、だいぶズレてる」
僕が指摘すると、彼女は少しばかり落ち込んだ様子を見せた。
やばい。
普通に固執してた彼女に『普通じゃない』という言葉は、もうちょっとオブラートに包むべきだったかも。
「あ、あのっ!その、仕方ないことだから!
カルチャーショック!日本から見た食虫文化とか、そう言う類と同じだから!」
慌てて僕が励ますと、あかりさんは笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。そういう人じゃないって、ちゃんと分かってますから」
良かった。ちゃんと伝わってた。
…それはそうとして。
「ちゃんと車は直してね。
バッラバラになった状態じゃ、僕も直しようがないから」
「分かってますよ。えい!」
彼女が声をあげるとともに、バラバラになった破片が元に戻っていく。
そこには、僕らのよく知る車…ではなく。
ドラマの中でしか見たことがないような戦車が完成した。
「違う!!これ戦車じゃん!!!」
「普通の車って言ってませんでした?」
「だから戦闘機能要らないんだって!!」
彼女に普通を教えるのは、ちょっと骨が折れそうだ。
♦︎♦︎♦︎♦︎
未来人の目が覚める。
彼を威嚇するように、シリウスを纏った緑谷くんと紲星あかりが彼の目の前に立った。
「ようやく起きたか」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」
未来人は屁っ放り腰で、彼らから離れようとする。
が。その背後に回った京町セイカが、緑谷くんがチューニングした銃器を構えた。
「逃げないでくださいよ。
戦闘に関しては、ポンコツじゃない。
それは、あなたがよく分かってますよね?」
「き、京町セイカぁぁぁぁああ……!!」
囲まれた未来人に、緑谷くんがその胸ぐらを掴み、顔を寄せる。
「元の時代に帰れ。
お前たちの時代の地球がこうなって欲しくないなら、二度と僕たちに手を出すな…!!」
緑谷くんは言うと、月に向けて手を向ける。
瞬間。一条の光とともに、月が爆散した。
「ひっ…、ひぁっ……。ひゃあああああああ!?!?」
未来人が謎の穴を作り出し、その奥へと消える。
謎の穴が消えて無くなるのを確認し、緑谷くんが指を鳴らす。
瞬間、爆散したはずの月が元に戻った。
「うーわっ。今の完全に敵ロールプレイでしたよ…。
僕がやってんの、最高のヒーローのロールプレイじゃなかったですかね?」
「アイアンマンもキャプテン・アメリカも通った道ですよ」
タネを明かせば、なんてことはない。
車の中を異世界に変えたプロジェクタープログラムをイズク6号・ガニメデに搭載。
空に月が爆散するという映像を映し出しただけだ。
……山での戦いといい、割れた山が戻ったことといい、確実にニュースになるな、コレ。
「緑谷先輩。うだうだ言うのはやめなさい。
この子とセイカさん、助けられなくても良かったんですか?」
「よくない。良くないけども…」
「どのみち、ああいうインパクトあって『確実にヤバい』って思わせるような方法を取らなきゃ、効果はないんです。
機密情報ベラベラ話すあたり、それなりに地位はありそうですから、『あかりさんに手ェ出したらヤバいセコムが来る』ってことが分かってる分、管理に血眼になると思いますよ」
東北さんのお叱りを受けながら、緑谷くんが恐縮する。
僕は、地面に寝転がった一人の男の側に立っていた。
「……で。この人マジでどうします?
麻酔効きすぎて起きませんよ?」
「「「「あ」」」」
こうして、僕たちの未来人と謎の生命体を追う物語は終わった。
後日、同居人が僕の家に一人増え、緑谷くんの家に一人増えた。
未来人編が終わり、次の章は推薦入学した彼が、「めっちゃ夏休み満喫してるぜ!」スタイルで出てきます。
次回のキーワードは、「人工個性」と「梅」です。お楽しみに。