そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


緑谷出久、墜落(物理)

じりじりと日が照りつける。

クソ親父は仕事で留守、夏兄は彼女さんとデート、冬姉は教員資格を取るための勉強。

暇を持て余していた俺は、とある場所に来ていた。

 

 

「…ヒメ、ミコト。いるか?」

 

 

目の前には、真夏日だというのに満開の、二本の梅の樹木。

俺が口を開くと共に、その梅の木の上から、二人の女の子…本当は性別が分からないのだが、スカートを履いてるので女の子ってことにしておく…が降りてきた。

 

 

「ショートぉぉぉおおおお!!

おっひさぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

「ぐっふぅっ!?」

 

 

女の子の一人が、俺の腹に弾丸のように頭突きをかます。

それを受け止め切れるほど鍛えられていない俺の体は、無様に仰向けに倒れた。

 

 

「こらっ、ヒメ。ごめんね、ショート。

ヒメ、『ショートまだかな?まだかな!?』って毎日楽しみにしてて…」

 

 

ハゲるんじゃないかってくらい、俺の腹に頭を擦り付ける女の子。

その女の子に半目を向ける女の子が、俺に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 

「ミコトだって、楽しみにしてたじゃん!」

「今日は目一杯遊んでやるから、喧嘩はやめろ」

「「はーい!」」

 

 

元気に返事する彼女たちについて、少し語っておこう。

 

 

彼女たち…『鳴花ヒメ』と『鳴花ミコト』は、『万年開花』と呼ばれる二本の梅の精霊…らしい。

底抜けに明るく、活発で元気で、それこそ彼女から元気という要素が無くなることは無いんじゃないかという女の子がヒメ。

ヒメとは対照的に、クールで大人びていて、たまに子供らしさを見せるのがミコト。

 

 

俺と彼女らの付き合いは、もう五年になる。

 

 

クソ親父に嫌気がさして、逃げ出したのが小学二年生の時。

母さんが家から居なくなって、辛さの吐口がなくなって、疲弊していた時。

 

ふと、母さんと撮った写真が目に映った。

 

『万年開花』。母さんとの、1番の思い出。

俺は写真を握りしめ、記憶を頼りに、必死でその梅の木を探した。

探さないといけないと思った。

梅の木が、俺を呼んでいる気がした。

 

 

 

そんな理由をつけて、俺は親父から逃げた。

 

 

 

たどり着いたときには、2回も日が登った。

腹がすいて、喉もカラカラで。

母さんのご飯が食べたい、と心から思って、ボロボロ泣いていた。

 

 

「大丈夫?お腹すいてない?」

「よかったら、これ食べて」

 

 

そんな俺に、木の実…種類は分からない…と、木製のコップに注がれた水をくれたのが、彼女らだった。

酸っぱいだけの木の実を貪り、雨水が溜まっただろうその水を勢いよく飲み干した。

酸っぱい上に、どっちもしょっぱかった。

 

 

彼女たちと仲良くなるのに、時間はかからなかった。

たくさん遊んだ。

初めて出来た友達に、俺は久々に、心から笑えた気がした。

 

 

俺が此処まで来る経緯を語ると、彼女らに「家族は心配してないの?」と聞かれた。

 

 

 

「あんなクソ親父が、俺を本当の意味で心配するもんか…」

 

 

俺が言うと、彼女らは俺に問いかけた。

 

 

「君の家族って、お父さんだけなの?」

「…っ」

 

「君のお父さんがどうかは分からないけど、帰った方がいいんじゃない?

本当に心配してる家族の人が、かわいそうだよ」

 

 

ヒメとミコトに言われ、俺は三日ぶりに家に帰った。

捜索届を出されてたらしく、帰ってきて冬姉に引っ叩かれ、抱きしめられた。

そのビンタは痛くて、冬姉の体は、温かった。

 

 

それから、俺は暇が見つかれば、彼女らのもとに訪れた。

同年代が遊ぶような、ゲームとか漫画とかは互いに一切持ってなかったけれど、それでも彼女らと遊ぶのは楽しかった。

 

 

俺が異常に気づいたのは、彼女らと会って二年だった。

その頃は男子と女子とに発育の差が出ていて、女子の方が背が高いなんてザラだった。

だと言うのに、彼女らは二年も経っているのに、全然成長していなかった。

 

 

俺はふと、彼女らに「歳取らねーよな」と聞いたことがある。

彼女らは「そりゃ、梅の精霊だし?」と何気ないように答えた。

 

 

まぁ、兎に角。

彼女らは梅の精霊であって、俺たちの理解を超えてる存在って思ってくれたらいい。

 

 

そんなのは彼女らを構成する要素の一つ。

特段、彼女らの人格に作用しているものは一つもない。

 

 

「ショート!今日はなにするの?」

「暑いからな。かき氷機と皿持ってきた」

 

 

鞄から、手動のかき氷機と小さめの皿を取り出す。

電動のかき氷機は、安めのものでも中学生には高かった。

氷は自前で用意できるので、持ってきていない。

早速作ろうとかき氷機を箱から取り出し、組み立てようとしたその時。

ミコトがふと、声をあげた。

 

 

 

「……ショート。シロップは?」

「あ」

 

 

 

やべっ。普通に忘れた。

 

 

 

 

「珍しい。ショートが忘れ物するなんて」

「すまねぇ。すぐ買いに…行こうにも、ちょっと離れてるな…」

 

 

と、俺が腰を上げたその時だった。

 

 

「………ぁぁぁ」

 

 

「ヒメ、ミコト。なんか言ったか?」

「ううん」

「なんにも…」

 

 

空耳だろうか。

謎の声が聞こえ、きょろきょろと辺りを見渡す。

 

 

「ぁぁぁぁぁああ」

 

 

声が近づいてくる。

一体なんだ、と発生源…空を見上げた時、俺たちは大きく口を開けた。

 

 

 

「ぁああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!?!?!?!?」

 

 

ずがぁん!!

 

 

 

昔見た、アイアンマンみたいなスーツが、俺たちの目の前に落下してきた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「じゃあ、イズクメタルって、発見されたのはかなり昔なんですねぇ。

いや、未来…?まぁ、どっちでもいいか」

 

「どうでもいいですけど、先生のパソコン爆破しといてなんか申し開きないんですか?」

 

 

 

けほっ、と煙を吹くように咳き込む僕。

家具はめちゃくちゃ、持ってた本も散乱し、足の踏み場も無いほどだ。

 

その原因は、目の前のクソガキと未来人。

 

「情報を自動で抜き取るUSBメモリ作ってみました!」と、あろうことか僕のパソコンで実践。

それだけでも叱るつもりでいたが、クソガキと談笑していた未来人が、転んで麦茶をパソコンとUSBにぶっかけ、結果ドカン。

 

火薬なんて入ってないのに、爆発するパソコンとUSBってなんだ。

それを爆発させるポンコツ具合もなんだ。

 

 

「……科学に犠牲はつきものです!」

 

「おーし、クソガキ。お前のこれから成績全部『死ぬほど頑張れ』にするわ」

 

「なんですかその評価!?」

 

「中学生で言うマイナス5と同義です」

 

「マイナス!?そんなのあるの!?」

 

「作ります。教育委員会の弱みは、なんでも言うこと聞いてもらえるほど握ってるんで」

「この人あくどっ!!本当に教師!?」

「教師ですよ」

 

 

撃沈するクソガキを尻目に、今度は吹っ飛ばされて気絶してる未来人をスリッパで引っ叩く。

ぱこぉん、と破裂音が響き、ギャグみたいなタンコブが出来た。

流石は漫画の世界。

 

 

「なにすんですか!?」

「こっちのセリフです。

これ、今すぐ直せ。でないとほっぽり出しますよ」

「そんな殺生なぁ!?」

 

 

撃沈する二人を背に、僕は玄関へと向かう。

 

 

「今から昼飯買ってくるんで、僕が帰るまでにもとに戻しておきなさい」

「「ふぁぁぁああっ!?

いやっ、無理無理無理無理絶対無理確実に無理かたつむり!!」」

「無理じゃありません。

やったことの責任は取れ」

 

 

僕は二人の断末魔を背に、空を見上げた。

 

 

「…管理人さんになんて説明しよう」

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

「……なんのギャグだい、こりゃあ…?」

 

私の恩師の一人…リカバリーガールが、驚嘆の声と共に、私のカルテに釘付けになる。

普通ならば『呼吸器を損傷し、胃袋を摘出し、本来であれば、病院で寝るべき体である』という結果が書かれているべきもの。

だというのに、そのカルテには、『私がいたって健康体である』という結果が映っていた。

 

 

「オールマイト…。

あんた、そういう個性を持った子に治してもらった…なんてことはないかい?」

 

「間違ってもありません。

それに、医療系個性で最も強力とされている貴女の個性…。

それですらも治せなかった怪我です。

私を治せる人間がいるなど、到底考えられない」

 

 

私の痩身形態…私がトゥルーフォームと呼んでいた姿は、既にない。

多少老いてはいるが、全盛期に近い状態の、呼吸も苦しいことはなく、空腹感を感じ取れる、筋骨隆々とした体。

もう二度と味わうことはないと思っていた、健康な体。

 

 

「手術したにせよ、縫合の痕がないってのも奇妙だよ…。

本当に、『超常現象』としか言えない」

「…ええ。本当に」

 

 

私の腹にあったはずの傷痕は、綺麗さっぱり消えていた。

…思い当たるのは、一つだけ。

あの日、気を失う前。

私が最後に見て、私が知ったとある存在。

 

 

「…リカバリーガール。

『未来人』が居る…といえば、貴女は信じますか?」

「何バカなこと言ってんだい。

頭ぶつけておかしくなったのかい?」

 

 

リカバリーガールがその目を開き、私を睨む。

確かに、聞くだけならばおかしな話だ。

だが、私はあの時聞いたのだ。

 

 

 

ーーーーーー西暦3015年。

 

 

 

未来で人工的に作られたという、あの少女の言葉。

私も夢物語かと思ったが、実際に見てしまえば信じざるを得ない。

 

「いえ。私は本気です。

人工的に個性を作ることも、それこそ自己修復する細胞を医学で生み出せる…卓越した科学力を持つ未来人…。

私は、その存在と邂逅している」

「……アンタがそこまで言うんなら、本当なんだろうね」

 

 

おそらくだが、ヴィジランテ『SAVER』も、同じ未来人なのだろう。

私を超える技術が生み出されていても、なんら不思議ではない。

 

 

「その未来人とやらを、アンタは知ってるのかい?」

「…はい。クライシスオーガから聴いた話では、名前は『キズナ』。

実際に見た姿は、白い髪を三つ編みにした、青い目の少女です」

 

 

彼女の存在が幻だった…と世間では報道されているが、私はそうは思わない。

あの時感じた風圧と殺気は、思い出すだけで肌を焦がすように感じる。

 

 

「クライシスオーガの名前が出る…ということは、先日の?」

 

「ええ。世間は鎌倉山の異変を『超常現象』などと報道しています。

 

…私は最終局面までは見ていません。

しかし、未来人『キズナ』と、『SAVER』のぶつかり合いの結果だということは、私が最も理解しています。

 

それが露見することを恐れた、どちらかの隠蔽工作かと。

『SAVER』の力の源はいまだに不明ですが、少なくとも、未来人は卓越した科学力を持っています。

それこそ、人の認識を変えてしまう力があっても不思議では…むぐっ!?」

 

 

私が話を続けようとすると、リカバリーガールは私の口に、一掴み分のハリボーを突っ込んだ。

 

 

「未来人なんて、底の知れない相手の底を考えるのはやめときな。

水面ばかり見たって、海の深さは分かんないだろうに」

 

 

ごくり、と味が混ざったせいで、甘ったるいだけのハリボーを飲み込む。

リカバリーガールに反論しようとした、その時だった。

 

 

「オールマイト!やっぱりここにいた!!」

 

 

私の居る…雄英高校の保健室の扉を、知り合いが勢いよく開けたのは。

 

 

「ようやく見つけたよ、オールマイト…!」

「つ、塚内くん、どうしたんだい?」

 

 

友人である警察官…塚内くんが息を切らしながら、私へと近づく。

私が何事かと問うと、彼は一枚の紙を私に見せた。

 

 

「各国トップ3のヒーローに向けた、国連第一委員会からの通達…招集命令書だ!!

急いでそこに着陸してる飛行機に乗れ、オールマイト!!

だいぶ遅刻してるんだぞ!?

メールも見ずに何やってたんだ!?」

 

「………………へっ?」

 

 

塚内くんの剣幕に、私は間抜けな声を出した。

 

 

「こ、ここここ、ここっ、こ、国連んんんッッッッ!?!?!?!?」

 

 




出久くんが墜落した理由は、次回判明します。

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