そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。

先生は管理人さん相手に爆発の理由を説明してる最中のため、出番はありません。

先生「キレそう」


先生に出番がないって本当ですか?

墜落したことの弁明をさせて欲しい。

 

 

僕、緑谷出久は、新型のスーツ…記念すべきイズク10号『リゲル』のテストをしていた。

先日のことを考えて、防衛戦特化の装備。

最終防衛プログラムに匹敵する防御力と、小型防衛衛星…イズク9号『テティス』を搭載している。

コンセプトは『動く要塞』。イズクメタルを使用した敵が大軍で来ようとも、この防御は破れないだろう。

今日は、その飛行テスト。

もう何度も作った飛行機巧を失敗するわけがない。そう思っていた。

 

 

 

が。その自惚れは木っ端微塵に打ち砕かれた。

 

 

 

そう。調子に乗って、展開したテティスの数をアホほど増やした結果、そっちに演算処理機能が割かれ、飛ぶ余裕が無くなったのだ。

要するに、僕自身のポカである。

結果、僕は盛大に落下した。

そんなわけで現在、犬神家っぽいことになってるわけだ。

 

 

「…てなわけで、引っ張ってくれる?」

「いや、引っ張ってんだけど、重すぎなのとすっぽりハマってるせいで、びくともしねーぞ」

「ショート!これ、前に言ってたあいあんまん?」

「いや、アイアンマンは…少なくとも犬神家にはならねーな」

 

 

墜落はするけど、と付け足したショートくん…顔は見えない…が、再び僕の足を持って踏ん張る。

ちょっと隙間が出来るだけで、後はなんとかなるんだけど、どうにもスーツが重すぎたらしい。

イズクメタルの軽量化も視野に入れないと。

 

 

「ショート、ちょっとどいてー」

「ヒメ、お前じゃ無理だと思うぞ」

「大丈夫だよ。ショートは、僕らをなんだと思ってるんだい?」

「え?なに?なにするの?」

 

 

瞬間。

僕の足に何かが巻きつき、僕の体が引っこ抜かれた。

 

 

「抜けた!って、梅?」

 

 

逆さになった視界には、二本の梅の木が映る。

こんな真夏日だというのに、満開の状態で薄桃色の花びらが散っている。

よく見ると、そのうちの一本から僕の足に向けて、ツタが伸びていた。

植物を操る系統の個性なんだろうか。

 

 

「おお。流石は梅の精霊」

「えっへん!ショート、もっと褒めてー!」

「ちょっ、ヒメっ…!力緩めたら…」

 

「へぶっ!?」

 

「あー…。言わんこっちゃない…」

 

 

瞬間。僕の体は地に叩きつけられた。

 

 

「おい。大丈夫か、お前」

「ああ。うん。大丈夫。

勢いでびっくりしただけだから」

 

 

差し伸べられた手を掴み、立ち上がる。

僕に手を差し伸べた彼が、先ほどのショートくんなのだろう。

僕と同じ歳くらいの男の子だ。

後ろにいるのが、先ほど話していたヒメちゃんとミコトちゃんだろうか。

きりちゃんより少し歳上くらいの女の子…双子なのか、かなり似ている…だ。

 

 

「お空から降ってきたお兄さん…なのかな?

お兄さんは天使さん?」

「いや、少なくとも普通の人間だけど…」

「普通の人間はンなスーツ着て空飛ばねーだろ」

 

 

反論できない。

 

天使ではないことを伝えると、ヒメちゃんは「でも、お空から来たよ?」と首を傾げた。

 

 

 

「お空にいるのは鳥さんとか、飛行機も一緒だろ」

「あ、そっか!じゃ、ヒコーキさん?」

「飛行機がこんな小さいわけないでしょ、ヒメ」

「そっか。人をたくさん乗せれるくらい大きいんだもんね」

 

 

この子、今まで見たことのないタイプだ。

…まぁ、僕が知っている年下の子って、どうしてもきりちゃんしか思い浮かばないけど。

きりちゃんが大人ぶった…先生曰く「マセたクソガキ」…子供なら、この子は子供らしい子供と言うべきだろうか。

…なんで一番ありそうなパターンを知らないんだ僕。

 

 

交友関係が特殊すぎる自覚はある。

 

 

先生…教育委員会の弱みを握るほど性格が悪いし、思いつきで行動する悪い方向でのアグレッシブ。普通の教師とは言えない。

 

きりちゃん…僕の技術を少し受け継いだ。シンプルに性格が悪い。普通の小学生とは言えない。

 

セイカさん…未来人。超がつくポンコツ。普通とは言えない。

 

あかりさん…個性そのものと言える存在。普通を学んでる最中。かなりの大飯食らい。かなりズレてる。

 

かっちゃん…幼馴染み。口を開けば暴言ばかりだが、僕が近づくと決まって「来んな」と避ける。上記の四人に比べれば…まぁ、普通寄りではある。微々たる物ではあるが。

 

お母さん…僕のやってることは知らない。普通の人。

 

 

 

どうしよう。普通の人、お母さんくらいしかいない。

 

 

 

「どうした、ンなボーッとして」

「いや、なんでもない…」

 

 

涙を拭い…スーツ内では分泌された体液を拭いてくれる。痒いところもケアしてくれる…なんとか取り繕った。

 

 

「…そういやそのスーツ、お前アレだろ。

最近話題のヴィジランテ」

 

 

やばっ。

 

 

「さ、さよーならー!!助けてくれてありがとー!!」

 

「うっわ、反応が露骨!!」

 

 

ここでバレるわけにはいかない。

機動性をかなぐり捨てたリゲルの背に、無理やり取っ付けたブースターで空を飛ぶ。

 

 

思えば、この奇妙な出会いが始まりだったのかもしれない。

まさか中学生の青春を全てかけた、大きな戦いが幕を開くなんて、この時の僕は考えもしなかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「日本代表、オールマイト、エンデヴァー、ベストジーニスト。半日遅刻だ」

 

 

国連第一委員会が用意した会場にて。

アメリカのとある会議室に連れられた私は、白い目を向けられる中、用意された席に座った。

 

 

「すまない。オールマイトが音信不通だったものでね」

「こいつが所在を明らかにしなかったからだ。俺とベストジーニストは、離陸時間の1時間前に飛行機に乗っていた」

「………ごめんなさい」

 

 

ぐうの音も出ない。

言い訳するつもりはないが、事実として言っておこう。

未来人について考えていたせいで、メールに気づかなかった。

無論、そんなことをこの場で言えばどうなるか、分かったもんじゃないので黙っておくが。

 

 

「その追求は、今はやめておこう。

事は一刻を争う。

今回、この会議を仕切らせていただく。

国防長官のローガン・サリバンだ。

皆も知っての通り、無個性の政治家だが、平和を望む気持ちは、各国トップ3ヒーローの君たちと同じだと思っている」

 

 

ローガンと名乗った彼…私もテレビで見たことがある程度の認識…が、英語で軽く自己紹介を済ませた。

 

 

「早速だが本題だ。

世界には、どんな形であれ、『予知』する個性がある。

実際、アメリカで予知系の個性を使って商売してるヤツは、万を超えている」

 

 

予知。

ふと、私のサイドキックを務めていた彼を思い出した。

ある理由から疎遠になっていたが、こうして健康体になったのだから、一度会いに行くのもいいかもしれない。

私が頭の片隅でそんなことを思っていると、ローガンが一枚の資料を、プロジェクター用の機械に乗せた。

 

 

「この資料を見てもらうと分かるように、予知の個性を持つ人間が、同時に小さいながらも怪我を負っている。

調べたところ、我が国のみではなく、世界各地で…しかも、同時に起きていたことが判明した」

 

 

ざわめきは起こらない。

ただし、皆が気を引き締め、戦慄していた。

無論、私もその一人だ。

その中で、カナダのトップヒーローが同じく英語で声をあげる。

 

 

「話を遮るようで失礼。

つまりは、『予知系の個性を同時に襲った組織が居る』とでも言いたいのか?」

 

 

彼女が問うと、ローガンは淡々と続けた。

 

 

「怪我の理由は襲われたとか、そういう物騒なものではない。

非常にアホらしい話だが、椅子から転げ落ちたというのがほとんどだ。

中には階段から転げ落ちた者もいるが」

 

「馬鹿馬鹿しい!!そんなことのために我々を呼んだのか!?」

 

 

と、イギリスのNo.2が声を張り上げた。

が。ローガンは動じることなく、続けた。

 

 

「転げ落ちた理由が重要なんだ。

彼らが転げ落ちた理由。それは、今年含む3年間を予知した結果、皆が驚きと恐怖のあまりに気が動転したからだ。

百戦錬磨のプロヒーローでさえも、な」

 

 

プロヒーローでさえも。

ローガンは確かに、私に視線を向けてそう言った。

まさか、彼が…?

私の死を予知し、驚きこそすれ、椅子から転げ落ちることもなかった彼が?

私が思考の海に潜るのを待たずに、ローガンが別の資料をプロジェクター用の機械に乗せた。

 

 

「これが、彼らが一律に予知した未来。

あの中で、最も信用に足る予知の個性を持った人間が書いたメモだ。

…彼は筆談しか出来ないシャイでネガティブな性格のため、その時に書いていたメモを写真に撮ってきた」

 

 

 

ーーーーーー『いィやァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!

 

誰か助けてェェェェェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!

 

世界滅ぶゥゥゥゥゥゥぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッッッッ!!!!!』

 

 

 

英語で書かれたその言葉は、現実味に欠けるものだった。

ひどく焦って書いたのだろう、その文字はガタガタで、とても筆談に慣れている人間のものとは思えない。

メモ用紙には汗が滲んだのか、どことなく湿っているのがわかった。

 

 

「常任理事国はこれを重く捉え、世界中の手だれ…各国のプロヒーロートップ3に、正式に命令を下すことにした。

トップ3未満は、実力が不足しているとして、勝手ながら切らせてもらった。

協力を仰いでもいいが、自分が殺したという事実を背負いたくなければ、やめることをオススメする」

 

 

異常事態。

一言にするならば、それに尽きた。

先程「馬鹿馬鹿しい」と声を上げたヒーローでさえも、さらに戦慄する。

トップ3以下が弱いとは、決して言わない。

だが、それでも「実力不足」扱いされる。

それ程までに切羽詰まった事態なのだ。

 

 

「…具体的な内容は?」

「中心となるのは、日本。

早ければ明日にでも、それ程の事件が起きるらしいが、一律して詳しい内容は不明。

ただ、焼け野原になった大地が見えたというだけで、十分に異常だと判断した」

 

 

 

マジかよ。

 

 

 

 

帰ったら久々に、グラントリノとサー・ナイトアイに会おう。

お師匠の墓にもお参りしておこう。

あ、そうだ。アメリカにいるんだから、デイブにも挨拶しておこうかな。

私はどこか遠い思考でそんなことを考えながら、会議の締めの挨拶を聞いていた。

 




日本語で書いてますが、会議室での会話はすべて英語だと思ってください。

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