そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通り、彼女が先輩に対して罵倒します。

ホークスはデビューして半年ほどしか経ってません。


きりたん「緑谷先輩の間抜けェ!」

「世界の危機…ですか」

「ああ。次期No.3に最も近いとされている君には、先に話しておこうと思ってね」

 

 

19にもならない坊やに何言ってんですかね、この人。

そんなことを思いながら、俺…ヒーロー名で言えばホークス。自慢じゃないが、十代でNo.10の座が約束されてる…はベストジーニストの話に耳を傾ける。

 

 

「国連からの依頼だが…恐らく、私では力不足だ。相手は大地を焦がす程の強敵。

戦闘能力の高いオールマイトとエンデヴァーならばいざ知らず。

拘束力に優れてはいるが、こと単純な戦闘に関しては、どうしても他に劣ってしまう私では、力不足だと判断した」

 

「…まぁ、妥当な判断じゃないですかね」

 

 

大地を焦がすってンな馬鹿な。

そう言おうとしたが、やめた。

ベストジーニストの目が、「これは冗談ではない」と、俺に語りかけてくるようだった。

 

 

「俺も速さが取り柄なだけで、そこまで戦闘能力高いわけじゃないですよ?

むしろ、ベテランのベストジーニストさんのほうが優れてる可能性だってある。

別にルーキーに頼むことじゃ…」

「頼む」

 

 

…マジか。面倒なことになったな。

 

 

いつもの「何もなかった!今日も平和だなぁ」と床に着く日常が崩れ去るのを感じていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「で。これが、その梅の木ですか。

確かに南高ですね」

「でしょう?」

 

 

驚いた。

こんな真夏日に、満開の梅が観れるとは。

周りの景色は、夏の青の葉で埋め尽くされているというのに。

 

 

「あー。万年開花ですか。こんな時代からあったんですねぇ」

 

「「「は?」」」

 

この未来人、今なんと言った?

 

 

「万年開花ってなんですか?」

「その名の通り、何万年も咲いたままの梅ですよ。

第三次世界大戦が起きる…そうですねぇ。

大体十年くらい前に、遺跡から見つかったそうで、未だにその詳細が明らかにされてない梅の木なんですよ」

「そういう情報は先に言いなさいポンコツ」

 

 

成る程。未来でも、手に余すほどのオーバーテクノロジーが搭載されてるのだろうか。

…いや、目の前に居るな。そのオバテク使いこなしてるのが二人。

 

 

「私も初めて見ました。

イズクくんときりちゃんは、何か知らないんですか?」

「んー…。僕、電子工学は兎に角、生体工学は専門外だからなぁ…。

昔、琴葉博士の妹さんの論文で齧った程度で…」

「私に至っては、完全に専門外です。これっぽっちも分かりません」

 

 

…現代文学研究者に古代文学のこと聞いてるようなモンか。

 

 

 

「おい。ここ私有地だぞ」

 

 

 

と。そこへ一人の少年が訪れた。

…何故か夏全開の格好で。

 

 

 

「…中学生ですよね、アレ。虫網虫かご麦わら半袖短パン…。スタイル古っ」

「少年誌でしか見たことないですね」

 

 

あかりさんと東北さんの言うように、漫画から飛び出たみたいな格好してる。

今日日見ない、いかにも「夏休み満喫してるぜ!」って格好だ。

僕たちがそんな視線を向けるも、彼はどこ吹く風で告げた。

 

 

「夏って言ったら虫取りだろ。

私有地でやるのはよくないが、よかったら、ばあちゃんに掛け合ってやるぞ。

虫かごとか虫網…女も居るし、日焼け止めとかも用意してやろうか?」

 

「「「「菩薩?」」」」

 

 

何この子、めっちゃいい子なんだけど。

クソガキと交換してほしい。

 

 

「顔に出てますよ、クソ教師」

「こりゃ失礼。わざと出しました」

「だから性格悪いって言われんですよ」

「大丈夫ですよ。ここの所有者に予め了承は得てます」

「うわっ、話逸らした」

 

 

僕が少年に向けて言うと、彼は「そっか」とだけ返し、踵を返した。

流石に公務員が不法侵入をやらかすわけにはいかないので、一応許可を取っておいて良かった。

あのおばあさんの孫か、と一人頷いていると、緑谷くんがだらだらと冷や汗を流していた。

 

 

「…もしかして、さっきの子が犬神家してた君を引っ張り出した?」

「あ、はい。苗字はわかりませんけど、ショート君です。

ボイチェン無しの声聞かれてるんで、黙ってました」

 

 

よかったー、バレてなかったー、と汗を拭う緑谷くん。

 

 

 

「聞いちゃったー!あの時のお兄ぃさん!

ミドリヤイズクっていうんだね!」

 

 

 

が。なんとも間の悪いことに、僕たちの背後には少女が二人いた。

双子なのだろうか、二人とも似たような容姿で、片方が興味深そうに緑谷くんを見つめ、もう片方が警戒心をマックスにして僕たちを睨んでいた。

 

 

「ヒメ、その人危ないって、ショート言ってたでしょ。ショート呼んでこないと…」

 

「緑谷先輩の間抜けェ!!」

 

「ごめんなさい」

 

 

東北さんの罵倒に思わず頷いてしまった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「俊典。珍しいじゃないか、お前さんから儂らに連絡するなんて」

「………」

 

 

私の目の前には、ここ数年顔も合わせなかった顔ぶれが揃っている。

サイドキックだったナイトアイ、教師として私をしごいてくれた…もとい拷問してた…グラントリノ。

グラントリノは再会を喜んでくれているが、ナイトアイの顔はいつものような嬉しそうな顔…ただし表情筋は動かない…ではなく、神妙な面持ちだった。

 

 

「今回のこと。国連から正式に命令が下されたよ、ナイトアイ」

「でしょうね」

「…ほんと、大丈夫?驚きすぎて転げ落ちた挙句、顎外れたって聞いたけど…」

「顎は治りました」

 

 

治ったんだ。良かった。

世界の終わりを予知してそれだけで済んでいるあたり、本当打たれ強いなぁ。

中には階段から転げ落ちて、全治半年の大怪我を負った人も居るってのに。

老婆心の如くそんなことを思っていると、グラントリノが口を開く。

 

 

「…で。儂はまだ何も聞かされとらんのだが、何かあったのか?」

「はい。実は…」

 

 

未来人云々を抜きにして、世界の危機への対処を国連から依頼されたこと、何故か私の傷が完治していたことを話す。

グラントリノは少しばかり目を細め、私を睨みつけた。

 

 

「世界の終わり…か。

オール・フォー・ワンなら、簡単にできるやも知れんかったが…倒しちまったからな」

 

 

実際にトドメを刺してはいないが、少なくとも後数年のうちは大人しくせざるを得ない怪我を負わせた。

まず、ヤツは候補から外れると考えた方がいい。

 

 

「有力候補は、ヤツ以外にも居ます」

「…聴かせろ」

 

 

私が言うと、グラントリノ、ナイトアイの両名の目が細まる。

私自身、あまりに馬鹿馬鹿しいとは思う。

だが、候補ではあることを話しておかなければ。

 

 

「今回の件…。私が先日体験した、超常現象…いや。とある事件に関係しています」

「…お前さんが『キズナ』という敵を倒しに向かったが、気づけば病院の前でがーすか寝てて、怪我が完治してたっつーアレか?

会ったら言おうと思ってたが、情けないにも程があるぞ」

 

 

うぐぅっ。

事実だから反論できない…!

 

 

「寝ていた理由は…我ながら情けないことではありますが、凄まじい風圧に吹き飛ばされ、後頭部に木が激突し、脳震盪を起こしてしまい…」

 

「もっぺん鍛え直すか、俊典?」

 

「けけけけっ、結構です!!」

 

 

おっそろしいっ!!

 

 

あの地獄のしごきが脳裏をよぎり、必死で首を振る。

アレで吹き飛ばされるなというのが無理だ。

 

 

「…その風圧が起きた原因は?」

「『SAVER』と『キズナ』の戦闘だ」

 

 

ナイトアイの質問に答えると、2人は目を剥いた。

 

 

「ただのヴィジランテと敵の戦闘で、お前さんが吹っ飛ばされたってのか?」

「…その時、キズナはこう言っていました」

 

 

 

ーーーーーー西暦3015年。人工的に、尚且つ科学的に作り出された個性因子…『セルフギフト』。

それを医療用の自己修復細胞に結合させ、生まれたのが私です。

 

 

 

その言葉に、2人が訝しげな表情を作る。

本当に意味がわからない、というような表情ではない。

むしろ、言葉の意味がわかっているからこそ、疑問に思っているのだろう。

 

 

「…つまり、なんだってんだ?

あろうことか未来から、ヤバい存在が訪れてるってのか?」

「…通りで、私の予知が変わるはずだ」

 

 

反応は似たようなものだった。

私はグラントリノに頷くと、いつもの笑顔を消した。

 

 

 

「ええ。恐らく、『SAVER』も同様の存在かと。

個性社会全体を揺るがすほどの存在が、この世界に牙を剥く時が来る…ということです」

 

 




緑谷くんは新たにドジっ子属性を獲得した!

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