語彙が死ぬくらいヤバい状況になりつつあります。
森が崩れた。
あまりに馬鹿げた光景に、パソコンに映った映像を前に、僕たちは口を開ける。
ところどころに梅の花弁が確認され、その一枚一枚からビームやら炎やら電撃やらetc…まぁ、とにかくいろいろ放たれている。
何も知らぬ者も、ひと目見ただけで、その光景のデタラメさが理解できるだろう。
「…いやいやいやいやあり得ないでしょ!?
これ、花弁一枚ずつに『個性』があるってのと同義ですよ!?
古代人は一体何考えてこんなモン作ったんですかァ!?」
東北さんが、僕の考えていたことを代弁してくれた。
あかりさん以上のデタラメが、あの梅の精霊だったのか。
なんてバトル漫画だ。ドラゴンボール並みのインフレじゃないか、コレ。
「行かなくてよかったですね。
まず、戦闘技能どころか自己防衛手段もない僕たちが行けば、確実に死んでますよ」
「バリア用のドローン使ったところで、展開前に吹っ飛ばされるのが関の山ですね…」
普段であれば、現場にいないからこそ、他人事のように見ているのだが…。
あそこには、轟くんが居る。
それだけで焦り散らすのには十分だ。
「おぅふ…っ!」
僕が東北さんに指示を出そうとした、まさにその時。
彼女は天を仰ぎ見て、その目元を思いっきり掌で叩くように覆った。
「どうかしました?」
僕は東北さんを押し退け、パソコンの画面に向かう。
と同時に、同じく天を仰ぎ見て、目元を勢いよく覆った。
「…うっわ、マジヤバ」
「事のヤバさのあまりに国語教師の語彙が死んだァァァァァーーーーッッッ!!!」
パソコンの画面には、空を飛ぶNo.2ヒーロー、『エンデヴァー』の背中と、シリウスを纏う緑谷くんの姿があった。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ヴィジランテ『SAVER』…。
こんなところでお目にかかれるとは、俺もつくづく幸運だな」
どうしてこうなった。
目の前にした憧れの一人、エンデヴァーを前に、僕の背中から冷や汗が吹き出るのがわかる。
取り敢えず、バレないように、音声変換も兼ねて読み上げ用ソフトを起動。
先生ときりちゃんの声を複合した声で、僕はエンデヴァーに言葉を返す。
『助けを求めている人が、すぐそこに居るんだ。構わないでもらえるだろうか』
「そうはいかん。
貴様は個性を振るい、ヒーロー活動を邪魔し、その役目を横から掠め取っている…!
その所業、敵となんら変わりない!
ヒーローの面目を潰す気か、敵!!」
敵呼ばわりされた。
過激派ヒーローってのは知ってたけど、ヴィジランテ=敵って、ちょっと傷つく。
横から掠め取って…って言うけど、僕のやった活動の手柄はだいたいその場にいたヒーローのものになってるんだから、実質プラマイゼロじゃないか。
ヒーローの面目を潰す気かって?
そんなつもり、微塵もない。
ただ、人助けをするのに知識と力は必要でも、資格は要らないだろ。
そんな反論をしたとして、エンデヴァーが聞く耳を持たないことはわかっているが。
『我よりも、下の方に行った方がいいんじゃないか?森一つが消し飛んでるんだ』
「心配無用。サイドキックを向かわせている。あの程度を解決できないほど、俺の部下はヤワじゃない」
『…成る程』
知らないってのは、逆に厄介だな…。
もちろん、エンデヴァーとその部下が弱いとは、口が裂けても言わない。
No.2に上り詰めるまで、どれだけ険しい道を登ってきたか。
また、その男に信頼されるべく、どれだけの汗を飲んできたか。
それは想像に難くない。
ただ、今回は相手が悪すぎる。
きりちゃんから届いた情報に合わせて、偵察用のドローンから得た情報から推測するに、あの梅の木は「細胞の一つ一つが意志を持ち、個性を持っている」。
その意志を統合して切り離したのが、あの二人だったのだろう。
通りで、全く同じ遺伝子情報が出てくるわけだ。
『悪いことは言わない。今すぐ引き上げさせた方がいい』
「他人の心配より、まずは自分の心配をしたらどうなんだ?
この俺に叩きのめされる覚悟は出来てるんだろうなァ…!!」
どうしよう。言っても聞かない。
どんな形であれ、応戦すれば、まず確実に敵認定される。
…詰んでないか、コレ?
僕がそう思う最中、エンデヴァーが必殺技の『プロミネンスバーン』を僕に放とうとした、まさにその時だった。
「がはぁ!?」
エンデヴァーを、梅の花弁があっさりと吹き飛ばしたのは。
『あー…。結構飛ぶなぁ。よっと』
あまりのデタラメさに、もうあんまり驚かなくなった。
ヘカトンケイルで腕を二本だけ作り出し、ノックアウトしたエンデヴァーをキャッチする。
…ロストテクノロジーで、あのエンデヴァーが一撃で気絶って…。
未来人よりもデタラメな古代人ってなんだ。僕はエンデヴァーを、森から離れた病院の方へと腕を伸ばして運ぶ。
今思うと、先生の家で見た新劇場版エヴァンゲリオンに出てきた、第九の使徒みたいだ。
デザイン、もうちょい改良しとくかなぁ。
そんなことを考えることで、僕は軽く現実から目を背けた。
『っとと…。もうボイチェンも必要ないか」
そっちに演算処理機能が割かれても困る。
まずは轟くんとヒメちゃん、ミコトちゃんの救出。
そのためにはまず、万年開花に向かう必要がある。
「MESSIAH、リゲルに着替えさせて」
『了解しました』
早着替えプログラムは上手く作動するか?
一抹の不安とともにMESSIAHに指示を出す。
瞬間、ナノテクで装着していたシリウスが分解され、新たにリゲルが僕の体を覆った。
「おお、上手く行った!
あとは…テティスを十機展開して、落下、ァァァァァぁああああっ!?!?!?」
僕は二度目の墜落を味わうこととなった。
心的に余裕あったろ。
焦り散らしてもないのに、なんであんな雑な指示出したんだ、僕のバカ。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「っ…、ヒメぇ!ミコトぉ!
聞こえてねーのか、なァ!?」
轟々と破壊の音が、森だった土地に響く。
ばあちゃんたちは、コレを知ってて隠していたのだろうか。
梅の花弁が、全てを壊していく。
あのアメリカ人と機械は、いつのまにか姿を消していた。
残されたのは、俺と、暴走するヒメとミコトだけ。
「「座標数、膨大。脅威レベル、測定不能。
全生命のリセット…不可能。
最終手段…星の破壊を実行する!」」
「っ、ヒメ!!ミコト!!」
その言葉を理解する前に、俺は崩れゆく地面を踏みしめ、彼女らへと手を伸ばす。
が。それは花弁によって阻まれ、俺は無様にも吹き飛ばされた。
「ぅあっ…、ああ!?」
彼女らに手を伸ばすも、もう遅い。
その姿が、花弁に隠れる。
地面に落下する衝撃を受け止めるべく、親父から無理やり学ばされた受け身を取る。
泥だらけになったが、気にしてられない。
今は、ヒメとミコトをなんとかして止めなければ。
「先生には連絡した…。
連絡手段はぶっ壊された…。
緑谷がどれだけ頼りになるか…果てはいつ来るかも分かんねー以上、俺がなんとかするしかねーか」
こんだけ騒ぎになれば、あのクソ親父も動くはず。
親父に限らず、プロヒーローがここに駆けつければ、ヒメとミコトを敵として、最悪殺してしまうかもしれない。
焦る時こそ頭を冷やせ。
迅速に、かつ的確に。慌てず、冷静に。
…クソ親父の教えも、結構役に立つな。
「花弁が散弾銃の如く、いろいろ放ってきやがる…。ああもバラけりゃ、一気に全部凍らすのは無理だ。
やってるうちに炎とレーザーに溶かされる。
燃やすのも無理。燃やしてる間にレーザーに貫かれてお陀仏…」
ダメだ。普通の中学生の頭じゃ、わかり切った結果だけしか思い浮かばない。
生憎、俺はちょっと地頭と血筋と個性がいいだけの凡人。
考えろ…。そのシワの少ねェ脳みそ搾り出す勢いで回せ…!
ブッ壊れるくらい考えろ、轟焦凍!!
「こんなところになんで焦凍くん…って、怪我だらけじゃん!?」
つぅ、と使い慣れない脳みそを回したことで、鼻血が垂れるのが分かる。
何が聞こえるが、それどころじゃない。
考えろ。今、俺に何ができる?
「避難するよ、焦凍くん!聞いてる!?」
「うっせぇ!!
今、考えてんだよ…!
ヒメとミコトを助けんだ…!!」
目が霞んで誰かは見えなかったが、邪魔だったから怒鳴った。
俺を揺さぶる手を振り払い、梅の花弁舞い散る竜巻を見上げる。
あそこに少しでも穴を作れば、ヒメとミコトに…。
いや、それでも花弁で攻撃され…。
「……ん?」
いや、待て。妙だ。
ここにも花弁が舞っているのに、俺の周りになにも飛んでこない。
…まさか。
「…どんだけ俺大好きなんだよ、アイツら」
なんだ。
考える必要なんて無かったじゃないか。
いつものように、ヒメとミコトを遊びに誘うような感覚で、俺は一歩を踏み出す。
「ちょっ、焦凍くん!?
危ないって、ちょっと!?」
今になって、はっきりと周りの状況が見えてきた。
焼け野原になった森に、吹っ飛ばされる見覚えのある…というより、見覚えしかないプロヒーロー。
地面へと突き刺さる花弁の波に、俺の腕を掴むバーニン。
…バーニンに「うっせぇ!!」って言ってしまった。
やったことはないし、成功率も皆無と分かるが、「あれ?居たんですか?」作戦でいこう。
「…あっ、居たんですか?」
「居たよ!!えっ、なに!?エンデヴァーさんに比べて、そんな影薄いのわたし!?」
そう叫ぶ彼女の手が緩んだ隙に、氷でダミーを精製して、拘束を抜け出す。
「焦凍くん!!」
「悪ぃ。友だちが、あそこで待ってるんだ」
これで俺も犯罪者、か。
どう叱られるか分かったモンじゃないが、アイツらに手を差し伸べられないよりかは、断然いい。
大丈夫。俺ならできる。
人生全てを賭けて、アイツらを助ける。
「…ったく。終わったら、二人とも全力高い高いの刑だ」
氷の道を作り、炎をブースターとして超スピードを生み出す。
瞬間。景色が線となった。
エンデヴァーさんは気絶しましたが、この戦闘中にすぐに復活する予定です。お楽しみに。