正確に言えば、緑谷くんと轟くんに全てがかかってます。
原作の緑谷くんはこんな弱音吐かないと思いますが、まだ中学生なのと立ち向かう危機の規模が違いすぎるので吐きました。
「…やっばいですよ。
あの子たち…ってか、あの梅の木、地球をマジでぶっ壊す気です」
東北さんがだらだらと冷や汗を流し、今にも泣きそうな声で、僕と帰ってきた二人に告げる。
セイカさんはその意味が分からず呆けており、あかりさんは価値観の違いか、「ふぅん」程度の反応だった。
「えぇ!?未来でもそんな超兵器ありませんでしたよ!?」
「セイカさんみたいな下っ端に知らされてないだけで、星が壊れる可能性がある兵器は大量にありましたよ」
「そんな時代で兵器爆発させたのこのポンコツ!?」
本当、よく極刑にならなかったな!?
いや。今は、全貌のわからない未来に同情してる暇はない。
梅の花弁がドリルのように、地面を掘削していく光景。
コレでなにをしようというのかを、東北さんに聞かなくては。
「彼女らは一体なにを?」
「今さっき、私特製ドローン『見えるくん』で地球をスキャンしました。
地面に埋め込まれた梅の花弁たちが、凄まじい勢いで地球からエネルギーを吸い取ってます。
あと三十分で地球の寿命が尽きて、超新星爆発が起きます…!」
最早、ため息しか出なかった。
前回よりも小規模ではあるが、確実に地球は吹っ飛ぶ。
下手な敵よりも脅威だ。
…いや、最早脅威というより、天災だ。
古代人が作ったのだから、人災にカウントされるのだろうけど。
「…で、どうします?
唯一思い浮かぶ作戦としては、地球にエネルギーを供給するってことくらいですが…」
「私どころか、緑谷先輩でも無理ですね。
そういうアイテムを作ってません。あかりさんは?」
「私も無理です。
ただ放出するだけなら兎に角、注ぎ込む個性を作るってなると…1時間はかかりますよ」
僕たちが思考を巡らせていると、携帯から着信音が響く。
画面を見ると、そこには「琴葉葵」の三文字があった。
中継を繋いでからかなり経つが、今の今までなにをしていたんだと思いつつ、通話ボタンを押す。
「はい、もしもし」
『おい、バカコウ!!
一体全体なんなんだあの世界の終わりみたいな光景は!?』
僕の鼓膜を突き破るような、つんざく声。
それが葵さんのものだと分かるのに、数秒もかからなかった。
焦り散らす彼女をさらに狼狽させてしまうが、隠していても仕方ない。
「僕らにもわかりません。
ただ、アレをなんとかしないと、あと三十分で超新星爆発が起きて地球がドォン!!…らしいです」
『…うそ、だろ…?』
葵さんの到底信じられないとでも言いたげな、弱々しい声。
僕の性格を理解する人間としては、嘘を言っていないこともわかり切っているはず。
そういう前情報を込みにしても、この光景をひと目見れば、まず「ありえない」が口から飛び出すだろう。
『っ、どうするんだ、バカコウ!
緑谷くんたちが動いてるのか!?
というより、彼らでなんとかなるのか!?』
「…わかりませんよ。
僕らにできるのは、せいぜい祈ることと、ちょっぴり背中を押すくらいです」
なんの力もない外野がなにを考えても、何かができるわけではない。
僕がなにを考えても、あの場での助けにはならないだろう。
であれば、助けになる人間に代理を頼むだけだ。
「あかりさんにセイカさん。
一つ、頼みがあります」
♦︎♦︎♦︎♦︎
落下はしたが、逆噴射機能で犬神家にはならずに済んだ。
しかし、いかんせん状況は良くない。
いや、むしろ最悪と言えるだろう。
あかりさんの時よりも激しい波状攻撃を捌くのに手一杯で、全然彼女たちに近づけない。
「…っ、きりちゃんから、メッセージ…?」
攻撃を捌く最中、メッセージが視界の端に開かれる。
集中力を少し割いて断片的に読む。
『あと三十分』、『地球の寿命』、『吸い取』、『超新』、『発が起き』…。
…マジか。
あと三十分で止めないと超新星爆発?
あかりさんの時といい、個性ってのはほんっとうにデタラメだな!!
「何回僕の背に地球が乗るんだよ…!!」
この波状攻撃の中では、最高火力を誇るシリウスの再生が追いつかない。
硬めに作ったリゲルでさえも、数秒の間欠けてしまうのだ。
シリウスに換装した瞬間、僕は蜂の巣になる。
とてもじゃないが、難しい。
「…難しいってだけで、出来ないって訳じゃない。MESSIAH、リゲルを『タンクモード』に移行」
『了解。変形シークエンスを開始します』
念には念を入れて、より硬く、より重く、リゲルの形が変化する。
テティスを展開する余裕がないため、その分のエネルギーをバリアによる装甲強化にまわす。
タンクモード。
地盤のゆるい場所だと、自重で沈むが、ここ最近雨が降ってなかったから好都合だ。
「難点は、進むスピードが遅くなることだけど…今の状況じゃ、こっちのが速い」
散弾銃のように放たれる攻撃を、腕を薙ぐことで弾く。
ヒメちゃんとミコトちゃんがいる場所まで、あと五百メートル。
このペースで行けば、5分後には着くだろう。
「頼むから来ないでよ、プロヒーロー…!」
人生で初めて、そんな願いを口にした。
♦︎♦︎♦︎♦︎
花弁の織りなすトンネルを駆け抜け、竜巻の中へと入る。
やはりというべきか、俺は攻撃の対象外として扱われている。
竜巻の中は混沌としているのにも関わらず、俺の半径五メートル以内は穴が空いたようになっていた。
「バーニン、ついてきてねーよな…?
来てたら死ぬぞ、コレ…」
ぴったりひっつきでもしない限りは、花弁に容赦なく蜂の巣にされて終わりだ。
親父のサイドキックがあの場にいたのだ。
最悪、親父が来ている可能性もある。
というより、絶対に来ている。
容赦のなさ『だけ』は日本トップのあの親父と、そのサイドキックだ。
ヒメとミコトを止められたとして、事情を知らない親父たちは容赦しないだろう。
「いや、そういうのは、後で考えろ…。
今、決心を鈍らせんな…!」
俺が心配したところで、今なにか出来るわけでもない。
竜巻の範囲はザッと見て、半径2キロ。
普通に走っていたら、プロヒーローに犠牲者が出るかも知れない。
先ほどと同じように、氷の道と炎のブースターで進む。
暫くすると、電撃やレーザー、その他諸々が織りなすトンネルの向こうに、二人の姿が見えて来る。
満開だった花弁は全て散り、果ては木そのものがボロボロと樹皮を崩壊させている。
その中で、彼女たちはただ無表情で、そこに佇んでいた。
「ヒメぇ!!ミコトぉ!!」
声を張り上げ、二人の名を呼ぶ。
表情は、ぴくりとも動かない。
返事がわりにと、凄まじい風圧が俺を阻む。
氷で体を地面に縫い付け、意識ごと吹き飛ばされそうな中、なんとか踏ん張る。
攻撃されないだけ、まだマシだ。
風圧で、目蓋が閉じそうになったが、気合で無理やりにこじ開けた。
「…っ、そぉ…!」
氷で重石を作り、無理やりに暴風の中を進む。
あの細い手に向けて、手を伸ばす。
「…ょ、と……?」
「……し………」
微かだが、声が聞こえた。
さっきのような、無機質に放たれた、あの声じゃない。
俺の声が届いているのだろうか。
そんなこと、分かりはしない。
「来い…!」
手を伸ばす。届かない。
前に進む。風に押されて、全然進まない。
それでも、俺はひたすらに手を伸ばした。
「いつもみたいに、ヒメがバカなこと言って、ミコトが呆れて、俺も頓珍漢なこと言って、皆で笑って…!」
口から言葉が溢れ出す。
この手が、この声が、二人に届けと願う。
「しょ…と…」
「しょう……」
「っ、つかめ!」
二人の目に、光が戻っていく。
必死に手を伸ばす。
彼女の掌に、俺の指先が触れようとしたその時。
「「あ、くぅ!?」」
二人の悲鳴が響く。
びくん、と強く痙攣したかと思うと、つぅ、と二人の口の端から唾液が垂れる。
彼女らはそれを拭くこともせず、淡々と告げた。
「「防衛システムに異常発生。
原因検索…発見。個体名『半冷半熱』。
脅威レベル10。対象の抹殺を優先する」」
気づいてしまった。
俺の声が、必死に戦っていた彼女らの気をそらしてしまったことに。
気づいてしまった。
闇に支配された瞳が、彼女らの意識がないことを物語っていることに。
気づいてしまった。
俺の伸ばした手が、彼女たちを闇に突き落としたことに。
気づいてしまった。
周りから、俺に目掛けて、人工個性が向けられていたことに。
「………ごめんな、二人とも」
口からこぼれたのは、後悔だった。
迫りくる死に抗う術を持たない俺は、せめてもの抵抗として、氷と炎を全力で放つ。
やはりというべきか、それは一瞬にしてかき消され、弾幕が俺へと襲い掛かる。
反射的に目を瞑り、来るべき衝撃に身構えた。
「……ん?」
おかしい。数秒経っても、俺の体に駆け巡るべき痛覚が来ない。
ゆっくりと、目を開ける。
「『フォートレスモード』!」
俺を守るように、謎の『膜』が、ドーム状に張られていた。
その前には、傷だらけのスーツの後ろ姿。
「漸く着いたァ!!
タイミングドンピシャ!?」
テレビで見るような、プロヒーローみたいなカッコ良さなど、これっぽっちも無い。
ヤケ気味の声が、俺の鼓膜を揺らす。
その声が友達のものだと気づくとともに、俺の口角が上がっていくのを感じた。
「…それ、ヒーローのセリフかよ。
カッコ悪ィ」
吹き荒れる暴力の嵐の中、緑谷がサムズアップを俺に向けた。
次回、梅の木編が終わります。
次のお盆編では、待望のかっちゃんが登場します。
どうぞお楽しみに。