そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


地球は梅色だった

残り二十分。

刻一刻とその時が迫る中、僕は轟音をかき消すように声を張り上げた。

 

 

「なるほどー!!つまり、二人の意識は押さえ込まれてるってわけー!?」

「ああ!!攻撃が激し過ぎて、情報交換に五分かかったが、大丈夫なのか!?」

 

 

連絡手段を作っておくべきだったか。

 

 

攻撃が激しいあまり、音が声をかき消す。

リゲルの装甲の再生が追いついていない。

演算処理的にも物理的にも、フォートレスモードはあと十分が限界。

轟くんが持ってた情報は、不確かな情報ばかり。

…まぁ、あかりさんと初めて会った時みたいに、なにも無いよりはマシだ。

 

 

「で、作戦は!?」

「確実に超新星爆発を止められる策は二つ!

二人を正気に戻して、梅の木をコントロールしてもらう!!

あるいは、梅の木を細胞の一片すら残らないくらいに破壊する!!」

 

「できんのか!?」

「後者は無理!地球の表面が消し飛ぶ!!」

 

 

地面に潜った花弁が広がり過ぎて、地球を表面ごと焼き尽くす必要がある。

正直、このまま超新星爆発を待つのも、解決しようと動いても結果は変わらない。

せいぜい、地球丸ごと吹っ飛ぶか、僕たちが全生命を殺した業を背負いながらディストピアを生きるかくらいの違いだ。

 

 

「じゃあダメだ!!

二人を正気に戻すぞ!!」

 

 

消去法で、この方法しかないわけだ。

だが、その方法になるとかなり問題がある。

 

 

「正気に戻すって、僕は無理だよ!?

脳波を操る周波数とかは熟知してるけど、この状況じゃ確実に無理!!」

「大丈夫!!俺とアイツらをこの膜に閉じ込めろ!!俺がなんとかする!!」

 

 

…説得となると、轟くんが一番効果がありそうだ。

でも、それでも問題がある。

 

 

「切り替え時に轟くんが蜂の巣になるよ!?いいの!?」

 

「さっきからこっちだけ心配しやがって!!

あんまなめんじゃねぇぞ!!

 

こちとら不本意ながら!!

ひっっっ…じょぉぉおおおおお〜…にィっ!!不本意ながらァ!!

 

幼少期からトップヒーローになるべく英才教育受けてるプロヒーローの実子だぞ!!」

 

「不本意すぎない!?」

 

 

プロヒーローの実子?

炎を使うプロヒーローはかなり居るけど、いったい誰のことだろう。

一瞬だけそんなことを考えたが、今はどうでもいい。

見たところ、二人の体は人間並みの強度しかないのか、攻撃があまり飛んできていない。

これなら、轟くんの個性でもなんとか対応できるかもしれない。

 

 

「轟くん!地球を救う覚悟、出来た!?」

「アイツらを助ける覚悟なら!!」

 

 

充分。

 

フォートレスモードで作ったバリアを浮かせ、彼女らへと走る。

正面の装甲がかなり剥がされたが、エネルギーの供給速度を引き上げ、再生を早める。

その間、三十秒。

 

 

『イズク様。五秒後が、最も安全に切り替えることが可能なタイミングです』

 

 

バリアを展開できる範囲内に来て、尚且つ比較的安全に切り替えることができるタイミングを、MESSIAHが支持する。

あと四秒。三、二、一…。

 

 

「轟くん!!攻撃は防いで!!」

「応!!」

 

 

バリアを切り替え、3人を閉じ込める。

少しばかりレーザーと電撃が侵入したが、轟くんの氷によって阻まれた。

 

 

「成功ォ!!」

「緑谷!!今すぐ竜巻ン中から離れろ!!」

 

 

轟くんに言われた通り、竜巻の中から脱出すべく、ブースターを展開する。

願わくば、プロヒーローが全員気絶してますように!!

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『…おい、バカコウ』

「なんですか?」

『気のせいか?オールマイトがエンデヴァー連れて現場に居たんだが』

「ははははは現実ですよちきしょうめ」

 

 

今日ほど胃痛がひどい日を、僕は知らない。

明日になったら穴空いてそうだ。

明日が来るかどうかすら、まず怪しい状況なんだが。

リゲルのメインカメラで、緑谷くんたちの作戦が上手く行ったのは分かった。

あの場からの脱出も成功するだろう。

だが、一つだけ問題があった。

 

 

「あかりさんたちもまだ現場に着いてないってのに、どうしてこう面倒なのばっか集まるんですかねぇ…」

「トップヒーローとNo.2…あとその他諸々なサイドキックさんたちを『面倒なの』呼ばわりするの、私らだけですよ」

 

 

竜巻をプロヒーローが囲んでる。

一方で緑谷くんは現在、竜巻から出ようとしている。

東北さんから得た位置情報によれば、進行方向には気絶から復活したエンデヴァーと、オールマイトがいる。

 

 

「…あかりさんに『全力で急げ』って連絡してくれません?」

「『あと十秒で着くから黙ってろクソ教師』…って来てましたよ」

 

 

素麺の時といい、僕、嫌われすぎてない?

 

そんなことを考えながら、僕はアイスコーヒーを啜った。

 

 

「汚れ役は彼女らに任せました。

あとは、君たちがなんとかしなさい」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ありがとう、エンデヴァー。

おかげで早く着いた」

「…これで起こされた借りは返したぞ」

 

 

このチームアップが実現するとは、私自身思ってもなかった。

鈍ってた分をしっかりと『しごかれ』、調子の戻った体。

老いの分は流石に衰えたが、全盛期と比較してもあまり遜色はないだろう。

そこにエンデヴァーの事務所が全員加わるとなれば、鬼に金棒だ。

…流石に自惚れが過ぎるか。

 

 

「で、作戦は?」

「バーニンによれば、あの花弁、どうやら耐火性は皆無のようだ。

…焦凍…俺の子が、その友人を助けにあの中に入ったと聞いた。

ならば、俺が休んではいられん…!!」

 

 

ごう、と炎が燃え盛る。

エンデヴァーの眉間のシワが、さらに深くなっているのが分かった。

 

 

「オールマイト。少し離れていろ。

…プロミネンスゥゥ…、バァァァァァアアアンッッッ!!!」

 

 

太陽のような光があたりを包み込む。

放たれた炎が、氷、炎、レーザーさえも、あらゆるものを薙ぎ払い、花弁を焼く。

軈てその放出が終わると、竜巻の勢いが少し弱まっていた。

 

 

「…ちっ。しぶとい。最大火力でも焼き切れんとは…」

「では、私がいこう」

 

 

あの程度なら、今の私が放つDETROIT・SMASH一発で吹き飛ばせる。

私が拳を振りかぶった、その時だった。

 

 

『邪魔です、雑魚』

 

 

謎の二つの人影が、私たちの目の前に現れたのは。

 

 

『うっわ、めっちゃ睨まれてますよ?

あ…キズナさん。これ、マジに大丈夫なんですか?』

『落ち着いてください。私たちは言われたことをやるだけです。

あと、余計なことを話さないようにマイクは遮断しときなさい』

『りょーかい!』

 

 

若い男と幼い子供が混じったような声で、会話を交わす二人。

片方が少し喉元をいじる最中、もう片方が丁寧にお辞儀をした。

 

 

『どうもはじめまして、キズナです。

プロヒーローを前にするのは、クライシスオーガ以来ですかね?』

 

 

その瞬間。

私は彼女に殴りかかっていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ようやく会えたな、キズナァ!!」

『やれやれ。血の気が多いトップですねぇ。

まぁ、名誉に思ってくださいよ。

私が本来の姿で遊ぶなんて、そうそうないんですから』

 

 

オールマイトの拳を片手で受け止め、仮面の下で笑う。

本来の姿っていうのは嘘っぱちだ。

あの時、恐らくだが私とイズクくんの戦いを見られていた。

このままでは、私の描いた『普通の生活』が送れなくなってしまう。

そのため、この姿を『本来の姿』と称すことにしたのだ。

 

 

「それが、本来の姿だと?」

『ええ。あなたが見た少女の姿は、そこらの女の子をコピーしただけです。

ああ、向こうのは私を元にしたデザインのスーツです。イカすでしょ?』

 

 

ンなわけないでしょ。

 

 

ついた嘘にツッコミを入れながら、個性を作り出す。

この場で、十分に時間稼ぎが出来そうな個性は…『超速思考』。

私自身、あまり頭が良くないけれど、これで複数人の対処が出来るようになる。

 

 

『来なさい、トップにNo.2。無様に地べた這わせてやりますよ』

 

 

時間稼ぎはやっときます。

あとは頼みましたよ、イズクくん。

 

 

『あ、すみません。マイク切るのってどうやればいいですか?』

 

『あァァァァァあああもおおぉォォォォォォおおおおおッッッ!!!!

せっかくカッコつけたのに台無しですよセっ…あなたァァァァァあああッッッ!!!!

私がやりますから、出来るだけ黙ってなさァァァァァァァいッッッ!!!!!』

 

 

…かなり相方に不安が残るけど、私頑張りますから!

 

泣きそうなのを堪えながら、私はオールマイトに殴りかかった。

ポンコツのお守りって、辛い。

帰ったら、たくさんたこ焼き食べよう。

お母さん、今日タコパするって言ってたし。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…まっさらになっちまったな。

大好きなカブトムシ、捕れなくなっちまったぞ、ヒメ」

「……」

 

「あそこのアケビ、もう少しで実んじゃなかったっけか、ミコト。

皆で食べようって言ってたじゃねーか」

「……」

 

 

…やっぱり、ダメか。

かれこれ十分間、絶えず話しかけているが、反応がない。

ただ、さっきみたいな無機質な声も、もう発していない。

多分、必死に争ってるんだろう。

俺には、そう願って、話し続けることしか出来ない。

 

 

「…なぁ。ヒメ、ミコト。お前らに、俺の夢の話、したことなかったよな」

「……ゅ…?」

「………め…?」

 

 

微かだが、声が聞こえた。

まだだ。ぬか喜びするな。

声をかけ続けろ。手を伸ばせ。

救い切るまで、絶対に気を緩ませるな。

 

 

「覚えてるか?初めて会った日のこと」

 

 

ぴくり。

俺が握った二人の手が動く。まだだ。

喜ぶな。やり終わるまで、その喜びを取っとけ。

 

 

「腹ペコで、喉もカラカラで、母さんがいない寂しさと、あのクソ親父への怨恨でぐちゃぐちゃになってた俺に、『大丈夫?』って手を差し伸べてくれて…。

果物と水をくれて、俺の話を親身になって聞いてくれて…。

あんとき、凄い気が楽になったんだ」

 

 

あの日、あの木の下で助けられたように。

誰かを助けるなら、ちゃんと助けろ。

 

 

「俺をあの苦しい怨嗟と孤独の海から救い上げてくれたのは、お前らなんだ」

 

 

それが、俺のなりたいヒーローだろうが。

 

 

「俺は、お前らみたいな…優しいヒーローになりたいんだ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

インクをぶちまけたような、黒の中。

ヒメとミコトは、焦凍の言うように、抗っていた。

自分が塗り潰されように、もがき、手を払い、まとわりつく黒を払っていた。

 

 

『…あーあ。やっぱり、強制起動したのが失敗だったか』

 

 

男とも、女とも聞き取れない声。

けれど、聞き覚えのある声が、黒の海に波打つように響く。

その波が二人を飲み込み、意識を飲み込もうとする。

 

 

「…っ、ショートぉ…!!」

「ショート…、ごめん、ショート…!!」

 

 

口から出る名前は、家族も同然の友の名。

黒が侵食する最中、彼女らは幾度となく声を上げ続けた。

 

 

『風前の灯火が、意外にしつこい。

…一時のくだらない感情で自我を持たせたのは失敗だった!!』

 

 

声が強くなる。

膨大な黒が、彼女らを容赦なく塗り潰す。

小さく残った自我さえも、砕け散ろうとしたその時だった。

 

 

『ヒメ!!ミコト!!大丈夫!!

俺がここに居る!!』

 

 

待ち望んでいた声が。手が。

彼女らの鼓膜を揺らす。手を握る。

瞬間。炎と氷が、黒を吹き飛ばした。

 

 

『…くくくっ…。あー、そうだったァ。

ボクが一番理解していたじゃないか』

 

 

全ての黒が、氷で、炎で消されていく。

不快な笑い声が、黒と共にかき消される。

 

 

「助けに来た。遅くなっちまって、ごめんな」

 

 

氷と炎に包まれて、影すら見えない。

それでも、ヒメとミコトはその姿を見たと言うだろう。

 

 

自らの、最高のヒーローを。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「……んっ…、ショート?」

「…んぅ…、ショート…?」

「っ、緑谷!!二人が起きた!!」

 

 

轟くんの声が響く。

僕たちは現在、光のない地中に居た。

なんてことはない。竜巻から抜け出す直前、きりちゃんから「今、竜巻から出たら確実に攻撃される」と連絡を受けた。

であれば、出なければいいと判断し、轟くんを覆うバリアごと地中に潜ったのだ。

 

 

「ショート。ありがとう」

「カッコよかったよ。ヒーロー」

 

 

彼女らのヒーローは、紛れもなく轟くんだ。

 

 

僕の目に映る轟くんは、オールマイトのようにキラキラはしていないと言える。

だが、それは決して嫌な意味じゃない。

泥臭くて、ひたむきで、必死に救おうとする姿は、オールマイトよりもかっこいいと思える。

…人の好みが、先生に似てきたかも。

 

 

「轟くん。あと二分で地球の寿命が尽きる」

「褒め言葉に笑ってる場合じゃねーな」

 

 

時間がないことを轟くんに告げる。

轟くんは彼女らの肩に手を置き、その目を見つめた。

 

 

「次は、お前らがヒーローになる番だ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「な、なんだあれ!?」

 

 

プロヒーローの一人が、声を張り上げる。

私たちがそちらを見ると、枯れきった梅の木が浮かび上がっていた。

それを彩るように、地中に埋め込まれていた花弁が凄まじい勢いで飛び出し、梅の木を包み込む。

 

 

『…成功したみたいですね』

『流石は、最高のヒーロー…ですね!』

 

 

私たちが言葉を交わすと共に、花弁が空一杯に広がる。

梅色の空が、梅色の雨を降らせる。

太陽のように、満開の梅の木が空を照らす。

吸い取られた分のエネルギーが、カラカラになった地球に注がれているのだろう。

たった数秒で草木が芽吹き、樹木へと変貌を遂げる。

森が元どおりどころではなく、更に青く、美しい生態系を作り出す。

 

 

「…綺麗」

 

 

プロヒーローの一人が、声を溢す。

 

 

その日、世界の空が梅色に染まった。

 




今回で梅の木編はお終いです。
次回からは日常回「肝試しってお盆にやるモン?」です。お楽しみに。
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