「…本格的過ぎません?
公民館貸し切りはわかりますけど、ここまで魔改造します?」
「照明はセピア色で。…そうそう。ちょっと明るいくらいが一番怖いですからね」
「先生、聞いてます?」
キーボードを叩きながら、私はハッスルする先生に声をかける。
ここまで生き生きしてる先生、初めて見た。
肝試しの前日、午前十一時。
公民館は、異様な雰囲気に包まれていた。
外壁は緑谷先輩が開発した特殊な塗料で、何年も放置されたようなボロボロの物に。
中身は公民館というよりは、最早タダのボロ屋敷。
セットされた電線からは、特殊な効果を使って火花が散っているように見せかけている。
生活感が存在したように、乱雑にゴミが撒かれ、壁にはあまり口に出したくない言葉が羅列していた。
「そこ、木の板が落ちてくる仕組みにしてください。…そうそう。
あと、匂い付けした血糊と、肉片っぽく作った紙粘土も…違います、もう少し後のタイミングで…はい」
この肝試し…というより、お化け屋敷の設定を、僭越ながらこの私、東北きりたんから語っておこう。
名前は「コSEえ、TIょうdie?」。
タイトルから分かる通り、無個性であることを呪って自殺した少年の亡霊が、参加者に迫るという内容になっている。
この街の無個性の人は、ほぼ全員が驚かせる側に参加、ないし協力している。
というより、私たち以外に無個性の人間がいないため、驚かせる側の人数はかなり少ない。
「ちゅわっ!?
私、驚かす側じゃないんですの!?」
「前半の受付を頼みたいんですよ。
ずん子さんと交代です」
タコ姉様とずん姉様は、見た目の可憐さと優しい雰囲気からか、受付嬢に抜擢された。
タコ姉様に至っては完全に本職の人だし、いい感じに演出してくれると思う。
「勝己ねぇ、衣装見ただけでコーンフレークぶちまけてすっ転んだのよ!
出久くんは動じてないのにねぇ!」
「きりちゃんの家でマジモン見てから、大体のことに驚かなくなっただけですよ」
「あははっ!冗談も言えるようになったんだねぇ!」
ボンバーマンのお母さんと緑谷先輩の話の内容に、ビクッ、と肩が震える。
ボンバーマンのお母さん…長いんでボンママと呼ぶ…は冗談だと思ってるらしいが、本当なんですよねぇ。
あの時は二人揃って抱きついて、叫び散らかしましたっけ。
タコ姉様が除霊も修得してるイタコで良かった。
「個性持ちっぽい見た目の死体って、こんな感じですかー?」
道中で落ちているという設定のレコードの音声を、私が編集していた時のことだった。
ずん姉様の声が、物騒な言葉を発してることに気づいたのは。
「おお…。注文通り、磔にして、内臓掻っ捌いてるみたいですね。
照明の光加減で、詳細が見えないような位置に設置しましょう。
バミテは既に貼ってあるんで」
「ずん姉様!?気づいて!?
ソレは肝試しのセッティングにしてはおかしいことに気付いて!?」
私がそちらを見ると、ずん姉様と先生の隣に、夥しい数のオブジェが見えた。
その一つ一つが見た目の違う磔死体…勿論偽物…で、どれも共通して、バラバラに分解されたような痕跡があった。
道中にどんだけ置くつもりなんだ。
ざっと二十はあるぞ。
「きりちゃん、レコードの音声は出来た?」
「はい。既に小道具と予備も作ってますし、レコードの音声自体は、放送で流れるようにしてます」
…にしても、エグい台本考えたなぁ。
新学期。クラスがお通夜みたいな雰囲気になる光景が、ありありと目に浮かぶ。
なんでこんな、ホラゲー作れそうな台本を書いた。
…まぁ、最近ストレスが酷そうだったから、丁度いい発散なのかも。
「とりあえず、デモとして流してみます?」
「うん。放送で流してみて、反応見ようか」
正直、恥ずかしいんだが。
声の仕事は、東北きりたん本来の役目だ。
それは理解してるが、自分の声が放送で流れるとなると流石に恥ずかしい。
まぁ、古い録音っぽく加工してるから、正確には私の声じゃないんだが。
そんなことを考えながら、私は放送を流した。
『…お母さん。苦しいよ…。なんで、なんで僕は無個性なの…?なんで?
あの子は、凄い個性を持ってるよ…?なんで?ねぇ?人は平等だって、皆言ってたよ?ねぇ?なんで?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなん』
ぶつっ。
放送のミスとかじゃなく、意図的に音声を途切れさせた。
我ながら会心の出来。
緑谷先輩は苦笑いを浮かべ、ボンママ含む大人のほとんどがなんとも言えない表情を浮かべていた。
「…先生の性格の悪さが滲み出てますね」
「ノリノリでやってる君も君です。
この肝試しで、思う存分伝えてやろうじゃないですか。
持たない奴の苦しみってヤツをね」
…果たしてそれは、肝試しで思い知らせる物なんだろうか。
ずん姉様は手先が器用なので、本物っぽい死体人形も作れます。