そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。二人が叫び散らします。


轟くんと爆豪くんの悲鳴、聞いたことあります?

「ぎゃあああああああァァァァァアアアアアッッッッ!?!?」

 

「たすっ、たすたすっ、助けて、っぇぇぇぇぇえああああァァァァァアアアアアッッッッ!?!?」

 

 

阿鼻叫喚。

今の状況を一言で表すならば、その一言に尽きた。

その元凶は、並ぶ行列にアトラクションの世界観説明をこなす教師。

そう。私…東北きりたんの担任、水奈瀬コウである。

あのあかりさんの悲鳴までも響き渡り、その中の恐ろしさを物語っている。

 

 

「…凄い悲鳴ですね、ずん姉様」

「作った甲斐がありました。きりたんも、お手伝いありがとう」

「まぁ、やることないんで」

 

 

嘘だ。

本当は、中に入るのが恐ろしすぎて、受付の手伝いをしてるだけである。

異形系の個性が溢れている世界で、「めっちゃ怖い」って珍しいんだぞ。

 

それでも大盛況なのには、訳がある。

 

最初に実験台として入ったプロヒーロー、「シンリンカムイ」が泣きながら「蛆虫でごめんなさい」と凹んだ様子で出てきたのだ。

無個性たちの訴えかけは、辛い過去を送ったとされるシンリンカムイの涙腺でさえも打ち砕いたようだ。

 

 

「それでも、怖いのは何とかして欲しいような気もする…」

「きりたん、どうかした?」

「いえ、なんでも」

 

 

どうして肝試しで道徳教育をしようとしてるんだ、あの教師は。

…多分、ただの思いつきなんだろうなぁ。

そんなことを考えていると、見覚えのある爆発頭が参加券を机に叩きつけた。

 

 

「一名ェ」

「あっ、勝己くん!大っきくなったねぇ!

挑戦するの?」

「もォ中学生だわ。テメェなんざとっくの昔に超えてるわ枝豆」

「枝豆じゃなくてずんだね。

はい、懐中電灯」

 

 

ずん姉様からひったくるように懐中電灯を受け取り、ずんずんと歩いていく爆発頭。

ボンママによると、衣装を見た時点で盛大にすっ転んでるらしいが、大丈夫なんだろうか。

 

 

「ひぎゃぁあああああァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアっっっ!?!?」

 

「おわァァァァァああァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアっっっ!?!?」

 

 

…にしても、断末魔みたいな悲鳴だ。

プロヒーローまで腰抜かす怖さって、どんだけですか。

近隣のマスコミまで集まってきたし。

 

 

「…途中で気絶した場合、どうなるんでしょうかねぇ」

「詳しい仕組みはわからないけど、出久くんがなんとかしてくれてるみたいだよ。

懐中電灯に超音波?か何かを使って、気絶しないようになってるんだって。

その代わり、出口まで行かないと帰れない仕組みになってるらしいけど!」

 

 

…リアルホラーゲーム?

 

 

そんなことを思いながら、私はボンバーマンの後ろ姿を見送った。

声にならない悲鳴が聞こえたような気がするけど、気のせいだろう。多分。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…凝りすぎだろ」

 

 

渡された懐中電灯を着け、薄暗い…というには少し明るいセピア色の照明の中を進む。

一寸先も見えない、ということはなく、精々廊下の奥が見えないくらいで、あとはただの汚ねェ廊下だった。

 

 

「当て付けかよ、クソが」

 

 

先ほど聞いた放送によると、設定としては『無個性であることを呪って自殺した少年の亡霊がそこに居る』…だったか。

枝豆をはじめ、デク、クソ教師など、主催側に無個性どもが集まってやがる。

個性持ち相手に勝てねェからって、こんな出し物用意しやがって。

 

 

「…ぁン?」

 

 

かつん。

爪先に何かがぶつかった音が響く。

一体なんだとそちらを見ると、古いタイプのレコーダーがあった。

第二次世界大戦後ぐらいに使われてた、かなり古いヤツだったか。

雑学系の番組で見たソレを拾い上げると、カチッ、と音が響いた。

 

 

『お母さん!僕、どんな個性出るかなぁ?

お母さんみたいに、空飛べるかなぁ?

それとも、お父さんみたいに筋肉ムキムキになるカッコイイのかなぁ?』

 

 

その声に、神経が逆撫でされるのがわかる。

昔のデクみてェなこと言いやがって。

今すぐにでも爆破で破壊したいが、ここでデカい音出してアレに追われるのは避けたい。

俺は当て付けにとばかりにレコーダーを投げ捨て、順路を進む。

と。廊下の奥に進もうとしたその時だった。

 

 

貼り付けになった死体が、吊るされるような形で落下してきたのは。

 

 

「うぉっ」

 

 

こっ…、この程度でビビるかよ…!

昨日、ウォーミングアップとしてホラー映画を見まくった俺に、死角はない。

あらゆるありきたりを網羅した俺は、次に何も起きないことを知っている。

俺はそのセットを押し退けようとして、その手が止まった。

 

 

「ひっ」

 

 

小さく声が漏れる。

腹を掻っ捌かされたソレが、ぼたぼたと血液…多分血糊だろう…を流し、肉片…作り物なんだろうが、やけに柔らかい…を地面にぶちまけていた。

 

 

「ぎっ……!!」

 

 

悲鳴をあげようとして、無理やりに口を押さえた。

どんだけ凝ってんだよ…!!

俺がそんなことを思っていると、すぐ隣の壁に文字があるのが分かった。

 

 

 

ーーーーーー個性、ちょうだい?

 

 

 

瞬間。俺の足を誰かが掴み、勢いよく引っ張った。

 

 

「なん」

 

 

引っ張られる感触と、流れる風景。

足を見ると、ババアが着てたのとは違う形のバケモノが、その手で俺を掴んでいた。

 

 

「は、はなっ、離せクソが!!死ねっ!!」

 

 

爆破しようとすると、バケモノの手が俺を掴む。

一つや二つじゃない。

異形系の個性でもありえないほどの数の手が、俺の体を抑え込むように引っ張った。

 

 

「もががっ!!もがぁぁぁぁぁあああーーーーーーーーっっ!!!」

 

 

得体の知れない恐ろしさに叫ぼうとするも、口を押さえられ、思うように叫べない。

その先にある無数の目玉に、俺は心に恐怖が刻まれるのが分かった。

 

 

 

行くなんて言うんじゃなかった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ショート、大丈夫?」

「いっつつ…。先生も緑谷も、本気で怖がらせに来てるな…」

 

 

咄嗟にヒメを庇った判断が功を成した。

さっきの『個性、ちょうだい』という文字もそうだが、あの作り物の死体にはビビった。

東北の家でマジモン見てなかったら、普通に叫んでた自信がある。

ヒメはというと、特に怖いとは感じてないらしい。

なぜかと聞くと、「ショートが居るから!」と答えられた。

…なんか照れる。

 

 

「にしても、教育熱心だな。

ここ、無個性差別の矯正施設みてェなモンだろ」

 

 

引っ張られた先にあった部屋を見渡す。

さっきの通路は塞がっていて使えない。

あたりには、さっきぶら下がっていた磔死体がそこら中に飾られている。

磔台のプレートには、個性の名前と内容が書かれていた。

…実在しそうな個性ばかり書かれてる。

というより、十中八九実在してたのを書いてるな、コレ。

 

 

「しっかし、実際に切ったみてェな傷口として完成されてるな…。

東北の姉さん、手先が器用だってのは聞いたが、1日でコレ全部作ったのか…?」

 

 

個性持ちでも、こんなに早く作ることは出来なさそうだ。

そんなことを考えられるあたり、結構心に余裕あるな。

そんなことを考えていると、俺たちが出てきた場所から、俺たちと同い年くらいの少年が出てきた。

 

 

「よっと」

 

 

勢いよく地面に打ち付けられる前に受け止める。

…この爆発したみてぇな頭、緑谷が言ってた「かっちゃん」ってヤツか。

傍若無人の権化でプライドが無駄に高い…東北談…って言われてたわりに、泣きそうな顔してる。

 

 

「大丈夫か?」

「離せやクソが!!テメェの助けなんかいらねーわ半分野郎!!」

「轟焦凍だ。半分じゃねー」

「知らねーわ!!」

 

 

耳痛ェ。

ぎゃーぎゃーと耳元で騒がれたので、言われた通りにその場に立たせる。

 

にしても、緑谷が言ってた通りの人相だな。

ボンバーヘッドに、人を2、3人殺してそうな目つき。

東北によれば、口を開けば怒鳴り声が響き、常時不機嫌。

ヒメにまで怒鳴り散らされたら堪んねーな。

 

 

そんなことを思っていると、ザザ、とノイズ音が響いた。

 

 

『無個性…。僕、無個性なんだ…。

お母さん…。僕ね、ヒーローになりたい…。

なりたいけど、個性がないんだよ…。

ねぇ、お母さん…』

 

 

 

ーーーーーーどオして、無個性に産ンだノ?

 

 

 

瞬間。

ばんっ、と音が響いたかと思うと、ぼたぼたと水滴が落ちる音が響く。

俺たちがそちらを見ると、形容し難い容貌のバケモノが、俺たちを涙を流す目で見つめていた。

 

 

『み、ツツ、けけたたたたァァァ…。

おか、さン、コせぇ、みツけけけけけけけけっ、けけたたたぁぁぁあはははははは!!』

 

「「「うぎゃああああァァァァァアアアアアァァァァァッッッ!?!?!?」」」

 

 

瞬間。俺たちは出会って間もないというのに、互いに抱きついて叫んでいた。

 

 

目の前に居るのは、どう考えても人知を超えた謎のバケモン。

しかも、所々髪の毛とか鼻とか、人の一部があるあたり、元が人間だってわかる。

挙動もなんかガタガタしてておかしい。

それをリアルで目の前にして、叫ばない自信があるか?

俺はない。気を失わないだけまだマシだ。

気づけば、俺はヒメを脇に抱え、ボンバーマンと走り出していた。

 

 

「っ、てめっ、俺の前走ってンじゃねぇぞ半分野郎ォ!!」

「お前がわざと後ろ走ってんだろーがボンバーヘッドォ!!」

「イヤアアアアアアアアアアッッッ!?!?

今、おしりっ、おしりに息がァァァァァアアアアアアアアアアッッッ!?!?」

「言うなクソガキィ!!」

「ヒメ!!絶対振り向くなよ!?フリじゃないからな!?」

 

『こセE、ちょうdie?』

 

 

 

「「「アアアアアァァァァァアアアアアァァァァァアアアアアアアアアアッッッッッッ!?!?!?」」」

 

 

 

過去最高速度と言っても過言ではない速さで、部屋を抜け出す。

落とし物は後で届けてくれるらしいから、何を落としててもいい。

今はただ、逃げることだけ考えていた。

 

 

 

「…ちゅわぁ…。ずんちゃん、怖く作り過ぎですの…」




あの二人が叫び散らすくらいには怖い肝試しです。

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