そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

30 / 116
サブタイトル通りです。


ボンバーマン、アイドルに懐かれる
かっちゃんが子供を助ける(結果)


「かっちゃん。おはよう」

「……来んな、デク」

 

 

あの色濃い夏休みが明けた。

願わくば、暫くは大きな事件が起きませんように。

そんなことを思いながら、かっちゃんにいつもの挨拶を交わす。

 

おばさんによると、肝試しからずっと大人しいらしい。

轟くんが「喧嘩した」って言ってたし、それが理由なのだろうか。

そんなことを考えていると、やる気のなさそうな担任教師が入ってくる。

 

 

「えー、お前ら。新学期早々だが、転校生を紹介する。入ってこい」

 

 

がらっ、と、扉が開く。

そこに居たのは、毎日顔を合わせる彼女…紲星あかりだった。

 

 

「お名前は…どう読むの、コレ?」

「キズナです。紲だけ読んで、星は読まないんです。灯は、あかり。

初めまして、皆さん。紲星灯です。

緑谷出久くんの親戚で、ちょっとした都合で一緒に暮らしてます」

 

 

ぺこり、と頭を下げ、愛想笑いを浮かべるあかりさん。

先生が、愛想笑いを練習させた甲斐があったなぁ。

させてなかったら、ほぼ100%の確率で「お前らと仲良くする気ありません」って言いそうだったし。

 

 

「緑谷の親戚…?」

「あんな可愛い子が親戚…?」

 

 

…なんか、不穏な空気が。

 

 

予想通りというべきか、休み時間に、僕とあかりさんの周りに人が殺到した。

街に一つのテレビが来たみたいな反応だな。

無個性…そう言うことにしてる…でも、見た目がいいと便利なんだなぁ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「今日は転校生を『三人』、紹介します」

 

 

宿題の回収、始業式を終え、先生が教壇に立つ。

三人…?二人は知ってるけれど、もう一人は誰だろう。

私…東北きりたんが首を傾げていると、教室の扉が開いた。

そこから現れたのは、三人の女の子。

二人は、私もよく知る鳴花の双子。

 

もう一人は、初対面。だけど、知っているかどうかと問われれば、首を縦に振るだろう。

 

 

「では、自己紹介をどうぞ」

「鳴花ヒメです!よろしくお願いします!」

「鳴花ミコト…です。よ、よろしく…」

 

 

チョークに名前と…少し読みが特殊なため、振り仮名を書く二人。

ミコトちゃんは綺麗な字だけど、ヒメちゃんはガッタガタの汚い字だった。

その隣に、最後の一人がチョークで黒板にサインじみた名前を書く。

 

 

「ぉ…、音街、ウナ…です。よ、よろしく…」

 

 

引っ込み思案そうな態度だ。

もじもじしながら自己紹介をこなす彼女に、私や先生、鳴花の双子を除く全員が雄叫びを上げる。

 

 

音街ウナ。

前世で言えば、ボーカロイドとボイスロイドの二足の草鞋を履いていた存在。

 

 

今世で言えば、現在休業に入ったばかりの、有名子役アイドル。

無個性というマイナス点を、同情票として上手く扱えた人間。

叫ぶな、という方が難しいか。

 

 

「東北さんの左隣…あの包丁の髪飾りの子です。そちらの方が空いてるので、音街さんはその席に。

二人は…あそこの席に座ってください」

 

 

…こりゃあ、一波乱ありそうだ。

 

そんなことを思いながら、隣に座る音街さんに「よろしく」と手を差し伸べた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「あ、勝己。おかえりー」

「ん」

 

 

デクから逃げるように帰った俺は、ババアに軽く会釈して、自分の部屋へと向かう。

カバンを無造作に放り投げ、ベッドに背から飛び込む。

じん、と響く頬の痛み、その熱さが、まだ消えていなかった。

 

 

「…勝ったやつが、ヒーローって呼ばれねェ理由…」

 

 

わからねェ。

 

 

俺はずっと、「ヒーローになる=敵をブチのめして勝つ」ことだと思ってきた。

アイツの言ってたことは、デタラメだったんじゃないか。

そう思って、ネットで検索したこともある。

半分野郎の言ってたことは真実だ、と自分で証明しただけだった。

足元が全部、崩されたみたいだった。

 

 

ここ最近、まともに寝られない。

夜更かししてる、とかじゃない。

ただ、この答えを出さなきゃ、俺はあの野郎に殴り返すこともできないと思ったからだ。

 

 

…癪だが、デクなら、なんか知ってるのかも知れない。

そう思ってアイツの家に行こうとして、やめた。

 

 

ーーーーーーなんでもかんでも、誰かが教えてくれる、助けてくれると思ってたら大間違いです。

時には、自分自身で答えを見つけ、自分自身で助からないといけません。

 

ーーーーーー助けなんざ要らねェよ!!

 

 

あのクソ教師の言葉が、脳裏にフラッシュバックした。

助けなんざいらない。

そう言って、デクに答えを求めるっていうのはどうなんだ?

 

 

「…あぁ、クソっ」

 

 

本当にイライラする。

財布と携帯をポーチに突っ込み、ラフな格好で外に出る。

あのまま家に居れば、苛立ちでおかしくなりそうだった。

 

 

「ぁン?」

 

 

家から出ると、道に人が集まってるのが見えた。中には、マスコミまで混じってる。

プロヒーローでも来てるんだろうか。

遠巻きにそれを見ていると、枝豆が人混みをかき分けるのが見えた。

 

「こんな子供に寄ってたかって、良い大人が何してるんですか!?

いくらアイドルとは言っても、プライベートは尊重されるべきでしょう!?」

 

「報道の自由を行使してるだけだ!!

君に何かを言われる筋合いはない!!」

 

 

枝豆の怒鳴り声が響く。

だが、マスコミどもはそれを意に介さず、野次馬どももヒートアップする。

 

胸糞悪ィ。

 

…あのクソ教師の真似をするわけじゃねーが、その一部始終をスマホで撮影する。

数秒程度で十分だろ。

録画を止め、声を張り上げた。

 

 

「人ン家の前でぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうっせェぞォ!!

映像ォ撮ったからなァ!!ネットに晒されたくなかったらさっさと失せろォ!!」

 

 

さっきの映像を流しながら脅すだけで、蜘蛛の子を散らしたみたいに逃げていく。

残されたのは、枝豆と妹のきりたんぽ、やけに見覚えのあるガキの三人だった。

 

 

「ちっ…。苛立ってんのに騒いでんじゃねーぞクソが…。ぶっ殺してやろうか…」

「…ぁ、あのっ!」

 

 

とっととその場から去ろうとした時、俺の服の裾をガキが掴む。

 

 

「あ、ぁりがとう…ござい、ます…」

「離せ。歩けねェだろ」

 

 

ぺこり、と頭を下げるガキが、俺の言葉に反応し、手を離す。

すると、枝豆が俺の元へと駆け寄った。

 

 

「ありがとう、勝己くん!

私じゃどうしようもなかったから…」

「礼とかいいから退けや枝豆。

今から散歩すンだよ」

 

 

枝豆を押し退け、このイライラを抑えるために、バッティングセンターへと向かう。

引き留めようとする枝豆を振り切るように、俺は走り出した。

…くそっ。枝豆を見ると、あの時のこと、半分野郎の言葉を思い出しちまった。

 

 

結局、バッティングセンターでも俺の気は紛れることはなかった。

 

 




かっちゃんも確実に先生から影響を受けてます。
物事はまず証拠から。何かあったら写真撮るようにしてます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。