そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


かっちゃんがお兄ちゃんと呼ばれる

新学期が始まって、最初の一週間が過ぎた。

俺は、あいも変わらず苛立ちが消えない日常を送っていた。

 

 

「…っソが。休みの日に買いモン頼むなや」

 

 

商店街を回りながら、口から愚痴を溢す。

いつもなら「自分で行けやクソババア!」、と怒鳴り散らしていただろう。

嫌でも外に出てねェと、あのことばかり考えてしまう。

 

結局、答えはまだ見つからない。

腐るほどヒーローのインタビュー動画を見たが、どれもこれも抽象的で、全然分からなかった。

オールマイトのインタビューでさえも、俺にはいまいちピンと来なかった。

 

…また考えちまった。

苛立ちを鎮めるように、かつん、と転がった空き缶を蹴り飛ばし、ゴミ箱へ入れた。

周りのヤツらは「すげぇ」と言うが、俺にとっては普通のことだった。

そんなことを考えてると、足に何かが勢いよくぶつかる感触がした。

 

 

「お兄ちゃん!」

「あァ?」

 

 

疑問に思い、足元を見る。

そこには、昨日のガキが泣きそうな目でこちらを見ていた。

俺がガキの延長線上を見ると、クソ怪しいガリガリが、鼻息荒くして俺に近づいた。

…ンのガキ。面倒なことばっか持ってきやがって。

 

 

「あ、おぉ、お兄さん…。ウナちゃんを、僕に、僕にくださ…」

 

「唾飛んだキメェしクセェし不審者全開だクソガリポリ公呼ぶぞテメェエ!!」

 

「ひっ、ひいぃいっっ!?!?」

 

デクとは違う気持ち悪さに、嫌悪感を丸出しにして怒鳴りつける。

慌てて逃げ出すガリガリを写真に収め、次突っかかって来たらポリ公に突き出せるようにする。

…ちっ。あのクソ教師の真似事しか出来ねェのか、俺は。

 

「ンで、クソガキィ…!

テメェ何が『お兄ちゃん』だゴラァ!!俺にンなデケェ妹なんざいねェんだよクソが!!

面倒ごとを体良く押し付けやがって!!」

「ご、ごめんなさい…。こないだ、助けて、もらったから…。

でも、助けてくれて、ありがとう…、ござい、ます…!」

 

 

…なんだ、コイツ。

 

 

「離せ」とだけ言って、買い物の続きに戻ろうとする。

が。何故か、ガキが雛鳥みたいに、俺の後ろを歩いていた。

 

 

「…離れろテメェ。邪魔だクソガキ」

「その、お兄さんと一緒にいないと、いろんな人が寄ってくるから…」

「そのいろんな人っつーのが面倒だっつってんだボケェ!!」

「ひぅっ」

 

 

掌を爆発させながら、ガキを威嚇する。

が、ガキは怯えながらも、俺の裾を掴んでいた。

 

 

「今日、東北さん…あ、お友達の、包丁の髪飾りの子なんだけど、ちょっと用事があるらしくて…。

一人で帰ってたら、あの人が…『お家に来ない?』って、しつこくて…。

今までは、東北さんが…、なんとか、してくれてたんだけど…。私じゃ、どうしようもできなくて…」

「もっとハキハキ喋れやだから襲われんだろがクソガキィ!!」

「ひぅっ」

 

 

俺が怒鳴るも、ガキは俺の裾を掴んで離さなかった。

離せと言っても、効果がなさそうだ。

バリバリと頭をかき、「しゃーなしだ」とだけ付け足す。

 

 

「離れたらぶっ殺すぞ、クソガキ」

「…う、うんっ!」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「アイドルやってる友達が、性格クソ煮込みなボンバーマンに懐いてた件について」

 

「「「ぶっふぅ!?」」」

 

 

僕、轟くん、緑谷くんが三人揃って、口に含んだお茶を吹き出した。

げほっ、げほっ、と僕と緑谷くんがむせる最中、轟くんが声を出す。

 

 

「一体どーいう経緯で、ンなことになってんだ…?」

「あの先生よりも嫌な方向に性格がクソ悪いかっちゃんが子供に!?」

「それ、爆豪くんに言ってませんよね?」

 

 

緑谷くん、日が経つ度に口が悪くなる。

性格も僕に似て来たような気がするし、僕が悪影響与えてるんだろうか。

 

 

「六年生の時、『かっちゃん、その水奈瀬先生よりもクソ悪い性格どうにかしたほうがいいよ』って言ったら、とんでもない顔と声量で怒鳴られました!」

「見えてる地雷踏んでどうするんですか」

 

 

とっくの昔に指摘してたかぁ。

 

あの子の他を見下す性格の矯正は、僕では出来なかった。

二人きりの進路相談の時も、「あの映像消せ」としか言わなかったし。

…ちなみに言うと、映像を消す気はない。

卒業後になって「自分を見つめ直すために欲しい」という子が続出しているのだ。

 

肝試しの時の映像も、かなりぼかしていたため、当人でもほぼほぼ分からないようになっていた。

爆豪くん以外の子は、ただの演出として見ていた。

 

だが、よりによって爆豪くんは、これっぽっちも反省することなく、この肝試しを「無個性の逆恨み」と捉えていたみたいだ。

その態度を何度も目の当たりにした轟くんが、心の底からブチ切れて、頭突きと拳のコンボを決めた…というわけである。

 

 

「…あんな怒鳴り声がデフォの子に、引っ込み思案な音街さんが懐くなんて、到底考えられませんけどねぇ」

「結果的に、あの態度がウナちゃんを助けてますからね。

あの子、立場的な問題で、妙な輩につけ狙われることが多いそうです」

 

 

成る程。

確かに、あの近づき難いオーラの庇護下に居れば、面倒なのは近づいてこないだろう。

懐いている、というよりは、避難場所にしていると言った方が正しいかも知れない。

 

 

「…にしても、アイドルって大変ですね。

プライベートも関係なしだなんて」

「他人事のように言ってますが、ヒーローも同じですよ。

超が付くほどのアングラ系のイレイザーヘッドでさえも、私生活を一部メディアに無許可で取り上げられてます。

アイドルなんて、ヒーローよりも風通しがいいんですから。

そりゃあこぞって集まるでしょうよ」

 

 

僕は言うと、コンビニのどら焼きを頬張った。

 

 

「願わくば、面倒ごとが起きないことを祈りたいですね」

「先生のそれ、でっかいフラグなんですから、言わない方がいいと思いますよ」

「確かに…」

「フラグってのは分かんねーが、漫才でいうフリみてェ」

「…そんなに?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「か、完成した…!こんな、こんなに簡単に出来てしまうなんて…!

古代人の技術とは、素晴らしいものだな!」

 

 

マイケルの声が震える。

手の中には、小さなカプセル型の注射器。

赤い液体の中に、ぷかぷかと浮かぶ小さな細胞。

夢にまでみた『人工個性』の完成に、マイケルは震えていた。

 

 

『喜ぶのは早いよ』

 

 

かつん。

機械の足が、床を叩く音が響いた。

 

 

『まずは実験といこうじゃないか。

安全性を確認してから、世界に公表しよう』

 

 

彼は言うと、マイケルからサンプルを取り上げる。

それを厳重に箱にしまうと、彼は踵を返した。

 

 

『丁度、それが欲しいって言う人が連絡をくれてね。実験がてら、試してみようか』




緑谷くんが怖がらずズバズバ物事を言うせいで、かっちゃんは原作より二割マシで不機嫌です。

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