そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


緑谷くんと爆豪くんが一緒に帰宅してんの?ウソでしょ?

「バクゴーさーん!」

「学校、終わったか」

 

飛びついてくるガキ…音松だか、音街だか…を受け止め、隣を歩かせる。

コイツの面倒を見るようになって、二週間が過ぎた。

どーいうわけだか、コイツは面倒ごとが起きると真っ先に俺のトコに来やがる。

最近じゃコイツの親にまで感謝され、ババア共にまで「これからも面倒みてやれ」と言われた。

面倒ごとが起きてから来られるのも面倒なので、俺は嫌々ながら、コイツの帰宅に付き添うことにした。

 

 

…ったく。まだ答えも見つかってねェってのに。

 

 

未だに俺の体を縛りつけるような、あの言葉の感触がする。

勝っても…一番でも、ヒーローって呼ばれねェ理由。

法的資格がないと言えば、話はそれで終わるだろう。

 

 

だが、それで行けば、ヒーローのくせに負けてる奴らはどうなる?

 

 

ヒーローの敗北なんざ、ネットを調べれば腐るほど出てくる。

あの若き日のオールマイトでさえ、『フィクサー』に傷一つ負わせることも叶わず、勝ち逃げされたことも知った。

「あの敗北があったから、平和の象徴になれた」ってインタビューも聞いた。

 

 

ヒーローは必ずしも、最後に勝つわけじゃない。

敵に勝ち逃げされることだってある。

敵に殺されることだってある。

そのことを知った俺の頭の中では、あの時の問いが思考の全てを支配していた。

 

 

「バクゴーさん、どうかした?」

「…なんでもねーよ」

 

 

そう悪態をつくと、ガキは面白そうに笑った。

 

…なんか、調子狂う。

 

最初に会ったときに比べれば、かなりまともに話すようになった。

警戒する必要がないって思われてるらしい。

最近は、手を繋ぐことを要求されるようになった。

断ればぎゃあぎゃあ泣いて面倒だから、仕方なく許可してる。

ガキの手は、ちょっと力を入れれば握り潰せそうなほど、細く小さかった。

 

 

ーーーーーーかっちゃん、大丈夫?

 

 

…嫌なことを思い出した。

 

虐めてたデクは、ある日から変わった。

あの教師がやって来てから、おかしくなったと言えばいいだろうか。

 

休み時間だろうが、授業中だろうが、どう考えても異常な勢いでノートに何かを書き殴っていた。

たまに意識無くして机に頭ぶつけても、数秒もすれば起きて。

顔中の穴から血を出そうが、その手を止めなかった。

 

無駄な努力だって何度言おうが、アイツはノートに釘付けで、俺のことなんか眼中に無いって言いたげだった。

 

なんでかは分からない。

机に向かってるデクを見てると、胸にざわめきが走るようになった。

だから俺は、アイツを…デクを避けた。

それは、今でも続いてる。

 

だと言うのに、今日はタイミングが悪かった。

 

 

「あ、きりちゃん!」

「ウナちゃんも帰りですか」

「かっちゃん、奇遇だね。そっちも帰り?」

 

 

デクが、きりたんぽを連れて駆け寄る。

そうだった。

デクと枝豆ンとこは、家族ぐるみで仲がいいんだった。

枝豆の妹は、このガキと仲がいい。

校門前に突っ立ってたら近寄ってくるのは、当然の帰結だろう。

「関係ねェ」とだけ返し、ガキに「行くぞ」と手を引いた。

 

 

「一緒に帰った方が楽しいよ?」

「俺は楽しくねェ」

 

 

そう返すと、ガキは泣きそうな顔で俺を見つめる。

泣かれたら面倒だ。

親衛隊とか言う訳わからん不審者どもが、寄ってたかって襲いかかってくるのだから。

コイツはそれを自覚してないから、怖かったり、嫌だったりするととにかく泣く。

ワガママが強い方じゃないだけ、まだマシか。

 

 

「…話しかけんなよ、デク」

「僕のこと避けてるのなんで?意地?」

「知るか」

 

 

ズバズバ要らねェこと言うのも腹立つ。

 

俺は苛立ちを抑えるように、拳を握りしめた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…緑谷すげェな」

 

 

学校が終わり、先生の家にて。

緑谷が用意した検査キットのディスプレイに映し出された結果に、感嘆の声を漏らす。

 

 

俺が持っているタブレットは、単純に言うと、『個性の原理』を調べる検査キットだ。

個性に関する部位を写真に移すだけで、粒子単位までスキャンをかけてくれるらしく、その原理を解明してくれるという。

世に出たら、個性研究してる研究者が揃ってひっくり返りそうだ。

 

 

「…分子運動を操作して、炎と氷を作り出す個性。

体から放出しているのではなく、肌に触れた空気中の分子運動を操ってるだけ…か。

…こう考えると、俺も十分デタラメなのか」

 

 

炎も氷も、『生み出す』って感覚だったが、実際には違ったのか。

先生に化学の教授を紹介してもらおうか。

 

東北の持ってた漫画で読んだ、『メドローア』。

炎と氷をぶつけても熱膨張が起きる程度だったが、個性の仕組みを知ってしまえば再現できるかも知れない。

 

知るってすげェな。出来ることが増えてくって、こういう感じか。

緑谷はこういう感覚がクセになって、科学にのめり込んでるんだろうな。

 

 

「ショート、何してるのー?」

「分子運動…?操作…?」

「おお。ヒメ、ミコト。

帰って来たんなら手ェ洗っとけ」

 

 

帰って来た…俺の自宅じゃないが…二人に言うと、その奥から現れた先生に声をかける。

 

 

「…いや、まぁ…、面倒だから合鍵渡しましたけども。

けれども、そんなプライベートルームみたいな散らかりようになります?」

「高そうな羊羹あったんで、一人でいただいといた」

「君も馴染みましたね。悪い方向に」

 

 

自宅のように使えって言ったのはそっちじゃないか。

申し訳なさ…ただしミクロン単位…で謝り、羊羹を頬張る俺と二人。

先生は「慣れたからいいですけど」と言い、インスタントコーヒーを淹れた。

 

 

「先生、化学者の知り合いっているか?」

「居ますよ。三十年前くらいにノーベル賞取った教授が、大学の夏休み期間で暇そうにしてます。

超絶飲兵衛で飲みの誘いがしつこいので、君を当て馬にしますね」

 

 

そりゃ、都合がいい。

 

 

「ぜひ頼む。いつになる?」

「明後日の夜です。金曜なんで、僕の付き添いで相手しなさい」

「おう。冬姉に連絡しとく」

 

 

…こうして見ると、俺って結構先生たちに毒されてるのかも知れない。

 

 

最近、夏兄と久しぶりに話した。

親父を脅して好き勝手してることを言うと、「あの親父のせいで性格歪んだのか!?」と心配された。

それは親父というより、先生の影響だ。

 

ちなみに言うと、親父には私生活に何も言わせないように脅しまくった。

でっち上げの証拠さえも、先生経由で脚本家やら写真家やらの技術の学んで作った。

「ネットにばら撒くぞ。消しても増えるぞ」と言うと、効果覿面だった。

アイツは俺のことを「最高傑作」って言ってるから、脅迫罪で訴えることもしないだろ。

 

 

…そう考えると、俺たちって正義の秘密結社って言う割には、メンバーは悪の秘密結社っぽいよな。

 

 

そんなことを考えていると、パートから戻ったセイカさんがソファに寝転んだ。

 

 

「だぁあ…。疲れたぁあ…」

「生活費の調達、ご苦労様です」

「今日、お給料日なんで…。家賃、払いますぅう…」

「2万。確かに受け取りましたよ」

 

 

社会の摂理を見た。

子供の前で現金のやり取りをするな。

複雑な気分になる。

 

 

「セイカさんは、お家に住むのにお金を払わないといけないのー?」

「ぼ、ボクたち、払ってないよ…!?払ってないと、追い出されるの…!?」

「そうですね。

君たちも働けるようになったら、お家に住むためにお金を入れなきゃいけません。

今はまだ働ける年齢ではないので、今のうちに死ぬ気で頑張って、学歴積み重ねて、稼げて楽しい職業に就くといいですよ」

 

 

ヒメとミコトが「じゃあ頑張る!」と、ランドセルからノートやら教科書を取り出して机に向かう。

言ってることは正しいんだが、いかんせん言い方が悪い。

 

 

「言い方どうにかなんねーのか?」

「キツめの言葉の方が、記憶に残ります。

現実を早めに見た人間だけが、好きなことできるんですよ」

 

 

やり過ぎるのも問題ですが、と遠い目をする先生。

 

 

その「好きなことをやり過ぎた奴」が、俺たちに牙を剥くとは、この時は思ってもいなかった。

 

 




かっちゃんは原作よりも徹底的に緑谷くんを避けてます。それこそ、ほぼ会話もしないレベルです。突っかかることもありませんが、気に食わないとは常々思ってます。

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