そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


爆豪「答え合わせの時間だ」

「ンだとォ!?アイツが、クソデクが俺より上だとォォォ!?!?」

 

「そりゃそうでしょ、ボンマン。

アンタ、オールマイトを一撃で倒せて、地球一つ簡単に吹っ飛ばすヤツ相手に、何もさせずに勝つ自信ありますか?」

 

「……ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっっ!!っそが、あるわけねェだろ!!」

 

 

告げられた真実は、俺にとって受け入れがたいものだった。

デクが、あの何も出来なかった木偶の坊が。

世界中を騒がせ、プロヒーローでさえも手を焼いたヴィランを鎧袖一触でブチのめすヴィジランテ。

 

過去に二度、人知れず世界を救った英雄。

一度目は、鎌倉山の超常現象。

未来から来たっつー個性兵器…あの転校生を、未来人から救った話を聞いた。

二度目は、梅ノ空事件。

古代に存在したっつー梅の木が、星をぶっ壊そうとしたのを、半分野郎と食い止めた話を聞いた。

 

 

認めたくない。たが、認めざるを得ない。

俺は、デクよりも下だ。

世界を救うなんて偉業を成し遂げたこともないし、成し遂げられるとも思わない。

 

 

今、デクと顔を合わせるたびに感じる胸のざわめきの理由がわかった。

アイツが死ぬ気で頑張ってるのに、焦っていたんだ。

それを見ねェフリして、絶対に超えられることは無いってあぐらをかいて。

気づけば、俺とデクの間には、埋められない差が出来ていた。

それを、「もし俺より上だったら怖ェから」って理由で、避けていた。

 

 

そんなの、認められるか。認められるか!!

 

 

認めたくない。認めたくないが、認めるしかない。

俺じゃ、今のあのガリガリに勝てる気がしねェ。

 

 

「……っっ、ソがァぁぁあ!!!!!」

 

 

くそっ。くそっ…。

なんで、なんで。

悔しさのあまり、声が漏れる。

ボロボロと、いつぶりかに涙を流す。

その涙の意味は、悔しさなんかじゃない。

自分でも訳がわからない感情が、ぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

「なんで、なんでアイツらは、俺より先に行ってんだよ…!

なんで、俺の分かんねェ答えが、あのデクに分かンだよォおっっ!!!

俺の…俺の憧れ方が間違いだってか…!?

くそっ、くそぉ…!!なんで、なんで俺は、分かんねェんだよ…。

なんで、俺は、勝てねェんだよ…!!」

 

 

俺がそう溢すと、きりたんぽが俺の胸ぐらを掴む。

オロオロするガキに「目を瞑ってください」と言うと、俺の頬を引っ叩いた。

 

 

「何もしてないし何も知ろうとしないアンタより先に行ってるのは当然でしょ!!

 

緑谷先輩は無個性に生まれて、この世の不利益全部その小さな体に受けて!!

 

それでも『やってやる』って歯ァ食いしばって、限界を超え続けた結果がアレですよ!!

 

アンタは一度でも知恵熱でぶっ倒れたことはありますか!?集中しすぎて顔中から血ィ吹き出したことは!?正しいって思ってた式が間違ってて、山の一部ハゲさせる大爆発に巻き込まれたことは!?」

 

 

きりたんぽの言葉に、頷くことが出来なかった。

そんな苦労、今まで一度もしたことがない。

何でもやればできた。

周りがすごいって言うから、俺はすごいって思ってた。

出来ない奴らの気持ちが、これっぽっちも分からなかった。

 

 

「緑谷先輩に勝てないだなんだと宣うのは、あの人よりもぶっ壊れるほど全力でやってからにしなさいよ!!

分からねェって喚くなら、しっかりと周りを…、分かってる人間を見なさいよ!!

 

本気で頑張ったことのない人間が…。

 

本気で他人の気持ちになったことのない人間が……!

 

本気で罵倒されたことない人間が!!

 

本気でつまづいたことのない人間が!!

 

そうやって悩んでるフリをしてることに心っっ底腹が立つ!!!!

 

だからっ!!私はァ!!アンタがっ!!心のっ!!底からっ!!世界でェっっ!!一番ンっっっ!!大っ、大っ、大っ、大っ、大っっっっ嫌いなんですよォ!!!!!」

 

 

…くそっ。クソっ。

悩んだフリしてた?他人の気持ちになったことがねェ?

俺の考えも、悩みも、悔しさも、なんも分からねェくせに…!

そう反論しようとしたが、口から言葉が出ない。

俺の胸ぐらを掴むコイツの目に、背筋がゾッとするのを感じた。

 

 

「き、きりちゃん…。なにも、そこまで言わなくても…」

「コレの今までのツケです。

死ぬ気で頑張って、アイドルという称号を手に入れたウナちゃんとは違うんです」

 

 

きりたんぽは吐き捨てるように言うと、「逃げますよ」と俺を引っ張る。

抵抗する気も起きなかった俺は、流されるようにきりたんぽの後ろに立つ。

 

 

その時だった。半分野郎とデクが吹き飛ばされてきたのは。

 

 

「がぁっ!?」

「うぐぅ…!?」

「っ、轟先輩に緑谷先輩!?」

「僕らはいい!早くここから離れ…」

 

 

瞬間。俺の体に衝撃が走った。

 

 

「ごぼっ…!?」

「死死死死ねねねねぇぇへへへへっ!!」

「かっちゃあぁんッッッ!!」

 

 

あばらがへし折れ、口から血の塊が吐き出される。

無様に吹っ飛ばされた俺を、デクが受け止めた。

 

 

「っ…」

「かっちゃん、大丈夫?」

「…ッソがぁ…!」

 

 

どこで差がついた、とは言わない。

わかり切っている。

俺は、コイツがノートに向き合って、何度もぶっ倒れてるのを実際に見た。

それで分からねェって方がアホだ。

 

 

「ウナちゃぁあああん…。待っててねぇえ…。今、悪い奴をぶっ殺すからぁぁあ、ァァァァァアアアア!!!」

 

「ヘルズスキルゥゥ…!!

インフェルノォォォッ!!アァァァァァアアアアックスッッッ!!!」

 

 

炎を纏い、高速回転の勢いを乗せたかかと落としが、ガリガリ男の脳天に叩き込まれる。

ネームドヴィラン相手なら、「決まった」と思える一撃。

だと言うのに、そのガリガリは半分野郎の足を掴み、地面に叩きつけた。

 

 

「ぐふぅっ!?」

「お前は邪魔だよぉぉおおっっ!!」

 

 

コレが、デクの戦ってきた相手。

 

 

誰が見ても分かる。

俺どころか、プロヒーローですら怖気付いてしまうであろう程の、圧倒的存在感。

人工個性という、どんな個性にも変化するというデタラメを手に入れた人間相手に、俺が勝てるなんて自惚れはない。

デクに何かを注射され、痛みが消えていく。

だというのに、俺の胸は未だに痛みを訴えていた。

 

 

「がはっ…!?」

「ぐぅうう…っ、容赦、ない…!!」

 

 

俺から離れ、デクが応戦する。

頬を撫でる風が、鼓膜を揺らす音が、目に映る光景が語る。

俺じゃ、敵わない。

見せられた現実と理想のギャップに、胃酸が逆流するのを感じた。

 

 

「もう…。もう、やめてよぉおっっ!!」

 

 

それを吐き出そうとした時。

ガキが声を張り上げ、デクたちの前に出る。

ガタガタ足が震えて、目尻に溢れんばかりに涙を溜めてるのに。

アイツの目は、しっかりと現実を見据えていた。

 

 

「私が目的なんでしょ…?だったら、私を連れてっていいからぁ!!

だから、もうやめてよ…!

バクゴーさんを殺そうとするのも、デクさんを殴るのも、ショートさんを蹴るのも、もうやめてよ…っ!!」

 

 

ーーーーーー勝つ理由がそこにある。負けてしまえばどうなるか、痛いほどわかっている。

だから、私は褌締めて、敵に向けてもこう言ってやるんです。

『私が来た』ってね!

 

 

ヒーローでもねェのに。個性もねェのに。

怖くて怖くて堪らねェって、アレだけ言ってたのに。

 

 

「やっと正気になったんだねぇええ!

さぁ、お家に帰ろろろろぉぉおおおっ!!」

 

 

ガリガリの手が、ガキに迫る。

 

 

ーーーーーーかっちゃん、大丈夫?

 

 

ーーーーーーやめろよ、かっちゃん…!

 

 

ーーーーーー屈するのも、負けるのも簡単だ。だが、それで失われてしまうものがある。だから、私は平和の象徴として立ち上がってこれたのです。

 

 

ーーーーーーおれはいっちゃんすげぇ!だから、なんもなくさねぇくれぇ、いっちゃんすげぇヒーローになる!

 

 

 

薄れに薄れた記憶が甦る。

 

 

 

気づけば、俺の体が弾かれるように、ガキの体を抱き寄せていた。

 

 

 

「かっちゃ…!?」

 

 

「最ッッ大ッッ、火力ゥゥゥウウウウウウゥゥウウウウウウッッッッ!!!」

 

 

ボォンッ!

 

爆炎が掌から放たれる。

掌の汗からニトロのようなモンを分泌し、爆破する個性。

咄嗟とはいえ、今まで出したこともない爆破に汗腺と皮膚が耐えきれなかった。

熱で皮がデロデロに溶け、剥き出しになった真皮から血が滲み出す。

 

 

「…半分野郎ォ。答え合わせの時間だ」

 

 

情けねェ。

俺よりも弱ェガキが、ビビりながら立ち上がってんのに、俺が泣いてんじゃねェ。

 

目尻に流れる涙を拭う。

腫れた目元で、口の端の切り傷が開くのも構わず、口角を上げる。

格好良くなんて、決してない。そんなの、自分でもわかってる。

だけど、憧れのトップヒーローのように。

俺は、その顔に笑みを浮かべた。

 

 

 

「『誰かのために立ち上がる』のが、ヒーローだろ」

 

 

 

焼け爛れた掌をもう一度、影に向ける。

勝てる気はこれっぽっちもない。

それでも、負けてやる気もない。




答えは、既に在った。
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