そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


旅行は性癖暴露大会
新参者までクソガキってどういうことだ。


「デクって呼び方、変えないんですね」

「それがね、きりちゃん。

変えたら『気持ち悪いからやめろ』って真顔で言われてたの」

 

「緑谷の気持ちも分かる。

お前が緑谷のこと普通に『出久』って言ってるとこ見て吐きそうになった」

「ボクも、初めて会ったけど、ちょっと気持ち悪かった…」

「私もー」

 

「当人の僕なんかトイレに二十分篭ったからね?ほんっと気持ち悪かったァ…」

「確かに。吐き気しましたね」

「私は外でリバースしちゃいました!拭くのに時間かかりました!」

 

「テメェら人が真剣に悩んだ時間返せやァ!!あとポンコツ!!テメェはただ単に飲み過ぎで吐いたんだろォがなに俺のせいにしとんじゃゴラァ!!!」

 

 

「どうでも良いですけど、君ら僕が取り寄せた焼肉用高級肉で勝手に焼肉するのはどうなんですか?」

 

 

家の中の人口密度がかつてないほどに高い。

焼肉の煙が充満する中、換気扇がガンガン回ってる音すらも聞こえない喧騒に、僕がツッコミを入れる。

 

 

あの後のことを語っておこう。

正義の秘密結社『一等星』に、入るとは微塵も考えてなかった爆豪くんと、音街さんが加入した。

正確に言うと、「音街家」がバックについた。

かなりの資産家で、「娘を命懸けで助けてくれた爆豪くんに恩返しをしたい!」ということで、爆豪くんが「俺らのサポートしろや」と要求したのだ。

 

 

サポートと言っても、場所の提供、警察が秘匿してる情報の横流しくらいである。

秘匿情報は法的に大丈夫か、と聞くと、「秘匿される前に手に入れてる」らしい。

元々がやり手の実業家なだけあって、僕よりも多芸だ。

 

 

場所の提供の方は、緑谷くんが「ちょっと大きい施設が欲しい」と要求した。

何を作るのかと聞くと、「秘密です!」と返された。

かなり大掛かりなものを作っているようだ。

先日までは、何徹したか分からないくらいに疲弊していた。

学校でも、半分寝て半分ノートに何かを書き殴ってる状態が続いていたらしい。

あの爆豪くんが心配するくらいだった。

いや、結構性格が矯正されたから、普通に他人の心配もするようになったんだが。

 

 

爆豪くんはと言うと、少し前の仁侠みたいなことになった。

まずは自分の母親に自分のやってきたことを、馬鹿正直に話した。

その上で「殴られてくる」と今まで迷惑をかけてきた人間一人一人に、頭を下げに行ったという。

謝り終わる…僕で最後だった…頃には、体はアザだらけでボロボロだった。

ナノマシンで緑谷くんが慌てて治したけど。

 

 

残していた過去の映像も、最後の一つを爆豪くんは受け取った。

曰く、「間違ってた過去は消せねェ。だから、引きずって歩いてく」とのこと。

その一環で、緑谷くんの蔑称をやめようとしたところ、本人に「気持ち悪いからやめろ」と言われてしまったのだとか。

結果、蔑称ではなく、愛称として呼ぶこととなった。

 

 

あの時のバケモノはというと、倒したのはSAVERということになった。

本当は装備もない爆豪くんが倒したらしいのだが、バレたら個性の無断使用で捕まってしまう。

「なら隠そう!」と満場一致で決め、あかりさんと協力して「キズナがまたなんかやらかした!だけどSAVERが食い止めたぞ!」的な茶番を演じたという。

 

 

バケモノとなった男は、音街さんのストーカーだったらしく、所有していたノートパソコンと携帯に、彼女のあられもない写真が多く保存されていた。

緑谷くんたちが帰りに、警察署の前にふんじばってパソコンと携帯共々放置してきた。

ひっそりと新聞記事で「元政界のドンの息子、アイドルのストーカー容疑で逮捕!」と書かれてた。

 

 

街に大した被害は出ず、爆豪くんのカッターシャツが消し飛んだくらいだった。

あかりさんが逃げると、プロヒーローは後を追うグループと安全確認のグループに分かれ、テキパキと動いていた。

前までの「敵が出たら動こう!」という風潮はなく、毎日毎日パトロール、ゴミ拾い、迷子案内、etc…と、何かに励む姿が見られているあたり、あの肝試しで何かが変わったのだろう。

 

 

…モノローグはここまでにして。

現在、焼肉の煙で真っ白に染まったメガネを拭きながら、僕は情け程度に用意された僕の席に座る。

 

 

「…美味っ。コレ、結構するヤツだろ」

「小学校教員が、ンな贅沢できンのか…?」

 

 

どうだ。一頭丸々で新車よりも高い肉だぞ。

ただの牛一頭だけでも、百万から二百万くらいする中で、最高級だぞ。

…株投資で儲けすぎて、浪費したかったから買ったんだけど。

 

 

「先生、株投資もやってるから、結構お金持ちだよ」

「株投資って言い方は正しくない気がします。だって、すんごい安い株買って、その会社の社員のやる気を刺激して、結果的にすんごい高くしたのを売ってますからね」

「やってること敵の親玉みてェ」

「コレまでの関係がウソみたいに仲良いですよね君ら!!」

 

 

前までの関係は、爆豪くんが徹底的に緑谷くんを拒絶していたから起こった歪みとでも言うべきなんだろうか。

それがなくなった今、口は悪いが、仲は良好と言った関係を築けているのだろう。

…外向きの面を覚えさせる必要はあるが。

 

 

「…にしても、せんせー。コレはちょっと買いすぎなんじゃ…」

「牛一頭分です」

「牛さんってこんなにお肉あるの!?」

「あと一頭分は欲しいです」

「あかりさん、それ本気で言ってます…?」

 

 

約一人、焼く量も食う量も異次元なのがいる。

爆豪くんが肉の値段に気付いて食べるスピードが落ちてるのに、他は変わらずガッツリ食べてる。

みみっちさは治らなかったのか。

 

 

「おい、大食い女。もうちょい味わえや肉もったいねェだろ」

「どうせなら、たくさん食べたいじゃないですか」

「だったら一枚ずつ食えや白米と一緒に。

無駄に高ェ水で炊いた無駄に高ェコ○ヒカリあるぞ」

「家主の僕になんの相談もなく炊くあたり、君らだいぶ仲良いでしょ」

 

 

新参者までクソガキってどういうことだ。

僕にのみ向けられるクソガキっぷりに、最早ため息も出てこなかった。

 

 

「出世払いだ。未来のトップヒーローへの投資って思えば安いだろ」

「君が出世するには、外向けの面を習得する他ないと思いますけど」

「ンだとォ!?普段の俺に問題があったわクソがァ!!」

「怒鳴った後で自分で気づけるあたり、この一週間で成長しましたよね」

 

 

爆豪くんが面白いことになってる。

 

もう完全にボケとツッコミを両立できる人材になってる。

我ら一等星に足りなかったピースが揃った気がする。

 

 

「僕の高校時代の友人に、君みたいに口悪いのがデフォの生物工学者居るんで、外面の作り方学びます?」

「………ッソが頼むわァ!!」

 

 

すごい嫌そうな顔で頼まれた。

前々から僕のこと嫌ってたし、誰かに頼ることも嫌ってたような子だから、だいぶ考えて折れたんだろう。

顔中がしわくちゃになる程嫌か。

 

 

「かっちゃんって、表現豊かだよね。

顔と頼み方から『嫌だ』って気持ちが伝わってくる」

「オッサンみてェな顔して、ブルブル震えながら頭下げてたな」

「テメェら後で殺す…っ!!」

 

 

まずはその「殺す」とか「死ね」とかを直す必要があるな。

戯れ合いなら、いくら言ってもいいだろう。

だが、流石に公共の場でその暴言はまずい。

ヒーローなんて、嫌でも子供の目に留まる職業だ。

その職についてる人間が、「死ね」はまずいだろう。

 

 

「…どうやってあの『死ね』とか『殺す』を直しましょう…?」

「無理だと思うよ?

バクゴーさんの殺すとか死ねとかって、ワンちゃんでいう『ワンワン』だから」

「ンだと音街ブッ殺すぞォ!!」

「ほら。バクゴーさん、反論できる?」

「…ッソがァ!!できねェェエ!!!」

 

 

確かに今のは反論の余地がない。

あの事件で一皮剥けてから、罵倒したのちに悪い癖を突かれて「反論できねェ」と叫ぶのが黄金パターンになってるなぁ。

 

 

「ヒーローとかアイドルとかに関わらず、社会に出る以上、外面って大事だよ?

私だって、打ち合わせとかでも積極的な子を演じてるし…」

「ほら。私たちよりも説得力のあるアイドルのお言葉ですよ、爆豪先輩」

 

 

音街さんのいうことに乗っかって、1番のクソガキがニマニマとウザったらしい笑みを浮かべる。

無論、そんな顔が爆豪くんの琴線に触れないわけもなく。

爆豪くんは凄まじい顔つきで怒鳴った。

 

 

「うるせェわ東北ソガキィ!!

誰にでも好かれるよォな外面身につけたるわ待ってろやクソがァ!!」

「やる気はすごいけど、この時点で好かれなさそう」

「今のツラ、誰からも嫌われる嫌われ役の方が似合ってたぞ」

 

 

空気が凍りついた。

プルプルと震えたのち、爆豪くんが更にとんでもない顔つきで、緑谷くんと轟くんを怒鳴りつけた。

 

 

「デクゥ!!半分野郎ォ!!テメェら毎度毎度一言余計だァ!!」

「なんで君らはそう、見え透いた地雷踏むんですかねェ…」

 

 

食卓が混沌とする中、ピリリ、と携帯が鳴り響く。

僕は「ちょっと失礼」と部屋から出て、携帯を取り出す。

その画面には、現在投資している会社の「麗日建設」の文字があった。

 

 

「もしもし?」

『麗日建設株式会社社長の麗日です。

筆頭株主の水奈瀬さんで間違い無いでしょうか?』

「はい。間違い無いですよ」

 

 

標準語だが、ちょっと関西なまりが入っている。

三重や滋賀のあたりの近畿と中部の中間あたりは、方言が入り乱れているからなぁ。

前世はその辺りの出身の僕は、イントネーションに若干の懐かしさを感じながら、要件を問うた。

 

 

「要件はなんでしょうか?」

『いえ、その…。会社の業績が上がったことのお礼を言おうと…。

言葉だけというのも失礼かと思い、皆で相談して、水奈瀬さんの家に、あるものを送らせてもらったんです。

郵送会社に知り合いがいて、ご友人が多いと聞いてたので、大人数でも大丈夫なものを』

 

 

…友人が多いってのは嘘なんだがなぁ。

 

そんなことを思っていると、ぴんぽん、とインターホンの音が鳴った。

 

 

「すみません、来客が…」

『ああ、こちらこそすみません。

では、今後ともよろしくお願いします』

 

 

ぽろん、と通話が切れる効果音が響く。

僕はインターホンが二度押される前に、玄関を開けた。

扉の奥には、ガタイのいい配達員が立っていた。

 

 

「水奈瀬さんのお宅でしょうか?」

「はい」

「お届け物です。印鑑かサインを」

 

 

僕はポケットに入れていたボールペンで、綺麗とは言えない文字でサインを書く。

配達員はそれを受け取ると、薄く大きいプレート状の物を僕に渡した。

 

 

「それでは」

「お疲れ様です」

 

 

配達員が去っていくのを確認し、僕は包装紙を少し破り、中身を見る。

 

 

「……………マジですか」

 

 

そこには、『二泊三日!大阪温泉旅行券!』と書かれたプレートがあった。




方言が入り乱れてるっていうのは、ネットの知人から聞きました。

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