今回で少しばかり時が飛びました。
出久くんが別ベクトルに頑張った結果です。
無個性で普通の人間を超えるには、このくらいしないとダメかなと思いました。反省してます。
僕が折寺小に赴任してきてから、早くも四年が経った。
僕が担当したクラスは、こぞって僕のことを酷く嫌っていたが、少なくとも、嫌がらせとかは無かった。
あのビデオ、効果あったんだな。
そんな、順風満帆…とは言い難くも、極々平穏な教師人生を送っていた僕に、少しばかり悩みができた。
「どうですか先生!
僕のヒーロースーツ第一号、『イズク1号』!
どんな個性にも対応できるオールマイティな装備に、すぐに現場に駆けつけることができる加速装置!
更には隕石をモロにくらってもビクともしない、超特殊合金『イズクメタル』使用のアーマーフレーム!!
極め付けに僕特製永久機関、『イズクジェネレーター』が無限にエネルギーを供給し続けます!!
コレで僕も最高のヒーローを目指せます!!」
「とりあえず没収ね、ソレ」
「なんでェ!?」
緑谷くんが、向こう見ず過ぎた。
遊び半分で渡した、僕と仲の良い同級生の科学論文。
片や柔軟性と硬度を兼ね備えた金属を人工的に生み出すという、夢物語。
片や小型でありながら、一文明を支えることのできるであろう永久機関。
僕にとってはちんぷんかんぷんだったそれを、この子は脳が燃え尽きるんじゃないかってほど考察して、三年。
トライアンドエラーを繰り返して、兵器として実現してしまった。
同級生に言うと、「ま?」と目を点にしていた。
証拠として、緑谷くんの作ったソレ…通称『イズクメタル』と『イズクジェネレーター』を見せた。
それを目の当たりにして、彼女は「ウチの大学、アメリカ!飛び級歓迎!小卒にして連れてきちゃって!」と興奮してた。
丁重にお断りしといたけど。
「…で。このパワードスーツ?どうするんです?
こんなモン世に出たら、大パニックですよ?」
現在、僕は彼を尋問していた。
文系の僕でも、流石にわかる。
目の前にあるこのパワードスーツは、オーバーテクノロジーの塊だ。
前世のULTRAMANという漫画…僕は小説版を読んだ程度だが…よりもサイバーファンタジーしてる。
こんなモンが世に出たらどうなるか。
怖くて想像もしたくない。
「せめてもう二、三段階グレードダウンしましょう?
誤魔化し効きますし…」
「だいぶ削ったんですよ、これでも」
「これで!?ウソでしょ君!?」
「先生の大声ってレアですね」
「大声にもなりますよ!!」
本当、どうしてこうなった。
体を鍛えても、無個性の普通の人間では、どうしても普通の人間を超えられない。
そのことを緑谷くんが痛感したのは、彼が鍛え始めて一年目だった。
「だったら、コスチュームとかサポートアイテムを充実させれば!」という結論に彼一人で行き着いた時は、生徒の成長に涙をこぼしたものだ。
そこからおかしくなり始めた。
いつのまにか、僕の頭のおかしい理系の知り合いと、片っ端から仲良くなり。
ガッツリ悪影響受けた彼は、開花して欲しくない才能を開花させ。
極め付けには、今回のこのパワードスーツ。
理系ども。お前ら僕の生徒になんちゅう悪影響もたらしとんじゃ。
「せめてグレードダウン。イズクメタルとジェネレーターは取っ替えなさい」
「いや、無理です。
イズクメタルは形状記憶合金でして、エネルギーさえあれば自己修復するんです。
イズクジェネレーターの供給速度のせいで、解体してる途中に元に戻っちゃいます」
チートじゃねーかァ!!
悲報。僕がチート主人公を育てる役だった。
意図してない。意図してないよ。
周りが勝手に知識植え付けてただけだよ。
なんだよ、このパワードスーツ!
アイアンマンでもここまでいかねーよ!!
…失敬。キャラがブレた。
兎にも角にも、彼は本気でこのパワードスーツを使ってヒーローになろうとしてるらしい。
取り敢えず、機能だけでも聞いておこう。
「で、機能は?」
「僕の脳内計算速度を遥かに超える人工知能、『MESSIAH』が搭載されてます!」
「救世主ですか。他ネーミングに割いて欲しいネーミングセンスですね」
「MESSIAHに『僕の考えた名前は嫌だ』って言われました!」
「AIが自我持つほどダサかったのか…」
この子の幼馴染みの爆豪くんと言い、この周辺はネーミングセンスのおかしい人間ばかりなのか?
まぁ、この人工知能程度ならまだ問題ない。
「他は?」
「アーマーには、至る所に『イズクサポーター』っていうナノマシンが詰まってます!
この計80億のナノマシンが集合することによって、どんな災害時でも人を助け出せます!」
「ふむ。それはいいですね」
おお。この子の本質はやっぱり変わってなかった。
そんな戦いにも…というより、戦闘に特化してるようにしか捉えることが出来ないだろう機能を、救助用に回すとは。
…ん?80億?
どう考えてもそんな量入りそうに無いんだけど。
もしかしてだけど、四次元ポケット再現しちゃったの?
「他は?」
「『エレメンタルシステム』です!
この『エレメンタルカセット』をイズクジェネレーターに装填することによって、アーマーを変化させるシステムです!」
「…他には?」
「個性遮断プログラム!
個性による干渉を阻止する超音波と電磁波を同時に発してます!」
「オーバーテクノロジーにも程があるだろォ!!!」
結局。僕はこのアーマーを没収できなかった。
一応、弁明しておこう。
アレ、僕が見てる間はこれっぽっちも動かなかったけど、自立してんだもん。
緑谷くんと一緒に帰ったんだもん。後ろ姿見たもん。
♦︎♦︎♦︎♦︎
あれから数日。
僕、水奈瀬コウの悩みのタネは、卒業した教え子となった。
名前を緑谷出久。
普段はオドオドしてて、自己表現が下手で、卑屈そうな印象を受ける少年。
だが、そんな小動物の皮を一枚めくれば、狂人が居る。
卒業式のあの日、僕にアーマーを見せてから数日経つか経たないかくらいの日だった。
たまたま、ふとつけたテレビに、先日見たアーマーが映っていた。
『な、なんということでしょう!
謎の鎧が事件現場飛び込んだかと思いきや、一瞬で人質を助け出してしまいました!』
そんな、どっかの安っぽい小説の一幕を見せられているかのようなナレーション。
それをかき消すように、僕は飲んでた水を吹き出した。
ナノマシンで人々を助け出した彼…緑谷くんが、小学生時代に研鑽を積んだ中国拳法の構えを取る。
そこに現れたのは、これまた典型的な敵だった。
何やら罵詈雑言を吐き捨てる敵に対し、緑谷くんはアーマーを隠すように巻いていた外套を脱ぎ捨てた。
『我の拳が悪を砕く!!』
あっ、あの構え。
僕、漫画で読んだことあるなぁ。動画でも見たなぁ。
そんなことを考えながら、アーマー越しに敵の腹に拳を撃つ緑谷くんを、遠い目で見ていた。
『ひっさぁぁぁあああつっ!!
ジャスティィィィイスッ!!
ブゥゥロォォォォォォオオオオオッッッ!!!!』
『がばぁっ!?!?』
形意拳って、あんな漫画みたいな威力ないんだけどなぁ…。
あっ、この世界、元は漫画か。
どこか遠い思考でそんなことを考えながら、僕は外科病院での診察を予約した。
今回のまとめ
緑谷くん「めっちゃ勉強して凄いヒーロースーツ作りました!凄いでしょ先生!」
先生「うん凄いね!でも、オバテクだから世に出さないで!」
緑谷くん「これで人々を助けるぞー!!」(ガン無視)
世間『バカなヴィジランテキタコレ』
先生「胃が痛い」
イズク1号…緑谷出久のヒーロースーツ第一号。悪を挫き、人を助け、先生の胃に穴を開ける超兵器。
緑谷出久が真の意味で勝ち取った力であり、先生の悩みのタネ。
先生が何とかしてお蔵入りにしようとするも失敗した。