そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。
お待たせしました。


事件名「かっちゃん性癖暴露事件」

「…おい、丸顔」

「は、はひっ…」

 

「どォいうこった案内に三十分もかけてんじゃねェぞこんなホテルぐれェ広くもねェ旅館でェエ!!!」

 

「申し訳ありませぇぇーーーーんっっ!!」

 

 

旅館の一室にて。

爆豪くんの怒号…というより、ツッコミが部屋を揺らす。

掌を爆発させないし、最後に「死ね」とか「殺す」とか言わないあたり、本当に成長したなぁ。

あのケツバットの成果をしみじみと感じながら、頭が取れるんじゃないかってほど頭を下げる少女に目を向ける。

 

 

「あなたが、麗日建設社長さんの娘さんですかね?」

「あ、はい。ウチ…あ、いやっ、私です」

「方言で結構ですよ」

 

 

気を遣ってくれたのだろう。

方言が飛び出そうになるが、すぐに標準語に戻した彼女に、優しく語りかける。

国語が得意な教師をなめるな。

前世は古文大っ嫌いで苦労したけどな!!

 

 

「不安な仕事は、誰かに頼むことを覚えた方がいいですよ。

無論、ただ頼むのではなく、自分でもできるように学びましょう。それが仕事です」

「…先生っぽい言い回し…。全然先生っぽくないチャラチャラしたカッコなのに」

 

 

うぐぅっ。

教壇に立たないからって、普段着で来たのがまずかったのだろうか。

泣きそう。水奈瀬コウとしての正装なのに。

これだから、このチャラチャラした格好の良さがわからない子供は…。

 

 

「お茶子ちゃーん。そろそろ昼休憩だよー。そこらへんで食べてきてー」

「あ、ほんま?じゃあ、お言葉に甘えとくわー!」

 

 

そんなことを話していると、伊織さんがひょこっ、と顔を出し、麗日さんに話しかける。

確かに、そろそろ本格的に空腹を感じる時間帯だ。

失礼します、と頭を下げ、彼女は慌ただしく去ってしまった。

僕たちは荷物をひとまとめにし、財布等の軽い荷物だけをまとめたポーチを身につけた。

 

 

「それじゃ、決めた班通りに回りましょう。

集合は5時で。トラブルが起きたら…法に触れない程度で解決しなさい」

 

『今更だろ』

 

 

総ツッコミを喰らった。僕もそう思う。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

現在、俺は湧き上がる複雑な感情に、肩を震わせていた。

原因は、目の前に突きつけられた現実。

お好み焼きを一人で四人分も作らされてる俺は、その感情を口に吐き出した。

 

 

一班…緑谷、紲星、ヒメ

二班…轟、ミコト、水奈瀬

三班…爆豪、音街、東北、京町

 

 

俺の班のメンバー世紀末じゃねェか!!

 

 

「ッッッッ……ソがァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアッッッッ!!!!」

 

 

二人はほっといたら危ないガキ。

一人はほっといたらさらに危ないポンコツ。

自分のくじ運をこれ程に呪ったことはない。

 

このお好み焼き屋に来るまでも、三十分はかかった。

コイツら、揃いも揃って容姿だけはいいから、めちゃくちゃナンパされた。

音街は変装してるが、それでも容姿がいいのは変わらないため、気持ち半分少なめだった。

まあ、ガキ二人は気の小さい変態か、老婆心で話しかけてくる奴ばっかだったから楽だ。

 

 

 

だがポンコツ。テメェは別だマジでぶっ殺すぞ。

 

 

 

二秒目を離しただけでナンパとか詐欺師とかにポンポン引っかかりやがって。

尚、詐欺師やらナンパやらは、俺の顔面を見ただけで逃げてった。

クソガキに聞くと、「明王みたいな顔してました」と言われた。

 

 

…自分で言うのもなんだが、俺の表情筋どうなってんだ。

 

 

話を戻す。

兎に角ポンコツが、いかにもなヤツらに引っかかりまくって、あまりにもそこらをフラフラするから、襟首掴んで引きずってきた。

既に精神が限界を迎えてんのに、お好み焼きを四人分も作らされる俺の身になれ。

 

 

「…爆豪先輩が一番保護者してるってどう言うことですかねぇ…」

「セイカさん、お世辞にもしっかりしてるって言えないし…」

 

 

したくてやってるわけじゃねぇわ。

 

あの教師のもとに住んでて、なんでこんなポンコツになった。

聞けば、「前よりはマシ」と言われた。

…これは俺の感覚を疑えばいいのか?

 

 

「わぁ、爆豪くん上手ですね!」

「上手もクソもあるか慣れりゃ誰でも出来るわってことで手伝えって言いてェけどテメェは絶対ェ手ェ出すなよ!?食うことだけ考えとけや!!」

 

 

先日の焼肉のこと、絶対忘れないからな。

焼いた肉を普通に箸で摘んだだけなのに、油で滑って落ち、奇跡的な角度で弾かれまくって、挙句俺の顔面にぶち当たったこと、俺は忘れないからな。

コイツにお好み焼きを焼かせたら、半生のお好み焼きが俺の顔面にぶち当たる可能性がある。

そういう理由で、俺は四人分のお好み焼きを焼いているわけだ。

 

 

「出来たぞさっさと食え!次の焼くぞ!」

「…爆豪先輩、全然好きじゃない…ってよりむしろ大ッッッッ嫌いですけど、将来的に結婚して養ってください」

「お断りじゃクソガキィ!!!」

 

 

テメェと結婚するくらいなら独身貫くわ!!

 

色気もムードのかけらもねェプロポーズにツッコミを入れ、ソース、マヨネーズ、鰹節、青のりを塗す。

一切れを皿に移し、箸で削って口に入れる。

 

 

「はふっ、はつっ…。焼き加減もちょうど良いです。美味いですよ、爆豪先輩。

養ってください」

「養う必要ねェだろテメェ」

「はっきり言うと働きたくないです」

 

 

全国の労働者たちに唾を吐き捨てるような宣言に、俺は手刀を振り下ろした。

 

 

「あでっ!?」

「隣に座るダチは、その歳できちんと働いて、立派な功績残してンだろォが。

テメェもソイツに恥ねェくれェ、立派な職に就きやがれ」

 

 

ま、俺にゃ負けることになるがな、と付け足し、次の一切れを皿に移す。

東北はぽかん、と口を開けて、俺のことを見つめていた。

 

 

「…なんですか、他人を褒めるなんて。気持ち悪い」

「ンだとゴラぶっ殺すぞォ!!」

「バクゴーさん…。そんなこと言われても、ウナ、準備できてない…♡」

「なんて声出してんだテメェは!?

人をロリコンみてェに言うんじゃねェぞ俺のストライクゾーンは十六から四十だ!!」

「「「え?」」」

「あ」

 

 

やっぱ厄日だ。

 

思わぬところで自爆した俺は、クソガキにネタにされることになった。

熟女寄りだってこともバレた。死にたい。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「これとこれ、あと二つくれます?」

「…イズク。私、お山みたいなお皿初めて見たなぁ」

「うん。僕も初めて見た」

 

 

二軒目の料理店にて。

一軒目のたこ焼き屋で、1日の売り上げの半分以上の量を全て平らげたあかりさんの勢いは、その程度では止まらなかった。

串カツ屋で凄まじい勢いで皿を空にし、その山を積み上げていくあかりさんに、僕たちは冷や汗を流していた。

 

 

「…ウチ、夢見とるんかな…?あの子、ほんな食うん…?嘘やろ…?」

「底知らずです」

 

 

たまたま同じ店に入っていたさっきの女の子…麗日お茶子さんも、目を丸くしてあかりさんの食事風景を見る。

信じられる?これでまだ腹八分も行ってないんだよ…?

本人曰く、「今まで人工個性を使った分のエネルギーを補給してるだけ。満タンになると食欲は通常になる」らしい。

そんなところ見たことないんだけど。

…多分、未来で散々戦った影響なんだろうなぁ。

 

 

「イズクが持ってきた漫画でしか見たことないや。砂糖水14リットル渡さないとダメなんだよね?」

「弱った範馬刃牙じゃないんだから…」

 

 

こんな気持ち100倍くらい大食らいの範馬刃牙だったら、烈海王あの時点で過労死するぞ。

 

慌ただしい厨房に目を向け、合掌する。

多分、あの冷蔵庫に入ってる分は食べ尽くしただろうなぁ。

やる気のない琴葉博士に頼まれて、論文のゴーストライターしといて良かった。

今年の夏の臨時収入が吹っ飛んだけど。

 

 

「お、お会計…百三万二千十八円です…」

「……はい」

 

 

死んだ目でカードを渡し、僕の口座から引き落とす。

飲食店で百三万とか初めて見たぞ。

トリコの世界じゃないんだから。

…視線が痛い。ボンボンだとか思われてるんだろうなぁ…。

くじで班を決めるべきじゃなかった気がする。

あかりさんは先生とセットで良かったんじゃないんだろうか。

麗日さんの方を見ると、目に見えて戦慄してる。

夜は旅館で食べるつもりをしている、と言ったため、自分もあの仕事量をこなさなければいけないと思っているようだ。

 

 

「次、海鮮が食べたいです!」

「まだ食うん!?嘘やろ!?」

 

 

麗日さんの素っ頓狂な声に、その場にいた皆が「よく言った」とばかりに頷いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「へーわってすばらしい」

「…この表情はなんていうんだ?」

「えーっと…顔面が溶けてる?」

「溶けてはねぇけど…そうとしか言えないな」

 

 

先生が見たことない顔してた。

人類で出来るのか、その顔。

そう思う程に蕩けに蕩け、腑抜けに腑抜け切った表情だ。

表情筋の力抜きすぎだろ。

悩みのタネ…特に紲星とセイカさん…のお守りをしなくてもいいという解放感が、こんな顔を作ってるのだろうか。

 

 

「おい。その顔なんとかしろよ」

「…おっと。すみません。比較的問題児ではない君たちの世話が非常に楽だったので」

「その問題児の世話を中学生に押し付けたのどなたですか?」

「僕ですが?」

 

 

悪びれる様子もない先生に半目を向ける。

と。その時。何処からか叫び声が響いた。

 

 

「なんやいったい?」

「なんや知らんけど、えらいべっぴんな子ぉが、とんでもない量食っとんのやと」

「向こうは?」

「えらいべっぴんさん連れた明王がナンパやら詐欺師やら追い返しとんのやと」

 

 

…すみません、多分それ俺たちの連れです。

 

明王って、爆豪か。アイツの班は、ナンパされやすい見た目のやつばかり集まってるから仕方なくはあるが…。

一体全体、どんな表情してたら明王なんて呼ばれるんだ。

紲星は…牛一頭分の肉を大半平らげて、「もう二頭は欲しい」なんて宣ったブラックホールだ。

騒ぎになるのも無理はないか。

 

 

「ミコト。まんまんちゃん、あんしような」

「お墓ないよ?」

 

 

俺は問題児のお守りをしてる同級生に向けて合掌した。

ミコトは首を傾げながらも、俺の真似をして合掌した。

短い付き合いだったが、いい奴らだった。

 




ネタバレ…先生がくじを細工しました。どうやってもこの班になります。最初の一回しかくじをやらなかったので、確率論的におかしいことに気づかれることなくやり過ごせました。

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