そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


緑谷出久の手加減練習

「…あそこであしたのジョーみたいなことになってるの、緑谷と爆豪だよな…?」

「顔の彫りが違いすぎて一瞬分かりませんけど、本人ですね」

 

 

互いに寄りかかって真っ白に燃え尽きてる。

画風違うぞ。ちばて○や先生の描いた顔みたいになってる。

僕の苦労の一割でも伝わったのだろうか、蚊の鳴くような声で「今まですんませんでした」と謝ってきた。

 

 

「爆豪先輩は特に大変でしたよ。表情筋が明王で固定されるくらいに。

ウナちゃんがやった表情筋マッサージで、ようやく元に戻ったくらいですし」

「イズクはお金持ちって思われて、詐欺師とか不良とかにすごい狙われてた」

 

 

どうやら、かなり苦労したらしい。

東北さんはとにかく、ヒメちゃんの顔にも、少しばかり疲弊した様子が見て取れた。

爆豪くんは近寄りがたい見た目と顔してるからまだいいが、緑谷くんは完全に小動物だからなぁ。

小動物って言っても、ラーテルくらい危険だけど。

 

 

「爆豪はわかるが、緑谷はどうやって対応してたんだ?」

「ショート…。聞かないほうがいい…」

「何したんだマジで!?」

 

 

底抜けに明るくアホなヒメちゃんが、真顔で首を横に振ってる。

何したんだ、本当に。

あかりさんの方を見ると、満足そうにお腹をさすっている。

セイカさんたちも、大阪を満喫できたようで、満足しているようだ。

満足してない…というより、満喫できなかったのは緑谷くんと爆豪くんだけらしい。

 

 

「…明日は自由に回りなさい。僕が問題児二人の面倒見ますんで」

「お願いします…。死ぬ…」

「最初からやれや…。死ね…」

 

 

かつてないほどに元気がない。

悪いことしたなぁ。くじに細工した分、余計に罪悪感ある。

誰も気付いていないし、正直に言ったら本当に殺されそうだ。

 

 

「あかりさん、晩ご飯は入りそうですか?」

「余裕です!」

「余裕ですかぁ…」

 

「ンなアホなァ!?」

 

 

極端に燃費が悪い体してるなぁ、と思っていると、素っ頓狂な声と共に激突音が響く。

一体なんだと扉を開けると、ずっこけた状態の麗日さんがいた。

盛大にコケてるせいで、乙女のパンツ…柄は言わない。失礼だから…を大公開してる。

彼女の名誉のために、ここはミコトちゃんに対応してもらおう。

 

 

「…せ、せんせー?なんでボクを盾にするんですか?」

「下見りゃわかるでしょ」

「あっ」

 

 

察しのいい子で良かった。

不可抗力だってこともわかってくれてるようで、僕に同情を込めた視線を向けてくれた。

 

 

え?パンツに対してなんも思わないのか?欲情してるんじゃないのかって?

 

 

僕のストライクゾーンは前世も今世も二十代後半から三十代後半未婚だ。

ぶっちゃけるが、僕はガキや経産婦に欲情するような性癖は持ってない。

茜さんからは「弄りがいのない性癖」とバカにされた。なんでだ。

 

 

「大丈夫ですか?」

「ああ、うん、ごめん…。ちょっと、ビックリして…」

 

 

昼間の惨劇…飲食店の方から見て…を見てるんだ。ひっくり返るのも無理はない。

よろよろと立ち上がった彼女は、青い顔して「失礼しましたぁ…」と消えそうな声で去っていった。

これから嫌々死地に行く兵士のような儚さと悲しみが、そこにあった。

 

 

「…あかりさん。ちなみに、どれくらい腹膨れてます?」

「腹一部ですね!

今までの消費エネルギーが膨大過ぎたので、たっくさん食べれますよ!」

 

 

………………いや、マジ?

 

 

かつてないほど生き生きしたあかりさんを前に、全員の表情筋が死んだ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

凄まじい光景だった。

僕…緑谷出久は、旅館の外にて、先ほどの食卓でたった一人の少女が作り出した地獄絵図を思い出し、頭を抱えた。

あれでようやく小腹が膨れたくらいなの…?

今までどれだけ空腹だったんだ、あの子は。

…未来では扱い悪かったらしいし、そもそもろくに食事を摂ってなかったんだろうなぁ。

 

 

「…水飲もう。胸焼けする…」

 

 

見てるだけで胸焼けした。

胸の違和感を腹の奥に飲み込むようなイメージで、僕は自販機からペットボトルを取り出し、中身を呷る。

頭痛を抑えるために外に出たはいいが、流石は大阪と言うべきか。

夜中でも、電気の光で街は明るくて、目がチカチカする。

余計に頭痛が酷くなった。

 

 

「さっさと部屋に戻ろ…」

 

 

僕が踵を返そうとすると、イズクテレフォンから通知音が響いた。

 

『イズク様。半径50m以内に敵を発見しました。狙いは貴方の持つ金銭です』

「あー…。さっきからつけてきてるなぁとは思ったけど」

 

丁度いい。新しい装備のテストをしようか。

かっちゃんに言われたっけ。

 

 

ーーーーーー加減がヘタ!!やられ慣れてるバイキンマンも真顔で『殺す気か』ってキレるレベルで加減がヘタ!!いつになりゃ覚えンだ覚える前に殺す気か!?さっさっと覚えやがれさもないと今ここでテメェをブッ殺すぞォ!!!

 

 

ーーーーーーアホかァ!!力加減をしろって言ってんだ格闘面で加減すんなやボケェ!!さっきまでできてたこと1ミリもできてねェぞクソが!!だから前みたいなキモガリにいいようにボコられたんだろォがいっぺん殺すから死んで覚えろクソデクゥ!!!

 

 

腰が引けてるせいで、ガンガン攻めてくタイプのかっちゃん…スーツを着てる…に、いいようにボコボコにされたっけ。

尚、スーツを着てる状態じゃ、普通の格闘術でも普通にボコボコにされた。

着てないと勝てるのに…。

 

 

そもそも、僕の作ってきた装備は、リゲル以外は戦闘を前提としてない。

戦闘というよりは、対象の無力化がオマケ程度についてるくらいで、救助にその機能を使うことを前提にしてる。

マトモに戦闘に特化させてるのは、轟くんの装備くらいだ。

だから、今回は攻撃をメインとした装備を作った。

 

 

「フォーマルハウトで」

『了解。モードは?』

「格闘特化」

 

 

僕が指示を出すとともに、デバイスから粒子が放たれ、僕の体を覆う。

四肢のみの装甲を超強化し、それ以外を薄く作った格闘特化。

相手によって様々な戦闘スタイルを形成できる『超攻撃特化型スーツ』…イズク20号『フォーマルハウト』。

 

 

「あ、あーあー…。よし』

 

 

ボイチェンもちゃんと起動する。

ちゃんと手加減…。力を抜くだけで、格闘術は容赦なく…。

 

 

「そこのお兄さん。しがない貧乏人の俺ちゃんに金くれぺいっ」

 

 

『金』あたりで顎を弾いて脳を揺らす。

人差し指を軽く当てるだけで、軽い脳震盪程度は起こせるだろう。

狙い通り、気絶した。顎は砕いてない…。

よしっ。力加減成功。

 

 

あとは処置をして、所有品チェック。

少し気は引けるが、携帯のパスワードを入力し、その中身を確認する。

個人情報がこうも簡単に手に入れられる時代って、恐ろしい。

やはりと言うべきか、目覆いたくなる写真や連絡のやり取りが散見できた。

 

きりちゃんやセイカさんの写真とか、あかりさんの写真…旅館で働く麗日さんの写真まである。写真にメモまであるけど、これは読まなくていい。

麻薬売買にまで手を出してて、指定敵団体、違法風俗、人身売買組織に繋がり…データ上の友人とのやりとりを見る限り、天性だったっぽい。

 

 

テンプレやられ役の要素を一人で網羅してる。ここまで来るといっそ清々しい。

 

 

パスワードロックをオフにして、あとはふんじばって警察署前に置いて行こう。

加減の練習と活動を兼ねて、繋がってた団体も潰しておこうかな。

 

 

この後、指定敵団体と違法風俗、そして人身売買組織の構成員全員が揃って警察署前に放置されていたため、逮捕された。

手柄は、その日に潜入調査をしていたファットガムのものになった。

取材で複雑そうな顔して、質疑応答に答えていた。

ところどころカンペ見てたあたり、多分、メディア部門のサポートしてる人に「正直に言うなよ!?絶対だぞ!?」と念押しされたんだろうなぁ。

 

 

因みに、僕は出迎えてくれたかっちゃんに「旅館閉まる時間考えろや!!」とゲンコツをかまされた。

普通に痛かった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ブラックボックス。注文入ったよ」

「…フィクサー」

 

 

かつん。

革靴がタイルを叩く音が響く。

ブラックボックスがそちらを見ると、見覚えのある仮面が宙に浮かんでいた。

いや。宙に浮かぶ、という言い方は正しくないだろう。

明かりが仮面のみを照らし出しているのだ。

フィクサーが一歩、ブラックボックスに歩み寄ると、その全貌が明らかになる。

 

 

黒一色で統一された軍服に、裏面のみが赤地のマント。

赤の手袋と、唯一露出した笑みを浮かべる口。

彼を構成する全てが、同性であるブラックボックスさえも飲み込むような、妖艶な魅力を発していた。

 

 

「数」

「一つ。子供の教育に使うんだって」

「用途は聞いてない」

 

ブラックボックスは言うと、カプセルを一つ取り出し、フィクサーへと投げる。

彼はそれを受け取ると、口元の笑みをより歪ませた。

 

 

「全く。『僕』は僕に厳しいね」

「…それは、君が一番分かってることじゃないか?『ボク』」

 

 

ブラックボックスが問うと、フィクサーはゲラゲラと笑い声をあげた。

 

 

「あはははははっ!いやぁ、全くもってその通りだよ!!」

「…毎度言ってるけど、受け取ったらさっさと帰ってくれるかな?

ボクは君と違って忙しいんだ」

 

 

邪険な態度を隠そうともしないブラックボックスの肩にもたれかかる形で、フィクサーが顔を近づける。

甘い香りのする吐息が、機械の肌にかかった。

 

 

「そんな言い方ないだろ。こう見えて、僕も忙しいんだよ?えーっと…い…、いぎ……んんぅ……。なんていったっけ?」

「異形排斥主義集団のことか?」

「ああ、それだ!印象うッすい名前だなぁ!

もうちょいなんかあっただろうに!」

 

 

異形排斥主義集団。通称CRC。

巨大でいて、ヒーローが手を焼いている敵集団の一つ。

在り方としては宗教のようなもので、結成当初はデモ活動が主であったが、近年テロ活動に手を出した集団『だった』。

ただ、一人の人間…否。『絶対悪』に目をつけられたのが、まずかった。

 

 

「素体的にはかなり粒揃いだったから、『改造』してんだよね。

ほら、そこにも一人改造中なのが」

 

 

フィクサーが人差し指を闇へと向ける。

同時に照明が点灯し、そこに在る存在を映し出す。

そこに居たのは、普通に見たのならば、見目麗しい女性だった。

 

 

 

だが、今は違う。

 

 

 

身体中からあらゆる体液を吹き出し、ぎゅるぎゅると目玉を動かす。

口はだらしなく開き、舌先が何かを探すように、ちろちろと動く。

手入れを怠っていなかったのだろう。

美しく、さらさらと絹のように流れる髪が覆う頭には、いくつかの異物が突き刺さっている。

よく見れば、それはなんの変哲もない針だった。

フィクサーはその一つを持って、ぐちゅぐちゅと穴をほじくる。

 

 

「どうだい?じわじわと自分が掻き消されてく感覚。誕生日は思い出せる?両親の顔は?君、結婚して子供いるんだよね?子供の顔はわかる?夫との出会いは?初体験は?ときめいた時とか、その他もろもろ。

僕に君の人生を聞かせてよ?」

「あっ、あぅっ、やっ、きっ、ぇ、やだっ、おっ、ね…、あなっ、たっ、たすっ…きえっ、りゅっ、ぅ」

 

 

嬌声とも、悲鳴とも呼べない声が、部屋中に響く。

彼女は、異形排斥主義集団の若き指導者。

その若さでトップに立ち、着実に主義者を増やしていった、やり手の思想家。

しかし、それも過去の話。

彼女と言う存在は、フィクサーという『絶対悪』の前に、消えようとしていた。

 

 

「答えろって言ったよね?と言うわけで罰ゲーム♪消ぃ〜えろっ♪」

「ごぽっ」

 

 

彼女の最後の言葉は、口から溢れ出た水音だった。

だらり、と彼女の全身から力が抜ける。

 

 

「さーてと。どんな人格作ろっかなー?

超サイコ?指導者?どっちにしても、僕の『絶対悪思想』は確定だけどね。

個性はなんだっけか…」

 

 

フィクサーが楽しそうにブラックボックスに視線を向ける。

そう。彼女はフィクサーの言う通り、死んだと言うわけではない。

ただ、『記憶含むすべてがリセットされた』のだ。

個性ではなく、ただの技術で。

 

 

「『拒絶』…。干渉を拒絶できる個性かぁ。

よし決めた!超メンヘラな偏愛家!

それも、理想のヒーローしか認めないし欲情しないタイプ!

愛する家族もこれで殺しちゃうかもだけど、関係ないよね?君はもう居ないんだから。

せいぜい頑張って僕の思想を広めてくれよ、新たな『悪役』さん」

 

「…ボクのラボで好き勝手するんじゃない。

マイケルも、結局君のおもちゃになったじゃないか。

彼は僕の助手の予定だったんだぞ」

 

 

それを目の当たりにしても、ブラックボックスは特に動揺することなく、フィクサーに注意する。

マイケル。

元は琴葉葵の助手で、退職届を叩きつけ、ブラックボックスの助手となった男。

彼は現在、ブラックボックスの手を離れ、人工個性を売りまわっていた。

その原因は他でもない、目の前にいる『絶対悪』である。

 

 

「廃人も同然だったろ?君が唆したヤツは総じてそうじゃないか。

だったら、ああいう積極的な売人の方が有効活用出来るだろ?」

「あっちの方がなんでも言うこと聞いてくれるし、余計なこともしないし、楽なんだよ。

ただでさえ、君のせいで余計な仕事量増えてんだから」

 

 

ブラックボックスは言うと、深いため息を吐いた。

機械の下にある目元は、フィクサーからは見えないが、クマが幾重にも重なっていた。

フィクサーが散々振り回し、五徹しているのだから当たり前なのだが。

 

 

「万年開花の時もそうだ。

やめた方が良いって言ってんのに、ボクに変装してマイケル唆して…。

寿命で死んだフリなんて真似も…。

今回だって、完成された人工個性なら、いつでも作れるだろ?

なんで未完成品ばかりを売り歩くんだ?

そもそも、星を壊すような真似を平然とする理由はなんだ?

君の行動には無意味なものが多すぎる。理由を聞いて良いかい?」

 

 

ブラックボックスの問いに、フィクサーはその笑みを歪ませた。

 

 

ーーーーーー闇が深ければ、星はより強く輝くだろう?




フィクサーが『改造』を施すのは、強い思想を持っている人間だけです。基本的に面倒なので、よほど気が乗らないとやりません。
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