そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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タイトルでバレてますが、東北きりたん(転生者)が出ます。

先生曰く、教師人生で初めて会ったクソガキです。

読みにくいとメッセージがあったので、改行を控えた形にしました。
今まで読みにくいと感じていた読者様に、深くお詫び申し上げます。


東北きりたん(転生者)の疑問

「先生。最近噂のヴィジランテ、知ってます?」

 

 

 

何言ってんだこのクソガキ。

 

 

 

緑谷出久が卒業して早二ヶ月。

五年生の担任を任された僕は、目の前の同類に、軽くデコピンをかました。

 

 

同類…というのは、まぁ、勘の良い人ならば分かってるだろう。

 

 

僕の目の前に座る彼女は、その歳では着ることも難しそうな着物に身を包み。

どこで売ってるかも分からない包丁のアクセサリーを、角のように飾った少女。

 

 

そう。東北きりたんが、そこにいた。

 

 

 

一応、彼女について説明しておこう。

このクソガキ、あろうことか前世で僕と知り合いだった。

知り合い…と言っても、オフ会で数回顔を合わせた程度で、彼女のことをよく知っていたかと言えば、迷わずノーと答える。

 

 

踏み込んで語っておくと、彼女にも個性は無かった。

 

 

特段、それに興味も無かったらしいが。

僕の道徳の授業では、クラス中が騒ぎ、自分を虐める中で無表情だった。

前世も同じようだったらしく、もはや何も感じてないらしい。

 

 

闇深っ。

どっかの溺れ死にそうな子供が「ふっかい!!」と叫びそうだ。

 

 

おっと、話が盛大に逸れた。

彼女の人生なんて、僕の語る物語では不要なものだ。

何故か僕の家に入り浸り、菓子を貪り食うクソガキに、僕はカップに入れたアイスティーを渡す。

 

 

「いいから早く宿題しなさい。

君が提出遅れると、僕が困るんですよ」

 

「えぇー…。読書感想文とか、前世で散々やりましたよ。

金賞だって取ったし、今世はもう少しのんべんだらりと生きたいんですぅー」

 

「ただでさえ、無個性は生きにくいんです。

少しは生きやすくしようと努力した方が、幾分かマシになりますよ」

 

 

僕が言うと、そのクソガキは「ちぇーっ」と言って、原稿用紙に向き直った。

 

 

「先生って、夢も希望も見せてくれる代わりに、現実も直視させますよね」

「そう言う仕事ですよ、先生というのは」

 

 

僕が言うと、しばらく部屋に沈黙が漂う。

ちびちびとアイスティーを飲んでいた彼女が、悪戯っぽく笑った。

 

 

「…人生使った水奈瀬コウロールプレイ、楽しいですか?」

「人生使った東北きりたんロールプレイ、楽しいでしょう?」

「…まぁ」

 

 

 

ああ。やっぱり。

彼女は僕と同類だ。

 

 

 

僕が『水奈瀬コウ』であることに執着するように、彼女もまた『東北きりたん』であることに執着している。

となれば、今現在の彼女は、今が最高に楽しい時だろう。

小学五年生という、一度きりの一年。

『東北きりたん』を『東北きりたん』たらしめる要素を実現できる、唯一の1年間。

僕のように、年齢不詳のキャラクターでは味わえない高揚感。

彼女はその喜びを抑えきれず、僕にぶちまけるのだ。

 

 

「自分は今、こんなに楽しいぞ」と。

 

 

大好きなキャラクターが歩む人生を、なんの特徴も持たなかった凡人の僕たちが歩む。

楽しくないわけがない。

 

 

「とまぁ、おしゃべりはそこまでにして。

先生。最近噂のヴィジランテ、知ってるんですか?」

 

 

コイツ、意地でも宿題しない気だ。

そっちが本題のように語るな。

僕に「宿題分からないんで、見てください」って言ってきたのはなんだったんだ。

 

 

「いいから宿題しなさい。

そっちが本題のように語らない」

「気になって宿題出来ませーん」

「このクソガキ…」

「クソガキでーす」

 

 

ああ言えばこう言うの究極系だな。

 

 

 

全部知ってます、なんて言えるわけもなく。

僕は生徒に何度目かも分からない嘘をつくことにする。

 

 

「少なくとも、ニュースで見る程度しか知りませんよ。

 

ヴィジランテ、『SAVER』…一部地域で主への侮辱にあたるとして、救世主としてのスペルは使われていない。

 

世間の評価は『調子に乗ったヴィジランテ』。

個性、年齢、性別など、あらゆる情報が欠落した謎の存在。

決め台詞は『我の拳が悪を砕く』」

 

「…それだけ?」

「知ってるのはそれだけです」

 

 

あの決め台詞はどうかと思ったが、世間はノータッチだった。

アメリカだろうがアフリカだろうが、何処だろうと颯爽と空から現れ、人を助けて悪を挫くヴィジランテ。

組まれた特集には、『オールマイトに匹敵するパワー!?』と科学研究までされてた。

パワードスーツって凄い。

 

 

それでもやってることは違法行為だから、評価は最低なのだが。

 

 

「先生って、時事問題とか結構出す癖して、あんまり突っ込んだ内容教えませんよね。

あのヴィジランテについても、ご高説垂れると思ったんですけど」

 

「そういうのは大学教員とかの専門家の役目です。履いて捨てるほどいる小学校教員がやるモンじゃないですよ」

 

 

小学校教員になるのは、別に難しいことではない。

寧ろ、かなり敷居は低い方だ。

 

その代わりに、高校、中学の教員と比べ、死ぬほど忙しい。

 

そのくせして、子供たちが最も多感な時期に付き添わなければならない。

彼らの性格を作るのは、僕たちと言っても過言ではないのだ。

僕のひねくれた世間への反抗を、子供たちに教えたらどうなるだろうか。

少なくとも、マシな方向には向かわないだろう。

だから僕は、最低限を伝えるだけに留めてる。

 

 

「…先生って、本当の意味で自分の考えを押し付けませんよね。珍しいタイプです」

 

「押し付けたら、それが当たり前として育ちますから。

言われたことをやるだけの、自主性のない子供を育てるわけにはいきません」

 

 

「ありすぎるのも問題ですが」と付け足し、僕はアイスティーを飲み干した、そんな時だった。

 

 

 

「先生!新しい装備出来ました!」

 

 

 

 

最悪なタイミングで悩みのタネが来たのは。

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

私、東北きりたんは転生者だ。

 

 

前世は冴えない女子高生。

特に可愛い見た目をしていたわけでもなく、特に優れた部分があったわけでもない凡人。

学校に良くいる、いじめられっ子が私だった。

 

死んだ理由だって、パッとしない。

何もないところで転んだ挙句、荷物の重さで坂道転がってって、そこを通りかかった電車によってフライアウェイ。

私はそんな不運の重なりで死んだ。

 

 

「タコ姉様!この子今、私のおてて、握ってくれました!」

「あらあら、先越されちゃいましたわね」

 

 

 

死から目覚めると、目の前には、フィクションのキャラクターであるはずの『東北ずん子』の顔があった。

 

オタク趣味だった私が『東北きりたん』として転生したことに気付くのに、そう時間はかからなかった。

蝶よ花よと育てられ、3歳を迎えた。

そんなある日、テレビを見ている内に、新たな真実に気づいた。

 

 

ここ、ヒロアカの世界じゃん。

 

 

ずん子…いや、ずん姉様もタコ姉様も無個性だから知らなかったけど、どうやら私はヒロアカの世界に転生したっぽい。

あの画風が違うイカツイおっさんは、間違いなくオールマイトだった。

 

やった!チート無双だ!…なんて思った時期もあった。

まぁ、ずん姉様とタコ姉様が無個性の時点で薄々察してはいた。

 

 

 

ええそうですよ無個性ですよちくしょうめ。

 

 

 

 

タコ姉様は個性として霊能力を使ってるようだけど、「他の人にも出来る、なんてことない技術の一つですわ」と言われた。

どうやら、霊能力は個性とは関係ないらしい。

ならそれを鍛えればいいかな、なんて思ったけど、私のクソ雑魚メンタルでは悪霊に飲み込まれてお終いだとタコ姉様に止められた。

前世のクソ雑魚なめくじなメンタルが、ここに来て足を引っ張った。

 

 

結局、私はこの世界でも、ヒーローにも敵にもなれない凡人として暮らすことになった。

 

 

前世と変わらず、いじめられる小学校生活を送ること五年。

東北きりたんとして正しい年齢に至ったその年、私に驚くべき出会いがあった。

 

 

「今年一年、君たちの担任を務める水奈瀬コウです。よろしく」

 

 

猫背気味で、目つきが悪くて、いかにも不健康そうな『水奈瀬コウ』が、そこに居た。

 

 

「1時間目は道徳ですが、私は何もしません。

教室からも出ていくので、皆さんご自由に」

 

 

水奈瀬コウという先生は、一見普通のようで居て、普通の先生ではなかった。

国語などの授業は、すごく真面目に教えてくれる。

だけど、道徳の授業になった途端、彼はそう言って教室から出て行ってしまった。

 

 

「自由にしていいってことは…遊んでいいってことだな!」

 

 

子供特有の超理論を振りかざし、暴れ始める子供たち。

私にはあまり関係ないことだが、何にせよ、この状況は他の教室に迷惑だ。

私は追いかけっこをして遊ぶ同級生たちに、声を張り上げる。

 

 

「いや、違うでしょ。自習してなさいって意味なんじゃ…」

「むこせーは黙ってろ!」

「あでっ」

 

 

個性で飛ばされた消しゴムが、私のおでこに直撃した。

 

まぁ、そこからは割愛する。

いじめられっ子が虐められてる姿なんて、見てもつまらないだろうから。

 

何が言いたいのかと言うと、私はこれでもかとボッコボコにされた。

ご丁寧に、服の下にアザができるように。

他の子たちが嘲笑う最中、隣の子が「ちくったら分かってるな?」と凄んできた。

別に、言いつける気なんてさらさらないのだが。

 

 

その時だった。

 

 

「授業は終わりです」

 

 

がらっ。

扉が開くと共に、旧式のモニターとパソコンを抱えた先生が現れる。

先生はその二つを教壇に置くと、道徳の教科書を取り出した。

 

 

「道徳の授業で、この教科書は使いません」

 

 

先生は、それをこれ見よがしに投げ捨てた。

「代わりに」と付け足すと、パソコンをモニターに繋げ、ある映像を流す。

 

『ゔぃらん、むこせーだ!』

『やっつけろー!』

『ゃ、ゃめっ…ぅあっ!?』

 

 

それは、先ほどの光景だった。

生徒たちの目が点になる中で、先生は淡々と告げる。

 

 

「…なにか感想は?鞭崎くん」

「…そ、そのっ、ご、ごめっ…」

「謝罪じゃありません。感想を聞いてるんです」

 

 

先生の気迫に押され、隣に座る子供が泣き始める。

が。先生はそれを許さぬように、教壇をばんっ、と鳴らした。

 

 

「泣いてもダメですよ。感想は?」

「………」

「…言えませんか。では、鯨田さんは?」

「あっ、あのっ、ごめっ…」

「聞いてませんでしたか?感想を聞いてるんです」

 

 

そこから先は、同じ光景が続いた。

私を除く全員が、先生の質問に俯いて、泣き出す。

 

 

「では、最後の一人。東北さん。

感想を述べてください」

 

 

 

一人だけ残った私を、先生が指名する。

感想。別に、あの映像に対して、大したことは思わなかった。

私は口を開き、はっきりとそれを言葉にする。

 

 

「私は…当たり前の光景だと思いました。

 

無個性っていう抵抗する力のない的に、自分の武器を当てる的当てゲーム。

ニュースとかでも、よく見るものです。

 

私からすれば、何とも思いませんでした」

 

 

私が言うと、先生は首を傾げた。

 

 

「それだけですか?」

「…それだけです」

 

私が言うと、先生は教壇を離れ、私の席の前に立つ。

首が痛くなるほどに見上げなければ見えない位置に、先生の顔が来る。

先生はしゃがんで、私と目線を合わせた。

 

 

「もっと正直に述べてもらっても結構ですよ。

『痛かった』、『辛かった』、『許さない』、『お前らも同じ目に遭えばいい』、『お前らなんか死んじまえ』、何でも結構です」

 

 

おおよそ、教師のものとは思えない言葉。

皆が泣きべそかきながら首を傾げる中、先生は私の頭を撫でた。

 

 

「先生はそれを否定しません。さぁ、思いっきりぶちまけなさい。

無個性という、生まれながらにしてのいじめられっ子の心の叫びを。

例え誰に怒られようと、誰に蔑まれようと、先生はそれを認めましょう」

 

 

 

ぼろっ。

 

 

 

私の目から、熱い何かが溢れだす。

じんじんと、今になって傷痕が疼き始めた。

痛い。辛い。苦しい。悲しい。悔しい。許さない。絶対に許さない。

そんな暗い感情が、心の底から湧き上がってくる。

 

 

「…個性で炎を当てられた。

すごく熱かった。病院で診てもらったら、火傷はもう消えないって言われた」

 

 

びくり。誰かの肩が震える。

 

 

「個性で殴られた。

すごく痛くて、病院に行ったら『骨にひびがはいってますね。もう少しズレてたら、半身不随…二度と歩けなくなってたところですよ』って言われた」

 

びくり。

また数人、肩が震える。

 

 

「個性で溺れさせられた。

肺に水が入って、誤嚥性肺炎になった。

もう少しで死ぬとこだったって言われた」

 

 

また数人の肩が一気に震えた。

気づけば私は机の上に立ち、大声を上げていた。

 

「許すもんか…。

 

 

 

絶対に許すもんか!!

 

 

 

私が普段、死ぬほど苦しい思いして学校来てんのに、ヘラヘラヘラヘラ笑ってんじゃねーよ!!

 

 

 

そこのお前も、そこのお前も、そこのお前も、そこのお前も、そこのお前も!!!

 

 

 

お前らのせいで、私は死ぬとこだった!!!

 

 

 

 

私はいつ死んでもおかしくなかった!!!!

 

 

 

 

なのに皆、無個性無個性無個性無個性ってヘラヘラ笑って、誰も助けてなんかくれなかった!!!!

 

 

 

なにが『ヒーローになる』だ!!!!!

 

 

 

お前らなんか、敵以下の殺人犯になって刑務所ぶち込まれちまえばいいんだぁああっ!!!!!!」

 

 

全部ぶちまけた。

我慢してたもの、全部。

爽快感なんてこれっぽっちもない、ぐちゃぐちゃになった感覚が胸に巣食う。

 

 

「うぁぁああ……っ!!」

 

 

その感覚を吐き出すように、私はぼろほろ泣いた。

 

 

「よく言ってくれました」

 

 

先生は私の頭を撫でると、教壇へと戻った。

 

 

「聞きましたか?コレが、無個性たちの本音です。

そのことを忘れないためにも、今年一年の道徳は、この映像を見続けましょう」

 

 

生徒たちが、絶望を顔に浮かべた。

 

 

「泣けばまた最初から見せます。目を逸らせば、教室中にモニターを用意します。

 

目を覆ったり瞑ったりしたら、直視するまで授業を終わりません。

 

親御さんに言っても結構ですよ。教育委員会からの許可はしっかり得てますので、親からのクレームなど痛くも痒くもない」

 

 

先生は言うと、「以上です。次の時間の用意をしてください」と教室を出て行った。

 

 

 

その日、先生はクラス中から嫌われた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

そんな先生との関係が始まったのは、ゴールデンウィークの時。

ずん姉様が部活、タコ姉様がお仕事で暇を持て余し、近場のチェーン店に来た時だった。

 

 

「おや、東北さん。君も間食ですか?」

「あっ…」

 

 

仕事をしながら、間食を楽しんでいる先生を見つけたのは。

 

机の上には、デニッシュパンの上に飾り付けられたソフトクリームとさくらんぼ。

更にはそこにシロップをかけた、犯罪的な代物。

 

有名チェーン店名物のそれを見た途端、私のお腹が、くぅ、と鳴った。

財布を確認するも、入ってたのは200円。

コーヒーくらいしか頼めない。

 

 

「…相席にしましょうか。

すみません、この子、僕の連れなんですが」

「はい。かしこまりました」

 

 

私の表情で全てを察したのだろう。

いつものような無表情で先生が言うと、空いた向かい側の席に私を招く。

私は、とてとてと小さな歩幅でその席へと近づき、少しばかり高い椅子に座った。

 

 

「これ。頼んでみたはいいものの、あまり甘いものが得意ではないことを忘れてて。

残り、食べてくれますか?」

 

 

先生は言うと、私にデザートを差し出した。

乙女心的には控えたいのだけれど、このうるさい小腹を鎮めるにはちょうど良さそうな品。

私は一瞬で迷いを切り捨て、ソフトクリームとデニッシュパンを頬張った。

 

 

「…先生。コーヒーが欲しいです」

「奢りましょう。どれですか?」

「あっ、スペシャルブレンドのブラックで。

これだけ甘いと、甘くする気になれません」

 

 

ことん。

数分後、頼まれたスペシャルブレンドが、空の皿と引き換えに置かれる。

私はその苦味で、口の中に残る甘みを洗い流した。

 

 

「……」

「……」

 

 

しばらくの間、沈黙が続く。

それを破ったのは、先生だった。

 

 

 

「東北さん。ボイスロイドは、知ってますか?」

 

 

 

ボイスロイド。

 

 

 

知らないわけがない。

私たちが今使っている体が、そのボイスロイドのものなのだから。

一瞬だけ頭が理解を放棄するも、すぐに私は頷いた。

 

 

「…ああ、僕と同類でしたか。

どうも、初めまして。ニートとフリーターの間をぶらぶらしてた、自称動画クリエイターの前世持ちです」

 

「…それ、言っちゃうんですね。

…私は、なんの特徴もない女子高生でした」

 

 

互いに軽く自己紹介を済ませる。

 

暫く話し合うと、私と彼は知り合いだと言うことに気がついた。

私と彼はなんの偶然か、同じサークルのファンクラブに属していて、そのオフ会で何度か顔を合わせてたという。

 

…そう言えば居たなぁ。如何にも「冴えない男」ってタイプの人。

漫画のように実はイケメンってこともない、本当の凡人。

 

私と彼は、今世でもそんな凡人として生まれてしまったようだった。

 

 

「僕の場合は、生まれ変わったことに気付いて真っ先に、『教師になること』を目標にしましたね。

小、中、高の教員免許を取得してます」

 

「どうやったんですか?」

 

「一つ目の大学で馬鹿みたいに単位を取得して卒業後、二つ目の大学に通いました。

受験勉強やらレポートやらは地獄でしたが」

 

 

エグっ。

先生はやる気がなさそうに見えて、凄くアグレッシブに物事に取り組んでいるらしい。

持ってる教員免許は、小学校のものを除けば、国語関連のものなのだとか。

私は国語が大の苦手だったので、別世界の生物のように思えた。

 

 

「…先生は、ヒロアカの世界をどうこうしよう…なんて考えてませんよね?」

 

 

なんとなく、そう聞いてみた。

先生は誰かの宿題にペンを走らせながら、こくり、と頷いた。

 

 

「ええ。考えてません。というより、世界をどうこうする力なんて、僕にはありません。

せいぜい、道徳教育のなってない子供を泣かすくらいですよ」

 

 

先生はそう自嘲すると、カフェオレを一口啜った。

 

 

「…先生。また、ちょくちょく会いに来てもいいですか?」

 

 

この先生は、私の描く『理想の教師』には程遠い。

でも、私はこの先生のことは、嫌いではなかった。

皆はこぞって嫌っているけれど、先生はそれでも、先生であろうとするんだろう。

 

私はまだ、先生のことを知らない。

だから、私はこの先生のことを、もっと知りたかった。

 

 

「構いませんよ。変な噂が流れそうですが」

 

 

先生の言葉に、私は笑みを返した。

 

 

「大丈夫です。先生だったら、なんとかするんでしょう?」

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

そして、話は現在に戻る。

 

 

絶賛、すんごく遅れてゴールデンウィークの宿題をやっている途中。

先生と他愛ない会話を交わしていた時、それは突然訪れた。

 

 

「先生!見てください!

 

 

名付けて『イズク2号』!!

 

 

イズク1号と合体して、さらなるパワーとスピードを出せる、バイク型ガジェットです!!

 

 

エンジンには僕特性の『イズクエンジン』が搭載されていて、瞬間最高速度は、なんと驚きのマッハ50!!

 

 

空も飛べるから、交通事故もなく!!

 

 

空を飛んでる間は、交通ルールなんて適用されません!!

 

更には粒子化させて、この小型デバイス、『イズクテレフォン』に収納できます!!

 

 

駐輪場を占拠することない、夢のマシンですよ!!!」

 

 

 

「うん。没収」

 

 

 

「なんでェ!?」

 

 

 

原作主人公をさらに残念にしたようなのが、そこに居た。

 

 

何気に凄いこと口走ってなかったか、この人、と思う傍ら、アングリと口を開けて驚く彼の体を見る。

原作ではお世辞にも、よく鍛えられてるとは言えなかった体だが、バランスよく鍛えられてるのが素人目でもわかる。

 

 

「…あれっ?先生、その子は?」

 

 

ふと、私は彼と目があった。

 

 

緑谷出久。

前世で「自己犠牲の擬人化」として認知していた、私が憧れていた主人公。

 

 

 

先生は私の肩に手を置いて、彼の前に私を出した。

 

 

「君のせいで宿題を滞納したクソガキです」

「えっ?なんで僕?」

 

 

 

「君のこと気になって仕方がないそうですよ、ヴィジランテ『SAVER』」

 

 

 

 

……………は?

 

 

 

 

先生の部屋に、私の絶叫が響いた。




秋田のクソガキが静岡あたりに住んでる理由は、お家の事情です。

先生の「泣けばまた最初から見せます」あたりは、ちょっと古いですけど、何処ぞの性格悪い弁護士みたいな早口だと思ってください。

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