そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


現実はいつだって理想を砕く

『次ィ!!その腐った根性叩き直すからさっさとブッ殺されやがりなさい!!』

 

 

俺の拳が、『トランペット』の個性で強化された異能解放軍の連中の意識を刈り取る。

あのアホみてェに強い女にボコボコにされた甲斐があった。

デクとは別ベクトルでやべェ無個性。

 

 

ーーーーーー個性使ってもいいよー。ボコボコにするのに変わりはないからー。

 

 

間延びした喋り方からは、とても予想のつかない容赦ない拳。

吐いたし、あばらも何回かやった。

ナノマシンが無かったら、普通に5、6回は病院送りにされてる。

そのおかげか、スーツというサポート付きで相手を捌けていた。

 

 

「……っ、相手の動きを読む異能か…!?」

「異能が使えない…!?まさか、イレイザー・ヘッドと同じ異能をも…!?」

 

 

どれも不正解だ。

そう思いながら、何事か喚く奴らの顎を、軽く指で弾く。

スーツの機能と合わされば、これでも十分なくらいだ。

個性遮断プログラムも順調に作動しており、トランペットに身体能力を強化されただけの相手であれば、簡単に対処できた。

…トランペット自身はどっかに隠れてるのか、個性遮断プログラムの範囲外だったが。

 

 

「キュリオス様の異能なら…!!」

「つっこめ!我らが犠牲になることで、ヤツを倒すのだ!」

『やめろや』

 

 

キュリオスとやらの個性で、人間地雷と化した人間にかかった個性を解除し、気絶させる。

『個性遮断プログラム』と双璧を成す…らしい。詳しいことは知らん…『個性解除プログラム』のテストも兼ねていると聞いた。

相手は普通に自爆特攻かます命知らずだ。

自爆するタイミングは、キュリオス次第。

この機能がなければ、確実に死人が出来てただろう。

…これが、俺の超えなければならない人間が作ったもの。

俺が使ってる格闘術も、超えなければならない人間から教わったもの。

 

 

「ひるむなァ!!この数の差で負けるワケがないんだ!!

その身さえも犠牲にして、この腐った世界を変えろォ!!」

『腐ってんのはそっちです』

 

 

超えなければならない。

なら、超えるだけだ。

同じ分野ではない、ヒーローという分野でもない。

俺だけにしか出来ない『何か』を、極める。

襲いかかる個性を払い除け、キュリオスの個性がかかってるのか、がむしゃらに突っ込んでくるヤツらの腹に蹴りを入れる。

俺のカバー範囲が甘いのか、一部の人間が掴みかかってくるが、その手を掴んで武器として振るう。

 

 

「ぐぅ…!?」

「かかれ、かかれェ!必ず綻びがあるぞ!

我々はこんなところでつまづく存在ではないのだ!!」

『…つまづき方は、自分じゃ選べねェよ』

 

 

…キャラ付け忘れた。

かかってくるヤツを軽く弾き飛ばし、異形系のヤツの頭を引っ掴んでアスファルトに叩きつける。

常時発動型の異形系には、少し動きが鈍くなるくらいしか効果がないようだ。

敵の無力化を続けてるうちに、どうやらトランペットとやらの場所を突き止められたらしい。

変なマスクをしたスーツ男が、俺を一瞥すると共に喚き立てた。

 

 

「なぜ我らの理想がわからない!!

貴様らも力を好きに行使してる存在!!我々となんら変わりない存在!!

それが、なぜ我らの邪魔を…」

 

『ガキが泣いてた』

 

 

力を好き勝手に使ってる。

それに対しての反論はない。

俺もデクも轟も、許可なくヒーローとして活動している。

日本の法で言えば、俺たちも同じ犯罪者…同じ穴の狢だ。

それでも。泣いてるガキ一人を突き飛ばすようなヒーローにだけは、なりたくねェ。

助けたガキに、音街に、東北に誇れるようなトップヒーローになる。

そのためにも、この場に来ないという選択肢はなかった。

 

 

「………たった、それだけのことか?」

『だから、ブッ飛ばしに来た』

 

 

口ぱくぱくしてらァ。

金魚みたいだな、と思いながら、拳を握る。

相手は、直接的な戦闘を好まない。

異能解放軍の幹部たちは、リ・デストロ以外は他者が、果ては物体があって初めて成り立つ個性ばかり。

本人はそこまで強くない。

 

 

「っ、巫山戯るなァア!!!それだけのことで、我らの長年の計画を…」

『テメェらとお話するためじゃなくて、ふんじばるために来たんだ。

覚悟決めて歯ァ食いしばれや』

 

 

瞬間。トランペットのマスクを突き抜け、俺の拳がヤツの顔面をとらえた。

 

 

『もう二度と人前に出れねェな。

そのひっっでェ顔面じゃ』

 

 

鼻は折れ、歯が数本抜けたくらいだ。

この時代で言えば、比較的軽傷だろう。

刑務所病院で治してもらうといい。

 

 

「……っ、怯むな、怯むなァ!!

トランペット様は、身をもって我らに教えてくれたのだ!!奴の傲慢さを!!

ならば、我らはそれを罰しなければ…」

『自覚してる。あと、そこから降りろ』

 

 

自分らが上っていう考え方から降りろ。

前の自分を見てるようで、痛々しい。

屋根に乗ったヤツへと距離を詰め、胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。

このままだと落下死間違いなしだろう。

なので、地面に体が叩きつけられる直前で受け止める。

 

 

『ようこそ。傲慢な人間の世界へ』

「は、ぐぅっ!?」

 

 

きょとんとしたところを、一撃。

全く。どいつもこいつも、昔の俺みたいなやつばかりだ。

轟あたりが「お前そっくりなやつばっかだったわ」と馬鹿にしてきそうだ。

 

 

「キュリオス様を守れェーー!!」

「トランペット様は諦めろ!!幹部が数人揃ってさえいればこの状況は立て直せる!!」

『大声で言うなよ』

 

 

アホ丸出しだ。

やはり、ミーハーとアホの集まりとクソ教師が馬鹿にするだけある。

中には個性を鍛えるばかりで、学校にすら通ってないヤツもいると聞いた。

そんなに集まってちゃ、「ここに居ますよ」って目印つけるようなものだ。

実際、スキャンでそっちにいるって出てる。

アホにアホ重ねてどうする。

 

 

『キュリオス様とやらはあっちか』

 

 

…RPGでもアクションでも、キレてコントローラー投げてる数だ。

十万の一部と思っても、やはり多い。

 

 

『ちゃっちゃとブッ飛ばして、大阪観光だ』

 

 

俺は小さく呟くと共に、地面を蹴った。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『み…SAVERのヤツ、こんなとこまで飛ばしてくんなよ…』

 

 

びっくりした。

スケプティックとやらの個性で作った人形…本当はただの電波受信機…が、こんなところまで吹っ飛んできた。

心臓飛び出るかと思った。

思わず「ひゃっほう!?」って悲鳴出ちゃったぞ。

 

 

「す、スケプティック様の人形が…」

「怯むな!こちらには外典様が居る!

幼少期から鍛えた異能さえあれば…」

『学習したらどうでござるか?』

 

 

…なんで俺、侍口調にしろって言われたんだろうか。

いくら家が和風で、好みが和風料理だからって、もう少し何かあったろ。

確かに、一時期は夏兄がこっそり見せてくれた『るろうに剣心』に憧れたし、一通りマネしたが。

口調の違和感に耐えながら、襲いかかる敵の頭を揺らし、気絶させる。

 

 

ーーーーーー君はいろいろ甘いねぇ。肉弾戦でいえば、ダントツで弱いよぉ。個性が強い分、油断が多いんだねぇ。

 

 

……トラウマが甦った。

あの人も連れてこれば良かった気がするが、「今日は近所の子とスイパラいくから〜」と断られた。

日本の運命とスイパラを天秤にかけてスイパラが勝つってなんだ。

先生の周りは、あいも変わらず魔境だ。

 

 

「リ・デストロの邪魔をするな!!」

 

 

俺たちと、ちょっとしか変わらないくらいの歳の男だろうか。

その声が響くと共に、地面が隆起する。

…なるほど。水管に流れる水を凍らせて、操ったのか。

馬鹿正直にデータを残してくれたお陰で、相手が何をしたのかすぐにわかる。

声の発生源を見ると、氷でできた床に立ち、息を荒げる男が居た。

 

 

「もう少しだった…。もう少しで、世界は正しい形に変わったはずだったんだ!!

それをお前らのエゴで邪魔するなァ!!!」

『街一つを簡単にどうこうできる時点で、個性が人の手に余って危険だってことに、どうして気づかないんですかね?』

 

 

未来では危険な芽を摘むために、個性を人から切り離すのが普通だという。

実際に、個性で文明が終わりかけたこともあるらしい。

バカでもちょっと考えれば分かることに、どうして気づかないんだ。

 

 

「異能は人の権利だ!!人に扱いきれない!?違う!!権利に選ばれなかっただけのことだろう!!」

『学校にも行ってねェアホ丸出しのセリフ…でござるな』

 

 

あっぶね。素が出かけた。

緑谷はほぼ毎日、こんな慣れないキャラ作りやってるのか。

俺の罵倒にキレたのか、肌寒いくらいの時期にコートのフードを被ったアホ…もとい外典がふるふると震える。

 

 

「ブッッ……殺ォすッッッ!!」

『図星突かれてキレるあたりがアホなんだ…でござる』

 

 

隆起する氷が、龍の形を取って襲いかかる。

東北の持ってたレトロゲーム…ロクゼロのレヴィアタンみたいな攻撃だ。

あっちは水中だったが。

 

 

『捻りなさすぎだろ』

 

 

どっちにしろ、捻りはない。

操作の難しさはなんとなく分かるが、ただ突っ込ませるならただの氷塊で十分だ。

この程度なら、これで破壊できるだろう。

 

 

『ヘルズスキル…。ヘルズフィスト!!』

 

 

ただ殴るだけ。

ただし、スーツを着た全力だ。

隕石をも破壊する衝撃に耐えきれず、隆起した氷ごと龍が吹き飛ばされる。

角度を調節したため、雲がちょっと吹っ飛んだだけの被害で済んだ。

 

 

「「「………は?」」」

『良かった…でござるな。まだ加減がうまい拙者が相手で』

 

 

…緑谷が鎌倉山を叩き割った理由が、なんとなく分かった気がする。

確かに、コレは迂闊に本気になれない。

へたり込む外典に近づき、その胸ぐらを掴む。

力を追い求めた末路…ってヤツだろうか。

外典は果敢にも、再び氷の散弾銃を俺に浴びせた。

が。緑谷の作ったスーツがそんなことで傷付くはずもなく。

俺は顔を寄せ、外典を睨んだ。

 

 

「……、リ・デストロは言った!!この世界は間違ってる!!

だからこそ、力を持つ我々がこの世界をあるべき形に…」

『何様のつもりだお前』

 

 

前の爆豪といい、周りを見下して、自分が正しいっていう言い方が腹が立つ。

俺が正義とは言わないし、俺がやってることは犯罪だってこともわかってるが、言わせて欲しい。

 

 

『お前の正しさはお前のものだ。

俺はお前の正しさなんざ知らんし、世界はお前らの正しさなんざ見向きもしねェ。

同じように、俺の正しさも他のやつにとっちゃ「知ったこっちゃない」で片付けられる。

俺の正しさは、世界にとっちゃ「ヴィジランテ」っていう「間違い」って見られてる。

それは正しいことだ。本人である俺も、それは理解してる。

お前らの正しさも、世間じゃ「敵」って間違いって見られてるだろ』

 

 

襲いくる人間たちを捌きながら、懇切丁寧に説明する。

現実が見えてない…というよりは、『自分たちが歪める現実』だけを見つめている。

ならば、無理やり顔を掴んで、こっちに向かせるだけだ。

先生が、毎日のようにやってるみたいに。

 

 

『人にはその人が、世界には世界が決めた「正しさ」があンだよ』

 

 

コレで反省したかは分からんが、ちょっとは現実の方を向いたろ。

顎を弾いて、同じように気絶させる。

…淡麗な顔してる。この顔なら、タレントでもやっとけばよかったのに。

 

 

「げ、外典様がやられた!!」

「ヤツの暴論に怯むな!!我らの正しさを証明するのだ!!」

 

 

確かに暴論だろう。

でも、俺にとってはこの世界の真理だ。

 

 

『お前ら、弱肉強食大好きだろ?

喜べよ。潰され消え行くのはお前らだ…でござる』

「「「さっきからなんだその取ってつけたみたいな喋り方は!!」」」

 

 

……うん。俺もそう思うわ。

そんなことを思いながら、俺は襲いくる敵の顎を弾いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『我の拳が悪を砕く…。って、久々に言ったなコレ』

 

 

襲いくる人形と人を蹴散らし、奥へ、奥へと進む。

さっき人形一体を轟くんの方に吹っ飛ばしちゃったけど、問題ないだろう。

…にしても、やっぱり多い。

倒した数を数えても、軽く3万はいた。

人形1万、人間2万と言った数だ。

兵力だけで見れば、どの敵集団よりも随一だろう。

流石、何十年も隠れてきただけはある。

 

 

「来たぞぉ!!SAVERだぁ!!」

「近づけば異能が使えなくなるぞ!!

遠距離攻撃で対応しろぉ!!」

 

 

石飛礫の如く、ビームやらなんやら…いちいち描写するとキリがない…が飛び交う。

…この武器、数回見たことあるぞ。

アホな敵…多分解放思想だったんだろう…が何人か使ってた。

その時は急いでたから全然気にしてなかったけど、コレ、デトラネット社製か。

個性に沿った品物を作る会社として有名だが、こんなことしてたとは。

日本のネットを掌握してる『Feel Good Int』の取締役も居たし、本当に掌握される直前だったんだな、この国。

 

 

『そんな攻撃では、防御力最低値のフォーマルハウトも傷つけられない』

 

 

フォーマルハウトは攻撃と速度に重きを置いた装備だ。

ハッキリ言うと、全装備中最低の防御力。

攻撃と素早さに極振りしたってヤツだ。

防御力と両立できなかったのかと問われれば、無理と答える。

オールマイティな機体コンセプトのシリウスと被ってしまう。

 

 

『レーザーモード』

 

 

両手と両足に付いた『攻撃強化用ビット』を取り外し、宙に浮かせる。

火力は抑えてる。直撃しても、ちょっとの火傷とショックで気絶するくらいだ。

脳に命令を与えるタイプの音波等は、今回は使わない。

アレは僕がきちんとアフターケアをするからやってるのであって、今回みたいな数いる相手にアフターケアができるとは限らない。

そんなことを考えながら、発射口を向ける僕に、周囲がざわめく。

 

 

「な、なんだ…?」

「防御班!早く防御しろ!!」

「まかせろ!!」

「我ら異能解放軍の防護壁は、計算上ではあのオールマイトの一撃も耐えるようになっている!!フハハハハ!!手も足も」

 

 

ちゅどん。

 

文字通り、防壁ごと吹っ飛んだ。

オールマイトの一撃も耐えるって聞いて、ちょっと出力を上げた。

オールマイトを超える火力って、世界を探せば割とあるんだよなぁ。

別ベクトルでの破壊力ではあるが。

 

 

『説明してる暇があるなら、とっとと誰かを逃せよ』

 

 

なんにせよ、賢い集団ではなかったわけだ。

バレたならバレにくい敵性国家へと高飛びすれば良いだけなのに、なんで普通に拠点にたむろしてるんだ。

そんなことを思いながら、歩みを進める。

集団で襲いくる人形をつかんでは投げ、つかんでは投げ…。

…人間は全員気絶したな。スケプティックの人形しか襲ってこなくなった。

だいぶ焦ってるのか、操作が甘い。

 

 

『電波の送信元は…あっちか』

 

 

独自の回線で通信してるんだろうが、電波で送ってるんなら問題ない。

ちょっと憧れてたことをやってみよう。

コナンくんがやってた、サッカーボールシュート。

一回やってみたかったんだよね。

障害物と空気抵抗を計算して、意識を持ってくくらいの強さで蹴る。

 

 

『蹴るものは…これで良いか』

 

 

丁度、誂え向きにバレーボールがあった。

授業中に蹴ったら怒号が飛んでくるヤツだ。

今は遠慮なく蹴らせてもらうが。

 

 

『サッカーは未経験なんだよなぁ…。

まぁいいや。普通に蹴ろう』

 

 

僕は言うと、ボールに蹴りを入れた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない…。

あり得てたまるか、こんな現実!!!」

 

 

スケプティック…本名『近属友保』は、血走った目で液晶画面に映る現実を睨んでいた。

任された同胞と人形が、一人残らず返り討ちにされた光景。

たった一人の人間によって、何十年にも渡り、研いできた牙を引っこ抜かれた。

到底信じられる結果ではない。

 

 

「失敗じゃない、失敗じゃない…!まだ巻き戻せるはず、まだ巻き返せるはず…!!」

 

 

必死になって新たな人形を動員させる。

もうストックはほぼ無くなるが、どうでもいいことだ。

今はこの状況を巻き返さなければ。

完璧主義たる彼にとって、今回の件は大きな『失敗』と認めるのは屈辱だった。

 

 

が。そんなこと知ったこっちゃないと言わんばかりに、現実が迫ってくる。

 

 

「私は一度しか失敗したことがないんだ…。

これまでも、そしてこれからも!!」

 

 

歪めた現実ばかり見てきたツケが、風切音と共にやってくる。

もし、この場に他の解放軍が意識を保てていれば、結果は違ったのかもしれない。

もしくは変わらなかったのかもしれない。

ただ一つ分かることといえば。

 

 

「世界は、解放軍が変えるぶらっぱぁっっっ!?!?」

 

 

現実という名のバレーボールが、彼の理想を描く頭に激突したということだけだ。




次回、フィクサーがその牙を剥きます。

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