そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


あかり「いっぺん死ね」

「麗日先輩、右に避けて!!次来ます!二秒間、ちょっと飛んで!!」

 

 

狙いはついなちゃんだけのようで、鞭がついなちゃんを抱きしめる私を狙う。

個性の影響で、三半規管がイカれそうだ。

こみ上げる吐き気を無理やりに飲み込み、女の子の指示通りに鞭を避ける。

弱音も恐怖も胃の中身も、吐き出すのは全部後だ。

 

 

「鬼さんこーちらーっっ!!ほらほらどうしたへっぴり鞭ィイ!!

女子中学生一人殺せへんとか、異能解放軍とやらも大したことあらへんなァア!!!!」

 

 

嘘ですめっちゃ怖いです。

胃の中身の代わりに、ありったけの語彙力を振り絞って罵声を絞り出す。

喉元に酸っぱくて熱い何かが込み上げたが、なんとか飲み込んだ。

 

 

「ナイスです!そのまま注意を引き付けてください!!ハードなの来ますよ!!」

「わかっ…んぐっ、だぁああっっっ!!!」

 

 

ちょっと出かけた。

ちょっとでも気を緩めると込み上げてくる胃酸を飲み込み、声を張り上げる。

伸ばしていた髪が切り裂かれ、破いた着物もさらにズタボロにされる。

下着も切られ、私のおっぱいが天下に晒された。

 

 

「恥ずかしさで隠しちゃダメですよ!!

その隙を突かれて殺されます!!」

「殺されてたまるかぁああああっっ!!!

この子だけは絶対離さへんからなぁああっっっ!!!!」

 

 

ビシバシ揺れて痛い。

そんな痛みも羞恥も気にならないほどに、攻撃の激しさが増す。

身体中に切り傷が出来て、血が抜けていく。

脱力感にたたらを踏みそうになるのを堪え、必死に避けるのに集中する。

 

 

「あかりさん、個性の用意は!?」

『あと二分!!ごめんですけど、それまで耐えてください!!』

「が、ぉおぇっ…、がっ…、でぇん、しょぉぢぃ…!!」

 

 

吐き気を我慢しすぎて目眩がしてきた。

チラッとあかりちゃんの方を見ると、身体中から紫電を駆け巡らせている。

今作ってる個性は、『武器を作る個性』。

…というのは、少し間違いだ。

正確には、『武器を作る個性で武器を作っている最中』なのだ。

なんの武器かは知らないけど、「一撃で沈められて、かつ殺さない武器」らしい。

こうして計八分間、私は死ぬ気で鞭を避けてるわけだ。

 

 

「捕らえる個性は…、難しくて作れない…って、言ってた…!

あとは、時間を稼ぐだけ…!」

 

 

ここで自惚れを出すな。

あわよくば一撃、なんて考えるな。

一瞬の自惚れが、死を招く。

あの鞭にかかれば、私の頭と体なんて、簡単にサヨナラするんだ。

 

 

「…お茶子の、姉ちゃん…」

 

 

ついなちゃんが、私に視線を向ける。

私は攻撃を避ける最中、彼女を抱く手に、力を入れた。

 

 

「安心しぃ。アンタは、ちゃんと助けてって言ってくれた。

…ウチは、それに応えなあかん」

 

 

武器の完成まで、あと一分。

目の前の脅威がより怪しく蠢いた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「死ィイねェエッッ!!!!」

「っ、らぁああっっ!!!!」

 

 

爆炎と熱線が飛び交い、空を、大地を彩る。

跡形も無くなった街並みにクレーターが出来るたび、僕たちの喉奥から声が飛び出た。

僕たちとフィクサーの戦いは、かなり長引いていた。

膠着状態、ということはない。

攻撃も、僅かにだが当たり始めた。

 

 

「…クソが…!カス当たりで、殆どダメージがねェ…。どんなバケモンだよ……!!」

「生身の人間…って思わねェ方がいい。

殺す気で行っても死なねェぞ、コイツ」

 

 

既に加減はしてない。

ここら一帯の雲は残らず吹っ飛ばした。

プロヒーローが入らないように、破れたバリアも張り直した。

だというのに、フィクサー相手にかすり傷程度しかつけられていない現状。

脳を酷使し過ぎて、顔の穴という穴から血が吹き出てる。

マスク内に体液を拭き取る機能をつけてて良かった。

 

 

「…その調子じゃ、七孔墳血…ってとこ?

本当に、万全の状態で戦いたかった」

「俺らは眼中にナシか?

ヘルズスキル…コキュートスバインド」

 

 

轟くんが、フィクサーから半径数百メートルの大気を一気に凍結させる。

先程までは、局所的に凍らせようとした瞬間に避けられていた。

ならば、広範囲を凍結させればいいと言うわけだ。

 

 

「ナイス、轟くん!『正義の拳』!!」

「インフェルノレイ!!」

「十ノ惨状ォ…!千壊滅殺ゥ!!

地獄ッ、爆粉砕!!!」

 

 

拳が、光線が、爆炎が。

氷に包まれたフィクサーを穿つ。

これで倒せていれば御の字なのだが。

そんな祈りが口から出るのを堪え、崩壊する氷塊を見守る。

 

 

「ちょっとズラしたけど…。

あーあ…。右腕なくなっちゃったよ」

 

 

僕たちの期待を裏切るように、氷塊の影になったフィクサーが笑みを浮かべる。

その右腕だけがあり得ない方向にひん曲がり、焼かれに焼かれ、炭化していた。

避けられることは、覚悟していた。

だが、ダメージを負わせたにもかかわらず、威圧感はこれっぽっちも薄れない。

 

 

「いやぁ、助かったよ。

真っ先に拳で氷を叩き割ってくれたから、炎の軌道から逃れられた。

右腕はこんなんなっちゃったけど、ちょーっとした誤差だよ、誤差」

 

 

…コイツ、本当に人間なのか…?

叩き割ったとはいうが、それは骨を折って、もし外れたとしても炎の通りを良くするためだ。

実際に、ヤツの右腕は折れてる。

そのあと、一秒もない内に爆炎と熱線が押し寄せたはずだ。

軌道から逃れるなんて、強度的な意味でも、速度的な意味でも、人間の限界を超えた速さを要したはずだ。

僕が思考を巡らせていると、フィクサーがそれを悟ったように語り出した。

 

 

「僕は君ほどじゃないけど、電子工学を極め…ああ、いや…。

君を前に極めたって言い方はおかしいか。

そこそこかじってるんだけどさ、ブースターと空気抵抗防止用のバリアくらいなら、そこしかしこに仕込んでるのさ」

 

 

そういうわけか!!

どんなバケモノスペックだ、コイツ!!

あらゆるスキルを極めてる…というのは、間違いではなさそうだ。

…勝ち筋はあるけれど、条件が揃ってない。

僕の寝不足と、脳の酷使による思考力の低下さえなかったら。

自立したスーツに相手させる、という戦法も取れるが、それも無理だ。

生憎とリゲルはメンテナンス中だし、シリウスなんて機能拡張とグレードアップの最中で使えない。

本当に、自分のタイミングの悪さが嫌になってくる。

 

 

「…殺す気でやって、腕一本か…」

「……っ、ソが…!!

寝不足と消耗が祟ってデクはあのザマ、こっちも目眩がしてきやがった…!!」

 

 

かっちゃんの動きにも、僕ほどではないものの、多少のふらつきが見えた。

そんな僕たちを嘲笑うように、フィクサーが使い物にならなくなった右腕を掲げる。

 

 

「いや。ノーダメージだよ」

 

 

瞬間。フィクサーの腕が再生した。

 

 

「「「…………は?」」」

「君もオールマイトに使ってたじゃないか。治療用のナノマシン。

君のに比べたら、デッドコピーも良いところだけどさ」

 

 

ふざけるな、と叫びたかった。

ゲームで言う『負けイベボスを倒せ』って言われてるようなものだ。

頑張ればイケるかもしれないが、目の前の敵は自己再生持ちで、しかも攻撃がほぼ当たらない。

対するこっちは、状態異常のせいでロクに動けないようなモノだ。

クソゲーにも程がある。

 

 

「…だから、どォした」

 

 

かっちゃんが呟くように言い、指先をフィクサーに向ける。

僕たちもそれに続いて、掌や拳をヤツに向けた。

 

 

「あれ以上のチート、経験済みだろォが。

アイツは真っ当に生きてる人様に大迷惑吹っかけるクソ野郎だ。

いずれ俺らがぶっ殺すことにゃ変わりねェ」

「…俺らも迷惑側だと思うぞ。ヴィジランテなんだし」

「僕なんてこんなの作ってるし、バレたら世間がとんでもないことになるって先生が…」

「知ってらァ。人を助けるための迷惑なら、いつかその責任取ったらいいだろ」

 

 

そんな軽口を叩いて、後ろ向きな思考を断ち切る。

責任を取る…か。

どうやって責任取るべきかは分からないけど、今のうちに考えておこうかな。

そんなことを思いながら、ジェネレーターの出力を上げた。

 

 

「…へぇ」

 

 

感心したように、ヤツが目を細める。

それを合図に、再びフィクサーに攻撃しようとした、まさにその時だった。

 

 

 

轟音と共に、空が白く染まったのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…ぉ、えぇっ…」

 

 

口いっぱいに広がった、酸っぱくて鉄臭い物を吐き出す。

ついなちゃんを咄嗟に突き飛ばしたのは、英断だったのだろう。

さっきまでついなちゃんを抱いていた箇所に、肉塊が突き刺さっていた。

多分、内臓削られた。

詳しい箇所は知らないけど、喪失感と血液が流れ出る感触が伝う。

 

 

「麗日先輩!!絶対引き抜かせないでください!!死にますよ!!」

「…!?や、嫌やっ!!死なんっ…!!死なんもんっ…!!」

「わ、かっ…とる……っ!!だい、じょうぶ……、やから…っ!!」

 

 

漫画で読んだけど、この傷になれば抜かれれば余裕で失血死する。

私は力の限り肉塊を掴み、何がなんでも引き抜かせないようにしていた。

でも、それも限界だ。

正直、私は鍛えてるのかと聞かれれば、否と答える。

本当に、単純な筋トレしかやらなかった。

要するに、私の体から肉塊を引き抜くのは、たこ焼きに刺さった爪楊枝を引き抜くかの如く容易いということだ。

 

 

「あ、あぁっ、血がっ!!血がぁ!!

おとん、やめて!!やめてぇな!!ウチが捕まるから!!なんでも言うこときくから!!、なんでもやるから、やから!!!

お願いやから、お茶子の姉ちゃん殺すの、やめてぇなぁ!!!」

 

 

ごめん。ついなちゃん、ごめんなさい。

痛みを堪え、死が近づく恐怖を堪え、時間を稼いだのに。

力の抜けていく体、薄れていく意識。

彼女を守りきれないことの悔しさだけが、私を支えていた。

 

 

「よくも手こずらせたな…。死ね」

 

 

死の宣告と共に、私の腹部から肉塊が引き抜かれる。

本来であれば、引き抜かれたと同時に、血が大量に噴き出し、私の命を終わらせる。

 

そう思った矢先。

いつ間にか女の子が私に駆け寄り、何かをスプレー缶から吹きかけた。

結果、傷口から血は吹き出さなかった。

代わりというべきか、何かが傷口に蠢いていた。

 

 

「よく頑張りましたね。ナノマシンで止血しました。今は治療してる途中です」

 

 

女の子が私に称賛の声をかける。

そして、気づいた。

彼女の側に、般若のような顔をしたシルエットがあることを。

 

 

『…アンタ、この子の父親なんですってね』

 

 

シルエットとは言ったが、その風貌はまさしく、先ほどまで戦闘を行なっていた彼女だった。

しかし、どう考えても様子がおかしい。

駆け巡る電流が光源となり、辺りを白く染め上げている。

笑っているはずのマスクは、光で歪んで見えるのか、牙を剥いた般若のようだ。

極め付けには、手に握られた武器。

豪華絢爛な装飾と裏腹に、殺意溢れる大槌が鎮座している。

だけど、そんなことが気にもならないほどに、その声は怒りで満ちていた。

 

 

「それがどうした?」

 

 

火に油を注ぐが如く、ついなちゃんのお父さんがなんの反省も見せない。

彼女の槌を握る手から、金属同士が擦れ合う音が響いた。

 

 

『この子が、アンタの非道で泣いてるんですよ。アンタの行いを知っててなお、アンタのことを父親って慕っているんですよ。

何も思わないのか、この外道』

 

 

揺らめく雷が、マスクをさらに変貌させる。

怒り狂う仏様のようだ。

どこか遠い思考でそんなことを考えていると、ついなちゃんのお父さんは鼻を鳴らした。

 

 

「はっ。子が親の役に立つ。ほんなもん、当たり前やろが」

 

 

油に火ではない。ニトロに衝撃を与えるかの如き愚行。

彼女の怒りが頂点に達するどころか、爆発するのが感覚で分かった。

それを反映するかのような轟音。

それと共に、空がペンキをぶちまけたかのように、白く染め上げられる。

 

 

『再現「トール」』

 

 

いや。白く染まってるわけじゃない。

雷が、空を覆っているんだ。雷雲も全くないというのに。

それを作り出した本人が、槌を構え、アスファルトを蹴り砕く。

 

 

『いっぺん死ね』

 

 

刹那。空に青白い花火が咲いた。




次回、決着…着かないところもあります。
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