そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

56 / 116
サブタイトル通りです。


ヒーローの敗北

「……いい。いいけど…。

本当に、ベストコンディションでなかったことだけが悔やまれるね」

 

 

体が、脳が限界を迎えている。

猛烈な眠気と脱力感に、僕は悔しさだけで対抗してる状態だった。

すでに視界はぼやけ、普通に立つことすらままならない。

 

 

「右腕三回、左腕五回、胴体二回、頭部は…かすり傷で四回、右足一回、左足一回…。

うん。過去最高のスコアだ。おめでとう」

 

 

ヤツが数えたのは、ヤツが再生した箇所とその回数だ。

正直言って、本当に殺す気でかかった。

そうでもしない限りは、勝てないと思ったから。

蓋を開けてみればどうだ。

轟くんは、戦いの終わる一分前に、ただの突きで気絶させられた。

かっちゃんは、耳元で囁かれると同時に、眠りに落ちた。

僕はフィクサーに何もされずとも、意識を保つので限界だ。

 

 

「この調子じゃ続行は無理だね。

おめでとう。今後、僕と対峙する資格を、君たちは得た。

君たちに敬意を評して、元いた場所まで運んであげよう」

「……っ、なんの、つもりだ……?」

 

 

かっちゃんたちを担ぎ上げるフィクサーを睨みつける。

フィクサーはそれを意に介さず、僕の体も担ぎ上げた。

 

 

「だから、敬意だよ。未来の『正義』に対する…ね」

 

 

ソレを最後に、僕は意識を手放した。

 

 

これが、僕が久方ぶりに味わった敗北だった。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

何が起きたのかを語っておこう。

あかりさんが一瞬のうちに相手を空まで蹴り飛ばし、空で槌に込めたエネルギーを叩き込んだ…らしい。

「人工個性持ちだったら耐えられるけど気絶はする」くらいの威力に抑えたとのこと。

どう見たって殺す気満々の一撃だった。

いや、空真っ白だったよ?完全に地球砕くくらいの勢いあったよ?

本当、しぶとさだけはゴキブリ並み…ああいや、随一だな、異能解放軍。

 

 

「…麗日先輩、お腹大丈夫ですか?」

「へ?…あ、ああ、うん。

見ての通り、傷口も塞がっとるし…。

ただ、貧血やろか…。ちょっとえらいわ…」

「えらい?なんで貧血が偉いの?」

「そっちの意味じゃなくて、方言ですよ。

体がだるいことを『えらい』というんです」

 

 

半壊した旅館の前で、そんなやりとりをする。

彼女らが戦っている間に、異能解放軍は全員が捕まったようだ。

流石はプロヒーローに警察。手際がいい。

日本の警察は、吠えていい相手にはトコトン吠えるクチだからなぁ。

その分、吠えられない相手にはトコトン従順だけど。

 

 

「……星が壊れるよりはマシですね」

 

 

ズタボロになった旅館を見上げ、呟く。

避難していた人たちもゾロゾロ出てきて、旅館の有様に同情的な視線を向けた。

避難していた人たちに、傷はこれっぽっちも見当たらなかった。

そのことに安堵するのも束の間、幾人かの男性客が驚いた表情でこちらを見て、目を逸らす。

 

 

「…麗日さん。いい加減、ソレ、隠したらどうですか?」

「はへ?」

 

 

凝視すると何言われるかわからないため、目を背けて彼女の体を指差す。

突風が吹いて、なけなし程度に彼女の秘部を守っていた布が、全て吹き飛ばされた。

その証拠とでも言うように、僕の前に、彼女がまとっていたであろう布切れがひらひらと落ちた。

 

 

「……まぁ、えっか。『終わり良ければ全てよし』やぁああ…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 

ばたん。

貧血が祟ったのか、脱力して地面に倒れ込む麗日さん。

横目で見たけど、よりによって仰向けで倒れたぞ。

僕はそう言う趣味はないけど、何人か写真撮ろうとしてる。

僕が壁になることで、彼女の痴態が晒されるのをなんとか防ぐ。

 

 

「音街さん、僕のスーツケースからパーカーを出してください。

サイズからして、それなら秘部を隠せます」

「は、はいっ!」

「子供たちは、それまで麗日さんの体を隠してください。

セイカさんは…とにかく動かないでください。アポカリプス起こされたら迷惑です」

「私のドジそこまで酷い!?!?」

 

 

酷いだろ。星砕く兵器一つ、おシャカにしてんだから。

気絶する麗日さんに、音街さんが僕のパーカーを被せる。

 

 

「……バクゴーさんにそっくり」

 

「「「「「「いやいやいやいや!!どこが!?」」」」」」

 

 

音街さんの言葉に、僕たちが総ツッコミを入れた。

性別も違うし、あんな目つき悪くないし、髪は割に整っている方だ。

性格に至っては論外だろう。

そんなことを考えていると、音街さんは慌てて首を横に振った。

 

 

「いや、あのっ…。助けた後に、笑うのが似てるな…って…」

 

 

彼女の言葉に、僕たちは寝息を立てる麗日さんの顔を覗き込む。

だらしなく緩んだ頬に、下がった目尻。

コレを笑顔と呼ばずになんと呼ぶべきか。

 

 

「お茶子の姉ちゃん…。起きたら、ぎょおさん、ありがとうって言わせてぇな…」

 

 

ついなちゃんが彼女の手を握る。

この場面に口を挟むほど、僕は野暮なつもりはない。

プロヒーローたちがこちらに駆け込む最中、僕はふと、気絶したついなちゃんの父親に目を向ける。

 

 

「………………は?」

 

 

そこには、衝撃の光景があった。

 

 

「セイカさん!!あかりさん!!

その子たちの目線を、コッチに向けさせないでください!!」

「え、あ、はい」

「…?は、はい」

 

 

僕が指示を飛ばし、子供たちを無理やりその場から離れさせる。

正直、荒事には慣れているつもりだった。

そういうつもりをしていた。

だが、僕はそれを知らなかった。

前世で味わったソレを、僕は知らないフリをしていた。

 

 

「……前々から、疑問だったんですよ。

どうして、『人工個性』と『自己修復細胞』を結合させたものを、『移植する』必要があるのかって。

『人工個性』を摂取するだけじゃダメなのかって、思ってたんですよ」

 

 

スモークマシンの煙が消え、プロヒーローたちにもその光景が晒される。

子供たちからは見えないが、その光景は、あまりに刺激が強すぎた。

 

 

「あ、ばば、ぱぷっ…」

 

 

まるで、蝋人形を溶かしたかのように、人がドロドロに溶けていく光景。

不思議と僕は、吐き気を催していない自分に気がついた。

人の死を見るのは、これが初めてじゃない。

中学の頃、同級生が敵に殺された光景を見たことがある。

現実感がなさすぎて、驚きもしなかった。

だけど、死は現実にある。

それは、僕が一番知っていた。

 

 

「だとしても、コレは、ないだろ…」

 

 

どんなバカだ、こんなの思いついた奴は。

赤と肌色が混じった水たまりとなっていくその男に、その場の全員が釘付けになる。

伊織さんも状況を把握したのだろう。

急いでこちらに駆け寄り、覗こうとするついなちゃんたちの目を覆い隠した。

 

 

「理解が早くて助かります」

「…こんなの、彼女たちに見せられるもんですか」

 

 

ぐずぐずと溶けていく男に、誰かが嗚咽を飲み込む。

そちらを見ると、まだ新人なのだろうか。

比較的若い風貌のプロヒーローや警察が、そこらに吐瀉物をぶちまけていた。

 

 

「つ、いな、ぁあ……。ご、め、ん…」

 

 

頭骨が溶け、脳さえも溶けていく。

そんな状態になって、初めて彼は、娘へ謝罪を送った。

瞬間。ついなちゃんは腕に赤いオーラを走らせて、僕たちを振り切った。

 

 

「っ、待っ……!!」

 

 

遅かった。

ついなちゃんの視界には、父親だったソレが飛び込む。

幼い少女の心に傷をつけるには、十分すぎる光景。

溶けていく父親を前に、彼女の動きが止まった。

 

 

「ごめ、めめめ…んん…。つ、ぃな……」

「………なんやいな。

外道に相応しい、無様な死に様やんけ…」

 

 

ぽつり。

ついなちゃんが小さく呟く。

ぐずぐずに溶けていく父親に駆け寄り、彼を見下ろした。

 

 

「ごめっ、ごめめ……、めん……。

おか、さ……、まも、なく……。めん……」

「……今更すぎるわ、あほぉ…っ。

おかんが、どれだけ苦しい思いして、死んだと思っとるんや…!

ほんな、ほんな姿になって、漸くかいな…!

ほんまに、アホやなぁ……っ!!」

 

 

ぽたり、ぽたり、と水たまりに透明な滴が混じる。

僕たちの位置からは見えないが、肩が震えていることから、彼女は泣いているのだろう。

死に逝く父親を前に、彼女は続けた。

 

 

「ごめっ、んん…。つ、ぃ…ぁ……」

「……死ぬ時くらい、言ってぇな。

おかんが死ぬ前は、言ってくれたやん…。

お願いやから、死ぬ前に…っ、一回だけでも言ってぇな…。

抱きしめんでもいいから…。頭を撫でて、ちゃんと、言ってぇな…」

 

 

彼女の言葉に答えたのか、ソレとも偶然か。

溶けて倒れた掌が、彼女の頭に覆いかぶさる。

あれだけ溶けたらもう、神経も働きを成していないはず。

 

 

「ぁ、い…ぅ…き……」

 

 

その言葉を最後に、彼女の父親は溶けた。

水たまりとなった父親を前に、ついなちゃんの慟哭が響く。

 

 

後に、旅館内にて気絶した状態で発見された緑谷くんたちはこう語る。

この戦いは、惨敗だった。

犠牲者を出してしまった。完膚なきまでに、一等星は悪に負けた。

 

 

この敗北は、ヒーローたちの胸に深く刻み込まれることとなった。

 




次回。衝撃の事実、判明。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。