そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


サバイバルにクマは付き物

「……先生、大丈夫ですか?」

「これが大丈夫に見えたら眼科行ったほうがいいですよ」

 

 

つづみさんが帰宅し、ある程度日が過ぎた。

身の回りの物の整理が終わり、魔の土日を過ごし、仕事を終えた月曜日。

僕はソファの上から一歩も動く気力が出ないほどに、疲弊し切っていた。

理由は…まぁ、アレだ。死を覚悟した。

何あれ?掘削でもしてんのかってくらい動き激しかったんだけど。

今は野暮用で訪れている緑谷くん以外は、なにかしらの用事で来ていなかった。

 

 

「そういえば、奥さんは?」

「そこで寝てますよ。ああ、刺激しないでくださいね。旦那の僕でも首元寸止めなんで」

「何が!?!?」

「刃物が」

「殺意満々!!!!」

 

 

死ぬかと思った。土日とは別の意味で。

寝顔は可愛いのに、起こそうとすると割と容赦なく殺そうとしてくる。

まぁ、十年も紛争地帯にいて「こうなるな」って言うほうが無茶だが。

 

 

「…意外でしたね。君たち、彼女のことを糾弾するかと思っていたんですが」

「……そうでしか生きられない環境があるってことを知らないほど、僕は世間知らずってわけじゃないです。

敵性国家に居たなら、なおさら」

 

 

緑谷くんは「納得はできませんけど」と付け足し、キーボードを叩く。

まぁ、納得できないだろうな。

これまで良くも悪くも、殺さないように努めてきた人間なのだから。

一応言っておくが、つづみさんを警察に突き出しても意味はない。

理由は簡単。彼女は敵性国家内でしか殺しをしていないから。

敵性国家における殺人は、合法である。

寧ろ敵性国家を滅ぼした功績は、国連平和賞受賞レベルの偉業としてカウントされる。

 

 

「…ついなちゃんのお父さんのこと、きりちゃんが一応録画してた映像を、かっちゃん、轟くん、麗日さんと一緒に…見ました」

 

 

緑谷くんがぽつり、と語り始める。

あんな凄惨な場面を録画してたのか、あのクソガキ。

そのことを叱ろうと心に決めるも、緑谷くんが「僕が頼んでたので、きりちゃんを叱らないでください」と止められた。

元は人工個性の解析のために依頼していたらしい。

 

 

「…どう思いましたか?」

「その…。うまく言えないんですけど…。多分、悔しかったんだと思います。

涙は出ました。…でも、誰も…、目を逸らしませんでした」

 

 

助けられなかったと言う事実から、目を背けなかった。

それだけでも、彼らはしっかりと成長していってるのだろう。

ただ、今回は少し、つまづいてしまっているようだった。

 

 

「……僕たちは、恵まれていて…。

誰も、身内が亡くなったとかがないから、人が死ぬってこと、あまりよく分かってなかったんです。

初めて見た人の死で、その…。怖くなったんです。助けられないことが」

 

 

今までの功績による弊害、と言うべきか。

緑谷くんは卓越した科学力で、多くの人間を助けてきた。

その功績によって、今もニュースでは国民たちが声を上げて彼を擁護している。

だが、ただ一つ。彼は関わった事件において死者を出したことが無かった。

初めて見る人の死が、自分が関わってしまった人の死が凄惨な物だったのだ。

つまづくのも無理はない。

 

 

「プロヒーローは、いつだってその重圧と戦っています。君はそれを知っただけですよ」

「…そう、ですけど…。

やっぱり、忘れられないんです。自分が、助けられなかった人間がいることが」

 

 

緑谷くんは言うと、マグカップに注がれたポタージュを飲む。

この重圧に耐えきれず、プロヒーローを辞す者は多い。

僕の知り合いも、耐えきれずに万年サイドキックという道を取った。

それ程までに、救えなかったことの責任というものは、重い。

中学生一人を容易く押し潰す程度には。

 

 

「…見苦しいわね」

 

 

と、声が響く。

僕たちがそちらを見ると、ずっと起きていたのだろうか、つづみさんが眼を擦ることもなく、普通に言葉を続けた。

 

 

「次の一週間、ヒーロー志望のあの子たちと一緒に学校を休みなさい。

私がちょっとした授業をしてあげる」

「え?」

 

 

緑谷くんが困惑すると、つづみさんの姿が消える。

視線を緑谷くんへと向けると、彼に距離を詰めたつづみさんが居た。

 

 

「科目は道徳。お題は『命について』。

人を殺せ、とは言わないわ。ちょっとの間、サバイバルで生き抜いてもらうだけ。

どう?ただの教師の授業よりは有意義だと思うけど」

「は、はひっ……」

 

 

腰抜かしてるぞ、緑谷くん。

彼女の言うサバイバルって、ガチのサバイバルしか思い浮かばないのだが、大丈夫なんだろうか。

 

 

「コウくん、ご実家の方に連絡しといて」

「最近クマが出没してますけど、大丈夫なんですか?」

「それも含めて授業するって言ってんのよ」

 

 

あー…。緑谷くん。強く生きてくれ。

そんな意思を込めて、彼に向けて合掌する。

当の本人である緑谷くんはまだ知らない。

想像を絶するサバイバル訓練にブチ込まれることに。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「言われた通り、着替えは持ってきたぞ」

「サバイバルって言っても、イマイチ、ピンとこんのやけど…」

「………」

 

 

あれから数日。

とうとう月曜日を迎えたこの日、僕たち四人は山形県の月山に居た。

キャンプコース…などではなく、ガチの獣道の方に。

許可は取ったのかと聞くと、「とっくに取っている」と返された。

この近くに、先生の実家である農家もあるらしい。

興味はあるけど、今は自分の命の心配だけで手一杯だった。

 

 

「支給品よ」

 

 

からん、と音を立てて、四つのナイフが地面に転がる。

見たことがある。サバイバルナイフだ。

鞘に入ったそれを僕たちが拾うと、先生の奥さんは木の上に飛び乗った。

 

 

「ルールの説明よ。

それで一週間生き延びなさい。

『個性や科学を使う』、『ここから抜け出そうとする』という二つの行動を禁止する。

ペナルティとしてそれ相応の仕置きをするから、破るなら覚悟することをお薦めするわ。

どんな目に遭おうと助けないから、死ぬ気で生きなさい」

 

「「「「はぁああ!?!?」」」」

 

 

生身でこの山で生き延びろと!?

越冬準備中の獣が沢山の山で!?!?

個性も科学も無しで!?!?!?

そう反論しようとするも、彼女はそのまま姿を消した。

残された僕たちは、顔を合わせる。

 

 

「……この中でサバイバルの経験あるヤツ、手ェ挙げろ」

「居ねェよ俺らン家見たろ。こう言う自然とは無縁だったろ記憶力腐っとんのか」

 

 

かっちゃんが割と不機嫌だ…。

まぁ、いきなりこんな所に放置されて、沸点が人類史上類を見ない低さのかっちゃんなら機嫌を損ねるのも無理はないか。

 

 

「麗日さんは?」

「ウチは割に自然豊かやし、山菜取ったりしてるから、触ったらアカンのとか、そこらへんの知識はあるけど…。

野生動物の肉とか、捌いたことないで?」

「捌けても、多分口には合わねーだろ。調味料なんて持ってきてないからな」

 

 

麗日さんの言葉に、轟くんがため息混じりに応える。

まぁ、味気ないだろうな。

日本人の舌、ほぼ調味料で成り立ってるようなモンだし。

でも、摂らないという選択肢も出来ないんだよな…。

 

 

「肉捌くのはやりながら覚えろ。

内臓使わねェのと火ィ通すンなら、大抵はなんとかなるだろ。

今は手分けして、最低限安全が保障できる寝床を探すか作るかをすべきだろォが。幸い、物資はナイフ以外にもある」

 

 

かっちゃんは言うと、倒れた木を指さした。

倒れた木…というよりは、切られて放置された木だろう。

放置されてそこまで時間が経っていないのか、腐食も見られない綺麗な木材だった。

 

 

「え?こんな、売り物になりそうな木でも放置するん?」

「土建屋の娘のくせして知らねェのかアホ。

日本産の木材は高値過ぎて売れねェんだよ。

外国産のが遥かに安くて、値段の割に丈夫だからな。

だから、こーゆー伐採されて放置されたヤツが昔から問題になってんだよ」

「あ、アホちゃうわァ!!」

 

 

かっちゃんが怒鳴るんじゃなくて普通に罵倒してる…!!

その情報って、社会でちょっとだけ先生…中学の社会担当教師…が言ってた情報じゃないだろうか。

変な所でみみっちいかっちゃんだ。

プロヒーローになった後、いろんな問題解決に臨んで、着実に名声を築き上げてくるつもりなんだろうなぁ。

 

 

「それでも、自然林でここまで綺麗なモンってなると不自然だが…。

あの女の温情ってトコだろ。ご丁寧に貼り紙してあらァ」

 

 

かっちゃんは言うと、木材に貼り付けられていた紙を剥がし、内容を読み上げる。

 

 

「『自由に使いなさい』…ってよ。

コレだけじゃ、薪にしかなんねェが…。

デク、石削って斧作れ。テメェが一番手先が器用だろ」

「……かっちゃん、妙に詳しくない?」

「俺の趣味が登山なの知ってるだろ。

キャンプも兼ねて…って時に、雰囲気のために、薪は許可取って現地調達にしてんだよ」

「初耳なんだけど」

 

 

びっくりしたみたいな顔されても。

いや、マジで初耳なんだけど。

…小学二年の頃から、ちょっと疎遠だったからなぁ。

僕が発明に傾倒し過ぎて、周りとあまり関わりを持たなかったせいだけど。

お母さんからも、「友達作ったら?」って心配されたっけ。

 

 

「…兎に角、今は動け。

動かねェと、山のど真ん中で無様に野垂れ死んで動物のおまんまになるだけだ。

全員に役目を割り振るから、よく聞け。やりたくねェとか言ったら殺す」

 

 

サラッと言うと、かっちゃんは僕たちに役目を割り振った。

こう言う時にある程度の知識のある人が居ると便利だなぁ。

 

 

「麗日は山菜の採取、轟もそれに続け。

俺とデクは木材の調達と、火おこしの習得に集中する。野生動物は…リスとかウサギとかの小動物だけ狙え。猪とか攻撃性のあるヤツは間違っても手ェだすなよ死ぬぞ」

 

 

言うと、かっちゃんは「ほら、行けや」と麗日さんと轟くんに指示を出す。

麗日さんたちは特に不満はないのか、指示通りに奥へと進もうとして、ふと歩みを止めた。

 

 

「木の皮がひっぺ返されとるけど、コレ、なんかの印なん?」

「今すぐ木材担げ死ぬ気で逃げるぞ!!!」

 

 

その怒号とともに、僕たちは反射的に木材を担ぎ上げた。

先頭のかっちゃんが凄まじいスピードを出すためか、僕たちもつられて足が早まる。

 

 

「ちょっ、どうしたん爆豪くん!?」

「いいから死ぬ気で逃げろさもなきゃここでブッ殺すぞ!!!!」

「言っとること無茶苦茶や!!!!」

 

 

麗日さんに向けて怒鳴りつけるかっちゃん。

だが、ふとその表情が固まり、更にスピードを上げる。

僕たちもかっちゃんの見たものが気になり、ふと後ろを向いた。

 

 

そこには、山の王者が居た。

 

 

「「「クマァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアイヤァァァァァァアアアアアアァァァァァァッッッッ!?!?!?!?」」」

「だから逃げろって言ったろォがァァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!!!」

 

 

僕たちのサバイバルは、前途多難なようだ。




緑谷くんは野生動物関連の知識はありません。そもそもサバイバルする予定が無かったからです。
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