そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。

秋田のクソガキとこの作品における世界一の努力家が、先生の家を秘密基地にします。

なんか寝てる間に評価がとんでもないことになってました。

始めてことで、ひっくり返りそうになりました。読んでくださった皆さま、ありがとうございます。
これを機に、水奈瀬コウをはじめとしたボイスロイドに興味を持っていただけると幸いです。


先生の家を勝手に秘密基地にするんじゃありません!

僕、緑谷出久には尊敬する恩師がいる。

名前を水奈瀬コウ。

僕が中学生になっても、小学校の教員である彼との関係は続いていた。

 

 

「先生!今、帰りですか?」

「おや、緑谷くん。そういう君も、随分と汗だくですね」

「はい!今日も『活動』したんで!」

 

 

僕が笑顔でそういうと、先生もぎこちない笑顔を返した。

 

 

「…僕は黙認したわけじゃないですよ。

黙ってるだけです。

できることなら、ルールの中で戦って欲しいのですが」

「やめませんよ、僕は!

そのルールで救えない命が沢山あるので!」

 

 

 

 

 

そう。

何を隠そう、僕は『ヴィジランテ』と呼ばれるイリーガルなヒーロー…つまりは、許可もないのにヒーロー活動をしている人間だ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

少し、自分語りをさせて欲しい。

 

 

 

 

 

僕には、生まれつき備わっているはずの個性がなかった。

少し昔で言うならば、生まれつき手がないことと同じ意味を持っている。

要するに、僕は障害児として生まれてきたわけだ。

お母さんはそのことを酷く気に病んで、ストレス太りしてしまった。

 

僕自身も、昔ほど自分を出さなくなった。

無個性。それはまだ別に良かった。

 

 

僕が一番辛かったのは、『夢を見ることでさえも許されなかった』ことだった。

 

 

トップヒーロー。

誰もが憧れるその世界に、僕が同じように憧れを持つことでさえも許されない。

 

現実ばかりを見なければならない人生に、僕は酷く摩耗していた。

 

 

 

 

 

ーーーーーーその武器で、その体で戦いましょう。君の夢を叶うことを是としない、この世界と。

 

 

 

 

 

小学二年生の春。

水奈瀬先生に出会って、僕の人生は大きく変わった。

僕は死に物狂いで足掻き始めた。

個性に変わる、僕だけの武器を生み出すために。

 

体を鍛え始めた。一年で「個性を超えられない」と悟った。

 

勉強を始めた。「個性を超えられない」と悟るには、一ヶ月もかからなかった。

 

 

 

 

「個性を超える武器を作ればいい」という結論に至ったのは、小学三年生の時だった。

 

 

 

その日から、僕は先生のコネを使って、片っ端から理系のお偉いさんに話を聞きに行った。

現代の技術では、到底再現できないという永久機関と特殊金属に関する論文を貰った。

 

僕はそれを3年間、寝ることも食べることも忘れて考察し、研究した。

 

二日に一回、知恵熱でぶっ倒れた。それでもノートを書く手を止めなかった。

 

七孔墳血…目から、耳から、口から、鼻から血を吹き出すこと…を何回も起こした。

 

山奥で、とんでもない爆発を起こしたことだってある。

 

それでも諦めずに、僕は子供の脳に詰められない程の情報を、無理やりに詰め。

 

子供が出来ないだろう研究を、お小遣いでやりくりしながら進めた。

 

勉強したノートも、ヒーローを研究したノートも、永久機関と特殊金属を現実にするためのノートも、もはや数えきれない。

 

僕の部屋は、オールマイトグッズとノートに埋もれていた。

 

 

そして、去年。

僕だけの武器は、三年の時を経て完成した。

 

 

 

白色の金属を、金色の装飾が彩る、シンプルなパワードスーツ。

僕はそれに、『イズク1号』という名前を付けて、先生に見せた。

 

 

 

 

先生は「やめろ」とは言わなかった。

ただ、僕に降りかかるだろう不利益を懇切丁寧に説明して、僕の作ったイズク1号の持つ価値を説かれた。

だから、グレードダウンしたものを使えと言われた。

 

 

 

 

その約束は、その日のうちに破った。

 

 

 

 

弁明だけはさせて欲しい。

実は、先生に見せた段階では、イズク1号の機能テストがまだ不充分だった。

デッドコピーを作るにも、不確定要素は、出来るだけ早く無くした方がいい。

そう思った僕は、おばあちゃんの私有地である山…僕が数えきれないほど爆発起こしたせいで若干はげてる…に向かっていた。

 

 

 

 

そんな時だった。たまたま通りかかったデパートが、激しく燃え盛ったのは。

 

 

 

 

「っ…!?」

 

たちまち阿鼻叫喚の地獄絵図と化した日常の一幕に、僕は唾を飲み込む。

中からは、ひどい火傷を負いながらも、なんとか逃げてきた人々が出てきた。

 

 

「バックドラフト、現場到着!」

 

 

バックドラフト。

折寺に住むヒーローの一人が駆けつけ、消火活動に当たる。

救急車や消防車が来る音が聞こえる。

そんな中、ポケットサイズにして収納していたイズク1号から、声が響いた。

 

 

『あと二分で建造物が倒壊します』

「っ…!」

 

 

あと二分?

 

 

 

僕はバックドラフトを始めとしたヒーローに目を向ける。

だが、目に見える被害を抑える程度で、誰も中に入っての救助活動を行おうとする人は居ない。

あと二分。あと二分が刻一刻と迫る。

 

 

「…イズク1号。僕に力を貸して」

『力を貸して、と言う表現は不適切です。

私はあなたの物。あなたの力です』

「…そうだったね」

 

 

僕のナノマシンを打ち込んだ腕に、イズク1号をかざす。

瞬間、僕の体はイズク1号に覆われた。

大丈夫。大丈夫。

心臓が胸を強く叩く。

 

 

「ブーストユニット、展開」

 

 

背中に、足に、腕に。

イズク1号の体から、エネルギーを放出するためのマフラーが大量に突き出る。

まだ、足りない。

 

 

「空気抵抗削減装置、起動。

救助システム『ヘカトンケイル』、起動」

 

 

僕の体から、何千もの腕が形成される。

これで充分だ。

 

 

「行こう、MESSIAH」

『了解。ナビゲーションを開始します』

 

 

アスファルトを踏み砕き、僕は燃え盛るデパートへと侵入した。

 

 

 

 

これが、僕のオリジン。

 

 

 

 

ここからは、実によくある話なので、後日談だけをお送りさせていただく。

 

 

あの火事で、幸いにも死者は居なかった、と報道された。

僕が助けた人たちは、僕のことを視認できていなかったようで、『気づいたら助かってた』と発言。

結局、全てがバックドラフトのお手柄になったらしい。

 

次の日。僕の母校…と言うべきかは分からないけど、僕の通っていた幼稚園で立てこもりが発生。

たまたま通りかかった僕は、衝動的に人質になっていた人たちを助け、敵を倒してしまった。

 

 

まぁ、ここは皆も知っていると思うので、割愛させていただく。

兎にも角にも、僕はヴィジランテとして、世界中をイズク1号で飛び回っていると覚えてくれたらいい。

 

 

 

そんな僕にも、つい最近、この活動を支援する人が現れた。

 

 

 

「今日もウチに来ますか?」

「はい。あの子が待ってるので」

 

 

先生の問いに、僕は肯いた。

 

 

ああ、四話目にして言い忘れていた。

 

 

これは、僕が最高のヒーローになるまでの物語じゃない。

 

これは、僕が最高の恩師と出会い、最高の仲間たちに支えられ、僕の思う最高のヒーローを演じる物語だ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

僕、水奈瀬コウの家は、「つまらない家」という評価が下されるような、そんな家だ。

存在する本といえば、学術誌やらビジネス書などの参考資料程度。

娯楽の類は一切なく、あるとすれば食事くらい。

そんな家に、毎日のように、二人の来客が訪れる。

 

 

「扉は開いてますよ。

東北さんが勝手に出入りしてるんで」

「では、お邪魔します!」

 

 

緑谷くんが扉を開けると、それなりに大きいゲーム音声が聞こえてきた。

奥へと進むと、勝手に僕のパソコンを開いて、勝手に作ったアカウントで、これまた勝手にダウンロードしたゲームを遊んでいる東北きりたんが、そこには居た。

 

 

「クソガキ。僕のパソコンで遊ぶんじゃありません」

「テスト問題と宿題とプリントと論文しか書かないだけのパソコンとか、存在意義あります?」

「大いにあります。っていうか、君が述べたのが本来の使い道です。

ゲーム用のパソコンなら、自分で小遣い貯めて買いなさい」

「先生のやつ、無駄にスペック良いですし、使ってあげないと可愛そうですよ」

 

 

このクソガキ、来るたびにクソガキ度合いが増してきてる。

一度、アポなし家庭訪問してやろうか。

 

 

「こらっ、勝手に人のパソコン使っちゃダメでしょ!」

 

 

と、緑谷くんが叱る。

おお、いいぞ。

努力が変な方向に行ってるけど、良識溢れる性格の緑谷くんのお叱り攻撃。

これはクソガキ相手にも効果が期待できる。

 

 

「あっ、緑谷先輩。新しいユニットの設計図できましたよ。

流石は無駄にスペック高いパソコン」

 

「勝手に使うことを許可してください!」

 

「手のひらモーター式なんですか、君?」

 

 

悲報。僕の教え子、僕の味方じゃなかった。

厄介なコンビが誕生してしまった。

そう心の中で愚痴りながら、僕は仕方なく、彼女が使っているパソコンとは別のパソコンを立ち上げた。

 

東北さんも東北さんで、あの頭のネジが全部吹き飛んだみたいな理系共に汚染された。

って言うか、緑谷くんに汚染された。

前世があっても、汚染されるときは汚染されるんだなぁ。

 

 

「緑谷先輩が作った粒子化システムを使って、大量に武器を収納。

状況にあった武器を自在に取り出せるように、斡旋プログラムまで付けてます」

「名前は?」

「『ヘーパイストスの武器庫』です。

武装の一つ一つにはまだ名称を設定してませんので、ご自由にどうぞ」

 

 

うっわ。僕の知らない間に、また超兵器が開発されてる。

この二人だけで、個性社会崩壊するんじゃないか?

その片棒担がされるとか、嫌だよ僕。

普通に教師として死にたい。

 

 

「イズク1号の名前も変えちゃいましょうか。

流石にこのままだと、名前で正体バレとかありそうですし」

「名残惜しいけど、変えるしかないか…」

「どうでもいいですが、ここ僕の自宅なんですけど」

 

 

一介の小学校教員の自宅を、自室のように扱うんじゃありません。

そんな願いも虚しく、二人の議論はヒートアップし始めた。

 

 

「イズク2号がバイクですから、『仮面ライダー』とかどうです?」

「それ、昔の特撮ヒーローでしょ?

参考にしたのは、昔ハリウッドで撮影された『アイアンマン』だからなぁ…。

ビブラニウムを再現したいんだけど、エネルギーはどうしても外付けになっちゃうんだよね…」

「別にいいじゃないですか。

イズクメタルとイズクジェネレーターで軽く超えられるんですから。

名前の件ですが、アイアンマン初期名称の『メタルマン』とかはどうです?」

「なんか、違うなぁ…。

なんていうか、こう、僕だけのオリジナリティが欲しい」

「君たち聞いてます?

ここ僕の自宅。マイホームなんですけど?」

 

 

僕が割と大きめな声で抗議するも、二人は完全に聞いてなかった。

ダメだこいつら、話にならない。

ぶぶ漬けでも作っておくべきだったか。

 

 

「先生はなにかいい案ありますか?

イズク1号の新しい名前」

 

 

…いや。作っても無駄だな、これは。

僕は来週の授業資料の整頓をこなしながら、イズク1号を指差す。

 

 

「MESSIAHに聞けばいいでしょう。

本人のことは本人で決めさせなさい」

「あっ、そっか!MESSIAH!」

『なんでしょう、イズク様』

 

 

さてと。これで仕事に集中できる。

…あれっ?

なんで僕、作業効率向上のためにハイスペックPC買ったのに、旧式PC使ってんだ?

 

 

「…そろそろ返してくれませんか?

来週の君のテスト作れないんですけど」

「一生作らないでください」

「それは僕に職を失えと言ってるんですか?」

「旧式PCでもできるでしょ、そのくらい」

「出来ますけど、処理に時間がかかるんですよ。いい加減、僕の仕事道具返しなさい」

 

 

僕がそう要求するも、クソガキは心底ムカつく顔で首を横に振った。

 

 

「正義の秘密結社の仕事道具ですし、渡せませんねぇ」

 

「成績全部『もっと頑張りましょう』にしますよ」

 

「すみませんでした」

 

 

クソガキからハイスペPCを取り戻した。

正義の秘密結社の仕事道具に、小学校教員の自宅にあるハイスペPCを選ぶな。

僕は東北さんを退かし、ハイスペPCの自分のアカウントを開く。

 

 

「…そこで私たちのアカウントを消さないあたり、本当甘いですよね」

「君たちは消してもまた作るでしょう」

 

 

僕が言うと、二人は目を丸くした。

 

 

「緑谷くん。君の活動を僕は認めはしませんし、否定もしません。

僕が使わない時に限り、このパソコンを自由に使いなさい。

僕がやるのは、場所とパソコンの提供くらいです」

 

 

東北さんは教え子だが、緑谷くんは僕の手を離れた卒業生だ。

僕はあくまで、困った時に指針をだしたり、場所と物を提供するくらいの協力しかしない。

あとは自分で考えるべきだ。

僕は彼の保護者ではないのだから。

 

 

 

「ですが、東北さん。

君のその自主性と行動力は素晴らしいですが、そればかりを大事にして宿題の期日を守らないのは論外です。

 

次、期日に間に合わないのであれば、成績表が『もっと頑張りましょう』で埋め尽くされることになりますよ」

 

 

「そんな殺生なぁ!?」




主人公は水奈瀬コウだけだと思った?

残念、緑谷出久も主人公だ。

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