「……なんですか、コレ?生首?」
「マジモンに近いジャックオーランタンです」
「嘘でしょ!?これが!?!?」
準備場所の公民館にて。
ずん子さん作のジャックオーランタンを前に、緑谷くんがあんぐりと口を開ける。
まぁ、ビックリするよな。
元はマジの人間の生首だったのだ。出来る限り、生首に似せてもらった。
彫刻みたいなことになったため、怖さは薄れているだろう。
…にしても、手先が器用ってレベルじゃないなコレ。
「流石に参加者全員に配るほどの数は揃えられませんからね。
開催地の商店街に飾り付けときます」
「生首が商店街に飾られる行事って…」
引くなソコ。ちゃんと許可は貰ってるぞ。
ケルトで開催されていたハロウィンでは、死人の仮装に生首を手に持つことで悪霊から逃れてたと言う話だ。
これを持ち歩くよりはマシだろう。
「飾り付け用の包帯の加工終わりましたー!
どうですか?ちょうどいい感じに黄ばんでるように見えるでしょ?」
「黄ばみ具合が甘い。薬品で黄ばんでるのか劣化で黄ばんでるのかが微妙。
時間ないからこれも使うけど、次はもっと上手くやりなさい」
「奥さんまで厳しい!!!」
セイカさんはつづみさんが担当してる。
が。流石は僕の妻というべきか、判断基準がかなり高い。
これで4回はダメ出しを聞いたぞ。
挫けないのは美点だな、と思いながら、すっ転ぶセイカさんから視線を外す。
「バクゴーさん、リテイク。セリフ長いからってゆっくり言っちゃダメだよ」
「クソがァァァァァァァアアアァァァァァァアアアッッッッ!!!!」
「これ、『がァァァァアアア』の部分だけ超低音にしたら、バケモノの鳴き声っぽくなりません?」
「だね。やっぱりバケモノ役適任だよ、バクゴーさん」
「嬉しかねェわブッ殺すぞ!!!」
爆豪くんは音街さんと東北さんに挟まれて、恐怖を煽るバケモノの声を録音。
途中、早口の長セリフがあることに苦戦しているようだ。
これで何度目のリテイクだろうか。
繰り返す度に声に熱が入ってるのは、気のせいではないだろう。
「…ハロウィンって、子供がお菓子を貰いに行くイベントですよね…?
おかしいなぁ…。なんでホラー系の出し物を作ってるんだろう…?」
「ハロウィンはケルトにおける正月兼お盆でしたからね。
今回は出来るだけソレに寄せます」
ハロウィンの本来の姿は、ハッキリ言って世間のイメージからはかけ離れている。
子供にお菓子を渡すのは、元は悪霊に菓子を渡すことで追い返すのが目的。
ジャックオーランタンは本来はカブであり、カボチャではない。
ハロウィンは収穫祭とお盆、そして正月を掛け合わせたイベントである等々。
今回は出来るだけ、元の姿に近いハロウィンを行おう、というわけだ。
「仮装する理由は、死霊に『自分が人間ではなく仲間だ』と誤魔化すためです。
ハロウィンの怖さ、全員に骨の髄まで知っていただきましょうか」
勿論、所々でミッションも用意してる。
アメリカでやっている「水に浮かべたリンゴを口でキャッチする」というミッションも、きちんと用意している。
リンゴは実家経由で売り物にならない…可食…リンゴを大量に仕入れてるから、問題ない。
「…イージーモードかハードモードか選べるお化け屋敷って事ですよね?」
緑谷くん、察しがいいな。
このハロウィンでは、仮装した人間は見た目が怖いだけのホログラムやら着ぐるみやらと戯れるイベントを。
仮装しない人間には、ガチでビビらせにくるイベントを用意している。
仮装したいけど事情があって無理と申し出る子供のために、貸し出し用の着ぐるみも用意する予定だ。
「ま、そんな感じです。
きちんと来場者にお菓子を配る予定なので、ハロウィン要素もありますよ」
商店街から悲鳴の絶えない一日になるかも知れないな。
あの町内会のボケどもが考えも無しに大々的にネットに出し物やるって公開しやがったから、当日は観光で賑わうだろう。
シンリンカムイがSNSで取り上げてたし。
「さ、緑谷くんも準備をお願いします。
ホログラムデータの作成と、訪れる客に臨機応変に対応するAIも」
「それ、僕に寝るなって言ってません?」
「寝るのも珍しいでしょ、君」
「……そうですけど」
当日まであと二日。
バケモノたちのバックストーリーもきちんと考えてある。
…にしても、手伝いを要求して来たのは、折寺の一等星の関係者だけか…。
トコトン他人任せだな、ここの町内会。
そんなことを思いながら、僕は轟くんに渡す台本を考えていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ヒメ、ミコト。良かったのか、手伝いに行かなくて」
先生たちが出し物の準備でてんやわんやしてる現在。
俺はヒメとミコトを連れて、俺の家の近所にある大型デパート施設に訪れていた。
中には映画館も備え付けられており、今は映画上映までの待ち時間中だった。
「いや、前例がアレなの知ってて言ってるならだいぶ鬼だよ?」
「ショートも、せんせーがキレた時の暴走具合知ってるでしょ?」
「……まぁ」
今度もまた、口に出すのも気がひけるようなおっかないモン作ってるんだろうな。
ポップコーン売り場の長蛇の列の真ん中あたりに来たところで、話題が映画に切り替わる。
「漫画が原作の映画だったよな」
「うん!昔の漫画なんだけど、前は社会現象にもなったからリメイクしたんだって!」
「超常黎明期以前のヤツだよね」
漫画か。夏兄はチョイスが古臭いと言うか、妙に絵柄が荒いのばかり集めてたっけ。
この間お勧めされたのは「うしおととら」…だったっけか。
先生も好きだと言ってたっけ。
逆に冬姉は、漫画はあまり知らなくて、文学作品が多めだったな。
「痴人の愛」を紹介されて読んだ時は、反応に困った。
そんなことを思い出していると、二人が俺の服の裾を引っ張った。
「どうかした?」
「…なんでもねーよ。…そろそろポップコーン買えるが、どれがいい?」
「キャラメル!」
「塩!」
「味覚だけは似てねェんだよなぁ…」
シェアする、なんて頭にはないらしい。
昔から何処か食べ物の好みだけがズレてるんだよな、二人とも。
以前、緑谷たちと行った映画館では、塩もキャラメルも入ったポップコーンがあったが、ここでは無いらしい。
仕方ない。セットを二つ頼んで、ドリンクを一つだけ買おう。
「…あの、さ」
「ん?なんだ?」
くいっ、とミコトが俺の裾を強く引っ張る。
俺がそちらに目を向けると、恥ずかしそうに問うた。
「先生の奥さんに会ってから、聞こうって思ってたんだ。
ショートは、どんな人と結婚したい?」
「…………はっ?」
その質問に、俺は目を丸くする。
中学生になって初めて、もうそろそろ年を越そうかという時期だ。
そんなこと、一度だって考えたことがなかった。
…俺が「結婚」に、良いイメージを持っていないことも要因の一つなんだが。
「私も…気になる。ショート、どんな人がいいの?」
ヒメまでも俺に迫る。
強いて言うならば、どんな人だろうか。ここで答えを出す必要はあるのだろうか。
考えるも、答えは出ない。
でも、いつかは出さなきゃいけない答えなんだろう。
「……まだ、分かんねぇな」
「そ、そうなんだ…」
「へぇ…」
…妙な空気になった。
取り敢えず、話題を逸らしたいが、どうしようか。
そんなことを考えていると、前の人間が注文したポップコーンを受け取り、その場から去っていく。
どうやら俺たちの番が来たようだ。
「ご注文どうぞー」
「ポップコーンセット二つ。塩とキャラメルで、ドリンクはゼロカロリーコーラ。
あと、同じドリンクを単品で」
「かしこまりましたー」
俊敏に仕事をこなすスタッフに金を渡し、その対価を受け取る。
そこから流れるように、俺たちは上映シアターへと向かった。
映画の感想だけ言おう。
面白かったことだけは覚えてるが、内容はあまり覚えていない。
後半の映画ネタは、リアルの方で今話題のあの映画を見に行ったので、なんとなく書きました。
ヒロアカ本編時は現代から割に時間が経った世界らしいので、「昔の映画をリメイクしたもの」と書いてます。