いつも通りですね。
評価バーが真っ赤に染まってました。
目ん玉飛び出るくらい驚きました。
読者の皆様に感謝の証を形として送ることが出来ないことを、非常に惜しく感じます。
ありふれてはいますが、感謝の言葉を送らせていただきます。
この拙い作品を読んでいただき、ありがとうございます。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。
「というわけで!正義の秘密結社、『一等星』の結成を記念して、乾杯です!」
「かんぱーい!」
「宴会だったらよそでやってくれません?」
少し遅くなって帰ってきた僕の家が、何故かデコレーションされてた。
どこで買ってきたのだろうか、謎の垂れ幕やら星やらハートやらの形をした風船。
そして、無駄に達筆な『一等星』の三文字。
家主が知らない間にパーティ開かれてる家ってなんだ。
秘密結社、二人しかいないし。
「えー?好きに入っていいって言ったの、先生でしょう?」
「言いましたけども、限度覚えましょう?
もはや君らの自宅ですよ、コレ。
緑谷くんも、なんで止めなかったんです?」
「え?許可取ってなかったんですか?」
「…東北さん?」
「先生言ってましたよね?
『嘘は武器だ。振るわない方がおかしい』って。なら私が『許可を取った』という嘘を武器として振るっても…」
「成績」
「すみませんでした」
水奈瀬コウは、教え子相手にのみ使える魔法の呪文、「成績」を覚えた。
職権濫用になるから、実際にはやらないけれど。
まぁ、根がいい子のこの子には、この一言だけで十分だ。
「宴会はよそでやれって気持ちはありますが、ここまで準備してしまったなら仕方ありません。
ただし、暗くなる前には帰りなさい」
「ひゃっほう!先生太っ腹!」
「僕の体脂肪率は10%以下です」
言うと、僕はこのどんちゃん騒ぎに参加することを表明するように、冷蔵庫に予め入れておいたジュースや菓子を持ってきた。
流石にいい大人だから、思いっきり羽目を外したりはしないが、一緒に楽しむくらいはやってやろう。
…お酒?強いけど、アルコールの風味が生理的に合わない。
「えっ…?こっ、これっ、超お高いブランドのチョコじゃあ…」
「このケーキ、こないだテレビでやってましたけど、1ホール数万はしますよね…?」
「余ったお金に使い道もないので、思い切って買っておいて良かったです」
人生が趣味な人間の貯蓄、なめないでいただきたい。
例えハイスペPCを二台購入しようが、ちょっとした贅沢ができるくらいにお金はある。
小学校教員の給料が高いってわけではない…むしろ安い。
ただ単に、僕が生活費以外で殆ど使ってなかっただけだ。
配偶者に使われることもないので、自由に使える。
「本当にいいんですか?
コレ、僕たちのお腹に入れても」
「ええ。買ったはいいですけど、口に合わなかったので」
「…先生って、損な味覚してますよね」
「貧乏舌なので」
この子たちは物の価値をよく分かりながら、味わって食べることのできる人間だ。
僕みたいな、「好みじゃない」ってだけで全てを決めるような人間より、よっぽど美味しく食べてくれるだろう。
菓子に舌鼓を打つ彼らに、少しばかり笑みを浮かべながら、僕はコーヒーを啜った。
「…秘密結社の名前は『一等星』ですか。
何か理由でも?」
僕が問うと、緑谷くんが立ち上がり、声を張り上げた。
「はいっ!暗闇に大きく輝く一等星のように、眩しいヒーローでありたいって意味を込めて名付けました!」
「おお。珍しく良いネーミングですね」
「原案はMESSIAHですけどね」
「…あぁ、やっぱり」
どうせ壊滅的な名前だったんだろうな。
東北さんの言葉にそう思いながら、僕は安物のクッキーを口に入れた。
「イズクいちご…いえっ、『シリウス』もグレードアップを重ね、遂にバージョン10を超えましたよ!」
「魔改造っていうか、魔開発ですよね」
多分、気になっている人も多そうだから、語っておこう。
イズク1号…改め『シリウス』は、総合評価で言えば「オールマイト?とっくに超えてる」だ。
パワーはオールマイトを超え、月並み…大きさという意味で…の隕石すら、一撃で粉砕するという。
スピードは、同じく魔開発されたバイクと合体することにより、音速どころか光速にも迫る勢いだ。
救助機能も充実しており、例え僕らの住む星が粉々に粉砕されようが、九割の生物を助け出せるという。
更には治療用ナノマシン。よほどの重症、もとい重傷じゃなければ、大抵は数分もしないうちに治せるらしい。
盗難防止のために、彼は自分に埋め込んだナノマシンの信号がなければ絶対に起動できない、ただの重いスーツと化すプログラムまで積み込んだ。
評価すべきは、彼の努力。
個性も、それに代わる不思議パワーもなく、ずば抜けて優秀でもない、更には経済力でさえも月並みな家庭に生まれた彼が、ただの努力だけでここまでやってのけたのだ。
その努力が積み重なってできた山は、僕が死に物狂いになったって、麓から抜け出せないほどに高い。
科学ってすごい。努力ってすごい。
「惜しむらくは、この素晴らしさを理解しないし、更には緑谷先輩のことを『弾圧されるべき犯罪者』っていう輩が多くいるってことですね」
「え?そうなの?」
「…君、本当にニュース見ませんよね。
本当、なんで評価を気にしてないんだか」
緑谷くんがヴィジランテとして活動する報酬は、ないに等しい。
例え災害時に人を助けたとしても、その手柄と向けられる感謝は全てプロヒーローの物になり。
敵を倒せば、『ヒーロー気取りの犯罪者と犯罪者同士が潰し合った結果』と報道される。
まさに孤独なヒーロー。
にも関わらず、彼はそのことに全く動じてなかった。
「いりませんよ、そんなの。
僕は僕の思う最高のヒーローを、全力で演じてるだけです」
「…うぅっ…」
やばい。涙が滲んできた。
卒業生とは言え、教え子の成長ってのは、なんでこんなに涙腺に響くんだ。
「僕が赴任してきた頃は、周りの目ばっかり気にして…。
自己否定の塊だった君が、ここまで…」
「水奈瀬先生の泣き顔!レアですよコレ!」
「成績下げますよ」
「すみませんでした」
僕の泣き顔を撮ろうとするクソガキを制し、僕は涙と共にコーヒーを飲み干した。
「志望校は決めてるんですか?」
「アメリカに渡って飛び級しようかなって思ってます。
幸い、琴葉博士のお誘いもあるので」
「うーわ、原作崩壊した」と呟く東北さん。
東北さんから、原作のあらかたは聞いてる。
本来であれば、「雄英高校」と呼ばれる国立校にあるヒーロー科で、彼がヒーローを目指す物語だと言うことを。
だが、目の前の彼は、『オールマイトと出会い、力を渡される』という幸運を『与えられた』人間ではない。
何も持たない状態から死に物狂いで学び、死に物狂いで探し、死に物狂いで作り上げてきた、『この世界一の努力家』だ。
彼と『原作の彼』は、全くもって別の存在である。
「博士に伝えておきましょうか?
なんなら、来年から通えますが」
「いえ!中学校はちゃんと通うって、お母さんと約束してるので!」
本来あるはずの未来を変えてしまったのは、間違いなく僕だ。
でも、それを後悔しているかと問われれば、否と答えよう。
「緑谷くん」
「なんですか?」
「成長しましたね」
僕は、彼の歩んできた道を見てきたのだから。
次回からは新章が始まります。
予告風に書くと、「未来からの来訪者」です。大体の人は察してくれたと思います。