そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです


飛行機は自家用機で

「……蝶よ花よと育てられるって感覚、こんな感じなんですね」

「それな。音街家って一体全体どんだけブルジョワなんだよ…」

 

 

爆豪先輩が見たことない顔してる。

現在、私たちはウナちゃんの家が用意した飛行機に乗っていた。

姉様たちも誘ったのだが、ずん姉様は受験勉強だからと断り、タコ姉様はお仕事だからと断った。

爆豪先輩のご両親は、「デートに行くから」と断ったのだそう。中学生の子供が居ても尚お熱い…。

にしても、前世合わせても初めての飛行機が、アホほど金注ぎ込んだ自家用機とか、贅沢すぎない?

そんなことを思いながら、渡されたジュースをストローで啜る。

よく分からない名前だったけど、ただ一つ言えることは、美味しいってことくらいだ。

 

 

「若旦那様、お食事は如何なさいますか?」

「…適当に…見繕って…ください……」

「敬語は結構ですよ。私めは貴方様に仕えてるのですから」

「……うっす」

 

 

爆豪先輩が疲れてる…。

適当に見繕ってくれ、なんて言ったら、どんな高級食材が出されるか。

さっきから金銭感覚が違いすぎて、頭がおかしくなりそうだ。

こち亀の両さんも、こんな感覚を毎日味わってたんだろうか。

 

 

「自家用機といい、あの豪邸といい、このジュースといい…。

音街家って、どんだけ資産あんの…?」

「んーっと…、本気出せば、経済ガン回し出来るくらい?」

「こち亀の中川家ですかね…?」

 

 

緑谷先輩とか、つづみさんのデタラメさばかり目立ってたから気にならなかったけど、ウナちゃんも大概か…。

アイドルとしての人気もあるし、人の本質を見抜く才能もある。

そう考えると、爆豪先輩を選んだのは正解だったのかもしれない。

この人、口の悪さはとにかく、人を動かす才能は確かなものだし。

 

 

「爆豪先輩、経営とか運営とか、そういうの学んだりしてるんですか?」

「音街の爺さんにな。

心理学とか、人を動かすには欠かせない学門は勿論、経済学とかその他諸々、時間空いた時に頼んでる」

 

 

ウナちゃんのお爺さんか。

前に何度か会ったけど、縁側でお茶啜ってるような、何処にでも居そうなお爺ちゃんだったけど…。

音街家は結構な資産家で、歴史もそこそこあるらしい。

…私の交友関係、実は結構ヤバい?

 

 

「……で。爆豪先輩はウナちゃんのこと好きなんですか?」

「………さぁ?ハッキリいうと分かんねェわ。

今まで『好き』なんて感覚、ヒーローに対する憧れくらいだったからな。

…ま。プロまでにはキッチリ答え出す」

 

 

一等星の男性陣はなんでこうも堅物なんだ。

緑谷先輩といい、この人といい…。

あかりさんとウナちゃんが不憫に思えてならないのは、私だけなんだろうか。

そんなことを考えていると、ウナちゃんが爆豪先輩の肩をつつく。

 

 

「バクゴーさん、なんか映画見る?お爺ちゃんの趣味で、ジ○リの作品しか無いけど」

「…ラピュ○で」

「は?もの○け姫一択でしょ」

 

 

この先輩は何言ってんだ。

私が反射的に言うと、爆豪先輩の目が据わった。

 

 

「は?東北、テメェ目ェ機能してるか?どう考えてもラピュ○の方が面白い」

「は?髪どころか脳内まで爆発してんですか?もの○け姫が劣ってると?」

「あァ???」

「おォ???」

 

 

戦争だ。

なりふり構うか。これはもうとっくに鬨あがってるわ。

ブォーンブォーン言ってるわ。

 

 

「普段は仲良さげなのに、なんでそんなピンポイントで喧嘩するの…?」

「気は合うようですが、好みが壊滅的に合わないだけかと」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「先生、ほんまに良かったん?ウチら一緒の飛行機で」

 

 

機内食に舌鼓を打つ最中。

目の前に座る麗日さんが、ソースを頬に付けたついなちゃんの顔を拭きながら、僕に問いかけた。

僕たちは現在、音街家の息がかかった航空会社の飛行機に乗っている。

本当は妻の友人が用意する予定だったが、一等星関連の話題を制限しないように、と音街さんが全員分を手配してくれたそう。

富豪ってすごい。

 

 

「つづみさんの希望です。『自慢の弟子を一人でもいいから紹介したい』と」

「…ばか。そんなにハッキリ言わないで」

 

 

僕が答えると、つづみさんが肘で僕を突く。

まだ優しい威力だけど、本気でやったら骨砕けるんだろうなぁ…。

 

 

「新婚旅行にお邪魔するって、気がひけるんやけど…。あの、ほんまにええん?」

「いいですよ。二人きりになる時間はしっかり確保してますので」

「いいわよ。二人きりになる時間はしっかり確保してるから」

「わっ、息ピッタリ」

 

 

同時に同じようなセリフを言ってしまった。

二人きりになる時間…とは言っても、食事で指定席を用意してるだけのことだが。

 

 

「二人って、十年前は同棲とかしてたん?」

「ええ。二ヶ月くらい」

 

 

あの二ヶ月は…刺激的だった。いろいろと。

おかげで女体に耐性が出来たが、もう二度と体験したくない。

性欲だけ除けば性格含めて普通に可愛いのに、そこだけが残念だ。

 

 

「デートとかしたん?」

「勿論。ただ、その頃はコウくんのチョイスが酷かったわね。

最初のデートなんて、大学の講演会よ?」

「その節は本当に申し訳ない…」

 

 

目の前に座る二人が『うわぁ…』って言いたげな顔してる。

二十代の僕は、自分で言うのも何だが、どうかしてた。

教師になるために、どう考えても過剰な密度の勉強をしていた気がする。

それをデートにまで持ち込むくらいには。

 

 

「でもまぁ…、つまらない…とは思わなかったわね。好きな人と一緒だったから」

 

 

と、つづみさんが笑みを浮かべた。

…小っ恥ずかしいから、やめてほしい。

そんなことを思ったその時だった。

 

 

機内に衝撃が走ったのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「わぁぁぁああああっっっ!!!」

「今度はなんだ!?」

「ポテチの袋がパンパンにぃ!!!!」

「爪楊枝で穴開けろォ!!!!」

 

 

飛行機に乗った時点でもう疲れた。

なんだ、この人のポンコツ具合は。

こないだの『お汁粉「缶ごと」爆発事件』に加え、さっきの墜落しかけた事件といい…。

緑谷から諸々の機械預かってて良かった。

多分、これ無かったら、今頃死んでる。

 

 

「あの、もうこの人、寝かせたほうがいいんじゃない…?」

「同感。起きてたらまた墜落しそうになる」

「酷ぉい!!!!」

「「「酷くない!!!!」」」

 

 

酷いのはお前のポンコツ具合だろーが!!

心中でもそう叫びながら、俺は用意されたお茶を一気に呷る。

喉が潰れそうだ。先生はよくこんなのと生活できてるな…。

 

 

「これでマシになったとかマジか…?」

「韻踏んだ?」

「踏んでない…」

 

 

緑谷と出会った当初は、一体どんだけポンコツだったんだろうか。

何にせよ、このポンコツをなんとかしない限り、俺たちの空旅に安寧は訪れない。

そんなことを思っていると、飛行機に衝撃が走った。

 

 

「……もう、慣れたわ」

「慣れちゃダメだと思うよ…」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「葵さん、日本に来てたんですね」

 

 

琴葉博士…ややこしいから茜さんと呼ぼう…茜さんが用意してくれた飛行機の中。

僕は用意された料理を切り分けながら、目の前に座る女性に声をかける。

こうして実際に会うのは、かれこれ二年ぶりくらいだろうか。

あいも変わらず疲れ切った表情を浮かべる彼女は、頭を抱えながら愚痴をこぼす。

 

 

「あのバカ姉を連れ戻しに来たんだけど、いつの間にかi・アイランドに帰ってた。

ほんっと、あのバカは……」

 

 

彼女…琴葉葵は、巷では「苦労人」と噂され、世界中から同情の視線を向けられる女性だ。

あまりの苦労人気質からか、「非公認葵ちゃんを見守る会」なんて会もあるらしい。

会長はなんとあの、現在のアメリカ大統領夫人だと言う。

彼女に用意されていた食事も、胃に優しい流動食だった。

 

 

「君のナノマシンが無かったら、私の寿命は五十年は縮んでたと思う…」

「大袈裟…なんて言えませんね…」

「ホント、どこぞの誰かが学生時代に無駄に焚き付けるから…」

 

 

ホント、どこの誰だろうなー…。

先生のことなんだけど。本当、どんな学生時代送ってきたんだ、あの人。

茜さんたちに聞いても、上手いことはぐらかされるし。

僕は凄まじい勢いで食事を楽しむあかりさんを隣に、切り分けた肉を口に運ぶ。

…肥えた舌でも分かる。高いヤツだこれ。

 

 

「葵さんも何か発表はするんですか?」

「いや。私はきちんと休暇を取ってる。

シールド博士からは『裏切り者!』と泣きつかれたがな」

 

 

あかりさんの問いに、葵さんはお粥を口に運びながら答える。

この人が休暇を取るって、珍しい。

普段は忙しさのあまり、「休暇」って単語を忘れそうになるのに。

 

 

「休暇の理由は?」

「君たち『一等星』だよ。君たちのせいで、個人で研究したいことが山ほど出来た」

「はへ?」

 

 

なんかしたっけなぁ…?

僕たちが首を傾げると、葵さんはカバンから資料を出した。

 

 

「個性について研究しようと思うんだ。

紲星さん曰く、個性は『人とは違う生物である』そうじゃないか。

すごく興味深い。ということで、数年間は個人の研究に専念する旨を国に伝えた」

 

 

茜さんは言うまでもないけど、この人も大概じゃなかろうか。

本当、僕の知ってる科学者って、好奇心だけで生きてるような人たちだなぁ。

…僕も人のこと言えないけど。

いつになく興奮する葵さんの資料を読み流しながら、僕はあかりさんに切り分けた肉の一切れを食べさせた。

 

 

「…仲睦まじいねぇ、君たちカップルは」

「まだ返事もらってませんけどね」

「そういう責任が取れるようになってから、返事をします」

「……今の日本の子供って、こんなに堅苦しいのか?」

 

 

葵さんが首を傾げると、それに答えるように、料理に舌鼓を打っていたお母さんが声を出した。

 

 

「自慢の息子です」

「…もう少し見た目に気を遣えば、引く手数多だろうな」

「しつこく言ってるんですけど、全然聞かないんですよ、この子」

 

 

うっ…。仕方ないじゃないか。

ファンデーションなんて使い方分かんないし、ワックスなんて使っても髪がテカテカするくらいで、癖っ毛が治るわけでもない。

ストレートパーマをかけた際には、皆にバカにされたし…。

そんなことを言っても、反論されて何も言えなくなることは分かってるから、何も言わないが。

 

 

「見た目というと…。紲星さんは化粧せずにソレなのか…?」

「化粧品が肌に合わないので…」

「ホント、末恐ろしい子…」

 

 

たしかに、あかりさんの見た目は男の僕が見てもかなり整っている。

学校に行くと、下駄箱に入らない量のラブレターが入ってるくらいには。

 

 

「そこら辺どうなの、出久としては?」

「綺麗って言うよりは、可愛いって感じかな?…あんまり見た目で人を見たことないから、分かんない」

「……よく出来た子だなぁ」

「思ったことをハッキリ言っちゃうのは難点だけど、それ以外はいい子なのよ」

 

 

ハッキリ言わないと伝わらないじゃないか。

流石に言葉は選んでるけど。

そんなことを思いながら、最後の一切れを口に運び、デバイスに目を向ける。

…轟くんも災難だな。いや、災難なのは『僕たち』か。

 

 

「……ちょっと席外すね」

「どうかした?」

「『ヒーロー』の出番が来た…ってところ」

 

 

僕は言うと、デバイスを軽く操作する。

グレードアップした『シリウス』の初陣だ。

i・エキスポ前に派手にやってやろう。




ここでの音街家はブルジョワです。

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