そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


遠距離攻撃は最強(ただし命中率は別)

「…あまり言いたくはないが、嘆かわしい。

いくら日本の信用が地に落ちたとは言え、義憤に駆られ、無差別に日本からの飛行機を狙うヴィジランテが現れるとは…」

「トシ…。心中察するよ…」

 

 

現在、上空五千メートルにて。

私…オールマイトは、親友であるデイブが用意した懐かしのマシンの羽部分に立ちながら、愚痴をこぼす。

昔はこれに乗りながら、アメリカ中の敵をばったばったと薙ぎ倒したものだ。

懐かしさに緩みそうな顔を引き締め、襲われている飛行機へと向かう。

 

 

「HEY!そこのヴィジランテ諸君!!」

「……オールマイト?」

「オールマイトだ…」

 

 

飛行機を襲っていたヴィジランテに、私は見覚えがあった。

確か、アメリカで活動しているというヴィジランテグループ…『FLYERS』。

ヴィジランテ集団とは言うが、「悪には容赦するな」を心情とした、過激な集団であるとデイブから聞いたことがある。

まぁ、物騒なアメリカなら当たり前のことなんだが。

そう考えると、手心を加えていた私は随分と異端だったのだろう。

 

 

「んんっ…。英語は久々だな…。『君たちはFLYERSとお見受けする!!どうして日本からの飛行機を狙う!?』」

 

 

久々に発する英語に、不自然なところは無いだろうか。

そんなことを思いながら、私は声を張り上げて、個性をもって飛行機を襲おうとする彼らに迫る。

私からの質問にならばたじろぐと思ったが、彼らは淡々と言葉を返した。

 

 

「オールマイト。お言葉だが、今の日本が信用に値するとでも?」

「オールマイト。今の日本は『敵』だ。

あなたと言う絶対的正義が居ながら、尚も『悪』が育つのを放置した。

これを『悪』と呼ばずして何と呼ぶ?」

「オールマイト。邪魔をするのならば、あなたであろうと水底に沈んでもらう」

「それは極論すぎなんじゃないかな!!」

 

 

私がそう反論すると、彼らは首を横に振る。

極端な思考の持ち主は、総じて頑固だ。

心中で愚痴をこぼしながら、私は拳を強く握る。

飛行機に影響がないよう、最低限の威力で戦わなければ。

そんなことを思っていた次の瞬間だった。

 

 

「あぺっ」

「ぁふんっ」

「ふぺっ」

 

 

彼らが一斉に妙な声を上げて、空から転落していったのは。

私たちが呆気に取られていると、ぼふん、と下から音が響く。

そちらに目を向けると、いつ間にか用意されていたのか、空飛ぶネットに絡め取られたFLYERSが見えた。

一瞬にして起きた出来事に首を傾げていると、人影が太陽を遮った。

私が顔をあげると、そこには。

 

 

『はぁぁぁあ……』

 

 

弓を片手にがっくりと項垂れるSAVERが、空に立っていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『モード:アルテミス…。肝心の僕がクソエイム過ぎて宝の持ち腐れ感が…』

 

 

ずん子さんの弓道の腕が欲しい。

心の底からそう思ったのは初めてのことだ。

なんでノリで麻酔電流を放つ武器を、弓矢になんてしたんだろう。

おかげで数発外した。

下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとは言うが、僕たちが備えるべき相手は、そんな甘えが許される相手ではない。

サポートAIも用意したが、それでもカバーし切れないほどに、僕が武器を使用したエイム力がクソすぎる。

…奥さんは詳しそうだから、帰国したら鍛えてもらうことにしよう。

 

 

『ったく…。あと六箇所も回らなきゃいけないのか…。クリスマスくらい大人しくしてろっての…』

 

 

反省点をいろいろと纏めながら、イズク15号『アドラステア』…浮遊ネットを展開する衛星型ビット…でふん縛ったヴィジランテを、巾着袋に入れたみたいにして持ち上げる。

あとは…i・アイランドにでも放り込んでおくか。

あそこはタルタロス並みの防衛システムが敷かれてる。

放り込むだけで、即座に警備ロボットが殺到するだろう。

あと六箇所も捕らえているから、大忙しだ。

全く。楽しみにしてたエキスポを出鼻から挫かれた。

 

 

「SAVER……!?」

「あれがか…!!」

『はへ?』

 

 

心の中で愚痴を吐き捨ててる最中。

そんな驚愕の声が、僕の鼓膜を揺らす。

僕はそちらの方に目を向け、マスクの下で、外れそうなくらい顎を開いた。

 

 

『……は、初めまして…。オールマイトに、シールド博士…』

 

 

 

嘘だろ!?アメリカでの伝説コンビが復活してる!!

しかもブロンズエイジのコスチューム!?いや、それを改良して、デザインもちょっと変わってる!!正真正銘、初出のコスチュームじゃないか!?!?

わぁあ!!やばい!!興奮で死にそう!!!

一緒に写真撮って欲しい!!!!そんでもってそれを家宝にしたい!!!!!

出来ればいつまでもこうして見つめ合っていたいぃぃぃいいッッッッ!!!!!!

 

 

 

マイクを切って外にはわからないように、興奮をぶち撒ける。

初めて消音機能を付けてて、心の底から良かったと思った。

流石に小躍りしたり、詰め寄ったりはしないが…。

i・アイランドでコレが観れるのだろうか。

楽しみを先取りした感が否めないなぁ…。

 

 

「SAVER!先程のは君の仕業か!?」

『…撃ち落としたのは、そうだが?

ああ、安心してくれ。先ほどのは麻酔電流を撃ち込んだだけだ。

一日寝たきりだが、人体に害はない』

 

 

メカニズムを明かしたら、シールド博士に簡単に正体を暴かれそうだ。

いずれ僕が学会に進出するまで、発明品の自慢はよしておこう。

いつの時代だって、科学は怖いんだ。

そんなことを思いながら、僕は巾着袋のように掴んだネットを広げ、中に居た人たちをオールマイトに投げ渡す。

やはりトップヒーローは格が違う。

軽々と十数人を受け止め、凄まじい体幹で彼らを持ち上げていた。

 

 

『コイツらは貴方たちに任せる。

正直、貴方たちとの別れは惜しいが…。

我の目の届く範囲に、まだ悪が居るのでな』

 

 

ああー…。普通に話したかった!!

ヴィジランテやってると、本当にコレだけがネックなんだよなぁ…。

i・アイランドで会えることを祈ろう。

神がいるかもわからないが、僕は神に祈りながら踵を返す。

…空を飛んでるから、踵を返すって言い方が正しいのか分からないけど。

僕がその場から去ろうとした、その時だった。

 

 

「一つ、答えて欲しい!!」

 

 

ーーーーーー君は、未来人なのか!?!?

 

 

 

オールマイトの口から、その単語が飛び出したのは。

やっぱり見られてたじゃないか!!なんか変な勘違いもされてるし!!

どうしよう。何で答えたらいいんだろう。

こういう時、先生だったらどう誤魔化すんだろうか。

そのまま頷く?…バレた時、後が怖いなぁ。

……もういいや。変に隠すとボロが出るし。普通にバラしちゃえ。

念には念を入れまくって隠蔽してるから、バレやしないだろう。

 

 

『我は、この時代のヒーローだ』

 

 

…まだ免許もないのにヒーローを名乗るのもどうかと思うが。

しかも相手は、プロの中のプロ。しかもトップヒーローだ。

撤回するつもりは無いけれど。

 

 

『もう行くぞ。またいずれ、何処かで』

「待てっ!!」

 

 

オールマイトの制止を振り切って、その場から去っていく。

その後結局、僕は十二箇所でヴィジランテやら敵やらの排除をする羽目になった。

ちくしょう。クリスマスくらい、ゆっくりさせてくれ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「着いたー!」

「はしゃぎ過ぎんなよー。転んだ時の消毒面倒だろォが」

 

 

i・アイランドに備え付けられた入口にて。

ウナちゃんが伸びをしながら、体をほぐすために伸びをする。

爆豪先輩も同じように、軽く体を動かして筋肉をほぐしていた。

 

 

「……それにしても、音街ン家の使用人は何なんだ」

「飛行機の外に出て、襲ってきたヴィジランテ薙ぎ倒してましたもんね…。便所用のモップで」

 

 

あのメイドさんの個性って、確か「くっ付くだけ」だったような…。

それで飛行機にくっ付いたのはまだわかるけど、微動だにしないままモップで敵を薙ぎ倒してたのはどういうわけなんだ。

私たちがそんなことを思っていると、そのメイドさんがいつの間にか、私たちの背後に現れる。

 

 

「実は我ら使用人一同、十月半ばより鈴木つづみ様からご指導を受けておりまして。

彼女のご指導に比べれば、まだまだ軽いですよ」

「…あの人、どんだけ無茶な修行してたんですか?」

「少なくとも、なんの戦闘技術も持たなかった麗日が、二ヶ月で一騎当千の軍人レベルになるくらいにはキツいぞ」

 

 

爆豪先輩が「思い出したく無い」って言いたげな顔してる。

無敵軍隊でも育ててるつもりなんだろうか、ウチの担任の奥さんは。

そんなことを考えてる内に検問を潜り抜け、私たちは目の前に広がる光景に息を漏らす。

 

 

「わぁあ……!」

「すっご…。流石はi・エキスポ…」

 

 

初めて来たi・アイランドは、クリスマス仕様に飾り付けが施されていた。

南端に近いこの場所からでも理解できるほどに、天高く聳え立つクリスマスツリー。

遠目から見ただけじゃわからないが、おそらく本物の杉の木ではないだろう。

だが、その電飾やらホログラムやらが織りなす光の芸術は、言葉に言い表せない美しさを誇っている。

i・アイランドにあるアトラクションも、クリスマス仕様に模様替えが施されており、テレビ局も殺到していた。

 

 

「……電飾がチカチカしてうぜェ」

「この光景見てそんなこと言えるの、多分アンタくらいですよ」

 

 

そんな雰囲気をぶち壊す一言を、躊躇いもなく放つ爆豪先輩。

この先輩は、ムードを読み取るスキルが欠落してんじゃなかろうか。

 

 

「……ねぇ、あれ。日本人じゃ無いか?」

「本当だ…」

 

 

爆豪先輩を半目で睨んでいると、ふと、そんな声が耳に入る。

英語だったが、学んでたおかげで容易に聞き取ることが出来た。

…まぁ、信用が地に落ちた日本人を、警戒を込めた視線で見るのはわかる。

それを小5と中1の子供にまで対象にするのかね?

 

 

「気にすンな。やましいことなんざねェんだから、堂々としてりゃあいい」

「前の爆豪先輩だったら、『退け端役ども』って罵声浴びせてそうですけどね」

「ンだとォ!?!?そんなことあったわチクショォオッッッッ!!!!!」

「自覚してるんなら反射的に反論しなきゃいいのに…」

 

 

この先輩は成長してんだかしてないんだか。

そんなことを考えながら、私たちはi・アイランドでの一歩を踏み出した。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『クリアタイム68秒!!第25位!!』

「ニホン人は引っ込めー!!」

「トロいんだよー!!」

 

 

「友人を呼んでくる」と言った先生たちと別れ、目ぼしいアトラクションを回っていると、そんな罵声が響いてくる。

私たちは互いに顔を見合わせ、人だかりが出来ているアトラクションへと向かう。

名前は『ヴィラン・アタック』。

仮想敵と称されるロボットを、出来るだけ早く破壊するというアトラクション。

ヒーロー免許が無くとも参加できるため、職によって個性を抑圧された人々のニーズもあってか大人気のアトラクションらしい。

 

 

「…日本人、印象最悪やな……」

「まぁ、しゃーないやん。あんなことあったんやし…」

 

 

ついなちゃんを助けようとして、世界中にあの映像を発信したのだ。

気にするな、とは言い難いか。

 

 

「引っ込めー!!」

「さっさと帰れー!!」

 

 

…にしても、態々カタコトに近い日本語で、こんな罵声を出す必要があるのだろうか。

このためだけに日本語を覚えたのかと思うと、ちょっと複雑。

ブーイングの嵐の中心にいる男の子は、果敢にも声を張り上げる。

 

 

「…っ、人を『日本人』ってだけでバカにすんな!!!」

「うっせーよニホン人!!!」

「アンタらは敵性国家の敵みたいなモンじゃない!!!!」

 

 

…ああ、見てらんない。

こんなことなら、先生たちを連れてくるんだった。

先生なら、この場をたった一言で鎮められるというのに。

生憎と私には、言葉を武器として使うだけの知識が備わってない。

でも、このまま何もやらないってのも癪だ。

 

「ついなちゃん、荷物よろしく」

「へ?あ、ちょっ、お茶子の姉ちゃん!?」

 

 

私はついなちゃんに荷物を預け、人混みごと柵を飛び越える。

個性は使ってない。この程度なら、お師匠様と奥さんに嫌ってほど叩き込まれた。

そのままコンクリート製の床に着地し、私は声を張り上げる。

 

 

「ウチ、参加します!!」

『……へ?あっ、えとっ、はい!!』

 

 

司会の人が慌てて準備を始める。

私は男の子に「ちと退いてェな」と個性を使って、柵の向こうに投げ入れた。

 

 

『つ、次の挑戦者はこちら!!』

「またニホン人かー!!」

「出てけー!!」

 

 

ブーイングの嵐の中、私は体をほぐし、呼吸を整える。

実力で黙らせる。文句のつけようもない、私の全身全霊で。

…というのは建前で、本当は自分がどれだけ成長したか見たいってだけだけど。

 

 

『ヴィラン・アタック!!レディーッ、ゴー!!』

 

 

合図とともに、私は踵を地面に叩きつける。

敵の位置は駆動音で大体把握済み。

踵が砕いたコンクリートのカケラを指の間で掴み、私は思いっきりそれを投げる。

タイミングもズラして、照準もバッチリ合わせた。

その場から動いたりしないあたり、随分と優しい設計になってる。

私は指を合わせ、コンクリートのカケラに付与した無重力効果を解除する。

次の瞬間には、カケラは敵を纏めて貫いていた。

 

 

『…………は、8秒……?』

「「「……………………は?」」」

 

 

皆の目が点になる最中、私はぱんぱん、と手を払って埃を落とす。

 

 

「『狙撃隕石』。狙った獲物は逃さんで…なーんて♪」

 

 

昔見てたト○とジェ○ーから着想を得た技だが、完成までに二ヶ月かかった。

まずは距離の測り方を、きりちゃんのお姉さん…ずん子さんにお願いして、みっっっ…ちり教えてもらった。

あとは筋力を鍛えて、無理矢理に投擲する物を作り出せるようにした。

おかげで、それなりには使える技になったと思う。

屋内に避難されたら完全に無力…というなかなかの欠点はあるが。

 

 

『も、もう一度、スローで…』

 

 

司会の人がスローカメラで、私の一連の行動を映し出す。

文句のつけようもない流れに、観客席が唖然とする中、ついなちゃんだけが「お茶子の姉ちゃん、カッコ良かったでー!!」と声を張り上げていた。

 

 

「どや?文句ないやろ」

『……は、はい。だ、第一位、です…』

 

 

ふふん。この記録なら、あのデタラメ個性二人組も超えられまい。

私は誇らしげに胸を張りながら、個性で浮遊して、観客席へと戻る。

と同時に、騒ぎを聞きつけたのか、爆豪くんたちがやってきた。

 

 

「おォ、麗日。面白そォなことやってんじゃねーか」

「爆豪くんもやる?ウチの記録は8秒やで」

「ドヤ顔やめろやうぜェ」

 

 

爆豪くんは端的に私を罵倒すると、柵を飛び越え、スタート地点に立つ。

司会の人は未だに放心していたが、慌ててマイクを手に取った。

 

 

『さぁて、お次の挑戦者はこの人!!一体どんな記録を出してくれるので…』

「前座はいいからさっさと始めろ」

『はひっ…!』

 

 

爆豪くんが淡々と司会の人に言うと、彼女は怯えがちに頷いた。

 

 

『では、ヴィラン・アタック…。レディーッ、ゴー!!!』

 

 

と、開始の合図が響いた直後。

小さな破裂音とともに、全てのロボに風穴が空いた。

 

『……よ、4秒………』

「「「…………………」」」

「だぁぁああっっ!!!フッツーに越された!!!1分もない天下やんか!!!!」

 

 

さらば、私の天下。

まさかこんなにもあっさり終わるなんて、思いもしなかった。

やっぱり、『意識の外からの攻撃』になってはじめて真価を発揮する技を使ったのがまずかったか。

普通に投げれば良かった。

 

 

「1分天下ご苦労ォだったなァ麗日ァ!!!

未来のトップヒーローの引き立て役として充分な活躍だったわ!!!同じ時代にこの俺、爆豪勝己サマが居たことを恨むんだな!!!!」

 

「早漏!!煽り厨!!!爆豪勝己!!!!」

「なんとでも…っておい最初ォ!!!

思春期の乙女がンな下ネタ大声で言うな!!あと誰が早漏じゃ見たこともねェのに勝手に判断すんなブッ殺すぞォ!!!!」

 

「名前はいいんだ…」

「良かねェ!!!!」

 

 

爆豪くんと言い争いながら、スローカメラを横目で見る。

最初の1秒で位置を把握し、2秒目で指を構える。3秒目で幾つもの細い爆炎を飛ばし、4秒後には全てが貫かれていた。

やっぱり、奥さんに一番扱かれてるだけあって、状況把握能力が半端じゃない。

私が全力で投げても、6秒はかかりそうだ。

隣の芝生は青いなぁ。

そんなことを思っていたその時。

 

 

「なんか騒がしいって思ったら、お前らか」

 

 

人混みをかき分けて、轟くんたちが姿を見せた。

珍しくポカをやらかしてないのか、生傷のない顔であたりを見渡すセイカさんに、外国人相手に人見知りを発動しているヒメちゃんとミコトちゃんも居る。

爆豪くんは轟くんの姿を確認すると、心底腹立つ笑みを浮かべて挑発する。

 

 

「轟、やってみるか?爆豪勝己という超えらんねー壁を見せてやるぜ?」

「はっ。踏み台の間違いだろ?」

「あァ???」

「おォ???」

「いつも言うとるけど、勝負の度に煽り合うのやめへん…?」

 

 

この二人は、仲が良いんだか悪いんだか本当に分からない。

気は合うようだけど、勝負事になるとすぐに相手を煽り出す。

爆豪くんは軽く掌を爆破させ、柵の内側へと戻る。

それと入れ替わるように、轟くんが柵の内側へと飛び降り、軽く着地した。

 

 

「始めてくれ」

『……ぁ、えとっ、はい!!ヴィラン・アタック…。レディーッ、ゴー!!』

 

 

放心していた司会が、ヤケ気味に叫ぶ。

瞬間。ピンポイントで敵が凍りつき、砕け散った。

 

 

『………ぉ、同じく、4秒……』

 

 

轟くんは、前に言ってた「ピンポイントでの凍結」を習得したらしい。

デタラメ二人組には、勝てなかったよ…。

肉弾戦なら私の方が強いのに、個性の差って本当にバカにならない。

 

 

「俺の方がコンマ数千桁の1秒早かった」

 

 

と、轟くんがスロービデオを見ながら、そんな屁理屈をかます。

出たよ、負けず嫌い。完膚なきまでの負けじゃないと、引き分けとか絶対に認めないタチだもんなぁ。

勿論、爆豪くんも同じように屁理屈をかます。

 

 

「あ?時差ボケか?テメェの方がコンマ数百桁の1秒遅かったろォが」

「お前の脳細胞、ポップコーンみたいにポンポン破裂してんのか?どう見ても俺の方が早かったろォが」

 

 

柵を通して、二人が睨み合う。

リアルファイトに発展した試しはないけど、こうなったら数時間はこのアトラクションに入り浸るだろうなぁ。

 

 

「ほ、ほら見ろ!!アレがニホン人の本性じゃないか!!」

「なんて野蛮なの!!」

「とっとと去れー!!!」

 

 

まぁ、欠点を見せればこうなるわけで。

もはやただの言いがかりの域だ。

どうやって止めようか、と思案に暮れたその時。

 

 

「揃いも揃ってバカばっかなんですかね」

 

 

凛、とその声が響いた。

私たちがそちらに視線を向けると、チリドッグ…だったっけか。

ホットドッグにチリソースのかかったソレを頬張る先生が、呆れ顔で立っていた。

 

 

「なんだと!?」

「ニホン人が悪なのは、SAVERが証明していたじゃない!!」

「すみません、脳みそ詰まってます?

SAVERが証明したのは『国を温床にして育つ悪がいる』ってことで、『日本が悪』って訳じゃないですからね?

あの放送で一言でも『日本は悪だから排斥しましょう』なんて、彼が言いましたかね?」

 

 

胸ぐら掴まれても淡々と煽れるあたり、強かな人だよなぁ。

チリドッグを平らげた先生は、「コーラ飲むんで、放してもらっていいですか?」とさらに煽る。

いや、煽ってる訳じゃなくて本当に普通に聞いてるんだろうけど、私がやられたら確実にイラッとする。

先生の声の性質上、疑問系が煽ってるようにしか聞こえないんだよなぁ…。

 

 

「野蛮だの何だの言う前に、自分の行いを見つめ直しては?

集団心理で他人を虐げることを良しとする。

小学生のイジメ見てる気分です。ママからきちんとやって良いことと悪いことの区別つけろって言われてないんでちゅか?」

 

 

いや、煽ってるわ。めちゃくちゃ煽ってる。

ガタイのいい人相手に良くやるわ。

 

 

「の野郎ォ!!」

 

 

と、先生に拳が振われる。

無論、先生に抵抗する力があるはずもなく、彼は甘んじてその暴力を受け入れた。

幸い、歯も折れることなく、先生は口の中を切った程度で済んだろう。

口の端から血液を溢すも、特に気にすることなく続けた。

 

 

「それに、今回のエキスポで参加できる日本人は、エキスポ開催における関係者から招待状を貰った人間のみです。

つまりは、主催者側から許可を取って来た、信用に値する人間だけなんですよ。

今のあなたたちはどうですか?

勝手に決めつけて騒ぎ立てて…。今なお、この現場が監視カメラで撮影されてることにも気づいてないあたり、しょっぴかれる覚悟が出来てると判断しますが」

 

 

先生が言うと、一人が舌打ちをし、その場を去る。

瞬間。その場にいた人たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、私たちの周りには人が消えてしまっていた。

が。先ほどの男の子と、先生を殴った一人だけが、納得できないと言うようにその場に残っていた。

義憤によって人を殴ったことで、善悪の区別がつかなくなってるんだろうか。

 

 

「それが何だって言うんだ!!ニホン人は悪だってことは変わらないだろ!!!」

「会話が成り立たないアホって、あなたのことを言うんですね。

帰国後、生徒達に事例を教えるので、撮影してもよろしいですか?」

「………っっっ!!!!」

「っ、危ねェ!!」

 

 

と、怒りに任せ、男が拳を振りかぶる。

さっきより威力がある振り方だ。先生の鼻が折れる。

男の子含む私たちが、ソレを止めに入ろうとした、まさにその時。

一人の女性が何処からともなく現れ、男の額に指を当てた。

 

 

「トラブル起こさないでよ。死にたくなる」

「ぴぃっ!?!?」

 

 

男が裏返った声と共に崩れ落ちる。

女性は深い紫のコートをたなびかせ、私たちの方を振り返った。

 

 

「つづちゃんの旦那さんが居るってことは、君たちが、つづちゃんの教え子かな?」

 

 

その顔を、私は知っている。

整った中性的な顔立ちに、ショートカットの艶やかな紫色の髪。

少し病的な印象を受ける瞳に、ファンデーションでも隠しきれていないクマ。

彼女はテレビで見た姿そのままに、この場に立っていた。

 

 

「初めまして。ボクはハ…ああいや。本名じゃダメか。

ヒーロー名『Flower』。イギリスのトップをさせてもらってるよ」

 

 

その笑顔は、疲れが隠しきれていない、ぎこちないものだった。




緑谷くんはヴィジランテやら敵の対応で一人だけ到着が遅れてます。
あかりちゃんたちはもうとっくに着いてます。
彼だけが未だお空を旅してる途中です。
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