そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

76 / 116
サブタイトル通りです。


切島、恐怖する

「ぁンの脱獄犯、後で絶対に殴る…!!」

「だからごめんって…」

 

 

麗日さんがプルプルと震えながら、地獄の底から這いずってきたような声を出す。

彼女の今の姿は…ざっくばらんに言うと、ソシャゲのキャラが着てるような衣装に身を包んでいた。

無論、顔を隠す仮面はしてる。

口は透明なバリアが覆ってるから、外見的には口が露出してることになってるけど。

毒ガスを通さないように、透明なバリアによるコーティングもしてるし、空気を精製する装置も搭載してるくらいだ。

露出してない。してないんだけど露出が多いと言う矛盾が発生してる。

 

茜さんが興奮気味に「ちち!しり!ふとももーッ!!」って欲望ダダ漏れな叫び声あげながらデザインしてた。

あの人、性的興奮を覚える対象が女の子だから、欲望ガン積みしたんだろうなぁ…。

麗日さんの健康的でいて綺麗な肌が眩しい。

茜さんがここに居たらまず、「股間に悪い衣装着やがってからに」とかなんとか言って、お持ち帰りしそう。

 

 

「スカート前ないから意味ないやん…!!

ほぼブラとパンツ丸出しな痴女ファッションやでこんなん…!!

体のラインもハッキリ出とるし、ウチに娼婦でも目指せっちゅうんか!!??」

「麗日さん、不満たらたらな割には、抵抗なく着てたよね…?」

「黙らっしゃい!!!!コレ着るしかないんやったら着るわ乙女のヤケクソなめんなドアホ!!!!!」

 

 

スーツ越しに殴られた。ぐわんぐわんする。

FEでありそうな衣装だなぁ。

そんなことを思いながら、僕は部屋の扉を開ける。

同時に、凄まじい風圧が、僕らの仮面を激しく撫でた。

 

 

「あかりさんたちに負担掛けるのも忍びないし、とっとと出るよ」

「…この中世モチーフのソシャゲみたいなデザインは好きなんやけどなぁ…。

あるよなぁ…。こういう…絵で見るには全然エロないけど、自分が着るってなるとどちゃくそエロいの……」

「茜さんに言ってよ…。僕は機能面しか担当してないし…」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「へっぷし!…ぅう、やっぱエアコン無しの冬寒いなぁ!!」

「機能してるのは最低限のライフラインだけですからね。空調は真っ先に遮断しました」

「メリちゃん、判断力ハンパないなぁ!!」

 

 

i・アイランドのセキュリティを握るメインコンピュータを前に、私はやけ気味に声を張り上げる。

緑谷くんたちが居てくれて本当に良かった。

でなきゃ詰んでた。

少人数であれば脱出する方法はあったが、流石にここにいる全員を避難させるのは…科学者として言いたくはないが、不可能だ。

相手は凶悪さで有名な敵性国家。確実性のない計画を立てる訳がない。

相手の詰めの甘さを期待するのは、やめたほうがいいだろう。

 

 

「プロヒーローには通信機器をジャックして現状を伝えとる。

アナウンスもさっきやって、民間人には建造物ン中に避難してもろた。

そっから『あの国』出身のヤツだけを絞り出して、爆豪くんらにデータ転送を…」

「あの国って、昼間の騒ぎの?」

「せや」

 

 

あの国は敵性国家近隣で、週一回のペースでそれ絡みの事件が起きていた。

しかし、先程調べたところ、二週間ほど前からパッタリと問題が起きなくなったらしい。

…考えたくはないが、最悪の可能性を考えておこう。

 

 

「プロヒーローはどうします?」

「コウくんに説得頼む。 ウチは無理や。ボイチェンで葵の声にしとくさかい」

 

 

そういえば、今回の事件は葵とも協力してるんだっけか。

いつ以来だろうか。妹と共同作業をするなんて、ワクワクする。

そんなことを考えながら、防衛機構の捜査を続けた。

 

 

「終わったらエジプトあたりで、デートでもしよか」

「年明けに、ピラミッド攻略しちゃう?」

「ええなぁ!お土産に財宝ちょっと持ち帰ろか!」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『防壁甘いですよ!もっと密度上げて!!』

「やっ…てる、よ……!!」

「こ、ないだっ…より…キっツいぃ…!!」

 

 

ヒメちゃんとミコトちゃんが歯を食いしばり、全身に力を入れる。

その傍らで私はデバイスを展開し、指がちぎれそうな勢いで命令を入力していた。

私たちが任されたのは、海中にある装置の防衛。

まずはこれを防衛しなければ、確実にi・アイランドは水底に沈む。

 

 

「全く、小5には荷が重い…!!」

「こっち、も…だよ…!!」

「むぃいいいっ!!??ミコトぉ!!急に緩めないでよ!!!」

「ごめ、ん…っ!!」

 

 

私にはわからない感覚だが、相当力まないとバリアは張れないらしい。

先日の一件から分析するに、魚雷やら個性やらに耐えられる時間はそこまで長くない。

なら、『私』とあかりさんが出来る限り迫り来る攻撃をいなすしかない。

 

 

「潜水式きりたん砲。アホみたいな見た目の割には高性能でしょ?」

『……イルカ型のロボに巨大きりたんぽ付きのランドセルって…。

さっきから小型のきりたんぽ型のミサイル打ち込んでますけど…』

「弾幕張れば大体は防衛できます。

撃ち漏らしはお願いしますね」

 

 

この見た目にしたのには、訳がある。

私こと、東北きりたんにはとある一つのトレードマークと呼べるものがある。

ランドセルの側面に無理矢理くっつけたような、巨大なきりたんぽ…。

公式が「弾丸は味噌」という、正直言って何処に需要があるか分からない設定を公開していた、「きりたん砲」である。

無論、そんなおふざけ兵器でこんな世紀末もビックリな世界を生き残れる訳がない。

どうしたものかと思案に暮れてる私に、緑谷先輩が天啓を授ける神の如く、私に告げたのだ。

 

 

ーーーーーー自分の思う「無敵」を作ったら?結構楽しいよ?

 

 

もうお察しだろう。

私のきりたん砲を一言で言い表すなら、「わたしのかんがえたさいきょうのきりたんぽ」である。

陸、海、空に対応した、兵器として理想的な機能をコレでもかと搭載した自信作だ。

コレでヴィジランテやってみても良いかもしれない。

…身バレの可能性があるから、よっぽどのことがないとやらないが。

 

 

「いいでしょ?イルカは鷹にも変形しますし戦車にも変形するんですよ」

『戦隊ロボでもそんなに変形しないと思う』

 

 

あんまりそっち方面には明るくないけど、確かにそう思う。

前世の幼児期、「ムゲンバ○ン」って玩具があって、そこから着想を得たんだが…。

もうちょっと自由度高めの開発とかもしてみたい。

出来ることがあるって素敵。楽しい。

 

 

「「ガールズトークしてる余裕あるならちゃんと戦ってよ!!!」」

「ああ、すみません」

 

 

双子に叱られた。今のは完全に私が悪い。

ゲームをやってるような感覚で駄弁ってたが、ミスればリアルでお陀仏だ。

三度目の人生があるとも限らないし、そもそも溺死なんて絶対したくない。

というより、この世界がとんでもないことになる。

想像して欲しい。各国要人やプロヒーローが一気に死んだらどうなるか。

少なくとも大混乱は待ったなしだろう。

下手すりゃ、超常黎明期以上の世紀末と化す恐れすらある。

 

 

「…皆。私が一番得意なゲーム、何かわかります?」

「今そんなこと話してる場合!?」

「いいから画面見て!!五発も流れ弾が来たら割れるから!!」

 

 

双子が怒鳴り声に近い声を張り上げ、画面を指差す。

私はそれをチラ見しながら、軽く命令を入力した。

 

 

「正解は、シューティングゲーム。

この程度だったらしっかり見なくてもなんとかなりますよ」

 

 

瞬間。映像にあった魚雷が、あかりさんによって破壊される前に一斉に炸裂した。

 

 

『…ゲーマーって、こういうところで役に立つんだ……』

「惜しい。こういうところでしか役に立たない、が正解です。プロになったり、配信が軌道に乗ったりすれば稼げますが」

「自分で言うんだ…」

「悲しくならない…?」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

ビル内にて。

早速騒ぎを起こしていた数人を取り押さえ…というより、気絶させた。

その場にいた…確かアメリカのNo.10に身柄を引き渡した後、騒ぎを起こしていた人間からくすねた注射器を取り出す。

 

 

「数人捕らえてもらったわ。皆、『人工個性』ってラベルのある注射器を持ってた。

既に回収済みよ」

『あかりさん曰く、注射器を破壊するのもNGだそうです。回収するので、デバイスの液晶部分に向けてください』

 

 

きりちゃんの指示通り、渡されたデバイス…スマホみたいなもの…の液晶画面に、積み重なった注射器を近づける。

と。注射器が粒子となって、液晶の中に吸い込まれてしまった。

 

 

「すごっ…。魔法みたい…」

『立派な科学ですよ』

「…私、高校一年目で中退したきりだから、てんで理解できないと思うわ」

 

 

…高卒認定受けて、大学通おうかしら。

私の磨いてきたスキルは、はっきり言うと日本での日常生活で役に立つ機会がほぼない。

いくらノーベル平和賞を受賞したとは言っても、中卒とこの筋肉が表に出にくい体質のせいで現場仕事にすら雇ってもらえないし。

そもそも私の知名度は日本じゃほぼ皆無だ。

徹底的に情報操作されてたせいで、過去の名声なんてカケラもない。

そのくせ厄介なのばっか付き纏う。

正直、コウくんが「今の生活でいい」と言わなきゃさっさと高飛びしてる。

 

 

『うっわ…。爆豪先輩たちからも人工個性が大量に送られてきました。

誰か一人にでも使われると厄介です。急いで掃討してください』

「…防衛戦って面倒ね。私、今まで攻撃側しか経験しなかったから、余計にそう思うわ」

 

 

人工個性。私も日本に帰る少し前、それを使った人間数十人と交戦したことがある。

殺した途端に液状化したからなんだと思ったが、たしかに一度に出す個性に統一性が皆無だった。

弟子が出会した前例によれば、都市一つを巻き込んで潰すなんて造作もないと聞く。

なら、使われたら即殺せばいい。

 

 

「敵性国家と繋がりあり。つまり、殺害してもなんの文句も言われない相手。

…弟子たちには悪いけど、加減できない状況になったら殺すわよ?」

『人工個性を摂取した時点で死亡は確定です。できる限り犠牲者を出さない方向性で行きましょう。

先輩方には上手く誤魔化します』

「OK」

 

 

最近の小学生は肝が据わってる。

そんなことを思った瞬間だった。

自分たちがさっきまでいたドームが、肉塊で破壊されたのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「京町さん、大丈夫っすか!?」

「いたた…。さっきからごめんなさい…」

 

 

すっ転んだ京町さんの手を掴み、彼女を立ち上がらせる。

コレで転んだのは8回目だろうか。

そのせいで私服は見るも無惨に破け、露出した擦り傷から血が滲み出す。

菌が入らないよう、水で流してアルコールで消毒するってのがセオリーなんだろうが、生憎と今はそんなことをしてる暇はない。

 

 

「っ、何なんだよ、このぐにゃぐにゃ!!」

 

 

さっきからこのドームを何度も何度も貫く、肉塊としか形容できない物体。

筋繊維なのか肉なのかも判別がつかないコイツが蠢くたび、ドームに衝撃が走る。

アナウンス曰く、今は敵性国家に攻め込まれている。

出来る限り建物の中にいろと言われたが、コレは一体どう言うことなのだろうか。

建物の中は安全じゃなかったのか?

そんなことを考えながら、俺は京町さんを抱え上げ、全力で走り出す。

 

 

「えっ!?ちょっ、擦り傷ですから自分で走れますって!!」

「明らかに痛みでスピード落ちてる!!

ンな女をみすみす死なすほど、俺の目指した漢は腐ってねェ!!!!」

 

 

敬語も忘れ、俺は迫り来る肉塊を避けながら、外を目指す。

i・アイランドの建物を軽くぶっ壊すんだ。

俺の個性で硬化して受け止めても、破られて死ぬのがオチだ。

 

 

「……っ、ソぉ…!!」

 

 

くそっ。逃げるしかねェってのが歯痒い。

クリムゾンなら、紅頼雄斗なら、こんなピンチなんぞ、軽々と乗り越えたろうに。

今の俺にはヒーローとしての資格も、実力も、心構えも、何もかも足りてねェ。

ンなこと分かってる。分かりきってる。

だけど。だけども。

 

 

「『漢ならァ!!救ったことで自分を誇りやがれ』ェエっ!!!」

 

 

紅頼雄斗が言ってたじゃねェか。

誰かを救うのは、たしかに誰にでもできるけど、すっげェ難しい。

だから、ヒーローを目指すなら、救うことに目を向けろって。

今の俺は、ヒーローじゃない。

ヒーローなんて、ご大層な名前背負えるほどの器じゃない。

俺は、大勢の人を救えるほどの力がない。

でも。多くの人が救えないなら、俺に救える人を救うだけだ。

 

 

「切島くん、飛んで!!」

「っ、応ォ!!」

 

 

京町さんの指示に従って、地面蹴って軽く飛び上がる。

瞬間。俺の靴の先端を掠めるように、肉塊が凄まじい勢いで床を破壊した。

肉塊を地面がわりにと着地し、ぶにゅぶにゅとする足場を硬化した足を鉤爪のように突き刺して固定する。

 

 

「京町さん、もうちょいで出口だ!!

早く安全な場所…プロヒーローがいる場所に行くっすよ!!」

 

 

俺は京町さんを安心させようと、兎に角元気に振る舞う。

大丈夫。プロヒーローが居るんだ。絶対にどうにかなる。

この時の俺は、まだ、そう思ってた。

暗闇が支配する外へ続く門が見えてくる。

俺は肉塊が再び動き出す前に、その出口へと飛び込んだ。

 

 

 

 

「………………なんだよ、これ」

 

 

 

 

そこは、地獄絵図だった。

昔見せられた、超常黎明期の映像。

それに近い混沌が、あたりを支配する。

ある程度高い場所に居たからか、炎に包まれ、空が閉ざされてるのに雷が落ち、肉塊や鉄塊が山のように突き出る様を、俺は放心して見ていた。

 

 

「ぅ……、嘘、だろ………?」

 

 

嘘だと言ってくれ。

震える唇で、そんな懇願を込めた声を放つ。

プロヒーローたちが、混沌を生み出す存在と対峙してるのが遠目で見える。

 

 

「何なんだよ、コレっっっ!!!!」

 

 

俺は初めて知った。

世界に牙剥く敵性国家の、底知れない『悪意』を。

俺は初めて知った。

憧れた漢がどれほどの巨悪を前に屈しなかったのかを。

 

 

「一緒、ににに、ぃいい、しししししししししししししし死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死」

「だいじょおおぉぉおおおおぶぶぶだだだだだだだよよよぉぉおおお?

死死死ねねぇばばばば、あばばはははははっっっ!!!!!」

「ありがとう…!!神様、ありがとう…!!僕を皆と一緒に死なせてくれる場を設けてくれて、ありがとおおおおおおおおおぉぉぉあばんじゃぁぁぁぁあああいいぁあははははははははっっっっ!!!!!」

 

 

俺は、知った。

生命の危機すら感じる余裕すらない、底知れぬ『恐怖』を。

 

 

「…これが、敵性国家……」

 

 

その声は、何の音もわからない轟音によってかき消された。




敵性国家の人々は最後のがデフォです。こんなのが街中普通に闊歩してます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。