そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

77 / 116
サブタイトル通りです。気が向いたので書きました。


戦いは数

「えーっと、何回目だっけ…。

細かい数は覚えてないけど、『この段階』で本気出したのはいつぶりだろうなァ」

 

 

集団を率いよう、なんて、いつ以来だろうか。

少なくとも、自分が覚えていないことだけは自覚している。

流石にしばらく調整してなかったせいで、海馬に限界が来てる。

また不要な部分を外に出力しないと。

あの科学力が羨ましい。

僕の発明なんて、足元にも及ばない、あの理不尽なまでの科学力が羨ましい。

 

 

「…今のi・アイランドを沈めるって、時期尚早じゃ無いか、フィクサー」

 

 

暗闇から『僕』…いや。ブラックボックスが姿を現す。

今回の件について、ずいぶん立腹のようだ。

…まずい。視界が定まらない。

目の前に立つ彼の姿が、まるで酩酊した時のように定まらない。

限界が来るスパンが確実に短くなってる。

この様子だと、残り少ない…か。

体は『……』を生きようとも、脳の処理が神の域に達することはないようだ。

…本当にまずい。思考すらままならない。

早急に完成を急がないと、間に合わない。

 

 

「今だからだ…。もっと、もっと強く輝いてもらわなくちゃ困るんだよ…」

「そんなに良いのか?今回のは」

「……正直、彼でダメならどうすればいいかわからない」

 

 

もう、何度目だろうか。

数えていた。数えていたのは覚えてるんだ。

でも、それが何回目かは分からない。

だけど、彼が最も輝いてることだけは、全身の細胞に刻み込まれてる。

今回で「完成」させるんだ。

 

 

「……いや、『アレ』が来るころには、とっくに死んでるだろ」

「だから、時期を早めるために思想を操作した…!!!前回は死んだ後に来た…。

今回は『全盛期』に『アレ』が出現するように調整してる…!!!」

 

 

アレが来るのは確定なんだ。

だったら、アレが生まれやすい環境を作ればいい。

敵性国家もそのために作った。

アレを退けるために、文明の均衡も、僕が裏で支えてる。

アレを退けるための戦力も、鍛えてきた。

…僕の思惑を知ってか知らずか、日本に向かってた敵はオールマイトに悉くブッ飛ばされたが。

その手際の良さから、さらに人気を盤石のものにしたというのだから、脱帽だ。

…話が逸れた。

兎に角、アレに備えるためにも、彼には限界の逆境で成長してもらう必要がある。

 

 

「……『ミラー』、『アーミー』。

君たちは、そのために作った。彼の糧になって、死んでくれ」

 

 

今回の作戦の要として、『ミラー』と『アーミー』を作った。

生命を作り出すというのは、やはり骨が折れる。

忌避感なんぞ、とうに消え失せた。

そんな物を持つほど、今の僕に余裕はない。

 

 

『了解。愛してる、パパ』

『……わかった。お父さん』

 

 

甘い吐息と共に吐かれた言葉と共に、通信が途切れた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『っ、なんか同じ人多ない!?』

『複製の個性持ちだろう。割れるように消えるあたり、鏡系の個性か。

…あと、口調に気をつけろと言ったろ』

 

 

頼むからその三重弁を隠してくれ。バレる。

ただでさえイントネーションだけでも分かりやすいのが三重弁なんだから。

変装してる手前、キツい言い方にはなるけど、こう言わないと効果がなさそうだ。

そんなことを思いながら、襲いくる人たちを槍で迎え撃つ。

槍とは言っても、ほぼ棒に近いものだ。

先端は軟質パーツだし、棒自体もそこまで殺傷力に優れてはいない。

無論、当たりどころが悪ければ死ぬが。

ただし、相手を気絶させるためにいろいろと仕込んであるけど。

 

 

『あっ。そ、そうで…やんす?』

『もうちょいあるで…あるだろ、少女』

 

 

なんでヤン○スになった乙女。合わないにも程がある。つい素でツッコミかけた。

ヒラヒラとした痴女っぽいカッコに恥ずかしがっていた姿はどこへやら、麗日さんは迫り来る攻撃をひらりと避け、掌底で相手の意識を刈り取る。

さっきから一言も話さないし、気絶させれば割れるように消える。

恐らく、人さえも複製する個性を持った人間が搭乗してる。非常に厄介だ。

 

 

『んーっと…ですわ?

いや、なんか合わんなぁ…。もぉ面倒いし、こんままでええんちゃう?』

『………標準語に変えるだけでいいだろ』

『あ、その手があったわ』

 

 

あれだけ流暢に標準語が扱えるなら、それだけでも大丈夫だと思うが。

…揃いも揃って、変装が下手だなぁ、僕ら。

正直、ボイチェンなかったらとっくの昔にバレてそうだ。

正直、複製の人間だらけなら、この艦…艦種はわからない…を丸ごと沈めればいい。

しかし、僕が使ってる探知機の反応で見分けることはほぼ不可能なため、その案は現実的ではない。

…正直、殺すことに躊躇いがなくなったかと言えば、否と答える。

出来ることなら、オールマイトのように、誰も殺さずにヒーローをやっていたい。

 

オールマイトは理不尽なレベルの手際の良さと活動範囲、更には拳一つで天候を左右できるほどのパワーを持つ。

それだけならまだしも、今まで倒してきた敵が強大だった功績がある。

四年前には当時の巨大な宗教団体を、たった30分で壊滅に追い込んだ。

五年前には、数百の艦隊で迫り来る敵性国家を拳一振りで粉砕し、全員捕らえたという功績も誇っている。

 

敵性国家近隣の国でも人気を誇る理由。

それは、「絶対的な実力があり、悉くを粉砕するから」である。

要するに、「生きる理不尽」なのだ。

あのフィクサーに敗れた、という話は有名だが、彼の享年…正確には姿を消した年に、オールマイトが強力な一撃を叩き込んでいたという話は、それ以上に有名だ。

オールマイト曰く、「あれでもピンピンしてた」らしいが、民衆には「追い詰めていた」というように映っていたとのこと。

 

無論、どれも加減が超がつくほど下手な僕が出来たもんじゃない。

僕には精々、動力炉を破壊して、艦を浮島にするくらいで精一杯だ。

艦ごと吹っ飛ばす?そんなことしたら、確実に「遥か向こうの大陸ごと」吹っ飛ばす。

地面に向けて拳を放とうものなら、誇張表現無しで星が割れる。

毒ガスも同様だ。吹っ飛ぶのがi・アイランドか大陸かの違いだ。

 

 

『……にしても数が多い!!』

『さっきから言うて…言ってるでしょ!!

私が引きつけとくから、とっとと増やしてるヤツをブッ飛ばして!!!』

 

 

兎に角、麗日さんの言う通り、増殖してる個性持ちを何とかしないと。

他の艦はやたらと人が少なかったのに、ここだけ異常に多い。

ダミーという可能性も考えたが、湯水のように弾丸を使ってるのはこの艦だけだ。

どう考えても、この艦に『増やす個性』が居る。

 

 

『少し待ってろ。我の拳が、悪を砕く』

 

 

僕が鼓舞するように言うと、麗日さんはこちらに向けて、サムズアップしてみせた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

私は三日前に生まれた。

パパからもらった名前は、『ミラー』。

鏡って意味らしい。

そもそも私は、必要最低限の知識と感情を埋め込まれただけで、鏡という物を見たことがないのだけど。

砲弾や兵士を増やしながら、私は頭上に走る衝撃に辟易の息を漏らす。

 

 

「享年0歳0ヶ月三日、か」

 

 

そのことに対して、思うことはない。

パパが言ってたから、私は死ななければいけないんだ。

 

 

「パパ。死んだら、いっぱい褒めてね」

 

 

パパが満足できるように、いっぱい殺して、いっぱい争って、死のう。

だって、親に尽くすのが子供だから。

 

 

『……君か。これを増やしたのは』

「そうだよ。はじめまして、SAVER」

 

 

だから、目の前のこいつも殺さなきゃ。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『……ッソが。キュリオスん時の二の舞だな、こりゃ…』

 

 

肉塊に塗れ、うぞうぞと蠢く地面に立ちながら、そんな言葉を口にする。

スーツに搭載された防衛システムが防壁を作っているおかげで未だに死者は出てないが、それなりの負傷者はちらほらと居るらしい。

兆もナノマシンが必要かとデクに意見したことがあったが、今じゃ「足りんわ」って言いたくなる。

 

 

『…っ、気味悪ィ』

 

 

人工個性の特性だろうか。

肉塊の所々に人の顔や手が見える。

恐らく、摂取した人間が同化し、i・アイランドを覆い尽くそうとしてるのだろう。

先公や師匠は無事…だろうな。アレらは存外しぶとい。

問題はプロヒーロー。

ナノマシンが防壁を成す前に抜け出してしまい、何人かが肉塊と戦ってるのが見える。

薄らとだが、「SMAAAAAAASH!!!」という裂帛の気合いと共に、肉塊が吹っ飛んでるのも見えた。

 

 

『…スーツも無ェのにアレか』

 

 

プロヒーローからすれば、こう言う状況は慣れたモンなんだろうか。

そんなことを考えながら、俺は足元の肉塊に指を向けた。

 

 

『さっきから狙ってんのバレてるぞ』

 

 

どん。

俺の指から爆炎が放たれ、肉が焦げる臭いがスーツ越しにも伝わる。

爛れた肉塊から、女が突き出たのは、その直後だった。

這い出る…いや。まるで迫り上がるように現れた女は、薄い目で俺を捉える。

 

 

「…バレた。どうして?」

『本能』

 

 

勘、と言ったほうが良かったか。

まぁ、どっちでもいい。

寝てる間に殺されかける…なんて訓練を2ヶ月もやったんだ。いやでも気づく。

 

 

「……ま、いーや。『アーミー』」

 

 

女が言ったその時。

肉塊が俺めがけて、肉の槍を突き出した。

軽く爆破で飛び上がり、それらを避ける。

が。予測していたのだろうか、槍の側面から炎やら雷やら、数えきれない個性が放出された。

咄嗟に爆破で全てを撃ち落とし、指を女へと向ける。

 

 

「……無駄」

 

 

俺が放った爆破は、肉塊によって防がれた。

…おかしい。

肉塊がヤツの指示に従って、効率的に俺を殺そうとしている。

元は人間だったソレが、だ。

以前対峙した時は、そこまで知性を感じなかった生命体が、そこまで思慮して行動するだろうか。

 

 

「アーミー、ヒューマンズ」

 

 

そんなことを考えていた、その瞬間。肉塊が一部切り離され、人の形を取る。

その顔には、見覚えがあった。

 

 

『…っ、そいつら、昼間の…!?』

「……加工、した。面倒、だった」

 

 

コイツ、あの胸糞悪いのと同類だ。

ソレを察した俺は、警戒心を一気に引き上げる。

 

 

「私は、『アーミー』。屈服させた人々を、操る個性。個性、そのもの」

 

 

アーミーと名乗ったそいつが手を掲げる。

瞬間。視界いっぱいに人型の肉塊が現れた。




隠してることが悟られないか心配。まだ明かすつもりないのですが…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。