そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


先生「君ら死ぬかもしれないのに呑気ですよね」葵「いや、お前も大概だからな?」

「私はミラー。私は個性そのもの。私は鏡。私は無限。私は悪。私はあなたを殺す、悪」

『っ、どれだけ増殖するんだ…!!』

 

 

目の前の少女が鏡合わせのように、無限に増えていく。

敵性国家の人口は、かなり減少してる。

その理由は、捨て身の作戦が多く、プロヒーローが悉くを返り討ちにしてるから。

全盛期…オールマイトが活動する以前は、大国がこぞっていろんな兵器や個性を容赦なくぶち込んで抑制していたらしい。

ソレに加え、奥さんの大量殺戮の件もある。

現代の敵性国家は、正直言って、数はあまり問題視されなかった。

そんな問題を軽く解決する個性が、目の前に居る。

 

 

「『人工個性生命体プロトタイプNo.25』。

歳はぁ…、0歳三日ぁ。No.1…キズナ アカリの…二十四番目の妹。

私は『増やす』個性しか使えない。

それでも自由に、無限に、どんなことにも使えるの」

 

 

部屋を埋め尽くさんばかりに増殖した彼女が、一斉に僕の方を向く。

あかりさんの、妹…?姉じゃなくて…?

そのことを疑問に思う暇もなく、彼女らが僕に迫る。

慌てて応戦するも、増えた彼女が割れて消えるたびに、新しく増殖していく。

無限ってのは間違いじゃなさそうだ。

 

 

『これ以上増やされちゃ厄介だな』

 

 

兎に角、相手が人工個性なら、加減は無用。

押し寄せる少女を躊躇いなく殴り飛ばし、本体である彼女へと近づく。

無限に増え続けるのなら、ソレを上回るスピードで潰せばいい。

脳筋な考え方だが、こっちの方が手っ取り早いのはたしかだ。

 

 

「私が増やせるのは『知ってるもの』だけ。肉塊なんて、たくさん増やせるの。

毒ガスの仕組みも、この船のことも、全部、ぜーんぶ知ってるの。

でも、あなたは別。あなたの使ってる『モノ』は知らないの」

 

 

そう簡単に知られてたまるか。

僕が血反吐吐く勢いで三年かけて作り上げたものを、簡単に敵に使わせてなるものか。

心の中で反論を繰り返しながら、更に増える少女を退ける。

ぱりん、ぱりん、と連続して鏡が割れるような音がする。

災害でも起きてるみたいだ。いや、とんでもない人災起きてんだけど。

 

 

「パパが知ってること、そのまま私の頭に入ってるの。すっごく、ズキズキする。

頭が、中から弾けそうなくらい、痛くて、多くて、凄い量の、知識が…!!」

『……マジかよ』

 

 

0歳三日で、あかりさんの妹。

ということは、『パパ』と称してるのは…。

 

 

ーーーーーー恐れ慄け。僕が来た。

 

 

『あの理不尽の差金かよ、コレ…!!』

 

 

この世には二つの理不尽がある。

一つはオールマイト。理不尽なまでのパワーで、あらゆる悪事を粉砕する。

そこに大きいも小さいもなく、ただ平等に、「ただの敵の企み」として、その拳によって地に伏せる。

敵性国家などお構いなし。拳一発。

それだけで迫り来る艦隊を壊滅させた男だ。

コレを理不尽と呼ばずしてなんと呼ぶ。

 

もう一つは、僕たちが経験した、フィクサーという名の理不尽。

理不尽なまでの悪意が国をも蝕んだ。

人の尊厳などお構いなし。ただただ悪を振り撒き、嘲笑う。

倒そうと足掻けど、その行いすら簡単に無に帰す。

もう一度言わせてもらう。コレを理不尽と呼ばずしてなんと呼ぶ。

 

 

「パパは言った。もっと、もっと輝いて欲しいって。だから、だから、もっと、もっと黒く塗りつぶすの。

私は悪。私は、星を塗りつぶす悪でなきゃいけないの。

だから、お星様。もっと眩しく輝いて、私を溶かしてみてよ」

 

 

目の前の少女が、更に増える。

その手には、詳しく言ってたらキリがないが、とんでもない用途を持つ兵器たちが握られていた。

 

 

「輝かないなら、殺してあげる」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「死の、のののぉおおよぉおお!!」

「っ、やばっ…!?」

「切島くん、伏せて!!」

 

 

銃声が響く。

京町さんが護身用にと持っていた特徴的な銃から、特殊な麻酔弾が放たれる音。

何度目かもわからないその音を掻き消すように、嬌声と笑い声が響く。

京町さんがそれを放つたびに、肉の床からポンポンと人が生まれる。

肉塊だとわかるのに、人の形を成したソレは、生理的嫌悪を誘うには十分な見た目をしていた。

 

 

「ナノマシンが起動した…って聞いたのに、ここには来てない…?一体、なんで…?」

 

 

京町さんが何事かを呟きながら、迫り来る肉塊をいなし、銃を乱射する。

百発百中とはこのことか、麻酔弾が着弾し、肉塊が地に伏せる。

肉と言えども、神経はあるようだ。

俺も迫り来る肉塊を硬化した手で殴る。

殴ることを知らなかった俺の拳に、その重さが伝わる。

肉塊は見た目に反し、鉄の塊のような重量と、ある程度の硬度を誇っていた。

重量と勢いに、硬化してない中身が耐えきれなかったのだろう。

中にある何かが砕けたような嫌な感触と、激しい激痛が手を襲う。

 

 

「っ、痛ぅう…っ!!」

「切島くん、痛くても気を抜いちゃダメ!!死にますよ!!!っ、きゃっ!?」

「がっ!?」

 

 

京町さんの足元から、肉塊の槍が突き出て、手に持った銃を貫く。

同時に、肉塊の鞭が俺の腹部を捉え、俺を京町さんへと飛ばした。

おそらく、内臓に影響が出た。

胃酸と共に込み上げてくる鉄の味を飲み込みながら、独学で身につけた受け身を取る。

京町さんは俺を軽く受け止めると、すぐさま別の銃を取り出し、足元に乱射した。

 

 

「切島くん、動ける!?」

「大、丈夫っす…!!」

 

 

めちゃくちゃ痛い。今すぐにでも救急車を呼んでるくらいには。

汗か涙かも分からない液体が、頬を伝う。

そんなことなどお構いなしに、肉塊は人の形を成し、無尽蔵に増えていく。

このままでは、押し潰されて終わる。

あちこちでプロヒーローが応戦する声が響いている。

きっと、その中にはオールマイトも居て、今も誰かを助けるために奔走してるはず。

それまでは、この人を守らないと。

俺が応戦すべく、構えを取ろうとしたその時だった。

 

 

「危ないっ!!」

 

 

京町さんが慌てて俺を突き飛ばす。

その瞬間。俺の首があった場所に、幾重にも重なった刃を纏う肉塊が、鞭のように通り過ぎた。

その刃は京町さんのカッターシャツ、スカート…しまいには、その下にあった下着すらも引き裂く。

が。彼女の柔肌には、奇跡的に傷一つついていなかった。

 

 

「っ!?京町さん、その、いろいろと大丈夫っすか!?」

「前はもっと恥ずかしいカッコですっ転んだことがあるので大丈夫です!!」

「それはそれでどうなんだ!?!?」

 

 

もっと羞恥を覚えてほしいが、今の状況じゃ、動じないくらいが丁度いいか。

兎に角、彼女の秘部を見ないように、俺は彼女の前に出る。

と、その時だった。

 

 

「二人いるなら、背中合わせになるように立ち回った方がいいよ」

 

 

凛、とその声が響くと共に、人型の肉塊の首が裂かれる。

俺たちがそちらを見ると、細身の剣を構えるFlowerが立っていた。

 

 

「助けるのが遅れてごめんね。スタッフたちを避難させるので精一杯で」

 

 

俺たちの死角になっていたそこには、うぞうぞと蠢く肉塊や、人型の肉塊がひしめき合っていたらしい。

が。Flowerが剣を振るったことで、あっさりと首と体が分たれていた。

肉塊は見る影もなく、バラバラに切り裂かれてる。

 

 

「うぷっ…」

「人手不足だからね。その銃と個性の無断使用については、後で対応してあげる」

 

 

俺が吐き気を催してるのを傍に、彼女は淡々と告げる。

吐いてたら死ぬ。攻撃の苛烈さと威力が、ソレを物語っている。

 

 

「この連中、こんなこと企てた割にはどうやら、そこまで頭が良くないみたい。

キリシマくん…だっけ?頑張って、生きておくれよ」

「んぐっ…。ぷはっ!了解!!」

 

 

込み上げた胃酸を無理に飲み込み、構えを取った。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『MESSIAH!!どうなってる!?』

 

 

肉の地面から這い出るバケモノと個性を無力化しながら、声を張り上げる。

俺は純氷で簡易的な防壁を作り、逃げ惑っていた人たちを保護していた。

この場に氷の個性を持った人間が居るのかは知らないが、緑谷にテキトーな三文芝居やってもらって、「SAVERは氷も出せますよ」と認識を刷り込んでもらえばいいだけだ。

が。後のでっち上げによって取り返しが出来ない事態…死者の発生だけは避けないといけない。

だというのに、頼みの綱であったナノマシンは、i・アイランドに来ていた人間の一部のみを覆い隠すだけだった。

 

 

『申し訳ありません、轟様。侵食が苛烈で、防壁を厚くする必要がありました。

そうなれば、i・アイランドにいる人間全員を覆うには、数が足りません』

『要するに?』

『一部区域、防壁が張れてません。その分布図です』

 

 

兆はあるナノマシンでも足りんってどーいうこった。

そんなことを思いながら、氷の防壁を分布図に記されたポイントに出現させる。

スーツの補助機能があるから、ズレもない。

 

 

『また、一定以上の実力を誇るプロヒーロー等は、保護対象としてカウントしてません。

重傷者はその限りではありませんが』

『そら戦力削る訳にゃいかんだろ…!!』

 

 

簡易メドローア…そろそろオリジナリティある名前をつけなければ…を放ち、目の前の肉塊を消し飛ばす。

人の形をしてるが、「生命」とは決して呼べない。

ただ、人工個性が作り出してる『肉の塊』でしかなかった。

スーツ越しから見ると、相手のバイタルを計測してくれる機能が搭載してある。

ソレが示すのだ。

『目の前の存在には、血は通ってない。ただの肉の塊だ』と。

 

 

『っ、ば…んんっ、そっちは今どうだ!?』

 

 

爆豪と叫びそうになったが、なんとか誤魔化し、彼と通信を繋ぐ。

 

 

『うっせェぞォ!!余裕ねェから話しかけんなブッ殺すぞ!!!』

 

 

が。状況確認も出来ずに、爆豪は通信を切ってしまった。

俺たちの中でもピカイチの実力を誇るアイツに、余裕がない。

即ち、かなり厄介な敵…恐らくはこの肉塊の司令塔だろう存在を相手にしてるのだろう。

 

 

『待ってろ、今…』

 

 

と、俺が駆け出そうとした、まさにその時だった。

 

 

「と…っ、そこのあなた!!そこから十メートル離れなさい!今!!すぐ!!!」

 

 

奥さんの焦った声が響いたのは。

俺は反射的に炎による推進力で、その場を一瞬にして離れる。

刹那。俺の立っていた地面から、形容し難いバケモノが突き出たのは。

 

 

「……死、ィ「殺、ろろろろろろ「おいで、ぇ、こっ、ここっ、ちちちちち「あは、はははははははははっっっ!!!!」

 

 

四つん這いで地を這う、人型のソレ。

ソレを構成しているのは、人型の肉塊たち。

よく見れば、昼間に会った外国人が大多数を占めている。

嬌声にも、悲鳴にも似た笑い声を上げながら、バケモノは瞳を全て俺たちに向けた。

 

 

「…こんなの、前から使ってたかしら?

少なくとも、2ヶ月前は見なかったわ」

『その疑問は、後で考えましょう。今は、コイツを倒すことが先決です』

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

『おい、バカコウ!!何が「任せろ」だ!!保護できてないじゃないか!!』

「仕方ないでしょ。見つける前に防壁作動しちゃったんですから」

 

 

防壁の中。

僕らはキツい体勢…主に音街さんとついなちゃんの髪のボリュームのせい…で、葵さんの怒号を流す。

切島くんたちを保護すると言った手前、その直後にこんな事態に陥ったのだ。

正直、浮遊大陸に全員ご招待した方が早い気がする。

が。緑谷くん曰く「転送装置がオーバーヒート起こしてドカンするからダメ」だそうだ。

 

 

「プロヒーローはどうですか?」

『だいぶ奮闘してる。

…が、オールマイトは別格だな。粉砕っていう言い方がしっくりくる』

「生物学論文で『オールマイトから推測する人類の進化』なんてものもありますからね」

『知ってる。ってか書いたの私だ』

 

 

あの論文は、テーマこそ老害に馬鹿馬鹿しいと一蹴されるようなものだったが、完成度にしては中々高かった。

それこそ、論文検索サイトを評価順で見れば、最初らへんに出てくるくらいには。

まぁ、その話を得意げに書いた本人の前でするなんてことはしないが。

 

 

『…中和ガスの完成は後2分。ソレまで耐え…れる状況か、これは?』

「耐えるやろ。国を敵にまわしても、ヒーローになろうとする人らの集まりなんやから」

「バクゴーさんに限らず、皆死ぬほど負けず嫌いだから、意地でも勝とうとすると思う」

 

 

子供達に信頼されてるな。

緑谷くんのお母さんも疑ってないのか、特に動じることもなく、リュックから飲み物を取りだす。

 

 

「喉乾いたでしょ。何飲む?」

「カルピスー!」

「緑茶ー!」

「君ら死ぬかもしれないのに呑気ですよね」

『いや、お前も大概だからな?』

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…眩しいくらい、強い。

お父さん、言ってた。お星様。

きらきら光るの。他の人すらも巻き込んで、燃え盛りながら、光るの」

『お星様じゃねェ、ヒーローだっての!!』

 

 

噴射速度の上がった爆破で激しく回転し、肉塊の壁を吹き飛ばす。

アーミーと名乗った女を気絶させるべく、俺の掌が彼女に迫る。

が。その距離は、再び肉塊によって引き離されることになった。

 

 

『ッソ、数が多い!!!』

 

 

一人一人の質は、正直言ってクソ低い。

だというのに、ソレを完全に補える程にアホみてェに数が多すぎる。

こっちが気軽に範囲攻撃できないことを知っているのだろう、随分といやらしい戦法だ。

泣き言というわけではないが、どうしても思ってしまう。

無尽蔵に増える肉塊を吹き飛ばしていると、轟から通信が入った。

 

 

『ば…んんっ、そっちは今どうだ!?!?』

『うっせェぞォ!!余裕ねェから話しかけんなブッ殺すぞ!!!』

 

 

指先の汗腺が痛んできた。癖になってしまって、指先からの爆破を飛ばしすぎた。

その痛みと余裕のなさを簡易的に伝え、通信を切る。

もう少し、バランス良く鍛えなければならなかった。

個性に関しては、自分の発想力と知識を応用…つまりは独学で鍛えるしかない。

今更の後悔だが、自分を殺したいほどに、自分自身に腹が立つ…!!

 

 

「…熱い。お星様、燃えてる。すっごく、熱く、眩しく、自分さえも焼き尽くすほど…」

『軍隊ごと焼いてやるから死なねェ程度にくたばりやがれ!!!』

 

 

そう叫びながら爆破を放つ。

肉塊の壁に防がれるのは目に見えてるため、最低限の威力と、できるだけ広範囲の攻撃に、間髪入れずに高威力狭範囲の爆破を叩き込んだ。

女はそれを読めなかったのだろう。

肉塊の壁で広範囲の攻撃を防ぐも、続く攻撃が肉塊を貫通し、女へと襲いかかる。

 

 

「っ、危なかった」

 

 

しかし、その攻撃は女の毛先を焦がすだけに留まった。

 

 

「もっと、もっと強く輝いて。私はこの程度じゃ、燃え尽きない」

『俺はトップヒーローになる男だぞ…?この程度で収まるわけねェだろ…!!!!』

 

 

自分を鼓舞するように、痛む汗腺から爆破を放った。




その頃、オールマイトは苦戦するプロヒーロー達を助けてます。大体ワンパンです。

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