そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


爆豪勝己、片鱗目覚める

『モード:へーパイストス!!』

 

 

ミラーの持つ兵器をハッキング、もしくは破壊する電磁波と超音波を放つ。

モード:へーパイストス。シリウスに付け足した機能…『モードチェンジ』の一つ。

ある程度の兵装を無力化させる電磁波と超音波を放つと同時に、想像した武装をナノマシンで顕現できる能力を誇る。

無力化できる兵装には、僕が理解してるものでなければならない。

また、艦などの巨大なものは無力化できないという制約があるが、そこはどうでもいい。

問題は、彼女の持ってる兵器。

 

 

「…電磁波と超音波を『増やす』」

 

 

くそっ、ジャミングが無効化された!

同じ電磁波と超音波を完璧なタイミングでぶつけ合うことで、打ち消された。

ミラーはその隙にとばかりに、持っている兵器の引き金を引いた。

 

 

「光が集えば、炎となる」

 

 

放たれるのは、凄まじいエネルギーの奔流。

僕がフォーマルハウトに搭載したモノを小型化…見たところ、エネルギー炉はイズクジェネレーターではない…したものだった。

それが、360度あらゆる方向から放たれる。

僕は慌てて盾を複数生み出し、光の奔流…つまりはレーザーを受け止める。

余波で部屋が融解している。

彼女が増やした存在も、大多数が割れて消えていたが、本体となる彼女だけは無傷だった。

 

 

「たくさんの私が庇ってくれるの。たくさんの壁が守ってくれるの。

だって、無限に増えるんだから」

 

 

ミラーは言うと、ケタケタと笑いながら、踊りを披露する。

生後三日だとは到底思えない不気味さだ。

恐らくは、フィクサーによって『悪意』を刷り込まれてる可能性がある。

あかりさんは、幸いにも『悪意』を刷り込まれることなく、良くも悪くも普通に育った。

だから、初めて会った時、あんなにも疲れていた。

目の前にいる存在は、もう一人のあかりさんと言ってもいい。

 

 

『……なんで、そうも笑える?』

 

 

ふと、疑問を声に出す。

彼女に聞いたわけではない、その言葉。

僕にとって、笑顔というのは特別だった。

僕が作ってきた、僕のスーツの頭部。

マスク部分には決まって、「笑顔を浮かべている」ように見えるようなデザインとなっている。

理由は、オールマイトへの憧れ。

彼はいつだって、怖いもの知らずだと周りに示すかのような笑顔で戦っている。

笑顔は「自分を鼓舞するモノ」だって、幼い頃からずっと心に刻み続けてきた。

 

このような、邪気あふれる笑顔が、どうしても許せなかった。

かっちゃんが小学校の頃、僕をいじめていた頃、浮かべていた笑顔が許せなかった。

今でも思い出す、小学校一年生の時。

僕は一度だけ、問題を起こしたことがある。

 

 

ーーーーーーどーだ!!おれがいっちゃ…。

 

ーーーーーーっ、がぁぁぁぁあああっっ!!

 

 

かっちゃんの顔面を思いっきり殴った。

原因は…もはや言うまでもないが、言っておこう。

かっちゃんが僕をいじめる時に浮かべた笑顔が許せなくて、馬乗りになって殴った。

僕からの反撃が意外だったのか、かっちゃんは反撃できずに痛みに泣いていた。

その後、先生と両親にめちゃくちゃ叱られたことだけは覚えてる。

かっちゃんの顔面からガーゼが剥がれたのは、それから三日も経った後だったことも。

そこから段々といじめがエスカレートして、二年の頃の授業で収まりを見せたのだ。

 

 

…我ながら嫌なことを思い出した。

現在では話のネタとして二人で語るくらいには割り切ってるが、嫌な思い出には変わりない。

 

閑話休題。その呟きが耳に入ったのだろう、ミラーは僕の疑問に答える。

 

 

「嬉しいからだよ?」

 

 

その返答は、予想だにしないものだった。

楽しい、とか、せいせいする、といった感情なら、幾度か見てきた。

しかし、そんな中で「嬉しい」と表現したのは、彼女が初めてだった。

 

 

「私ね、パパの役に立てることが、すっごく嬉しいの」

 

ーーーーーーだって、子供は親に尽くすものだから。

 

 

幼い。見た目とは違い、あまりにも幼い悪意が、僕に牙を剥く。

…相手は幼い子供。それなら、スペシャリストがいる。

 

 

『……物分かり悪い子供を言葉でねじ伏せるって、出来ます?』

 

 

スペシャリスト…先生からの言葉は、ある意味先生らしい言葉だった。

 

 

『そのくらい自分でしなさい。とっくの昔に教えたでしょうに』

『…ですよね』

 

 

突き放された。これは横着した僕が悪い。

相手を説得するなんて、あかりさんの時以来だろうか。

 

 

「どうしたの?急にブツブツ言って。仲間に相談?しても無駄だと思うよ?」

 

 

そんなことを思いながら、僕はレーザーや弾丸を撃ち落とし、口を開いた。

 

 

『いちご味を知ってるか?』

 

「……………………………………は?」

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

『奥さん。一つ言わせて欲しい。アンタ絶対手加減してるだろ!?!?!?』

「あら、今更気づいたの?」

 

 

再生するバケモノを前に、俺はナイフを手で遊ばせる奥さんに怒号を放つ。

2ヶ月も相手したんだ。いやでもわかる。

俺らと組手やる時よりも、あからさまに手加減してた。

具体的に言うと、彼女はただ動き回って、自分に来る攻撃をいなしているだけだ。

 

 

「来年の夏休み、アンタたちを敵性国家に二週間合宿に連れてくつもりなんだから、これくらい軽くやっつけなさい」

『ごめんアンタとんでもない爆弾発言しなかった!?!?!?』

 

 

悲報。来年の夏休み、地獄確定。

比較的感覚が壊れてない麗日に言ったら、血涙流しながら「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁじゃぁぁぁぁぁぁあああああっっっっっっっ!!!!」って叫びそうだ。

この人のことだから、死ぬ気で頑張ればギリ死なない程度に過酷なとこ選ぶんだろうな。

思考を逸らすことで無理に余裕を作り、バケモノの攻撃を氷で逸らす。

 

 

「けひひけひけひけひ「み、みみみ、ちちちちっちづりぇえええぇっ「死のっ、死ののののののっ、死「こ、す、ろすすすすすすすすす「っ!!!!」

『残念だったな!生憎俺は500歳で老衰で死ぬ予定だ!!』

「平均寿命って知ってる?」

 

 

500歳で老衰は、ちょっと欲張りすぎたかなって俺も思う。

256歳の人間も居たんだ。せめてそのくらいは生きて、家族に囲まれながら安らかに死にたいって願望がある。

生涯現役でヒーローもやる予定だ。

そのためにも、こんなところで死んでたまるか。

 

 

『弾を調整してる暇が無ェ…。

大きめに作れば、この肉ん中に埋まってる防壁ごと消し飛ばしちまう…!!』

 

 

爆豪がバランスよく攻撃できるが火力に欠けるタイプなら、俺は火力には事欠かないが、細かい調節ができないタイプだ。

この状況に最適な大きさの弾を作れるほど、まだ俺はメドローアもどきをコントロールできてない。

目の前で衝動が赴くままに俺たちに襲いかかるバケモノに、どうやって引導を渡すか。

急激に劣化させて崩れさせる?

ダメだ。それを嘲笑うように再生したのを忘れるほど、俺は間抜けな頭をしてない。

芯まで凍らせて叩き割るか?

…無理だな。さっき体液を放射されたせいで、氷が脆くなって脱出された。完全に凍らせるタイミングも理解されてる。

焼き尽くすか?

それこそ無理だ。再生されるせいでまともに効かない。振り切られて終わる。

 

 

「どう?攻略するって、楽しくない?」

『轟家は全員漏れなくムリゲーをやり込むタイプだ…!この程度なんざ、ムリゲーの内に入らねェよ…!!』

 

大丈夫。やりようはある。

俺はマスクの下で笑みを浮かべた。

それを合図に、バケモノが地面から、身体から幾つもの槍を突き出す。

俺はそれを避けながら、狙うべきポイントを確認する。

 

 

『ちょっとの隙を与えるには、ちっとやりすぎな気もするが…』

 

 

一部だけを一気に削り取るから、隙もほとんど生まれないのだ。

であれば、『一部を攻撃して隙を与える』だけでいい。

無論、視覚を奪う訳ではない。さっき試したが、無理だった。

なら、『めちゃくちゃ痛い攻撃』をやるだけだ。

 

 

『俺の個性は、厳密には「分子運動を操作する」…らしい。

「体を流れる血液を沸騰させる」って、どうなるんだろォな?』

 

 

瞬間。バケモノの体が異常に膨れ上がった。

 

 

「「「ああああああああつつつつつつつついいいいいいいいよよよよよよよよぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっっっ!?!?!?

ぎっ、ぎぎぎぎごっ、ぶびゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああっっっっっ!?!?!?」」」

 

 

本来なら死ぬが、殺しても死なないヤツ相手なら加減無用だ。

金切声の大合唱に耳を塞ぎかけるが、そんなことをしてたらすぐに再生される。

俺は仕込みを完了させると、再生したやつを挑発する。

 

 

『ほら。槍も個性も効かねェんだ。直接殴って殺してみろよ』

 

 

攻めあぐねてたのは相手も同じ。

先程のダメージと俺の煽りで、焦燥感が頂点まで到達したのだろう。

バケモノは形容し難い叫び声をあげ、唾をそこら中に撒き散らしながら、俺へと迫る。

タイミングを見計らって、俺は仕込みを作動させた。

 

 

『コキュートス・ピラー!!』

「「「ぺっ」」」

 

 

瞬間。俺が空中にばら撒いていた装置から突き出た氷の柱が、バケモノをバラバラに引き裂いた。

肉塊がくっ付く前に、俺はサイコロ状になったソレを目で捉え、氷結を発動させる。

 

 

「な、「なぜぜぜぜ?「こ、んんんな、「われら「まけ「?」

『さぁな』

 

 

一塊になって凍ったソレを掴み、俺は天へと投げる。

そして、ソイツ以外何もない上空に向けて、俺は消滅弾を放った。

 

 

「「「死っ」」」

 

 

断末魔までソレかよ。

バケモノとは言え、ここまで生物として終わってると、流石に同情する。

 

 

「…殺しちゃって良かったのかしら?」

『アレは一部だ。本体を止めねェ限り、そのうち復活するだろォよ。

見たとこ、ここにしか来てねェ。作るのに手間かかるらしい』

 

 

つまり、無尽蔵って訳じゃない。

人が使う人工個性に『無限』は存在しない…というわけか。

っと、そんなことを考えてる暇はないな。

さっさとこの本体を倒さないと、さっきのバケモノが量産されてしまう。

 

 

『俺は爆豪ンとこ行って、援護してくる。

奥さんはFlowerの援護を頼む。あそこだけ反応が随分と多い』

「わかったわ」

 

 

俺が奥さんにそう頼んだ瞬間だった。

 

 

爆豪が居るあたりから、『太陽』が見えたのは。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「……つまんない」

『ポコポコ産みすぎなんだよテメェは…!繁殖期のマンボウか…!!??』

 

 

既に億は殺した。

殺した…とは言っても、人型の肉塊を破壊した数だ。

どうやらこの肉塊からは、ほぼ無尽蔵と言ってもいいほどにポコポコ人型が出る。

汗を無理に出してるせいで、汗腺が痛ェ。眩暈もしてきた。

激痛を堪え、こちらへと駆け出す肉どもを纏めてこんがり焼く。

…これで左手の汗が尽きた。水分不足で汗が分泌されなくなってきてる。

炭化して不味そォだな、と無理に思考に余裕を持たせ、女へと近づく。

 

 

「あなたは、お星さま。お星さまは、ひっそりと、誰にも知られず、消えていく」

 

 

女の合図と共に、肉塊が隆起する。

俺を飲み込もうと迫るソレを、間を縫うようにして避け、女に爆破をお見舞いしようとした、その時だった。

 

 

「かぱっ」

『うぉっ!?!?』

 

 

女の体が裂け、クリオネみたいに俺の左腕に食らいついた。

スーツがある手前、消化も食いちぎられることもなかったが、女の体が肉と一体化し、俺を飲み込もうとしてくる。

左掌を爆破させようにも、水分がとっくに限界を迎えてる。

くそっ。吐き気が…!!

デクに「水分補給の機能つけとけ」って言っときゃ良かった。

 

 

「わかるよ。わかる。水分不足で限界なんだよね?お星さまみたいに、ゆっくり、死ね」

『……っ、ざっ、けんな……!!!』

 

 

脱水症状のせいで、目が霞む。

そもそも個性による水分不足が起きるなんて、想定してなかった。

汗腺の耐久度が上がりバカスカ撃てる代わりに、消耗に気づきにくいのが難点か。

まずい、まずい、まずい。

音が掠れてきた。舌もいつもより大きく感じる。

脱水症状が重症化してる。このままじゃ…。

 

 

「大丈夫だよ。あなたがいなくても、お星さまはまだいるから」

 

 

瞬間。あの言葉が聞こえた。

 

 

ーーーーーー俺が、最高のヒーローだ。

 

 

『……………っっ、まだ、負けてねェぞォ…ゴラァァァァァァァァアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!』

 

 

瞬間。俺の体から熱が放射される。

ごっそりと力が抜けたような感覚を堪え、俺は手に力を込めた。

 

 

『ハイパァアアアアアアァァァァァアアアアアアッッッッ!!!!ノッッッッ……ヴァァアアアアアアァァァァァアアアアアアァアアアアアアッッッッ!!!!!!』

 

 

刹那。俺を中心に、大爆発が起きた。




ハイパーノヴァはスーツの機能一切使用してません。

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