そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


その生き様が、何かを救う

『……随分と無様な姿になったなァ。

手負だろォが関係ねェ。リベンジに来たぜ、絶対悪』

 

爆炎が払われ、その影が顕になる。

爆破という現象そのものが形になったような鎧に、悪を威嚇する明王が如き羽衣。

朝日と共に立つその姿は、太陽の化身さながらであった。

 

「……僕は、知らない…。

君がここまで『至る』なんて、今まで見たことも、聞いたこともない…!!」

『海水浴が好きみてェだなァ。冬場に海に入って冷てェだろ?

あっためついでに釜茹でにしてやらァ!!』

 

恐らくかっちゃんなのだろう。

彼が叩きつけるように海水に手を突っ込んだ瞬間、海は赤く染まり、沸き立つ。

急激な温度の変化に耐えきれず、フィクサーは赤く爛れた皮膚を庇うようにして、海水から出た。

 

『逃すかよ。「ソル・ノヴァ」』

「がぁあっ!?」

 

新しき太陽。

かっちゃんがその名を告げると、太陽がフィクサーの身を焼き尽くす。爆発というにはあまりにも圧倒的な暴威。

明王は炎を背負ったそうだが、目の前の幼馴染は、太陽そのものを背負っている。

ああ、そうだ。この眩しさだ。

 

「……、暴走、して、いない…?理性を保ってる…?何故だ、何故…?」

『そこらの有象無象と一緒にすンな。

俺ァ、世界を背負うヒーローになる男だぞ。テメェがテメェに溺れっかよ』

 

トップヒーローたちでさえも、有象無象呼ばわりか。強がりもここまでいくと、いっそ清々しい気分だ。

どこまでも傲慢不遜で、救いようのない程の自信家で。だけど、自分の限界に怒り、それを何度でも超えていく。

この姿を、僕は追いかけていたんだっけ。なんで忘れていたのだろう。忘れちゃいけないことだったのに。

僕の心に余裕が戻っていく。何を焦っていたんだ。

 

彼が目の前の理不尽に容易く踏み潰されるほど、小さな男じゃないことなんて、とっくの昔に知っていたのに。

 

『オラ、なにボサッとしてンだ。その図体は飾りかアホ』

『…そんなわけないでしょ』

 

こつん、と拳を合わせる。

こうして隣に立っている彼が、なによりも頼もしい。

かっちゃんは思い出したように、オールマイトの方を見て、口を開く。

 

『オールマイトか。初めて生で見たわ』

「……SAVERのなか」

『コイツの付属品みてェに言うないくらアンタでも殺すぞ。俺ァ「ばくさ』

『DYNAMITEだ』

『勝手に決めんなやクソが殺すぞ!!』

『殴らないでよ。スーツ越しでも痛い』

 

かっちゃんのことだ。爆殺王とか名乗るつもりだったのだろう。というか、どの世界線のかっちゃんでも名乗る気がする。

技名はまともなクセして、他が壊滅的なんだよな。…僕がコレを指摘すると、頭蓋骨を叩き割らんばかりのデカさを誇るブーメラン…もといかっちゃんの更なる鉄拳が返ってくるため、口には出さないが。

かっちゃんは僕を一発殴って気が済んだのか、肉薄したフィクサーに向けて、再び太陽を創り出した。

 

「がっ…!?」

『おいおい、前に比べて間合い管理がクソ甘ェなァ。

テメェ、フィクサーじゃねェな?』

「っ………!!」

 

消えゆく太陽から、焦げた人型の胸ぐらを掴んで引っ張り出す。

フィクサーじゃない…?であれば、僕の攻撃を直撃から免れてきたあの手際は、一体何だというのか。

オールマイトもかっちゃんの言葉に目を剥き、フィクサーをまじまじと見る。

 

『かっ…、 DYNAMITE。本当か?』

『思い出してみろや。俺らが「天災」になったくらいで、倒せるくれェ弱かったかァ?』

 

…成る程。あの余裕のなさは、本物ではないからか。

胸ぐらを掴まれたフィクサーはというと、何事かをブツブツと呟きながら、かっちゃんの手を振り払った。

 

「…誤算も誤算、大誤算だ…。彼がここまで至るなんて想定外にも程があるし、なにより経歴が異質すぎる…。日本に…、『彼』の周りには絶対に手出しはしないと決めていたヤツが手を出し始めたのも鎌倉山が割れたあの日からだ…。何なんだ…?何なんだ、このイレギュラーの多さは…!?そもそも、『彼』が科学をヤツを超えてしまうまでに極めていることだって…、いや、『彼ら』がここまで立ち上がって進むこと自体がイレギュラーなんだ…!!誰だ…!?一体全体、誰が『彼ら』を手引きしている…!?」

 

『……なんか、テメェみてェなパニくり方してんな、アイツ。気色悪ィ』

『…「あの人」の話題って…さ。その、絶対に今後出さないほうがいいよね?』

『頭良いならもォ分かってンだろ態々聞くなやタコ』

 

手引きって言うより、背中をちょっと押してもらっただけなんだけど。…あなたの教育は、世界を震撼させる敵をもが、舌を巻く結果を運んできたようです、先生。

本人に言えばストレスによってその場で圧死しそうなので、そっと胸にしまっておこう。ついでにそのまま墓場に持っていこう。

先生を示唆する会話は今後控える、と二人して頷くや否や。

偽物のフィクサーの袖口から放たれた光の奔流が、僕らを飲み込もうと迫った。

 

『グングニル』

『ソル・ノヴァ・ハスタ』

 

雷と太陽の矛が、光条を貫く。

光が雨のように舞い散る中、僕たちは呆然とする偽物のフィクサーを睨め付けた。

 

『悪よ、退け。僕がヒーローだ』

『お天道様が赦しても、俺の正義が赦さねェ』

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

太陽と雷が世界を隔絶し、全てを拒絶する外で。俺と麗日、そして合流した紲星は立ち往生する他なく、ただソレを見守るだけのカカシになっていた。

プロヒーローらがこちらに来るのがちらほら見えるが、どいつもコイツも近づけないと分かった途端に引き返していく。俺も引き返そうかと迷ったが、あの二人のことだ。戦った後に気絶して水底に沈んでもおかしくない。

 

「…あの中に突っ込む勇気ある人ー?」

「それ勇気ちゃう。無鉄砲や」

「死にたかったらどうぞ」

「だよな」

 

流石にこの装備でもタダでは済まないか。

本気で周りが見えてないな、アイツら。一度熱中すると周囲のことに構わず暴れるのは悪い癖だと怒られたばかりだと言うのに。

帰ったらまた説教食らうな、と思いつつ、隔たれた世界へと目を向ける。

…連携が巧い。幼馴染として、いつも近くにいたからだろうか。言葉を交わさずとも、何をするか、どう動くか分かっている動きだ。

爆豪は兎に角、緑谷は俺らン中で1番身体が出来上がってない。あんな動きをすれば、全身の骨はひしゃげ、内臓はいくつか傷つくだろう。それだけでなく、雷の副作用で肌が焦げると言う、自分への負担を完全無視した装備なのだ。

それで苦悶の声ひとつあげないとは、緑谷らしい。

戦慄にも似た感心を抱いていると、何度目かの通信が入った。

 

『轟先輩、一大事です』

「………今度はなんだ?爆豪と戦った奴が逃げ出したとかか?」

『あ、惜しい。逃げ出したってより、暴走してi・アイランドを出たって言うか…、完全にバケモンになってたって言うか…』

 

と。東北のまごつく言葉の先を聞く暇もなく、俺は視界の端にあるものを見つけた。

 

「…………なあ、おい。あの影…、すごーく見覚えがあンだが?」

『あ、はい。キュリオスのアレと同じヤツですね。多分、数倍凶暴でいて強い』

 

波荒れ狂う海に潜む、巨大な影。

それが海を持ち上げ、その姿を現すのを前に、俺は二人に視線を向けた。

 

『…サナイ、ゆる、サ、N@イ…!!』

『否定スルな…!!私たちを、否定、するなァァァァ…!!』

「何がなんでも、二人の邪魔させんなよ。とばっちりで太平洋が干上がるぞ」

「………いや、デカ過ぎん?」

 

海から飛び出した巨体を前に、麗日の口元が引き攣る。町一つを覆い尽くしたキュリオスの時よりも、二、三倍は巨大だ。コレを爆豪と緑谷抜きでなんとかしろなんて、クソゲーにも程がある。

 

「未来じゃ一回り小さい方です。それこそ羽虫のようにあちこちで見ますよ、アイツ」

「この時代に産んでくれてありがとう、お母ちゃん」

「麗日、しっかりしろ。俺らが相手してんのはアレを何匹も作れるバケモンだぞ」

「そうやった…」

 

未来にはうじゃうじゃ居るのか、アレ。…戦時中だもんな。そりゃあ居るか。

…俺もアイツらに習って、決め台詞の一つや二つ言ってみようか。

 

「俺の『矛盾』が、お前の悪をブチ壊す」

「宇宙に轟くウチの拳が、アンタを裁く星の名や」

「平和な未来は、その残穢すら赦さない」

 

…ノせてきやがった。前々から考えてたんだな、と思いつつ、それぞれ臨戦態勢に入る。

海すら覆い尽くそうとする二つの影の背に、太陽が炸裂する。

 

『『ああAあ@アっ!!ニくい、ニクいにクい憎い憎い憎イ!!あの太陽ノ輝キがァァァァァアアアアアア消してやる消してやる消してやるゥゥゥゥゥウウウ一片たりとも残さずこの世から消してやるゥゥゥゥゥアァァォォォォォォオオオッッッ!!!!!』』

 

癇癪を起こした子供のような、悲しみや悔しさ、怒りが入り乱れた咆哮が太陽の残穢を薙ぎ払い、闇が垣間見える空を取り戻す。

爆豪と緑谷に、余程酷くやられたのだろう。プロヒーローたちをも歯牙にかけず、ただ真っ直ぐにアイツらへと向かっていく。それだけで波が荒れ狂い、転覆する船すら出てきそうだ。

流石にそんな状況を放置して逸楽に浸る趣味はないが、俺にはどうすることもできない。

麗日や紲星に頼もうにも、プロヒーローがこぞってあのバケモノに立ち向かおうとしてる時点で、それも難しい。定点攻撃は、あそこまでの巨体になると、急所に当てなければまず無意味だ。

かといって、下手に放置もできない。これ以上緑谷たちに負担をかければ、間違いなく太平洋が消し飛ぶ。

 

「さーて、決め台詞言ってみたものの、どーしたモンか」

「考えナシやったん!?」

「違ェよ、取れる選択肢が一つも浮かばねェほどに少ねェんだ」

「…未来だったら、なりふり構わずまとめて吹き飛ばすんですけどねぇ」

「俺も泥花じゃそォしたんだが、今の状況だと絶対に犠牲者が出るから無理だな。…あと、単純にデカ過ぎる。半分も削れないだろ」

「……大陸ごと吹っ飛ばしていいなら、私がやるんですけどねぇ」

 

俺たちがそんなことを考えていると、ふと、月明かりが何かに反射されるのが見えた。

何か、嫌な予感がする。プロヒーローがバケモノにデカい一撃を喰らわせようと、光を溜め始める。

同時に、彼の目の前に、あの光を反射する物体が集まりつつあった。

 

「やめっ…」

 

俺が制止すべく声を張り上げるも、既に遅すぎた。放たれた光が、真っ直ぐに化け物へと向かっていく。

 

同時に、その光と同等のソレが、四方八方から船に目掛けて放たれた。

 

原理はなんとなくわかったが、出鱈目もここまでいくといっそ笑いが込み上げてくる。いや、笑ってる場合じゃない。あのままだと、船ごと消し炭になる。

俺は船を覆い包むように氷を発生させ、光を防ぐ。と、バケモノがその歪な四つの瞳を、こちらへと向けた。

 

『『邪魔、邪魔、邪魔ァァァァ…!!光、光ィ…、あの星が、憎いィイイイ…!!』』

 

どうやら、完全にターゲットとして認識されたようだ。それと同時に、プロヒーローたちの視線が一斉にこちらに集まるのを感じる。

咄嗟に氷を使ってしまったが、どうやって個性を誤魔化そうか。

 

「き、キズナだ!!キズナが仲間を引き連れて来たぞ!!」

「くそっ、こんな時に…!!」

 

最悪の誤解されてる。

いや、世間的にはコイツ敵だから、誤解でもなんでもないんだが。SAVERとセットって考えてる輩もチラホラいるが、今の状況だと緑谷は横から参戦なんて出来るわけがない。

プロヒーローがどちらを優先すべきかを討論する間にも、バケモノの体表を光を反射する物体…鏡が覆い尽くす。

…さっきの光景を見るに、おそらく粗方の攻撃を増幅して反撃してくるのだろう。俺のメドローア擬きで漸くダメージが通るくらいじゃなかろうか。

 

『お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん…?お姉ちゃん…、待って…、待ってよ…、置いていかないでよぉ…』

『姉さん…、姉さん…、なんで、なんでそっちにいるの…?そんな忌々しい光の中へなんて行かないで…』

 

最悪のカミングアウトが、最悪のタイミングで放たれた。

プロヒーローの一部が絶望に顔を歪め、一部が忌々しげに紲星とバケモノを睨む。状況がややこし過ぎる。

俺たちに向けて放たれる鏡のかけらを避けながら、麗日が俺に通信を送ってきた。

 

『いやマジでどうするん!?ウチら下手に動けんのやけど!?』

『うるせェ、通信で叫ぶな。…転移装置で送り返してェトコだが、浮遊監獄か浮遊大陸にしか送れねーって緑谷が言ってたな…。

プロヒーロー、まとめて監獄に送り込むか?アソコなら催眠ガスもあるし、邪魔されねーだろ』

 

プロヒーローがやけを起こしたのか、それとも勇気によって奮い立ったのか、果敢にバケモノや紲星へと向かっていく。

紲星はあしらい慣れてるから加減はするだろうが、前者は別だ。最悪、死者が出る。

俺の提案を聞いてか、東北からも通信が入った。

 

『名案って言いたいですけど、ビーコンなきゃ無理な』

『だいじょーぶだよー!!』

 

と。ヒメが元気よく東北の言葉を遮る。

俺がその言葉の意味を理解する暇もなく、空から梅の花吹雪が舞い降りた。

プロヒーローたちがソレに訝しげな表情を浮かべる暇もなく、その姿が花が織りなす嵐の中へと消えていく。やがて嵐が収まると、船は一隻残らず消えていた。

 

『あ、転送できました。ヒメちゃんたち、こんなこと出来たんですね』

『…と言っても、葵さんが研究してた個性因子のデータを私が無理矢理頭に詰め込んだだけだからねー…。多分、もう出来ない…。

ヒメは提案者のくせして爆睡してたから、微塵も理解してないと思うけど…』

「いや、助かった。これで容赦しなくて済む」

 

あとでご褒美でも買ってやるか。…何がいいかは、本人たちに聞くとしよう。

そんなことを考えながら、掌に全意識を集中させ、力を練り上げる。範囲攻撃が可能になった今、手加減する必要は一切ない。

力は混ざり合い、掌の中にあらゆるものを消し飛ばす『矛盾』が生まれる。

…ただ、手加減せずに放ったところで、全部消し飛ばせるかと言えば、それは別問題である。せいぜい、半分が限界だろう。

麗日たちもそれが分かっているのか、俺に視線を向けた。

 

「…麗日。俺がブッパした後傷口に爆弾投げ込むとか出来るか?」

「考えることがエグいわ…。装備の中に爆弾があったし、いけるで」

「私は何すればいいですか?あ、攻撃だと加減できずに巻き込むので、ソレ以外で」

「わーってるよ。いつも通り、サポートに回ってくれ。具体的には流れ弾の処理頼む」

「はーい」

 

泥花市の破壊は…正直、爽快感のかけらもなかった。むしろ「ここまで壊して大丈夫なんだろうか」と心配になったほどだ。破壊は少なく済む方がずっといい。

そんなことを考えながら、俺は掌に生まれた『矛盾』を増幅させていく。

麗日たちも所定の位置に着いた。後は、この『矛盾』を更に大きくするだけだ。

その唸りを聞いてか、バケモノが俺に向けて鏡のかけらを散弾銃の如く放つ。直撃はしないものの、放たれた弾丸は霧散することなく、俺の周りに止まった。

先程の光景を見て、俺の技がコピーされないと思うほど、俺は馬鹿ではない。なら、どうするか。

 

「…緑谷に感謝、だな」

 

スーツの演算機能に任せる。本来であれば、攻撃がどう作用するか、被害を計算する機能なのだが、応用すれば相手がどうやって反射してくるかを計算することができる。

そして、鏡の性質上、そう難しい動きは出来ないことは、緑谷との交戦データと先程の反射で分かっている。

相手の知能面がほぼ死んでるのは幸いだ。

割り出した軌道に沿って、鏡が反応しきれない程の速度で移動し、限界を超えた『矛盾』を構える。

 

「いい加減、名前抜きじゃカッコ付かないんでな」

 

────『アブソリュート・パラドクス』。

 

究極の矛盾。

忌々しい父と、愛しい母から受け継いだ二つを合わせた俺の切り札であり、俺という存在の象徴たる技。

形容し難い力の嵐が、バケモノの体を包み込む。同時に、幾重もの鏡から同じ威力の嵐が放たれ、互いに打ち消し合う。

予測通り、こっちへの被害をゼロにできた。紲星の負担はこれで少しは減っただろうか。

 

『っ、ぐぅうう…!!退いて、退いてよ…、私を否定されたままで、このまま終わりたくないの…!!』

『まだ、まだ、まだ…、まだなの…!終われない…!!』

「…誰だってそォだろォがよ」

 

轟音が止むと、大きく抉れたバケモノの体躯が露わになる。

と。そこへ、凄まじい速度で飛来する流星群が着弾した。

 

「『ミィィィィィィティアァァア!!レイィィィィィィイイン』!!」

 

麗日が放つ流星群が、抉れた傷口を更に抉りにかかる。爆炎舞い散る傷口へと、麗日は投擲を繰り返しながら近づいていく。

その肩は、おそらく数回、壊れてる。決死の表情で肉塊を掘り進め、本体を引き摺り出そうとしているのだろう。ダメ押しにもう一発、と行きたいが、放てば確実に麗日に反射される。

なら、取れる選択肢はひとつだけ。

爆炎纏う舞姫の後ろ姿を、俺は全速力で追いかける。煙炎を切り裂き、風を薙ぎ払う。2ヶ月前の俺とは違う。体術だけじゃない。自分で何が出来るかも考えてきた。

爆豪たちと同じ場所に立てるとは思わねェ。なら、別の方法で並ぶだけだ。

 

「うっすらと…、『矛盾』を『纏う』…!」

 

これが、師匠に勝つために俺が編み出し、たどり着いた場所。スーツ越しじゃなきゃ、体がエネルギーに壊されるせいでマトモに使えたモンじゃないが、今なら使える。

全身の皮膚が喧嘩するように、引き裂くような痛みが駆け巡る。元々左右で分けられてたモンを無理矢理に一つに合わせているのだ。喧嘩しても仕方がない。それに、これより痛い思いなんざ、死ぬほどしてる。

 

「麗日…っ、まだっ…、やれるな!?」

「もぢ…っ、ろォん!!」

 

二人して喉が擦り潰れんばかりの咆哮を上げ、再生する肉塊を削り取っていく。

周りは紲星がカバーしてくれる。俺たちは、ただ一心不乱にこいつを削り切ることを考えればいい。

コイツの再生は、いつも傷口からだった。ならば、傷口から再生を超える速度で削っていけば、いつかは無くなる。

『二人の師匠』に扱かれた俺たちには、ソレが出来るだけの力はあるはず…いや、そんな確証なんていらない。意地でも削り取らなければ、コイツらは世界を害する。

 

『なぜ、なぜ、なぜ…、私を悪と言ってくれないの…?なぜ、誰も…、私を肯定してくれないの…?』

『お願いだから、一度でも…、私のことを、悪と認めて…。お父さんの娘なんだって、認めさせて…』

 

…成る程。矜持が緑谷たちにへし折られて暴走したのか。

息を吐き、吸い込む。削りながらでいい。

言葉を使え。俺たちがこれまでで見つけた生き方を、そのままぶつけてやれ。

 

「言葉一つで揺らいでる時点で、テメェらは何者でもねェ!!

そんな生半可な状態で、テメェらの何を肯定しろってんだァァアッッッ!!!!」

「お父さんお父さんって五月蝿いわ!!アンタの人生はアンタの人生やろォが!!!

自分の生き方くらい、自分で決めろやァァァァァアアアアアアッッッ!!!!」

 

最後の一撃が、バケモノを穿つ。

残った人影二つを受け止めると共に、雷纏う太陽が炸裂した。

 

「……ったく。ガキ共の説教は疲れるな」

「ウチらが言えた話か?」

「………いや。俺らもガキだったか」

 

雷纏う太陽が霧散すると、水平線の向こうから、眩い太陽が顔を出す。

太陽を背負い、絶対悪と対峙するアイツらに目を向ける。…まだ、遠いか。

 

「次は追いつこうな、麗日」

「ん」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

なんと眩しいのだろうか。

私は目の前の光景に心奪われ、ただの傍観者と化していた。

偽物とはいえ、フィクサーの名を冠する強大な存在。それを圧倒する、二人のヒーロー。

正確にはヒーローではないが、その在り方は、平和の象徴とまで呼ばれた私…オールマイトを惹きつけてならなかった。

 

「くそ…っ!お前たちは、何故…、なぜ、その力に溺れない…!!

何故、そこまで真っ直ぐに…!!」

『溺れてる暇はねェんだよ…!!

俺らが生きてるこの世界は、中途半端に強ェだけじゃ、力に酔うことどころか、少し立ち止まることすら許してくれねェ…!!』

『それだけで、誰かが涙を流す…!!

僕たちが築き上げてきたこの力は、その涙を拭うためにあるってことを、僕たちは知っているから…!!』

 

この二人ならば、もしかして。

苦悶の声ひとつあげず、無茶な動きを繰り返す彼らが、眩しく見える。

まるで、煌々と輝く恒星のように。世界を塗りつぶす黒を、光で染め上げていく。

 

『『だから、何度だろうと立ち上がって、前に進む!!全部背負って前に進むだけの強さは、とうの昔に仲間から貰っている!!』』

 

…そうか。私も、背負えばよかったのか。

偽物のフィクサーが、必死の形相で彼らに迫る。ソレに向けて、二人が叫ぶ。

 

『その強さがテメェ如きに砕けるかよ!!』

『その強さがお前如きに砕けるか!!』

 

太陽と雷が重なり合い、偽物のフィクサーを包み込む。

全てが終わる頃には、彼らは夜明けを背負っていた。




本編のちょっと後。

「コードネーム、俺『PARADOX』がいい」
「あ、ウチは『METEOR』」
「私は…もうキズナで決定してますね」
「………やっぱり俺ァ爆殺王の方がいいンだが」
「「「「却下」」」」
「何でだクソが!!!」
「ヒーローが『殺』とか入れちゃダメでしょうが」

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