そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。
予告通り、今回から感想返信再開します。


神器と『個性特異点』

「ボクの名前は純那…、んっと、ちょっと長いから、ずんだもんでいいのだ。

神弓『純那弓』に宿る精霊で、かれこれ一万年は生きてるのだ」

 

ジュースを飲みながら、自己紹介を終えるずんだもん。精霊と言うと、もっと厳かな雰囲気を纏うやんごとなき相手かと思ったが、見た目は完全にただの童女である。

切島くんがまじまじとその姿を見つめる傍ら、轟くんが緑谷くんに耳打ちする。

 

「精霊って、ヒメとミコトみてェに人工個性の一部ってこと、ないよな?」

「多分無いと…思いたい。

調べてみなきゃわからないけど…、その弓が手元にないんじゃあ…ねぇ」

 

「私たちも精霊!お揃いー!」と、ずんだもんを揉みくちゃにする鳴花姉妹を見やり、不安げな表情を浮かべる轟くん。

万年開花は緑谷くんのラボで保管しているから、暴走の危険性が皆無になっているが、ずんだもんの宿ると言う神器は別の話。

彼らからすれば、今すぐ持ち帰って保管し、研究したいだろう。万年開花の解析が頭打ちとなっているらしく、多少なりとも焦っていたのだから。

とはいえ、その神器が人工個性を宿しているかどうかといえば、確証を持って頷けるだけの材料がない。

 

「儀式は執り行うのですか、タコ姉様?」

「ん〜…。なんとも言えない状況ですが、済ませてしまいましょう。明日1番のバスに乗って蜻蛉返りしないと、あの色情魔が何をやるかわかりませんわ」

「それは怖いわな」

「あの舐めるような目つき…。私や麗日さん…あと、その子たちにも向いてたわよ」

 

…この子ら、見た目だけはいいもんなぁ。

女の比率が高いのも相まって、アレの目には獲物のように映っただろう。ただ、揃って一皮剥けば狂生物である。万が一にも手を出されることはないだろう。

加えて、子供たちに色目を向けたのは悪手と言わざるを得ない。それを聞いた爆豪くんの体が羽衣に、轟くんの体が熱と冷気に覆われ、麗日さんの髪が闘志で揺れ動き。切島くんが硬化した腕を真顔でカチ合わせ、果ては、緑谷くんも無言で端末を操作している。

つづみさんが「落ち着きなさい」と一喝したおかげで、即座に鎮まったが。

 

「あんな里長で、申し訳ない…。この里に住まう者として、非礼を詫びる」

「東北さんのお父さん、頭をあげてください。あなたが謝る必要はないですし」

 

東北さんのお父さん…随分と荘厳な見た目だが、私服が壊滅的にダサい…が頭を下げる。

母親は現在、屋敷の隠し部屋に隠れているらしく、儀式もそこで行うため、準備をしているとのこと。僕たちもそれに同席したいところではあるが、よくないものを引き寄せる可能性も否定できないため、あまり近づかない方がいいらしい。

念のために、緑谷くんに盗聴器やら隠しカメラの類が仕掛けられていないかを確認してもらうと、案の定ゴロゴロ出てきた。全部潰しておいたが。

 

「アレが里長になってから二十年…。この里はアレに振り回されてばかりいます。

ヒーローもこの里の排他的価値観に耐えきれず、五日で去っていくほど…。

…越していった娘たちがそういった偏見もなく、こうも立派に育っているとは、至らぬ自分を嘆くばかりです」

「子供って、案外自分で歩けるものなんですよ。教員になって六年…。今でも嫌と言うほど思い知ってます」

 

東北家は随分と懐の深い一族なのだな。

儀式の準備を手伝っている東北さんの祖父母も、僕たちを歓迎してくれたし。排他的側面があるとは思えないほどに居心地の良い里だと思うのだが。

…まぁ、短い間でそんな判断を下しても、なんら意味はないのだが。

 

「排他的って言う割には、結構みんな歓迎してくれますよね?」

「だよな。全然、そうは見えねーっつーか」

「それは一部の酔狂な者のみなのです。皆、余所者が来ると家に篭ってしまうので。

現に、それほど通行人がいるわけではなかったでしょう?」

 

…たしかに、見かけたのは雪かきをする夫婦が数組だけで、あとは誰も見ていない。

しかし、ずん子さんたちが覚えた違和感も気になる。酔狂な人間がいることは知っているだろうし…。

僕が思案に暮れているのを見透かしてか、東北さんの父親は、ふと思い出したように口を開いた。

 

「そういえば…、最近就任した副長が外からの人間の受け入れがスムーズに行くように、なにやら進めていましたな…。

その賜物なのかも知れません」

 

副長か。こんな限界集落に危機感を覚えて行動しているあたり、里長よりもはるかにマトモそうだ。

そんなことを考えながら、精霊…ずんだもんに目を向ける。

 

「…何故、この里の人間は神器を受け継ぐんですかね?」

「ふむ…。魔除けと…古い頃の記録になると、紀元前百数年前のものになりますが…。

『人々に異能目覚めし時、必ず来たる厄災を討つ神器』として受け継がれてますな」

 

…十中八九、個性特異点か。

余談だが、爆豪くんの体を検査したところ、「個性因子と細胞が融合してる。もはや爆豪勝己本人が『爆破』という個性そのもの」という結果が出てきたらしい。スーツの変貌に関しては、「個性の覚醒がイズクメタルに作用した」と聞いた。

週一で検査を受けている爆豪くんは、強大な力に飲み込まれることなく、ストイックに努力を続けてる。少し前は余計に調子に乗るだけだったのだろうが、人の成長というのは早いものだ。

 

話が逸れた。そんな逸話を持っている武具に宿る精霊が、この臆病な童女というわけか。

i・アイランドを危機から救ったこの子たちを見ると、随分と見劣りしてしまうな。

 

「まぁ、ほぼ風化しておりますが。

この伝承を知っているのは、もはや東北家のみでしょう」

「…東北さん、知ってました?」

「……遠い記憶でしか。静岡に越してからの方が長いし…、あと、インパクト強い記憶ばかりしかないので」

「……………たしかに」

 

インパクトに関しては、この子たち以上の存在はないんじゃなかろうか。

そんなことを思っていると、東北さんの母親が襖を開いた。

 

「儀式の準備が出来ましたわ。お客様には申し訳ないけど、少しの間私たちは外します。

数分程度で終わりますので、ごゆっくり」

「さ、行きましょう、ずんだもん」

「はいなのだ」

 

東北さんの母親に連れられ、ずんだもん含む東北家が席を外す。

残された僕たちはというと、恐らく一等星の中で最も好奇心旺盛なクソガキを抜いて、議論を煮詰めることにした。確実に猛抗議してくるだろうなぁ。

 

「さっきの伝承の『厄災』って、確実に個性特異点だろォな」

「ここにおるやん」

「制御出来てるっての。さっきの羽衣も、爆破せずに消したろォが」

「……なぁ、これ、紀元前からある伝承なんだろ?そんな昔から個性が世に出ることを予言してるって、怖くね?」

 

切島くんの言葉に、しん、と辺りが静まり返った。

 

「……か、完全に盲点だった…!!一体全体、過去の人間は何を知って個性に対する神器を作ったんだ…?それに、紀元前って言うと…万年開花もそうだ。あれは人工個性の原型だけど、暴走した時は轟くんを『個性』で判別していた…。過去の人間が、『個性』によって脅威が訪れると知っていたなら…」

「それも気になるが、問題はヒメたちを暴走させたやつだ。

この間の戦闘データで、影武者のフィクサーがアイツだと分かったことから、確実にフィクサーと繋がっている。そして、万年開花の特性を知っていたと言うことは…」

「この謎はフィクサーに繋がってる…ってコトか」

 

光明が見えてきたようだ。夢中になって議論を交わす三人に、ハイスピードで繰り広げられる話が理解できず、目を回す麗日さんと切島くん。

まさか、東北さんのご実家に、そんな重大な秘密があったとは。灯台下暗しとは、よく言ったものである。

ますます、東北さんが帰ってきた時、機嫌を損ねるだろうな。

そんなことを考えていると、儀式を終えたのか、ずん子さんたちが部屋に戻ってきた。

ずん子さんの手には、弓をしまう「弓袋」が握られており、中には神弓と呼ばれた神器が入っているのだろう。

ずん子さんは緑谷くんの隣に座ると、その弓袋を差し出した。

 

「はい。調べたいんでしょ?」

「…………えっ、と…、そんなあっさり?いいんですか?」

 

先程受け継いだばかりの神器を、緑谷くんに預ける。

その行為に皆が目を剥く中、ずん子さんは笑みを浮かべ、緑谷くんと目を合わせた。

 

「きりちゃんから、聞いたから。

私も、ヒーローのお手伝いがしたいなって思って…。あっ、でも、きちんと返してね?」

「あの…ご家族の方は…?」

「その神器を所有するのは、この子です。

この子が信頼して預けるというなら、私たちは何も言いません」

 

よっぽど親に信頼されているのだな。

渡された神器を握り、緑谷くんは深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます」

『ボクを調べるからには、丁重に扱ってほしいのだ。ちょっと握る力が強くて痛いのだ』

「ああ、ごめ………ん???」

 

…おかしいな。今、弓袋から声が聞こえたような気がするのだが。

もしかして、『神器そのもの』って、誇張表現でもなんでもなく…。

 

『ボクはこの弓に宿っているって言ったけど、正確には弓そのものなのだ!きちんとお手入れして、綺麗な弓袋に入れて、快適な場所に安置して、定期的にずんだ餅をくれないとグレちゃうのだ!』

「………弓の状態だと限りなくやかましいな、こいつ」

「さっきから思ってたが、『も〜ププ』のカービィみたいな口調だな」

 

先程の口下手が嘘のように饒舌に話す弓…もといずんだもん。

スピリチュアルな存在にしてはフランクすぎる。『純那弓』などという大層な名前じゃなくて、『ずんだアロー』に改名したらどうだろうか。

 

「取り敢えず、ちゃっちゃと調べましょう。

緑谷先輩たちのことです。私抜きで話進めちゃったんでしょ?

この弓を調べながら聞きますから、作業始めましょうか」

 

東北さんは言うと、緑谷くんの持つ弓袋から弓を取り出す。

と。ずんだもんの鼻を摘んだような声が、弓から響いた。

 

『……キミら、油と金属くちゃいのだ』

「日向ぼっこしましょうか。南極で」

『ごめんなさいやめてください弓に直射日光は厳禁なんですぅううっ!!!』

「白夜だしな、今」

「雄英の過去問で見たな…」

「アマゾンに放置でもいいですよ」

『助けてぇぇぇぇええっ!!!』

 

弓にとっては死刑宣告も同然な言葉を吐く東北さんへ、ずんだもんの命乞いが轟いた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…オレの純子の家に余所者がゾロゾロと…。

これだから空気の読めない余所者は好かん」

 

その頃、ある屋敷にて。

仕掛けた盗聴器や隠しカメラが全て潰されたことに気づいた里長は、予め仕掛けておいた『個性』を発動させ、証拠を抹消する。

彼からすれば、己が寵愛を授けようと言うのに、拒否を続ける純子がどうしても許せなかった。と同時に、届かぬ花に強く焦がれていた。

深いながらも鮮やかな翠の髪に、きめ細やかな潤い溢れる肌。ぱっちりと開かれた瞳は吸い込まれそうなほどに美しく、無垢の具現化と呼んでも過言ではないほどに澄んでいる。鼻と唇は控えめだが、美しい顔をより麗しく彩り。さらには、顔に相応しい、黄金比とも呼べる引き締まったボディライン。

今まで相手にしてきた女のどれよりも麗しく、また名の通り純粋である彼女。

 

だからこそ、自分で汚したい。

 

男に渦巻くのは、そんな穢らわしい欲のみだった。元はずん子の母を狙っていたのだが、幼いずん子を見染めてからというもの、それが拗れ出したのだ。

世の闇を照らす星…『一等星』。その一つたる少女…東北きりたん。

その姉である彼女に、その手が届くはずもないことも知らずに。

 

「…焦る必要はない。彼女を手にする計画は、すでに動き出している。

それに、万が一抵抗されても、こちらには『あの神器』があるのだ…。あとは…、あとはぁはははっ、ひひっ、ふひひひひひ、ひひひっ、ひひひゃひゃひゃひゃ…!!」

 

男の笑い声が部屋に響く。目をつけてから何年経ったことか。漸く、最も美しい花を摘み取る時が来た。

その邪悪な喜びを吐き出すように、男は嗤い続けていた。




も〜ププは単行本持ってました。
…ずんだアローって素材何なんだろうか。
調べてもわからなかったので、ここでは適当に竹弓の特徴を反映しました。ずんだもんが嫌がってたのは気分的な問題です。

純那弓は当て字です。いや、ずん子さんのずんだしゅきしゅきミラクルパワーのせいで結局ずんだアローって名前になるけど。
ずん子さんって、ずんだが絡まなければ美人だと思うんだ。ずんだが絡まなければ。

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