そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。

謎の生命体を追いながら、観光を楽しみます。

少し修正しました。


仙台でずんだは基本!

「オーガくん、大丈夫か!?」

 

 

ばぁん。

スライディングがてら、私は慌てて病室に駆け込む。

ベッドに眠る彼の姿は、いつものような頼もしさなどこれっぽっちもない。

 

私と何度かチームアップを組んだ時も、持ち前のタフネスで、幾度となく私をサポートしてくれた。

人々に寄り添い、敵を倒すのではなく、ただサンドバッグになりながらも説得する、新しい形のヒーロー。

 

若手の中で、私が最も期待していたと言っても過言ではないヒーローが、たった一撃で負けた。

そのことが信じられなかった。

 

 

「鬼山くん!!」

「…オール、マイ、ト…?」

 

 

術後二日目。

息をも絶え絶えに、彼は掠れた声で私の名前を呼んだ。

 

 

「…ははっ。すみません…。あなたとの、チームアップ…。俺のおっかさんも…楽しみに、してたのに…」

「いいんだ…。無理するな…。

今は、ゆっくり休んでくれ…」

 

 

彼の手を取って、いつものように笑みを浮かべる。

ちくしょう。

彼が倒れた時、私がそばに居なかったことを、酷く呪った。

いくらあの戦いの傷が癒えないとはいえ、それを理由に、目の前の素晴らしき若人の未来を奪いかけたのだ。

悔やんでも、悔やみきれなかった。

 

 

「君を倒した敵は、どんな敵だった…?」

「…皮膚が、有りませんでした。

筋繊維の塊で出来たような、人間かどうかもわからない敵…。

少なくとも、貴方のSMASHを、超える一撃を…ノーモーションで撃ってくる…。

俺が出会った…いや、世界中のどの敵よりも…強い…」

 

 

その言葉に、私は血の気が引いていくのを感じた。

自惚れではないが、絶対的な事実として、私のSMASHは、たった一撃でも上昇気流を起こし、雨を降らせる程の超パワーがある。

それを超える一撃を、ノーモーションで撃ってくる敵がいるなど、考えたくもなかった。

 

 

「…そいつは、なんと名乗っていた?」

「…たしか、『キズナ』と…」

 

 

私はそれを聞くと、彼の手を握った。

 

 

「必ずや、そのキズナを倒して見せる。

そしてまた、ヒーローとしての君を、私に見せてくれ」

「…勿論です。まだ、ヒーロー、やりきってないんで…!

あなたも、平和の象徴として、ブレないでくださいよぉ…!!」

 

 

オーガくんの激励を受け、私は力強く頷く。

あの時よりも、激しい戦いになるかも知れない。

私は無いはずの胃が縮こまるような感覚を覚えた。

 

 

「…ああ。私は負けんよ」

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「というわけで、目撃情報のあった仙台にやってきましたー!」

「いぇーい!」

「…女は元気ですね」

「ですね」

 

 

中古で買った軽自動車で、高速を走らせること数時間。

僕たちは仙台に訪れていた。

 

 

「おお!牛タン!牛タンですよ!

一度は食べなきゃ損ですよ!」

「伊達政宗!伊達政宗観にいきましょう!」

 

「観光じゃ無いって、真剣な顔して言ってたクソガキとポンコツ未来人は、どこの誰ですかね」

 

 

卒業生と生徒と未来人に、足として使われる日が来るとは。

この自称未来人は、免許も無かった。無い無い尽くしで意地もない。

じゃあ何があるんだというと、プライドを捨てる速さだと言われた。

なんだこの悲しい生き物は。

 

イズク2号…改名して『ペルセウス』で向かえば、速攻職質されるので、僕の軽自動車に白羽の矢が立ったわけだ。

…こうして考えると、僕が参加していないつもりなだけで、彼らの中では僕も『一等星』のメンバーなのだろう。

悪い気はしないが。

 

「…にしても、人少ないですね」

「まぁ、プロヒーローがぶっ飛ばされて、アレの目撃情報が頻発した街ですしねぇ」

 

テレビで見るような華やかさはなく、仙台は現在、閑散としていた。

それでもちらほら人はいるので、情報収集はできるかも知れない。

…いや、待てよ。

僕が情報収集について考えてると、東北さんと京町セイカが僕に問うた。

 

「どうします?早速、情報集めますか?」

「聞き込みでもします?」

「一人、不安要素がいるので却下です」

 

「え?そうなんですか?」

 

「「「お前だよポンコツ未来人」」」

 

 

僕たち3人のツッコミに、未来人は「はへ?」と素っ頓狂な声を出した。

 

 

「わ、私のどこが不安要素なんですか!?」

「見ず知らずの人間に、機密情報ベラベラ喋った挙句、秘密の任務に他人を巻き込むあたり割と」

「反論できなぁーいっ!!」

 

緑谷くんの言葉に、京町セイカは涙目になりながら、両手を上げた。

これを監視しながら聞き込みなんぞしてたら、黄色い救急車を呼ばれてしまうだろう。

 

「じゃあ、張り込み!」

 

「却下。コレが大人しくできるとでも?」

 

「「思いません!!」」

 

「うぅっ、やっぱ辛辣ゥウ!!」

 

 

まずい。思ったよりも未来人がお荷物すぎるぞ。

さっさと終わらせて、こんな危険地帯から帰りたいのに、一番情報を持ってそうな京町セイカは使い物にならない。

僕がこの未来人を連れ回して観光する間、二人に情報収集を任せようかと思ったその時。

緑谷くんがイズクテレフォンを取り出し、そこからボールを生み出した。

 

 

「そんな時のために!

 

てってれてっててーてって〜!!

『イズク6号・ガニメデ』〜!!」

 

「その言い方はやめなさい」

 

 

僕の忠告も聞かず、緑谷くんは興奮気味にそのボールを僕たちに見せる。

 

 

「僕特製の魚眼レンズ!撮影可能範囲は宮城がすっぽりハマっちゃうほど!

動力、容量ともにイズクジェネレーターを使用したことで、何億年間も撮影できちゃう!

更には欲しい情報を、十分にまとめて斡旋してくれる編集機能付き!」

 

「世の動画クリエイターに喧嘩売ってますね、ソレ」

 

 

僕がツッコミを入れるのを気にせず、緑谷くんはイズクテレフォンを操作する。

すると、ガニメデはふよふよと浮遊し、仙台の上空へと飛んでいった。

 

 

「あとは情報が入るまで待つだけです!

さ、牛タン食べましょう!」

「笹かまー!タンシチュー!」

「あっ、ビールいいですか?」

「君ら完全に旅行気分ですよね」

 

 

僕らはそんな談笑を交わしながら、牛タンが最も旨いと評判の店へと向かった。

 

 

「くそっ、全然見つからない…。

いったい何処に…?」

 

 

僕らの背後には、骸骨のような細身の男が、ぶつぶつと何事かを呟いていた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「…せめて、遊んでる間は、忘れさせて欲しかった」

「仙台なんだから、仕方ないでしょう」

 

 

東北さんがうんざりした顔で呟く。

僕たちの目の前には、空になったずんだシェイクのボトル。

仙台名物といえば、ずんだは欠かせない。

緑谷くんたちは美味しく完食していたが、東北さんは格闘でもしてるのかってくらい険しい表情で飲んでいた。

 

 

「たまに飲むくらいならいいんですよ…。

でも、ウチは毎日出るんですよ…」

「文句垂れるくらいなら、自分でお菓子作ればいいでしょうに」

「気づいたら量産されてんですよ…。

 

タコ姉様なんて、この間ずんだの悪夢見てましたからね」

 

「「「ずんだの悪夢」」」

 

 

なんだそのパワーワード。

聞いたこともないような言葉に、僕たちは愚か未来人までもが目を点にする。

 

 

「美味しいから別にいいんです。

でも、たまにはもっと、こう、別のものが食べたいです」

「わかる。

僕とかっちゃんも、母さんたちがずん子さんに影響されて、一時期すっごい量のずんだ来たもん」

 

「あ、あの性格最悪ヒーロー志望とまだ付き合いあったんですね」

「例え腐れてても縁は縁。その縁は大事にすべき…って、先生の受け売り。

僕が考えて、かっちゃんと向き合うことも正しいなって思ったから。

かっちゃんは、『こっちくんなデク』って逃げてくけど」

 

 

なんでこの子は、こうも僕の涙腺に響くこと言うんだ!!

 

 

「うっわ…。珍し…。

水奈瀬先生、すっごい泣いてる…」

「すみません。緑谷くんがあまりに立派に育ったので、ちょっと泣いてしまいました」

「『ちょっと』とはいったい…」

 

 

僕は溢れ出す涙を乱暴に拭う。

この子はもう、誰に何を言われても立派に自分の道を歩んでいくんだろうなぁ。

いや、まぁ、ヴィジランテ活動は褒められたことじゃないけど。

 

 

「水奈瀬さんは教師なんですか?」

「ええ。小学校の教員をやってます。

この子たち除く子供たちにこぞって嫌われてるので、あそこら辺じゃ有名ですよ」

 

 

無論、悪い意味で。

僕がそう付け足すと、京町セイカは首を傾げた。

 

 

「…虚しくないんですか?

嫌われてる教師って」

「嫌われる覚悟なしに何かを成し遂げることなど、到底できませんよ。

それが人を育てることであれば、尚更ね」

 

 

「母親からの受け売りです」とだけ言うと、僕は空になったボトル四つを抱え、ゴミ箱へと向かう。

踵を返して数秒もしないうちに、僕は柔らかくも硬い壁にぶつかった。

 

 

「あっ…!?」

「…うわっ、マジですか」

 

 

緑谷くんと東北さんの少し狼狽した声が聞こえる。

まさか、敵だろうか。

僕が恐る恐る顔を上げると、そこには。

 

 

「おっと、すまないね!追っている敵っぽい影を見かけて、ちょっとよそ見しちゃってたよ!!」

 

 

「HAHAHAHAHA!!」と、白い歯を見せて笑う彼。

テレビでも、緑谷くんが昔着ていたシャツでもよく見た顔が、僕の頭上にあった。

 

 

「…あー…。緑谷くん、ここ代わります?」

「是非!!」

 

 

特段、彼の熱烈なファンというわけでもないため、ヒーローオタクの緑谷くんに譲る。

目の前の彼は「おっ!元気の良さそうな少年だなぁ!」とカムバック姿勢を見せていた。

 

 

緑谷くんが今現在、力強い握手を交わす男。

僕はその名を知っている。

 

 

「…先生。超有名なアイドルグループのトップとぶつかったようなもんですよ」

「イカツイおっさんに興奮する趣味はないので」

 

 

僕とぶつかったその男は、別名『平和の象徴』。

オールマイトが、そこにいた。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

 

 

「ふひ、ふひひひ……」

「うっわ。緑谷先輩のこのモード、久々に見た気がする」

「気持ち悪いですねぇ」

「同感です」

 

 

トップヒーローのファンサービスを存分に受け取った緑谷くんが、これまた気持ち悪い笑顔を浮かべる。

持ち歩いてたグッズへのサイン、色紙五十枚分のサインなどに頬擦りするその姿は、気持ち悪いオタクそのものだ。

前世の僕はここまでひどく無かったが、似たようなものだったので、なんか恥ずかしい。

 

あの後、オールマイトは騒ぎになる前に、とっとと去ってしまった。

走るだけで風圧が巻き起こり、緑谷くんの癖毛がすんごいことになってた。

その後、「HOLY SHIT!!ネコだったー!!!」と聞こえた。

それでいいのか、No. 1ヒーロー。

まぁ、あんなバケモノ相手に神経過敏になるなと言う方が難しいか。

 

取り敢えず、本題に入るとしよう。

 

 

「緑谷くん。サインを喜ぶのはいいですが、今は偵察結果を見ましょう。

目的を忘れてはいけませんよ」

「あっ、すみません!

今出しますね。ちょっと、運転席開けてもらえます?」

 

 

緑谷くんに言われるがままに、僕は車から降り、彼に運転席を渡す。

イズクテレフォンからコードを伸ばした彼は、そのコードを車に差し込んだ。

 

 

「まず、偵察結果を確認する前に、ちょっと車いじってます。

すぐに元に戻しますので、ご安心を」

 

 

緑谷くんがそう断りを入れた瞬間。

僕の軽自動車の中は、異世界と化した。

事前に聞いてはいたが、やっぱりオーバーテクノロジーだよなぁ。

スタークインダストリーとかでも、ここまで行かないだろ。

それに慣れてきてる自分が一番怖い。

 

 

「緑谷さんって何者ですか…!?

このプロジェクター技術といい、あのアーマーと言い、未来でも最先端技術とされてるものばかりですよ…!?

この生体スキャニング装置で見ても、極々平凡な普通の無個性の人間ですよ!?」

「世界一の努力家…ですかね?」

 

 

作り変わっていく車の内装に、京町セイカが困惑気味に問うた。

東北さんの評価は、的を射ている。

天才というものは存在しない。ただの幻想。

知恵熱で倒れ、顔中から血を吹き出し、何度も何度も爆発…実験の失敗によるもの…をモロにくらって。

でも、しっかりと前を見据えて、一歩一歩着実に、それでいて駆け足で。

「天才」という頂きが存在する山を、緑谷くんが全力で登った結果だ。

 

 

「出ました。映像数…28件。

全てに特異生命体が映ってます。

そこから行動パターンを推測して、現時点での居場所を突き止めます。

先生、ノートパソコンお借りしても?」

「ほぼ君らの物でしょう。

好きに使いなさい」

 

 

緑谷くんに言うと、彼は僕のバッグからノートパソコンを取り出し、自分のバッグからも同型のパソコンを取り出す。

彼はその二つのキーボードを両手で弾き、車の中に作り出される異世界を、凄まじい速度で編集した。

 

 

「…?あれっ?どういうことだ…?」

「どうかしました?」

 

 

緑谷くんの声に、東北さんが後部座席から身を乗り出して問う。

緑谷くんは困惑気味にエンターキーを押し、車の中の異世界を作り替える。

 

 

「クライシスオーガを倒した後からずっと…なんでしょうか?

鎌倉山付近をウロウロしてます」

 

 

映し出されたのは、鎌倉山。

通称『ゴリラ山』とも呼ばれている。

 

 

「…仕草からして、なにかが来るのを今か今かと待ってるように見えます」

「じゃあ、そこに行けば…!」

「確実に遭遇できるかと」

「ここからだと遠いですね…。よし。

戦闘が控えてる緑谷くんは、ゆっくり休んで。あとは先生の仕事です」

 

 

僕は運転席に戻ると、パーキングブレーキを解除し、ギアを入れ、ハンドルを握った。

 

「日付が変わる頃に着きますので、その間、護衛を」

「わかりました!防衛用小型ドローン『イズク4号・カロン』を起動します!」

 

 

こういうのはガラじゃないんだけどなぁ。

でも、やらなきゃ盛り上がらない。

 

 

「秘密結社『一等星』の初陣です。

覚悟は出来てますか?」

「勿論です!」

「小学五年生に聞くことじゃないですよね。

ま、出来てますよ」

「私も役に立てるかはわかりませんが、頑張らせていただきます!」

 

 

一介の教師であるはずが、とんでもないことに首を突っ込んだものだ。

僕は笑みを浮かべると、アクセルを踏んだ。




仙台のイメージは、ペルソナ5スクランブルから取り入れてます。実際に行ったことがないので。

行きたいとは常々思ってるんですけどね。

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