そうだ、先生になろう。   作:鳩胸な鴨

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サブタイトル通りです。


怒りの暴露

翌日。

放課後の仕事を終わらせ、帰宅した僕を待っていたのは、妻の手料理…などではなく。床中に散乱する、資料の海であった。

紙の臭いでむせ返りそうになるほどに敷き詰められた絨毯を、僕は爪先立ちでなんとか掻い潜り、リビングへと進む。

そこには、議論を交わす緑谷くんとクソガキの姿があった。

 

「……初期メンバーほど、僕に対する遠慮が皆無ですよね、君ら」

「いやぁ、先生の家って居心地良くって…。

集中するならやっぱりここって、染み付いちゃってるんですよね」

「僕の家、君の実家じゃないんですが」

「緑谷先輩のお隣でしょう。誤差ですよ、誤差」

「誤差なわけあるか」

 

浮遊大陸作ってんだから、そっちでやればいいのに。

そんなことを思いつつ、これが日常になっている事実に辟易しながら、僕は荷物を置く。

片付けはしてくれるだろうから、別にいいや、と思いつつ、僕はソファに腰掛けた。と。その隣につづみさんが座っていることに気づき、僕は思わず「うぉっ」と声を漏らす。どうやら気配を殺していたらしい。今の今まで気が付かなかった。

 

「口で軽く言うだけで済ますって、アナタもこの家に入り浸ること認めてるようなモンじゃないかしら?」

「子供に迷惑かけられる仕事ですしね。慣れっこですよ」

「夫婦として私にもいっぱい迷惑かけてほしいのだけどね。子供とか子供とか子供とか」

「……………高齢出産が初産にならないように気をつけておきます」

 

産まれたとして、周りが要らんこと吹き込む可能性が高いのは、この際目を瞑ろう。

そんなことを考えていると、玄関が開き、音街さんを迎えに行った爆豪くんと彼女が、リビングに踏み込んだ。

 

「おい、デク。整理整頓っつー四字熟語知ってっか?」

「それどころじゃないよ」

「……なんか分かったのか?」

 

爆豪くんの真っ当な意見に、緑谷くんが淡々と返す。緑谷くんは資料の海の中からある一つを引っこ抜くと、爆豪くんに手渡した。

爆豪くんは音街さんに「東北と遊んどけ」と告げ、資料を見やすいように持ち直す。すると、年中無休で仕事をしている彼の眉間の皺が、500円硬貨すら挟めそうなくらいに深くなった。

 

「あの彫刻家って、顔出ししてんのか?」

「いや、なにせ無名だからね。ネット上でも顔出しはしてないみたい」

 

二人は日常会話を装っていたが、僕の目には、その首筋に浮き出た凄まじい血管が見えていた。

東北さんもそのことに気付いたのか、口を開く。

 

「……ウナちゃんも、それなりに覚悟はしてます。遠慮しなくても結構です」

「そ、そう…?なら、遠慮なく言うけど…」

 

────あの彫刻、生きた人間です。

 

衝撃は走らなかった。

僕も薄々そうかと思っていたし、つづみさんもなんとなく「おかしい」とは思っていたようだ。音街さんは顔を青くしていたが、東北さんはただその事実を受け止めていた。

しかし、疑問はある。緑谷くんの言い方だと、「材料は人間」ではなく、「彫刻そのものが人間だ」と言ってるようなものなのだが。

僕が疑問の答えを聞こうと口を開くも、緑谷くんが遮るように声を放つ。

 

「アレ、死んでないんです。バラバラになろうが、生きてるんです。

痛覚も意識もあるように、微弱ではありますが、振動が確認されました」

「殺さねェ分、余計にタチ悪ィな」

「ホントそれだよ…。何考えたら、こんなことが出来るんだ…っ!!」

 

ビキッ、と拳にまで血管が浮き出るほどに拳を強く握る緑谷くん。

生きているなら、元に戻せないのだろうか。

緑谷くんは少し気を落ち着けるように息を吐き、続けた。

 

「戻せるには戻せますが、その瞬間にバラバラ死体の完成でしょう。

破片をくっ付けようにも何処にあるか分からないし、そもそも粉々に砕かれてたら元も子もない。

…………細胞全部取っ替えて、それがその人だと言い張れるなら、やりますけど…。

絶対に支障が出ます。それこそ、ただの肉の人形になります。…死と生の侮辱になります」

 

生死の侮辱…か。僕と東北さんも、まさに生死を侮辱しているような存在だ。

つづみさんと両親には予め伝えているし、緑谷くんもなんとなく気付いてるだろう。でも、あの彫刻は、僕なんか比にならないほどの侮辱だ。

生死を侮辱した僕からすれば、何よりも許せない。踏み越えてしまった僕が言えた話ではないが、それでも尚、許したくない。

生は一度きり。死は永遠。それを破り、二度目の人生を歩むことで侮辱した僕たち。生を永遠にして、苦しいまま形を保つ芸術という名の侮辱。

僕たちのように、自ら望んで外道を歩んでいるなら兎に角、誰かにそれを押し付けるなど、言語道断だ。

 

「……これ以上、被害が出ないように食い止めることを考えましょう。

彼らを永遠の生から解放して弔うのは、犯人を叩きのめしてからです」

「そうですね。…こんな禁忌を犯すことを押し付けるなんて、許せません。同じ禁忌を犯している身としても」

 

そう付け足し、東北さんが決意を新たにする。

その言葉に、皆が目を剥く中、東北さんは告げる。

 

「私と先生は、隠し事をしてました。

致命的なまでに、私たちと言う存在の根幹がひっくり返るような、大きな隠し事です。

今回の件、私たちが許せないのは、その隠し事に大きく関わるからです」

 

そう前置きして、彼女が僕に視線を向ける。

つづみさんに目をやると、「言っても変わらないわよ、この子たちなら」と笑われた。

 

────水奈瀬コウと東北きりたんが歩む人生は、一度目ではありません。この人生は、一度目とは別の二度目なんです。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「……なんというか、出来の悪い創作物でよくあるような転生ですね」

「自覚はあります。チートとかないだけマシでしょ」

 

皆を集めて全部暴露した。

僕たちが今居るこの世界は、前の僕たちにとっては『原作』が存在する『創作物の世界』であったこと。僕たちの体は、本来、魂のない機械音声のモチーフキャラのものだと言うこと。なぜか、そのキャラクターに当てはまる人間が多数、この世界に存在すること。

何もかも洗いざらい、全部ぶちまけてやった。

緑谷くんは薄々気付いてたようで、「きりちゃんとか達観しすぎって思ってましたし」と言われた。

 

「神様とかには会ったのか?」

「いえ。死んだ時の記憶が、三歳の時に一気に蘇ったって感じです。

東北さんは生まれつきだったそうですが」

「あ、ずん姉様たちにはきっちり話してます。…タコ姉様曰く、私とこの体って、元々宿る関係性だったらしくって。きちんと家族って言ってくれたので、罪悪感とかはなく過ごせてます」

 

僕たちが隠し事を話したことで、何かが壊れるとかは、特になかった。

寧ろ、「え?その程度?」と目を丸くされた。こちとら重要な秘密を大暴露してやったと言うのに、なんだあの言い草。逆に腹立ったぞ。

僕たちが犯した禁忌に関しては、「嫌悪感とか特にない。性格悪いのは知ってるし」と訳の分からないフォローをされた。こう見えて、二人して結構メンタルに来てた時期あったんだぞ。胃腸弱いから繊細なんだぞ。

 

「…ってか、先生がヒキニートってのが意外すぎるんだが」

「国立大学院卒でしたし、高学歴ではあったんですよ。ただ…、この性格だから山ほどトラブル起こして。人脈皆無だったんで、完全に就職お断りに」

「……………なーるほどねぇ」

 

前世は性格が裏目に出まくったせいで、『この世からハブきましょ』的な雰囲気が、常に周りを漂っていた。

その反省から、僕は人脈を繋げることに、学生生活を全て捧げた。教師になったのだって、水奈瀬コウを演じたかったからという、なんとも不純な理由だ。

要するに、僕は前とほとんど変わっていないのである。

そのことを話すと、「僕らと一緒です!お揃いですね!」と喜ばれた。

 

「……心っっっ……底っ!どぉぉぉおおお…っっっっ!!…でもいい話聞かせんなクソ教師にクソガキ殺すぞ。

そんなクソみてェな事実一つでなんか事態が好転するんか?変わるんか?あ?」

 

爆豪くんが鋭い目つきで睨め付け、僕たちに詰問する。

僕たちは怯むことなく首を横に振った。

 

「しませんけど。今回の件は、僕たちにとって許せないものであることを知って欲しかっただけです」

「ンな自己満あとでやれや死ねっ!!今優先すンのは彫刻家をふん縛ってサツに突き出すことだ違うか!?」

「……すみません。冷静さを失ってたみたいです」

 

あまりに許せなくて、つい話してしまった。

僕が頭を下げると、ふと、轟くんが問いかけた。

 

「なァ。俺らに『決められたレール』があったなら、そこから何か分からないのか?」

「先生たちの存在が作用して、そのレールを外れても、基本的なことは変わらないから…もしかしたら、分からなかったことがいろいろわかるかも知れない…。

先生、きりちゃん、どう?」

 

……なーんにも分かりませんけど!?

フィクサーとか出てないし、敵性国家も出てないし、人工個性も何もかも知らない単語ばっかで思考停止してたんですけど!?

そんなことを言えるはずもなく、僕は東北さんに説明をぶん投げるように、視線を向ける。

東北さんは軽くため息をつくと、言葉を選び始めた。

 

「………えーっと…。すっごく言いにくいんですけど、この世界、先輩たちの『決められたレール』から、めちゃくちゃ外れに外れまくってなーんも分からないんですよね。

フィクサーとか、人工個性とか、今回の彫刻もそもそも出てこなかったし。

…あと、原作の方が連載中のままだし、私らちょこっとキャラクター…ってか、先輩方のこと人伝に聞いた程度で死んじゃったので、核心部分とか、これっぽっちも分かりませんよ」

「…要するに、マジで誰もが知ってるような基本的なことしか分からないからアテにすんなってか?」

「ま、そゆことです」

「肝心なとこで使えへん前世やなぁ」

「「うぐぅっ」」

 

麗日さんに斬られた。仕方ないじゃないか。

二人とも、薄い程度にしか興味なかったんだし。

膝から崩れ落ちる僕たちに、緑谷くんが慰めるように背に手を置いた。

 

「エアプ層はそんなもんですよね。

詳しいことなーんも分かんないですよね」

「オタク特有のエアプ層ヘイト!!」

「緑谷先輩ってこんな性格悪かったですっけ!?」

 

違った。慰めじゃなかった。なじられただけだった。

僕たちが更に落ち込んでいると、ミコトちゃんがおずおずと手を上げた。

 

「あ、あの。彫刻家は?」

「あ゛。やっば。なーんにも調べてない」

「忘れんなアホデク殺すぞ」

「あだっ」

 

爆豪くんは言うと、緑谷くんをハリセンでシバき、引き摺ってこの場を去っていく。

皆も僕らの知識から大したことがわからないと分かるや否や、この後の予定を立てたりして、踵を返していった。

取り残された僕たちは、顔を見合わせる。

 

「………明かし損でしたね」

「…………ね」

 

僕たちの怒りは、すっかり冷えていた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

『…受け止める覚悟が出来たら、また連絡してぇや。ウチはいつでも待っとるよー』

「はい、ありがとうございます」

 

先生から貰った連絡先の人…名前は知らない…に頭を下げ、通話を切る。

雄英高校普通科2年C組。部活や進路相談で誰もいない教室で、私…桜乃そらは物思いに耽ることにした。

父様と母様の行方が分からなくなって、ちょうど一年。警察にもヒーローにも頼んで、必死に捜索を続けてもらって、影すら見つからなかったと言うのに。あの人に任せた途端、行方はあっさり見つかった。

ただ、相当の覚悟が必要だと言われ、両親が生きてることを愚かにも信じている私は、両親のことを聞くのをやめた。

 

「……ダメですね。筆を握れば、どこまでも残酷になれるのに」

 

結局のところ、私も人の子だったわけで。

耐えきれない絶望が進むべき道の先にあると知ってるなら、希望を持ったまま立ち止まり、死にゆく人生を送りたいと願ってしまっている。

今の情けない私を見たら、先生はなんと言うのだろう。

 

「……帰ろう」

 

このまま教室に居れば、気が滅入るばかりだろう。

私は席を立ち、荷物をまとめて外に出る。

静まり返った廊下を歩き、階段を下っていった。

 

「…………ひひっ」

 

そんな笑い声が、後ろから聞こえた気がした。




前世バレはしたけど、皆態度は変わらない。
だって、バレても特に変わることがないから。

先生たちの原作知識は個性と緑谷出久が主人公、オールマイトの個性という基本情報に加え、「ラスボスがAFOって悪者で、ショッカー枠が敵連合って組織でしょ?」程度です。周囲の人からふわっと聞いただけ。どんな経緯があったかとか微塵も知らないし、ほぼ覚えてない。この人たちそんな熱心に読んでないもんね、仕方ないね。
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