ああ、愛しの勇者さま -TS転生して勇者に惚れたのでどんな手を使ってでも落そうと思う- 作:ちいたまがわ
本編にコメディ分が足りないのでちょっとここで補充しておきますね。
人人人人人人人人
< ∧_∧ > / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
< ( ´∀`) > <タイヤにはまっちまったァァァ!
< と つ > \____________
< ( ̄ ̄ ̄ ̄) >
< ( ̄ ̄ ̄ ̄) >
< ( ̄ ̄ ̄ ̄) >
<  ̄ ̄ ̄ ̄ >
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ではどうぞ。意味はないです。
◇
階下から声が聞こえる。
「うおおおおおお!そこをどけぃキース!オレの愛は止められんぞ!りゃー!」
「ぐわー。」
◇
彼女との出会いから少し、俺は酒場のテーブルに座っていた。
時刻は夕方、辺りからは仕事を終えた男たちの陽気な声が聞こえる。
場違いな雰囲気に体が萎縮する。酒場に入ることなど初めてだったし、これからも入るつもりは無かったのだ。ではなぜここにいるのかといえば、魔物たちを切り伏せ上機嫌な彼女に、有無を言わさず引きずってこられたからだ。
俺があんなに歩いた森も、彼女の持っていた転位石とやらを使えば一瞬で街の中だった。目を白黒させているうちに、あれよあれよという間に彼女と飲むことになっていたというわけである。
カウンターでマスターと何事かを話していた彼女が戻ってくる。報酬の詰まった袋からじゃらじゃら音を鳴らしながら、胸いっぱいに酒瓶を抱えて。まだ飲んでもいないくせにすでに赤ら顔の彼女は俺の向かいに座ると、オレのおごりだ飲め飲めと言って抱えた酒をうきうきテーブルに並べ始めた。
一方、俺はというと、いまだに上の空であった。
生きて帰れた事へのお礼でも恨み言でも、言うべき事はいくらでもあったはずだが、ようやく開いた俺の口から出たのは、
「……あのアニメ、面白かったですよね。」
もはや脳が完全に仕事を放棄していた。彼女の鼻歌を聞いてから、なんとなく頭をよぎっていた言葉が漏れただけである。しかし彼女は、
「は……?え、なに!?お前あのアニメ、っつーかアニメって知ってんの!?」
少し呆けて、次に驚き、それはもう大変に食いついて来た。俺の胸倉を掴んでがっくんがっくんと揺らしながら矢継ぎ早に言葉を投げつけてくる。
上に下にとぶれる視界の中で唾を飛ばしながら捲し立てて来る少女に、あんなに強かったのに手は随分小さいんだなあ、とか、この子見た目の印象と全然違うなあ、とか、そんなことをぼんやり思いながら、ええ、まあ、と曖昧な返事をし、むしろあなたはどうして知っているんですかと聞き返す。
そんな風にしばらく言葉を交わして、そのうちにお互いが、相手も自分と同じ境遇(彼女はそれを転生者だと言った。その方が盛り上がるらしい。よく分からないが。)なのだと理解した。
珍しいこともあるもんですね。どこかまだ他人事の様にそう言った俺とは違い、彼女は同郷の相手を見つけた驚きを喜びに変え、さらに機嫌をよくしたようだった。愛くるしい笑顔を浮かべた彼女が、ここなら未成年でも飲んでもいいんだぞと笑いながら、いかにも度数の高そうな酒瓶のコルクを景気よく吹っ飛ばす。ぽんと気持ちのいい音が鳴った。
もはや最初に感じた神秘的な雰囲気などこにも存在しない。この子は妖精でも天使でもなく、いいとこドワーフ、せいぜいがゴブリンか何かだろう。
頬杖をついてそんなことを考えていたその時。一瞬の事であった。いつの間にか、俺の口には酒瓶が突き刺さっていた。視界の端に映るのは、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべた彼女。呆けた頭が事態を整理する間にも、逆さになった酒瓶からは当然酒がみるみる流れ込んでくる。飲み込むことも忘れた口の中が酒で満たされ、思わず床に全て吐き出す。慣れない薬品臭さにゲホゲホと必死に息を整えながら、俺はようやく理解した。森の中で見た、風のように鋭く優しい動き。誰もが魅了されるであろうそれが、今は俺へのアルハラに使われたのだと。
そんな俺の様子を見て、彼女は腹を抱えてけらけらと笑っていた。なんだか少しむっとなる。
……退屈以外の事を感じるのは、久々な気がした。酒場の雰囲気に当てられてか、彼女の陽気さに当てられてかは分からないが、ともかく久方ぶりに湧いてきた情動に任せ、笑い転げる彼女から酒瓶を奪い取ると一気にそれを飲み干す。アルコールが喉を灼きながら胃の底に落ちていく感覚。……悪くない。
顔を赤くして鼻息をふんと出しながら彼女を見やると、目を丸くしていた彼女は別の酒瓶を勢いよく手に取り、同じように一息で飲み干す。ごくごくと動く白い喉が、やけに印象に残った。
頬を朱に染めた彼女は空になった酒瓶をだんと机に叩きつけ、そしてにやりと不敵な笑みを浮かべる。
そこから先のことは、あまり覚えていない。
思い出せるのは、ムキになって飲み比べをしたこと。彼女が元男だと知ったこと。俺は男のままだと知った彼女が股間に思いきり蹴りを入れてきたこと。それくらいだ。
気づけば路地裏でゲロに塗れながら、彼女と二人、行き倒れていた。靴は片方どこかにいってしまっていて、身に着けていたはずの剣は鞘しか残っていない。ポケットに突っ込んでいた財布もなけなしの全財産もろともに消え失せ、とどめとばかりに頭の上に鳥の糞がぴちゃりと落ちてきた。
同時に彼女のかすれた笑い声。声の方を向くと、彼女はうつ伏せに寝転んだまま、俺を嘲笑っていた。
人の不幸を笑うとは何てやつだ。睨み付ける。と、彼女の頭に向かってぽてぽてと歩いてくる野良犬が目に入った。犬は彼女の頭のすぐ横で立ち止まると、片足を上げた。数秒後の惨劇を予想して、俺の顔が愉悦に醜く歪む。彼女の笑顔は凍りつく。待て、頼む、止めろと犬に懇願。もちろんその言葉は届かない。ほんの少しの間のあと、きらきら光る金の橋が彼女の頭に架かった。ぐおおと呻く声。俺は頭に糞を乗せたまま、彼女を嘲笑った。
なぜだろうか。死にたくなるほど最低な状況のはずなのに、楽しかった。
いつもなら、このまま野垂れ死にでも出来ないかと願うはずなのに、そんなことは頭の片隅にも浮かばなかった。
思い当たる理由はひとつしかなかった。
いつもと決定的に違うことはひとつだけだった。彼女がいること。
出会ってからまだ一日も経っていないのに、誰より生きることを楽しんでいると分かる彼女が。
知り合いなんて誰もいないこの異世界で、それでも笑顔で生きている彼女が。
羨ましかった。眩しかった。俺も本当はそういう風に生きたかった。彼女のようになりたかった。
彼女と一緒に過ごした今だけはそうなれた。
彼女と一緒にいれば、これからもそうなれる気がした。
だから。
「あの……レイさん。」
「あー……?敬語は要らねっつってんだろ。一つ違いだろうが、そういうの苦手なんだよ。」
「……じゃあ、レイ。頼みがあるんだ。」
「あんだよ、聞くだけなら聞いてやる。同じジャパニーズのよしみだ、言ってみな?」
「……お前の生き方が知りたい。俺と一緒に、生きてくれないか。」
この日から俺は、自殺もどきをやめた。
レイと共に、この異世界で生きることにした。
「……は?なに?プロポーズ?いやいや、無理です。男相手とかノーセンキュー。きしょいんじゃ。あっちいけ!しっしっ!」
◇
階下から声が聞こえる。
「ええいフェリア!女子供を斬る趣味はないが、オレの行く道を塞ぐのならば容赦はせんぞー!」
「あーれー。」
◇
依頼を吟味しながらレイと話した。
「このオーガ討伐とかいうやつ良さそうじゃん。結構報酬も高いし、これにしようぜレイ。」
「う……。こっちのこれにしない?空飛ぶマカロニなんて楽しそうじゃん?」
「似たようなのこないだ倒しただろ?空飛ぶラザニアだかフィットチーネだか。……オークとかドラゴンとか、お前そんな感じの好きそうなのに全然そういう依頼取らないよな」
「だってさあ!斬ったら血が出るやつってなんかやじゃん!」
「え、お前そういうの気にするタイプだったの?」
「気になるだろ普通!」
「そう?俺は全然だけど。」
「こわー……。」
酒場でレイと話した。
「あいつ!あのデブがオレの尻触った!殺してこいユウマ!行け!」
「自分でやれ。」
「え、いいの?オレの辞書に加減なんて言葉はねえぞ?お前が代わりに行ってくれないとあいつは粗挽き肉団子になるが。」
「……分かった、俺がぶん殴って来る。」
「おら行けー!刺せー!殺せー!血を見せろ血をー!」
「うおおおおお!レイにセクハラしやがって!……やー、気分のらねえー……」
宿屋でレイと話した。
「ユウマさん、いえユウマ様。実は折り入ってお願いがあるのですが。」
「……話は聞くが、お前にそんな態度を取られると心底気持ち悪いからやめろ。」
「そのですね、わたくしも男の子ゆえ、やはり女性に興味があるのですが、この幼女の身ではどれだけアプローチしようともどうにも恋愛対象でも性愛対象なく、なんというか、ペットやマスコット的な扱いしかされませんのですわ。そこでですね、どうかぜひとも立派な逞しい殿方であるユウマ様のご相伴に預かりたく。……具体的に言うと、ユウマが女の子買ってオレも混ぜてさn」
「嫌だ。」
「お前オレがどんな気持ちでこんな情けないこと頼んでると思ってんだ!この玉無し童貞チキン野郎が!」
「ああ!?玉無しはお前だろうが!」
「なっ、お前ソレ、お前ソレ言ったらもう戦争だぞ!」
森の中でレイと出会った日から、酒場でレイと飲み交わした日から、俺達は組むようになった。彼女はなんだかんだと言って、俺と一緒に過ごしてくれた。
二人で依頼をこなし、酒を飲んで馬鹿みたいに騒ぎ、時々殴り合いの喧嘩をして、泥のように眠る。一人の時とは比べ物にならないくらい、刺激的で充実した日々だった。
二人で色々な依頼を受けた。
光り輝く洞窟、空に浮かぶ城、海底に沈むピラミッド。いくつもの見たことも無い場所に行った。
雲を吐く鯨、屍を操る亡霊の王、三つ首の巨大な山羊。いくつもの見たことも無い生物たちを倒した。彼女といれば、俺も強くなれた。……とはいえ、命からがら逃げ出したことの方が多かった気もするが。
そうしてレイと一緒に毎日を生きているうちに、他にも友達が出来た。仲間が出来た。誰かに助けられて、誰かを助けた。生きるためでも楽しむためでもなく、誰かのために戦うことが増えた。そのうち、俺は勇者と呼ばれるようになった。
勇者。陳腐で、だけどどこか心をくすぐるその称号。こんなものは俺じゃなく、レイが呼ばれるべきだろう、そう思った。冗談混じりにそう伝えたこともある。が、彼女は、勇者ってのは男の子がやるもんなんだよ、そう言って笑った。そのあと股間に蹴りを入れてきた。危うく俺は男の子じゃなくなるところだった。
なにはともあれ彼女にそう言われてしまえば、この呼び名を受け入れようと思えた。一体勇者がどういうものなのかはわからないが、誰かにとって、俺にとっての彼女の様になりたいと、そう思えた。
恥ずかしくて、レイにそれを伝えたことはないけれど。
……間違いなくあいつは調子にのって面倒な絡み方をしてくるだろうし。
◇
階下から声が聞こえる。
「死ねいエルマール。」
「ぐえー。……俺だけ扱い悪くない?」
◇
いつの頃からか、レイの俺への態度が変わった。恋する少女のそれに。……いささか品は足りなかったが。
きっかけは分からない。レイも覚えてはいないだろう。恋なんてものは風邪と同じに、何か特別な理由と共に始まるものではないと思う。……俺は恋をしたことがないから、本当のところは分からないけれども。
レイに恋慕の感情を向けられて、俺は困惑した。もちろん彼女は可愛らしかったが、そういう目で見たことは無かったのだ。
自分を男だったと言うレイをそういう風に見るのは失礼だと思っていたし、そもそも最初、プロポーズだと勘違いした俺の頼みを一刀両断に斬って捨てた彼女である。
それだけでなく、扇情的な格好のウェイトレスに酌をさせてニヤついている様子を日常的に見ていれば、誰が彼女が男と恋愛をするだなんて思うだろうか。
なによりも、レイは俺の憧れで、親友だった。
そんなレイと恋だなんて、どうすればいいのか分からなかったのだ。だから俺は大人たちに相談することにした。レイの気持ちにどう答えればいいのかと。
フェリアさんはこう答えた。
「それはユウマくんが決めることです。……また同じこと聞いてきたら、今度は張り倒しますからね?」
エルマールさんはこう答えた。
「あ?んなもんてめーで決めろや。……一応言っとくと、遊びで付き合うってのだけは止めとけよ。大概ロクでもねー事になる。いや、マジで。」
キースさんはこう答えた。
「それは君が一人で考えることだ。……なんにせよ、後悔の無いようにしたまえよ。」
大人たちは頼りにならなかった。三人とも、自分で考えろとしか言ってはくれなかった。色恋なんてものは結局そうするしかないのだろう。俺は自分のレイに対する気持ちを改めて考え直すことにした。
自問自答。俺はレイをどう思っているのか。
大切な存在である。これは間違いない。レイのためなら命だって捨てられる。
出会った日から今までずっと、俺の生きる理由は彼女だ。それはつまり、レイは俺の死ぬ理由でもある。
俺にとってレイはそういう存在だ。
では彼女を愛しているのか。そう言われると答えに詰まる。こっ恥ずかしいが、愛とは一体なんなのか、そういうことだ。
俺はただ、彼女のそばにいたいだけだった。レイが俺に求めてくるような、接吻だったり、性行為だったり、そういうことをしたいとは思わなかった。
……正直なところ、絶対に嫌だというわけでも無かったが。
レイは中身はともかく見た目は可憐な少女そのものであるし、彼女の言う自分は男だったという話も、結局俺は彼女の男の姿を知らないのだ。そういう行為をする上で大した問題ではない……と思う。
……ならば、俺はレイの望むままにレイの恋人になってもいいのではないだろうか。別に嫌ではないのだ、彼女と付き合う事は。ただ何となく、友人以外の形のレイとの付き合い方が分からなかったから、今まで逃げていただけで。
俺が彼女の思いに答えれば、彼女は喜んでくれるはずだ。そして俺は彼女とずっと共にいられるだろう。誰が損をするわけでもなく、二人の望みは叶う。俺もレイも、二人とも幸せになれるのだ、レイを受け入れることは、いい考えの様に思えた。
翌日、いつものようにレイが俺の腰にまとわりついてきた。付き合えだのちゅーしよーぜだのセックスセックスだの喚きながら。もう少しその品性はどうにかならないのかと思う。彼女の髪からふんわり香る甘い匂いだけが、レイが少女なのだと思い起させる。
いつもなら適当にあしらって、つまりは逃げて終わりだったが、今日は彼女に気持ちを伝えるのだと決めていた。彼女の両脇に手を入れて体を持ち上げ、目線を合わせる。少し高めの体温と軽い体重を感じながら、彼女の青い瞳をじっと見つめる。
「ほげ。……お、ようやくその気になった?うへへへへ……。ほら、んー♡ レイちゃんのファーストキッスだぜー!貰ってくれやー!んーーー!!」
軽口を叩きながら唇を突き出す彼女。いつもと変わらない態度。
このままレイに口づけをして、抱きしめて、適当に愛を囁いて、後はレイに流されるままに動けば、それで俺とレイは恋人同士になるのだろう。
ゆくゆくは恋人から夫婦になり、父と母になり、孫ができ、そして最期は一緒の墓に入るのかもしれない。それは、俺にとって悪い未来じゃなかった。
彼女の唇を見る。薄桃色のそれは、よく見るとわずかにぷるぷると震えていた。脇に差し込んだ手にとんでもない速さで脈打つ鼓動が伝わってくる。顔が普段よりも赤くなっている。ほんの少し呼吸が荒い。
……レイは緊張していた。レイにとって、今は大事な場面なのだろうか。俺と恋仲になるということは。彼女も俺とのそういう未来を想像しているのだろうか。俺と恋人になり、夫婦になり、子を産み、孫を撫で、一緒の墓に入る未来を。
俺がレイと結ばれる未来ではなく、レイが俺と結ばれる未来を想像した時。
……たまらない
レイが、
俺の親友で、憧れで、俺に生きる事を教えてくれた、命よりも大切なレイが、自分を愛していない男と恋仲になる?その男と子を産んで、孫を撫でて、一緒の墓に入る?
底冷えする様な明確な殺意が生まれ、それは俺自身に向けられていた。
彼女の体を床に降ろす。レイはきょとんとした顔で俺を見上げた。口を半開きにして疑問符を浮かべた、知性の欠片も見えない、どうしようもないくらいに愛おしい顔。
冷えきった頭で言葉を探す。彼女を振るのにちょうどいい、彼女にはどうすることもできない理由を。
それはすぐに見つかった。震える口を無理やり動かし、その言葉をレイに告げる。
俺は男だったお前とは、そんな関係にはなれないと。
◇
廊下から、甘ったるい猫なで声が聞こえてくる。
「ゆー、うー、まー♡ 風邪で苦しんでるお前に、愛するレイちゃんがやってきたぞー……♡」
今の俺には恐怖でしかない鈴の鳴るような可愛らしい声。レイはもう部屋の目と鼻の先にいるようだ。俺は今日、ここで死ぬのかもしれない。
パーティを支える頼れる大人たちは、すでに3人ともやられてしまった。もはや自分の身を守ることの出来る存在は自分だけである。
熱でふらつく体を無理やりに起こし、ベッド脇に立てかけた聖剣を抜き放って鞘を両手で構える。
勝機は限りなくゼロに近いだろうが、それでも諦めるわけにはいかないのだ。俺が死ねば、悲しむ奴がいるのだから。
ガチャガチャとドアノブが揺れ、一瞬止まり、レイが力にものを言わせて無理やりぶっ壊したのだろう、次の瞬間バキリと折れる音がした。
ギギ、ギギギと音を立て、ゆっくりゆっくりと扉が開いていく。
頼む、キースさん、エルマールさん、フェリアさん。少しでもいいからレイを削っていて下さい。できれば満身創痍にまで、小突けば倒れるほどまで消耗させていて欲しい。
ドアが半分ほど開いたところで、彼女が思いきり蹴りを入れた。バーンとでかい音を立てて蝶番もろともぶち破られたドアが部屋の内側に倒れる。
なぜそんな非道な意味の無いことをするんだ、もうそこまで開けたのなら普通に開ければいいじゃないか。俺の部屋のドアにお前は何の恨みがあるんだ。そんな疑問を浮かべる余裕は無い。
もうもうと煙を上げる扉の向こうに立っていたのは、白い帽子と白い服に身を包み、バカでかい注射器を抱えて背中には真っ白の羽根を付けたアホが一人。
「お注射天使レイ!ただいま参上!」
……キースさん、エルマールさん、フェリアさん、どうしてレイはナース服なんですか。
あなたたちは何をしていたんですか……。
とんだ激重ポエマーだよこいつは!
そしてまさかの中編だよ!
どうなってんだ!!!