ああ、愛しの勇者さま -TS転生して勇者に惚れたのでどんな手を使ってでも落そうと思う- 作:ちいたまがわ
イングリッシュとジャパニーズが交錯する異世界で
先々週の夜這いは失敗に終わった。原因はひとつだ。マーレさんという最大にして最強の伏兵を忘れていた事、それに尽きる。いや、そりゃあの人だって所詮56のおばちゃん、青春と恋の輝きに満ちた若さあふれるオレがリアルファイトを挑めば勝てますけどね? だけど人間、飯を作ってくれる相手には逆らえねえんですわ。まみーと喧嘩した翌日、飯抜きの刑に泣きながら降伏した屈辱の記憶は、体は変われどオレの魂に焼き付いているのだ。人はパンのみに生きるにあらず。されどもパンがなけりゃあ生きてはいけねえ。飢えはつらたんなんだぜ。
いやしかしだ、ぶっちゃけこないだのはだいぶ良いとこまで行ったと思うんだけどなあ。もう完全に寝てたじゃんユウマ。
……え? あいつオレに惚れててオレの事考えると夜も眠れないの? やばない? めっちゃ興奮してきた。だってそれってあれじゃん。深夜に一人で枕抱きながらオレの声とか思い出して悶えてるってことでしょ? 今日のレイはいつにもまして色っぽかったなあとか思いながら、悶々としたものを抱えてばったんばったん毎夜過ごしてるってことじゃん。うひょー。やべー。やー、まあしょうがねえよなー、こーんなスーパーぱーぺき美少女に言い寄られちゃあなー。全くしょうがない奴だぜユウマくんはよー。うへ、うへへへへ……。
……はぁ、むなし。悲しくなってきた。
あいつがオレに惚れてたら、もうとっくにオレはぐっちょんぐっちょんになるまで抱かれてるっての。専用ぷにあなになってるっての。
オレがいまだに処女なのは、つまりはそういうことなんすよ。……現実を受け入れねえとな。オレの恋は片想いなんだと。
……最近なんか、露骨に避けられてるし。オレが夜這いをかけたあの日から、なんかすっごくよそよそしくなっちゃったし。お休みの日だって、いっつもあいつ屋敷にいないでどっか行っちゃうし。今日もどっか行っちゃったし。オレ以外の3人とは割と一緒にうろうろしてるみたいだけど、オレは絶対連れてってくれないし。クソが。オレがなんかしたか? いやしてるな? してるわ。セクハラまがいのこといっぱい。でもいいじゃん。美少女無罪ってことでさぁ。銀髪碧眼のぷにろりに言い寄られるなんて、男冥利に尽きるだろうが。
ともかく。
もはやオレは万策つきたのである。どうすりゃいいのかわからんのですよ。どうしたらユウマが振り向いてくれるのか分からんのですよ。
最近ちょっと思い始めてきちゃったもん、なんかもう、いいんじゃねえかなってさ。今までのは全部ふざけてたってことにして、友達としての関係に戻ってもって。恋人じゃなくてもって。
……だって正直辛いもんよ。温度差っていうのかな、あれだよ、オレだけ一人でただただ空回りしてるのは辛いんだよ。飲みの場でかくし芸が1ミリも受けなかった時みたいに辛いんだよ。……うん、酒の席をコイバナの例えにするのは無いな。覚えとこう。オレはまた一つ賢くなった。てれれれってってってー。
だからね、今回で最後にしようと思うんだ。
ダメだったら、すっぱり諦める。……でも多分、諦められないんだろうな。わかってる、それくらい。諦められる恋なら、こんなに辛くなるわけないもんな。
だから、もし今回も受け入れてもらえなかったら、……パーティ抜けて、あいつに会う前に、一人でてきとーに暮らしてた頃に戻るかなー。
まあ別に、オレがいなくなっても大丈夫だろ。正直最近あんまりオレ役に立ってないし。というかユウマありえないくらい強いし。あいつ以外みんな応援団みたいになってるし。魔族とかビーム一発で消し飛ばしてるし。完全に人外の強さだし。オレらがドラクエのステならユウマはFFのステってやつですし。しっしっしー。
ま、今後の予定も決まったことだし。
そろそろ動きましょうかね。せっかくオレには今はまだ仲間がいるのだ。力を借りることにしよう。
◇
というわけで、オレはキースの部屋にやって来たのであった。
「おーいキース。アレ出来てるか? アレ」
「ふむ、アレ……?」
「おいおい忘れたのか? アレだよアレ。『あいのくすり』だよ」
『
一週間ほど前からキースに頼んでいたのである。惚れ薬を作れと。倫理観なんていらねえ。大事なのは結果だ。少女漫画にはレイプから始まる恋なんていくらでもあるんだ。ヤクから始まる恋があったっていいじゃねえか。
最後だから正攻法で行くだとか、そんななまっちょろい女の子じゃないんだよオレぁ。最後だからこそ、正義も人間性もプライドも、何もかもを捨てて立ち向かう。使えるものはなんでも使う。ヤクでもな。これが恋に生きる女の子の生き様よ。
「ああ、『あいのくすり』か。いやもちろん覚えているとも」
「あー、ひょっとして、まだ出来てない?」
「いや、出来ているさ。むしろいつ取りに来るのかと思っていたよ。何せ君に頼まれたその日には完成していたのだから」
「え。……『あいのくすり』だぞ? そんな簡単にできんの?」
「何を言っているんだ、君は。今まで君に頼まれてきた、訳の分からないものに比べれば、こんなもの簡単に決まっているだろう」
ええ……。こいつこえー……。ぶっちゃけこれは流石のキースえもんでも無理かもしれんなって思ってたのに。マジカルとケミカルだけじゃなくメンタルにも対応してるとは。こいつの名前がルで終わる、例えばキールとかだったら、マジカルケミカルメンタルキールだったのにね、惜しいね。何言ってるかわけわかんないね。こわいね。
「……そういやフェリアが言ってたじゃん。なんかオレに作るならまずみんなに話を通せって。あれ平気だったの?」
「うん? ああ。もちろん皆、これ位なら構わないと言ってくれたさ」
「え゛……マジ? あ、ユウマには?」
「サプライズプレゼントなんだろう? 彼にはちゃんと黙っておいたよ。僕は大概恋愛事には疎いが、それくらいの気は使えるつもりだ。……プレゼントがこれというのは、僕にはあまりに色気が無いようにも思えるが」
……時々ここが異世界なんだって思い知らされますわね。こんなことで思い出したくは無かったけどな! パーティの仲間は全員、人の心を持っていませんでしたわ。惚れ薬を
「ほら、受け取りたまえ」
そう言って人の顔をしたメガネの悪魔はオレに小さな薬を放り投げる。
慌ててキャッチしたそれを見る。透明の液体が小さな容器に入っていて……、ふーん、なんかあれだね、
「これが、『
「そうだが。……まさか君はこんなものも見たことが無いのか? 市販の物も、殆ど全てそれと同じ形状をしているだろう」
「え゛。待って、市販……? これ普通に売ってんの……?」
「……君は多少常識知らずだとは思っていたが、ここまでとは。こんなもの、別に何も珍しい物じゃないぞ。売ってる店なんて少し探せばすぐに見つかるだろう」
「いや、その、ジョークグッズとか、そういうことだよね……?」
「なんのジョークになるんだこれが……。多くの店で取り扱っていて、大勢の人が利用しているものだ。普通の実用品だよ」
いやいやいやいや! やべーよこれ、この世界やべーよ! オレが街で見かけていいなーってあこがれてたあの人たち、おてて繋いで散歩してる初々しい男女も! 子供背負って二人で並んで歩いてる父親と母親も! 毎日公園でハトに餌をあげてるおじいちゃんとおばあちゃんも! みーんなお薬で頭変にされて付き合ってるのかもしれん! こえーよ!
「まあ、君に渡したそれは僕が作ったものだ。店売りの品などとは比べ物にならないほど質が良い事は保証しよう。僕も愛用しているしな」
「いや待って待って待って! お前もこれ普段使ってんの!?」
「ああ、そうだが。……何をそんなに驚く?」
「いやだってお前! 言っちゃ悪いけどお前はこんなもんと縁遠そうな感じじゃん!」
「む、そんなことはないだろう。僕は魔術師であり、そして研究者だ。一人ひたすら、本と向かい合うことも多い。そういう時に、乾くのだよ。……わかるだろう?」
「何が乾くんだよ! 一人寂しさにナニが乾くってか!」
「何がって、決まっているじゃないか。君風に言うのならば、『あい』が、だ」
僕の愛の棒が乾くのだよってか! 直球のエロじゃねーか! 正直お前の下半身のソレは未使用だと思ってたよ! いい年こいて童貞だと心のどっかでバカにしてたよ! そんなに食いまくりヤリまくりだったのかお前! ……これからはコイツに近寄らんとこ。こわい。ぶっちゃけ今この部屋に一緒にいるだけでこわい。性欲お化けの近くにいるってこわい。……なんでか分かんないけどちょっとユウマにごめんねって気持ちが沸いた。ふっしぎー。
「はぁ……。その分だと使い方も分からないだろう。教えてやろうか?」
「え……。ひえっ! や、やだっ! 来るな! オ、オレの初めてはユウマにって決めてるんだ!」
使い方を体に教えてやろうってか、このケダモノ! ロリコン! ペド野郎! やっぱメガネにマントの魔導士なんてロクなやつはいねーんだ!
にじり寄って来たエロメガネから必死に逃れ、部屋から脱出……しかけたところで半開きのドアの隙間から振り返り、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないか、などと呟いているキースに声をかける。
「あ、そうそう。これ効かなかったらオレ、パーティ抜けるから。じゃあなー」
「……は? いや待て! 何を言っている君は! いきなりどうしてそんなこ」
ばたーん、とドアを閉めて部屋を立ち去る。
キースがなーんか言ってた気もするけどー、あーあー、聞こえなーい。ふんふふーん。
◇
さて、キースから惚れ薬を受け取り自室に戻ってきたオレだが、これをどうやって
「おい、レイ君! さっきの話はどういうことだ!」
ドアをバンバン叩く音と、叫び声がうるさい。気が散るんじゃ。どっか別の場所で考えよう。
しかし出入口は固められているし、つかまれば尋問はまぬかれないだろう。ふーむ、どうやって脱出するか。ま、ドアから出たら捕まっちゃうのなら、窓から飛び降りればいいじゃないってだけだな。とうっ。
◇
さてさて、この惚れ薬をどーやって使ったもんか。
片手に握りしめながら、街をてきとーにぷらぷら歩く。
使い方がどうこう言ってたけど、いくらなんでも注射じゃ無いだろうし、てことはたぶん飲ませればいいんだろう。というかオレは薬の使い方なんてそれくらいしか知らねえ。固体なら砕いて鼻から吸うとかあるのかもしれんが、これ液体だし。こっそり飲ませるためには、ま、飲み物かなんかに混ぜればいっかなー。
そんなことを考えていると、
「あ、ユウマ」
「げ、レイ」
「げ、て」
ユウマとばったり出くわした。
ほげぇ。まだなんも準備できてねっすよ。ここは一旦お薬のことは忘れて、適当にごまかさねーと。
「あーあー、ユウマお前なにしてんの? ……ちなみにオレは散歩な。なーんも考えてない、ただのプータローの散歩な。悪巧みなんてちーともしてないお気楽ゆるりぶらり旅な」
「……まあ、何も聞かないでおいてやる。俺は……下見かな」
「下見?」
横を向いたユウマの視線を追うと、なんだかちょっとおしゃんてぃーなこじゃれたレストラン。あらあらまあまあ。初々しいカップルも、何組かいらっしゃるじゃないですか。可愛らしいですわね、うふふ。……もはやオレの目にはそんな風には映らんがな! 男と女、どっちがお薬盛ったんだろうねー、こわいなー。
「へー、なんかいい感じのとこじゃん。何の下見よ?」
「何の……。あー、その、ほら、せっかくなら、雰囲気ある場所でって思って、な?」
「だから何をだよ?」
「……お前はここ、いい雰囲気だと思うか?」
「え? ……まあそう思うけど。こーいう場所でデートとかしたいよなー。なー、ユウマー。なー。なー?」
「……じゃあ、ここで告白されるとか、は?」
「いいんじゃねーの? まあむしろあれだな、どっちかってーと、わざわざ告白するために一生懸命場をセッティングしてくれたことに、きゅんきゅんしちゃうな。オレなら。オレは結果だけでなく、努力を認められるいいおん……待て、いやお前これ何の下見だ。吐け。おい吐け、吐けー!」
「や、やめろ離せ! お前にだけは死んでも言わん!」
おいおいおいおいふざけんなよ。こんなんどう考えてもユウマが誰か意中の相手に告る場所を探してますって話じゃん。……あっ、その『誰か意中の相手』ってのがオレの事か。はっはっは、なんだよ、こんなバカみてーな薬に頼る必要なかったじゃーん。
……そんな都合のいい話があるわけねーぜ。いい加減現実を見ろ。何日こいつに振られ続けてると思ってんだ。ユウマが告る相手がオレだと本気で思うか? 違う女に決まってんだろ。……え、やべ、吐きそう。泣きそ。え、ここで? ユウマが? 誰かオレ以外のやつに? 告白すんの? わざわざ下見に来るってことは、もうその日は秒読みで、一ヶ月後かも、来週かも、もしかしたら、明日かもで……。
……。
「……なあユウマ、お前、もうこのレストラン入ったのか?」
「……お前どうした? なんか目が据わって……」
「オレが付き合ってやるよ、下見。何に使うのかは知らねーけど、女の子として評価してやる」
「……は? いやお前と一緒に行ったら意味な……!」
「つべこべ言ってねーでついてこい!」
ユウマの腕を強引に引っ張り、オレはレストランに突入した。ポケットのなかで、『あいのくすり』を固く握りしめながら。
……正真正銘、これがラストチャンスだ。
ネクストコナンズヒーント!!
『目薬』