ああ、愛しの勇者さま -TS転生して勇者に惚れたのでどんな手を使ってでも落そうと思う-   作:ちいたまがわ

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どんどん自分がみじめになっていくぜ。きちいぜ。

 

 

 

 

「ユウマー、飯の時間だぞー」

 

 二階の自室にいるだろうユウマにダイニングから呼びかける。ちょっとの間の後、今行くー、と返事が返って来た。なんか家族みたいで興奮する。ふへへ。今度から飯の時はオレがユウマ呼ぼうっと。

 

 たん、たん、たんと階段を下りてきたユウマが、オレしかいない様子を見て少し驚いたような顔をした。

 

「あれ、みんなは?」

 

「今日はオレたち以外はみんな外で食べてるぞー」

 

「え……なんで?」

 

「それはだなあ、ふっふっふ、……オレがお前のためだけに晩飯を作ってやったからだ!だだーん!どうよ!この美味そうなシチューは!」

 

「へー、レイ、お前意外と料理なんて……、俺のために作ったって?」

 

「えへへー、お前にオレもしっかり女の子らしいところがあるって知ってほしくてなー、ごはん作ってみたってわけだ。どう?どう?うれしい?感激したならちゅーしてくれてもいいんだぜ?ほら、んー」

 

「しないから、その顔やめろ、唇つき出すな。……まあ、正直嬉しくないわけじゃない。……うん、ありがとな。」

 

 お?まじ?これマジでワンチャンあるんじゃねえか?これはあれか?こっから選択肢ミスらなければそのままベッドで朝までコース狙えるのでは?なんかユウマ顔赤いし、ちょっと照れてるし。かわいー。うほほーい。

 

「ほらほら座れよユウマ、冷めないうちにさっさと食べようぜー。あーんしてやろうか?いや、オレにあーんさせたい?どっちがいい?」

 

「いやどっちもやらねえわ、勝手に食う……待て、レイ、お前なんか入れてないだろうな?」

 

 うおっ、やるじゃねえか。なかなかの警戒心。敵ながらあっぱれですな。ええ、ええ。確かに入れようとしましたぜ、わたくし。しかしですね、今回はちゃーんと思い止まったんです。

 つまりこのシチューにはやべーもんは一切入っていない、入っているのは食材と愛情だけだ。……いや、普通の愛情ですよ?変な意味じゃなく。入れてないからな、あっちは。やめたからなちゃんと。

 

「大丈夫大丈夫、なんも入れてないから安心して食ってくれや。ほらほら、あーん。口開けろよ、あーん。おらおらー。」

 

「やめろやめろスプーンで顔を突くな。……とりあえずお前の皿と交換させろ。」

 

「ああ?まあいいけど……、どうだよ、これで満足?」

 

「ずいぶんあっさり受け入れたな……。まさか、罠か……?俺の交換の申し出は読まれていた?本命はこっち?いや、本命が一つという前提がそもそも……?皿のシチューにも鍋のシチューにも、全てに何か入って……」

 

「いや、だから今回はなんも入れてねーって。」

 

「お前の言葉は信用ならないんだよ。前科何犯だと思ってるんだ?」

 

「うっ……。でもさあ!今回はホントのホントだって!」

 

「……もう少し調べさせろ。また毒物を食わせられたら洒落にならん。」

 

「だから!ホントに入れてないんだって!つーかあれは毒じゃなくて精力剤だって言っただろ!」

 

「いや、俺にしたらどっちも同じだろ、あのあとどれだけ大変だったと……。とにかくもうちょっと待て。そうだ、食品検査用の道具を確か……。」

 

「~~~~!なんだよ、何でそんなに……!もういい!食いたくないなら食わなきゃいいだろ!」

 

「そりゃ俺だって、俺だって食ってやりたいけどなあ……、お前のパンツがそこに落ちてんのが嫌な予感しかしねえんだよ!!」

 

 

 え?

 ……あっ。やべ。なんかすーすーすると思ったら。にゃるほどねー。

 えーっと、これ、言い訳追いつくかな?ごほん、ちょーっと『愛』を入れようとして脱いだけど、結局やめました。だから入れてないんです未遂なんです信じてください。ほんとに何もしてないんです。

 

 前科4犯の被告、キサラギレイに与えられる判決は、でれれれれれ……有罪!

 うん、でしょうね。妥当だと思います、自分でも。どんな敏腕弁護士でもきちいわ。

 

 となるとあれか、もう残ってる選択肢はひとつしかねえな。あんまりこれはスマートじゃないし好きな手段じゃないんだが、そんなことを言ってる場合じゃねえ。次からはこうならないよう気を付けよう。ふう、やれやれ。……さて、やろうか。

 

「ユウマの、バカーーー!!!」

 

「あっ、レイお前どこに!待て!おい!」

 

 三十六計逃げるにしかず。

 きらり涙を光らせながら、オレはおうちを飛び出した。ノーパンで。

 

 さらばユウマ、また会う日まで。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「それで、ユウマくんがご飯食べてくれなかったんですか?」

 

「そう!せっかく作ってやったのに、あいつぐちぐち文句ばっかつけやがって!フェリアはどう思うよ!」

 

「うーん、……これはレイちゃんが100悪いですね?」

 

「やっぱり?」

 

「はい」

 

 ですよねー。

 

 家を飛び出したオレは近所の酒場に突撃していた。理由はフェリアがいる気がしたから。結果は案の定、彼女は結構なまぐさなのだ。だいたい酒場か、恋愛ものをやっているなら劇場を探せば見つかる。たいへん俗っぽい。はいかわいい。

 これでフェリアは年の割には教会の結構おえらいさん、というか高い地位らしい。だのにそんなことしてていいのかと聞けばバレなきゃいいんですよとウィンクが返って来る。はいかわいい。

 

「そうですね、今度はユウマくんと一緒にお料理すればどうですか?楽しいでしょうし、それならちゃんと食べてくれると思いますよ。」

 

「そうするかー、料理自体は結構楽しかったし。……フェリアも一緒にやらない?」

 

「いいんですか?レイちゃんとユウマくん二人きりの方が……。」

 

「ああー、まあ、それはそうなんだけどさ。今日料理して見てさ、ユウマと一緒にする前に、ちょっと練習というか、その、料理、教えて欲しいなあって……。」

 

「へたっぴでも大丈夫って言ったじゃないですかー。」

 

「うへへ、そうなんだけど。やっぱりユウマに食べてもらうなら美味しいほうがいいなって、ね。」

 

「お、おおぉ……!愛、それは愛ですよ!まぎれもなく!くぅ~っ、これをぜひともユウマくんに聞いてもらいたかった!」

 

 フェリアと二人でお酒をちびちび舐めながら話していた時だった。

 バーンとドアを開ける音と同時に、怒号が響く。

 

「聞いた!ちゃんと聞いたぞ!レイ!」

 

「「!?」」

 

 ユウマである。

 声でっか。酒場のお客さんもみんなそっち見てるぞ。

 

「さっきの件は俺が悪かった!あの後いろいろ調べたが、今回はお前は本当に何もしてなかった!」

 

「え……その話はもうオレが悪いよねって決着したんだけど……。」

 

「この通りだ!すまん!」

 

 ユウマは叫びながら見事な土下座。こいつ人の話聞いてねえな?

 フェリアがいやいやユウマくんは悪くないですから、とかなんとか言いながら顔を上げさせようとするが、ユウマはかたくなに頭を下げたまま。お客さんに店員に、みんなの注目の的だ。

 

 ……なにこれ、罪悪感というか、申し訳なさというか。自分が完全に悪いのに相手に謝られるって、しかも衆人環境でって、オレがつらいんだが?加害者側だしつらいんだがって思う資格も無いって考えるとよりつらいんだが?そう思う資格も無いわけで、もっとつらくて……無限ループなんだが?だがだが?

 

「お前は本当に俺のためを思ってくれていたのに、俺はあんな態度を……!すまない!俺にできることならなんで……それなりに言ってくれ!」

 

 本当にユウマのためを思ってたかって言うと、正直八割がた劣情だしなあ。ちゅっちゅしてえってだけの。どんどん自分がみじめになっていくぜ。きちいぜ。

 

 うん?フェリアがこっち見て口をパクパクしてる。金魚か何かかな?酸素が欲しいよー、パクパク。はいかわいい。

 ……はい、そんなわけないですよね。口パクというか小声でなんか言ってますね。うーんと?

 

 てきとうに、なんか、おねがいして、このばを、おさめてください。

 

 せやな。さっさと土下座をやめてもらおう。でないと死んでしまう。オレが。心労で。罪悪感は人を殺す。

 

「あ、あー……。じゃあその、ユウマ?」

 

「なんだ!それなりに好きな事を言ってくれ!善処するから!」

 

「というかそこは何でもじゃないんですね、ユウマくん。」

 

「すみませんフェリアさん!流石にそれは色々危ない気がするので!」

 

「いえ、まあそもそも謝る必要が……」

 

 しかし好きなことを言ってくれ、か。罪悪感は酷いがまあそれはそれとしてだ。せっかくのお願いのチャンス、有効に使わねばなるまい。切り替えは大事なのだ。どうしよっかなー、うーん。というかそれなりって、どのくらいまでいけるんだろ。

 

「ユウマー、どんくらいのレベルまでならお願い聞いてくれる―?」

 

「どんくらいのレベル……。こう……エロくないやつまでなら!」

 

「あのー……だんだんわたしまで恥ずかしくなって来たんで、できれば早くしてほしいなー、なんて……」

 

 フェリアの顔がちょっと赤い。土下座を続けるユウマとその近くに座り込むフェリアの周りにはだんだんギャラリーが増えてきていた。まあそりゃ酒場だし、他人のもめごとなんぞ酒の肴だわな。

 しかしエロくないやつ。エロくないやつかぁ……。

 ふーむ、ハグだったり抱っこだったりはいけそうだ。添い寝は無理、キスもたぶん無理。デートは……別にデートって言わなきゃ二人で遊びに行くのはできるし。うーん悩むなあ、お姫様だっこなんかは足やられた時にもうしてもらったし。うへへ。そうだ、壁ドンして愛してるって言ってもらうとか……いや、それは自分からやってもらわんと意味ねえしな。

 

 あ、というかあれでいいじゃん。ちょうどいいし、やりたいし、普段はしてくれないだろうし。たぶんギリギリいけるし。

 

「決めた!ユウマ!決めたぞ!」

 

「なんだ!」

 

「たべさせあいっこしよう!お前の膝の上で!あーんするから、あーんして!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「レ、レイ。ほら、……あー、ん。」

 

「あーん♡ んっあまーい♡ はい、ユーマ♡ あ~ん♡」

 

「あ、あー……ん。いやあまっ!なんだこれ、ほんとにシチューか!?」

 

「分かってねえなあ、愛は甘いもんなんだよ。とろけるほどにな。そんなことよりさー♡ ほらほら、もっかいあーんしてよー♡」

 

「もう終わりだ!一回ずつやっただろ!」

 

「はー!?全部食い終わるまでやるに決まってんだろー!?」

 

「誰がやるか!そもそもこんなに大量に作って食いきれるわけねえだろ!終わりだ終わり!解散です!終了!」

 

「やだー!全部食べ終わるまでやるのー!」

 

 

 

 膝の上から投げ捨てられた。そしてユウマには逃げられた。泣けるぜ。

 

 

 

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