ああ、愛しの勇者さま -TS転生して勇者に惚れたのでどんな手を使ってでも落そうと思う- 作:ちいたまがわ
ようやく自室にたどり着いた。さあさあお着換えを始めましょうか。いっつショーターイ。
山と積まれたお洋服からオレが選んだのは(……一番上にあったやつだよ。悪いか。)なんかこう……ゴスロリ?みたいな?黒くてリボンがいっぱいついてて、背中にはすごいでっかいリボンが付いてるドレスみたいなやつ。
頭にもでっかいリボンのついたカチューシャ。そんでちっちゃいリボンのついた白と黒のしましまの靴下、違うこれはニーソックス?わかんねえよお。語彙力もゼロ女子力もゼロ。ベラベラしゃべる店員の話、ちゃんと聞いとけばよかった。
そもそもこれが清楚と呼ばれるファッションなのかも分かんねえ。むしろオレは何なら分かるんだ。オレが可愛いことは分かる。もうそれでいいだろ。十分っすわ、十分。可愛いは正義。あとあれだ、露出が少ないことも分かる。露出が少ないということは清楚。うん、完璧な理論だぜ。ぱーふぇくつロジック。レイちゃんかしこい。
どこに腕を突っ込んでいいのかどこに頭を突っ込めばいいのか、手間取りながらもうんしょうんしょと何とか着替え終わる。
さて、これで全身リボンまみれの黒白ゴスっ娘レイちゃんに変身したわけだが。どうやってユウマに清楚アピールすればいいんだろ。ふーむ、エルマールには、お前は絶対ボロが出るから口を開くなって言われたしなあ。どーしよっかなあ。
とりあえずベッドの下から引っ張り出したユウマノートを開いて今日のユウマの予定を確認する。ほーん、今お出掛け中で、あと2時間くらいで帰って来るのかー。
……よし決めた。ユウマの部屋で待ってよう。帰って来るのを。なんか気分いいじゃん、自分の部屋に着いたら女の子が待ってるって。お出迎えしたらまあそっからは……アドリブで。なんとかなるなる。そして最終的にはユウマにこの黒いおべべを真っ白に染め上げてもらおう。ぐへへ。……いかんいかん、こういうとこだぞ、オレ。
◇
新しく作った合鍵を手に意気揚々とユウマの部屋に向かう。が、鍵が合わない。ユウマのやつ、あれから鍵を新しく変えたらしい。いつの間に。許さんぞ貴様。そこまでしなくてもいいじゃねえか。どうせ合鍵使うのなんてオレだけなんだしよお。……えっ、てことはオレのためだけに鍵変えたの?そんなに嫌?泣きそう。
ダメだダメだ、泣いてる場合じゃない。ここで泣いてちゃユウマに鳴かせてもらえねえぞ。ドアが開かないなら別のところから入るまでだ。
自室の窓から身を乗り出し、お屋敷の壁を這い伝ってユウマの部屋の窓にへばりつく。ぺたりと張り付いたまま窓をがこがこ揺すってみても開く気配は無い。戸締りは完璧。ユウマのこの防犯意識の高さはオレが育て上げたと言っても過言ではない。嬉しくもなんともねえ。お前は雑魚のままでいい。くそったれ。
しかし開かないものは仕方がない。無理矢理開けよう。ちょーっと手のひらに魔力を集中すればほらこの通り。パリンと小さく音を経ててガラスは砕け散った。ありがとう異世界。ありがとう魔法。たぶんオレの魔力はこのためにあるんだと思う。ユウマと結ばれるために。
ガラスの破片に気を付けながら部屋のなかに着地。散らばった破片は適当に片付け、砕けた窓は……カーテン閉めとけばいいだろ。へーきへーき。ばれねって。
侵入ミッションは無事完了。でもユウマが来るまではまだそこそこ時間があるな。うーん、なにしてよっかなあ、へっへっへ。辺りを見渡すと、ベッドが目に入る。
……えへへ、基本ですよね、やっぱり。彼氏の部屋に来たらね、恋する少女の行動なんてね、決まってるんでね。いそいそと布団のなかに潜り込む。……あっ、これしゅごい。上からも下からも横からも、全部からユウマの匂いがしゅるぅ……。布団にくるまれて枕を抱き締めてると、ユウマに抱きしめられて、ユウマを抱きしめてる気がするよぉ……。すうぅぅーー……。はあぁーー……。うへへへ、いい匂いで、あったかくて、……眠くなってきちゃったぜー……。えへへ、ゆうまぁ……。Zzz……。
◇
くー、しゅぴしゅぴしゅぴー……。
くー、しゅぴしゅぴしゅぴー……。
「……イ、…きろ……!」
……んにゃー、なんかユウマの声が聞こえるきがしゅるー……。
「……レイ、……イ!」
んへへへへへ、ユウマ、おはようのちゅーでもしてくれるのかにゃー……。
「レイ!おい起きろレイ!」
もー……、そんなに急かさなくてもー……。
ゆっくりとまぶたを開ける。オレを覗き込むユウマと目が合う。うへへ、最高の目覚めだぜー。
……あ、やべっ。
「やっと起きたか。レイ、お前どうやって部屋に入った。」
……どうしましょうこの状況。えーっと、ホントは清楚レイちゃんがユウマをお出迎えーとか、そんな事を予定していたんですけどね。がっつり寝てたわ。気持ちいいんだもん仕方ないね。あ、よだれめっちゃ垂れてる。うええ、きちゃない。まあユウマの枕にマーキングできたと考えれば悪くない。
しかしこっからどうやって清楚になればいいんだ。清楚なおはようのあいさつとかある?おはようございますユウマさん、とか言えばいいの?わかんねわかんね。どうすんだこれ。とりあえずおはようのちゅーか?いやそれは絶対にないだろ、それじゃいつものオレだぞ。なに考えてんだ。思ったより動揺してるなオレ?でも他に何すればいいんだ。オレはそれしかやり方を知らん。愛は押すものだから。誰かぁ、たすけてぇ。
「ちゃんと鍵変えたのにどうやって……、レイ?」
ユウマが不審そうな目でオレを見てくる。……とりあえず起きるか、うむ、よっこいしょ。
下半身は寝たままベッドから体を起こし、ユウマと見つめあう。無言で。無表情で。……だってどうすりゃいいのか分かんねーんだもんよ。誰だアドリブでいいだろとか言ってたのは。出てこい。お前のせいだぞ。いいわけあるか。無理だろ。まず目指す清楚がどういうもんなのかも知らねーんだオレは。清楚ってなんだ。清楚ってのはつまり清らかな……、なんだこれ。礎の右側のこれ何。楚って何。そうか三国志か。いや絶対違う。
「お前、レイじゃない……?」
は?何言ってんだこいつ。お前の未来のお嫁さんの顔を忘れたってのか?張っ倒すぞ。正真正銘本物のレイちゃんだわ。……いやでもユウマとこんなに見つめ合うことなんて初めてかもしれない。よろしい、もうちょっとだけオレの顔を見つめることを許そう。ユウマの瞳に映るオレの瞳に映るユウマ。すごい、合わせ瞳の中に無限にユウマがいるよお。
「寝起きなんておいしいシーンでレイがオレに何もしてこないわけが……、いやしかし、じゃあこいつは……?レイの姉妹……?そんなわけない。レイの家族がこの世界にいるわけが……。」
はー、なるほど。おはようのちゅーをしなかったからオレがレイちゃんではないと。名推理だな。普段のオレならもう色々とぐちょんぐちょんになるまでちゅっちゅしてるとこだぜ。オレの事をよく分かってる。うれしい。やっぱり通じあってるんだなオレ達。運命の赤い糸で結ばれてるね。
「あー……、きみ、どうやってこの部屋に入ったのかな?」
どうやらユウマの中ではオレはもうオレではなくなったらしい。だったらなんなんだオレは。誰だオレ。誰かおせーてくれ。
ベッドの上で座るオレに、ユウマはかがんで目線を合わせて話しかけてくる。やー、なんか新鮮だな、こんな風に話すユウマなんて。出会った時以来だ。いつもよりもちょっと声が優しいし。お腹がキュンキュンしちゃうぜ。
せっかくよくわからん勘違いをしてるみたいだしこのまま別人のフリで行くか。安らかに眠れ、レイ。レストインピース。ぴーすぴーす^^V
しかしどうやって部屋に入ったか、ねえ……。窓割って入りましたと答えるわけにもいかねーしなあ。うん、黙秘で。
「……。」
「うーん、困ったな……。そうだ、きみ、名前は?」
……えっ、名前?やべえなんも考えてない。まってまって、名前、名前、なんかいい感じの名前……。
「……れあ。」
雑ぅ。まあとっさに思い付く分けねーわいい感じの偽名なんて。しょーがねーだろ、寝起きでなんもかんも想定外の事態にパニクってんだぞこっちは。コナン君だってその辺の本からとってたし、案外ムズいんだよ、偽名。それにしてもなんだレアって、雑にもほどがあるだろ。やべーってこれは。いくらなんでもユウマはそこまでアホじゃねえぞ。
「そっか、レアちゃんか。」
アホだったわ。レイちゃん悲しい。オレの旦那は将来簡単に詐欺とかに騙されそうです。カモです。勇者様だからお金持ちだし、ネギ背負って土鍋抱えて味付けの終わったカモ。でもそういうお人好しなとこが好きなの。お胸もお腹もきゅんきゅんしちゃうの。
「レアちゃん、お父さんかお母さんは、どこにいるかわかる?」
黙って首を振る。決めた。不思議ちゃんの無口なロリで行こう。もう清楚がどうとかどこ行ったか分かんねえけど。これならボロが出ることはあるまい。いやまじでベストな判断では?無口とか余裕でアドリブで行けるわ。なんも言わなきゃいいんだもん。過去のオレの判断は間違ってなかった。流石だ。
「わかんないか。……レアちゃん、ちょっとごめんね。」
そう言ってユウマがハンカチを手に取り、オレの顔を擦る。あー、よだれね、でろでろしてたもんね。きちゃないもんね。面倒見いいね、ユウマくん。いいお父さんになりそうでレイちゃんとっても嬉しいです。
しかしさっきからユウマがずっと優しくてすごい。いつものユウマも好きだけどこっちのユウマも大好き。えへへ、くすぐったいよお。下のよだれも拭いてほしいよお。
……いやまて、普通見知らぬロリにこんなことするか?よだれが垂れてるのが見苦しいならハンカチ渡して終わりだろ。なんでお前がぬぐってんだ。このスケコマシが。他の子にやったらぶん殴るぞてめえ。……あれ、今のオレはレイではなくてレア、つまりお世話されてるのはオレじゃないんじゃない?これひょっとして絶賛浮気現場なう?ぶん殴ったほうがいいの?
……でもユウマによだれ拭いてもらうなんて経験今しかできないよなあ。これを捨てるのは惜しい。オレには無理だ。なぜなら大変バブみを感じて気持ちいいから。ぱぱぁ……。ばぶばぶ。
だけどこの子、知らない子供なのよね。誰だよレアって。誰よこの女。妬ましい。ぎえええ。
「よし、きれいになった。うん、かわいいかわいい。それじゃあどうしよっか……。レアちゃん、お母さんのよく行く場所とか、分かる?」
黙って首を振る。このクソガキのおかんの設定なんぞ、みじんも決めてねえ……ちょっと待ってちょっと待って待って!ちょっと!今の!二言目!なんか聞き逃しちゃいけない言葉聞いた気がするんですけど!さっきからドキドキが追い付かねえ!可愛いって!絶対可愛いって言った!レアちゃん後でぶっ殺すからな!どんだけ優しくされてんだお前!あ、自分への嫉妬ってすごいナルシストっぽい。いや今はそんなことどうでもいい!ユウマさん!もっかい!もっかい言って!ねええええええ!
「……もう、いっかい……」
「? 一階?え、この家に、レアちゃんのお母さん、来てるの?」
「……ちが、もう、いっかい……!」
いや無口ロリってしゃべりづらっ。やめときゃよかった。過去のオレはやっぱりダメだわ。信じれるのは今の自分だけだ。でもこんな感じでいいのか?無口ロリって。合ってる?小声でぼそぼそ喋ってるだけだぞこれ。でも黙ることはできねえ。止まれねえんだ、頼むぅ、オレはもう一回可愛いって言われたいんだよぉ!
「……?もう一回?あ、まだ口になにかついてた?」
ユウマはハンカチを裏返し、もう一度オレの顔に近づけようとする。うへへ、ぱぱぁ……。いや違う!それも大変魅力的ですけど!違うんです!可愛いって言って欲しいんです!です!
「ちが……!もういっかい……いって……!」
「ああ。もういっかい言って、か。」
そう!そうです!いいぞユウマ!
「レアちゃんのお母さんが、よく行く場所とか、知ってる?」
違う!そこじゃない!
「ちがう……!そのまえ……!もういっかい、いって……!」
「その前……?あ、どうやって部屋に入ったか、思い出したの?」
うーん、ちょっと戻りすぎかな!あああ、イライラするよお!
「それじゃなくて……!もうちょっとあと……!」
「えーっと、後って言うと……。名前?あ、ごめん、レアちゃんじゃなかった?」
それはまあ私はレアちゃんじゃないですけど!があああああ!わざとやってんのか!?なんなんこいつ!こういうとこから夫婦生活に亀裂が入ってくんだぞ分かってんのか!まあオレは許してあげるけど!愛って偉大!
「そのあと……!もうちょっと……!」
「そのあと、あと、あと……。……お父さんのいるところなら分かるとか?」
「だあああああああ!ちげえわ!可愛いってもっかい言えって言ってんだよ!このアホ!」
「……え。」
「……あ。……ごほん。わたくし、いつものレイちゃんでございますことよ?」
叩き出された。お嬢様言葉は清楚じゃなかったらしい。学び。
サブタイは本文から適当に抜粋して付けてるんで、書いてる途中は未定なんですよね。で、とりあえずの仮題は『あたまおかしい 〇(話番号)』にしてるんですけど、頭おかしいキャラなんて登場してないのになんでそんな名前なんでしょうね。不思議ですね。