ああ、愛しの勇者さま -TS転生して勇者に惚れたのでどんな手を使ってでも落そうと思う-   作:ちいたまがわ

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ユウマ視点です。


せっかくだし雰囲気変えたろ(笑)って思ってたらなんか暗くなったのでこち亀の例のBGMとか流しながら読んでね!





第一話 『二宮悠真の独白  如月怜に対する出会いから今に至るまでの複雑な感情。そして、これから。』 前編

 

 

 

「ふむ、熱に軽い喉の痛み、全身の倦怠感……。まあ、十中八九、風邪だろうな。」

 

 いくつかの軽い問診のあと、キースさんがそう言った。

 

 どうやら俺は、風邪を引いたらしい。

 

 自室のベッドに寝かされたまま、窓からちらりと外を眺める。いつもと変わらずぴーちくぱーちく喚く小鳥を横目に嘆息。勇者だのなんだの言われながら、風邪とは。せっかくの休日だが、少なくとも今日一日は寝て過ごすことになるだろう。

 

 風邪を引いたことに、何か特別な理由があったわけじゃない。ほんの少し体調が悪くて、今は季節の変わり目で気温が不安定で、つい寝苦しくて布団を蹴飛ばしてしまって、多分たまたま体の免疫力が少し弱っていて。そんな風に小さな原因が積み重なっただけだ。自己管理がなっていないと言われればそれまでだが、正直これは運が悪かっただけだ、そう思う。

 

「ゆっくり休みたまえよ。幸い今日は依頼も入っていなければ、魔族がどこかに現れたという話も無い。君はまだ若い、安静にしていれば、すぐに熱も下がるだろう。」

 

 あなたもまだまだ若者でしょうに。そう思うが口には出さない。人は自分より年下の相手に対して年寄りぶろうとするものだ。藪蛇をつついて腰が痛いだの疲れが取れないだの、老化自慢をされても面倒なだけである。

 

 聴診器と体温計をしまいこんだ小さな医療具箱を片手にさげ、キースさんは部屋から立ち去ろうとする。だるい体に鞭を打ち、慌てて彼の背中に声をかける。頼まなければならないことがあった。もしかすると、万に一つも無いだろうが、さすがにいくら何でもとは思うが、それでもやはりもしかするとと思ってしまう、……俺の命に関わるかもしれない問題について。 

 

「あの、お願いしたいことが。キースさんと、フェリアさんと、エルマールさんに。」

 

「ん、なんだい?……レイ君はいいのか?彼女なら君の頼みは快く引き受けてくれると思うが。」

 

「いえ、その、むしろレイには絶対知られたくないというか……、その、ですね。」

 

 どうしても歯切れが悪くなってしまう。自意識過剰だとか、考えすぎだとか、そんな風に思われてしまいそうで少し恥ずかしい。何よりも。

 

「なんだね。二人には僕から伝えておくから、はっきり言いたまえ。」

 

「その……。俺が風邪だと知ったら絶対レイは看病と称して襲ってくるので、皆さんで俺を守ってください……。」

 

 

 ……情けなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 第一話

『二宮悠真の独白  如月怜に対する出会いから今に至るまでの複雑な感情。そして、これから。』

 

 

 

 

 

 

 

 あのあと少し苦笑をしながらも、キースさんは俺の護衛を引き受けてくれた。エルマールさんとフェリアさんもまあ、たぶん大丈夫だろう。

 

 ベッド脇においた時計を見ると今は朝九時。休日ともなれば昼過ぎまで寝ていることも珍しくないレイだが、今日ははたしてどうだろうか。……頼むから今日だけは起きてこないで欲しい。できれば俺と同じ様に風邪を引いて寝込んでいてくれ。頼む。

 

 もちろんというべきか、そんな俺のささやかな願いは届かなかった。隣の部屋の、レイの部屋のドアが勢いよく開く音が屋敷に響く。俺の頭にも響く。ドタドタと廊下を走り、階段を一足飛びに降りているのだろう、ダンダンと景気の良い足音が聞こえる。あいつは俺とは正反対に、今日も元気いっぱいの様だ。

 

 このままでは俺の身が危うい。……具体的に言うと、主に貞操が。

 俺が部屋から出てこない事を、キースさんたちが上手く誤魔化してくれればいいのだが。階下に耳を澄ます。

 

 

「なにっ!?ユウマが風邪を引いた!?……じゃあオレが看病するー!」

 

「おいフェリア!キースがそれを言うなっつってただろうが!」

 

「……えへへ。……ユウマくんごめんなさーい!ばれちゃいましたー!」

 

 

 耳を澄ますまでも無かった。……キースさん一人に頼んだ方が、よかったかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 この世界に来る前は、日本で高校生として生きていた。普通の人間だったと思う。学校に行って、部活をして、塾に行って、家で眠る。そんな単調な日々を繰り返す、普通の人間。息が詰まるような現代社会で、未来に大した希望も持てずに、生きることが億劫で、さりとて自殺するほど絶望しているわけでもなく、偶然たまたま幸運にも、事故か何かでさっくり死ねないかな。そう願いながら生きている、普通の人間。

 

 自転車のブレーキが壊れかけているのを無視したり、雨の日の駅の階段を小走りで下ってみたり。そんな風にわざと危険と隣り合わせになろうとする、プロバビリティーの自殺とでも言うべき生き方をしている、普通の人間。

 

 その日もそうだった。点滅している歩行者信号を見て、左右の確認もせず、少しだけ飛び出しぎみに横断歩道に足を踏み入れた。灰色の期待でほんのわずかに胸を膨らませながら。そして、とうとう望んでいた瞬間が訪れた。体全体に鈍い衝撃が走り、遅れて激しい痛み。自然と首が衝撃の方を向いて、驚いた顔の運転手と目が合う。左折してきた車に撥ねられたのだと理解した。薄れかけていく意識の中、少しだけ、運転手と両親に申し訳なく思った。

 

 

 が、俺の人生はそこで終わらなかった。気が付くと俺は見知らぬ河原で寝転んでいた。

 天国や地獄なんてものは信じていなかったから、自分が死ねなかったことを、生きていることをすぐに理解した。ため息をついた。

 

 それからここが俺の生きていた世界とは別の世界だと、異世界だと気づくまでには、少しだけ時間がかかった。気づいてからは、どうやって生きていくかに悩んだ。死にたいことには変わりはないが、自殺なんて出来ないことにも変わりはなかったから。

 生きているからには生きる必要があった。生きるためには食べる必要があった。食べるためにはお金が必要だった。お金を得るには働く必要があった。この世界も、それは変わらなかった。

 

 知らない町で、知らない人たちの間を彷徨いながら、仕事を探した。何の技能もコネも無い俺に与えられた仕事は、冒険者、なんてふざけた仕事だけだった。この異世界には魔物と呼ばれる恐ろしい生物がいるらしい。人を襲い、殺し、そのためだけに生きている生物。冒険者は、そんな奴らを駆除して金を得る職業だった。

 

 好都合だった。簡単に死ねそうだった。俺は一も二もなく冒険者になった。

 

 だが、予想に反して冒険者としての日々もまた、ずっと単調だった。

 新人には危険度の高い仕事は与えられないらしい。無鉄砲な子供が棒を持って追いかけ回すこともあるような弱い魔物を駆除するだけの、怪我をしてもせいぜいが打撲程度の、そんな日々だった。素手でも倒せるような魔物を斬り殺して、その日の宿と食事とほんの少しの蓄えになるだけの金を得て、毎日を過ごした。

 

 

 そんな風に暮らして、一月が経ったくらいだっただろうか。ある晴れた日の事だった。その日は少し気分が良かったのかもしれない。俺にはまだ早いと言われた、俺がいつも駆除しているものよりもずっと強い魔物がいるという森に足を踏み入れた。

 普段なら、もっと受け身に死を待つことしか出来なかったのに。

 

 鬱蒼と生い茂る木々の間をふらふら歩いた。その強い魔物とやらがさっさと出てきて俺を殺してくれないかと思いながら。帰り道をわざと覚えないようにしながら。餓死は長く苦しみそうだから、魔物よせめてそれよりも先に出てきてくれ、そう願いながら。腰に佩いた剣から耳障りな金属音を鳴らして歩き続けた。

 

 歩いて歩いて、足が疲れてきてもまだ歩いた。立ち止まって眠ればその間に死ねるのかも知れなかったが、俺はこの森から出ようと頑張っている、そういう建前が欲しかったから。何に対する建前なのかは分からない。それが何の意味も無いことも分かっている。それでも、死ぬことに対して言い訳が欲しかった。死ぬつもりはありませんでした、精一杯生きようと努力はしたけれど死んでしまいました。誰かにそう言う機会があるわけでも、それで何が変わるわけでもないのに。深い沼のような考えに囚われながら、歩き続けてそのうちに、少し開けた場所に出た。

 

 木々の葉の天井の無い、青空が見える場所。

 薄暗い森の中で、唯一光を浴びる場所。

 

 足が止まった。

 そこに、銀色の妖精がいたから。

 

 毒々しい色の花を咲かせる植物の魔物の群れの中心で、自分の背丈よりもずっと大きな剣を片手に、調子はずれの鼻歌を歌いながら、透き通るような銀髪をなびかせて踊る、小さな少女がいた。

 

 呼吸を忘れた。目を奪われた。それはどこか幻想的な光景だった。

 

 陶然とした薄い笑みを浮かべた少女がくるりと回る。少し遅れて白銀が閃き、花びらが散る。鞭のように繰り出される強靭な茎を、浴びせられる強酸の溶解液を、目をつむったまま、鼻歌交じりにターンとステップで紙一重に躱していく。

 

 見惚れていた。普段なら、少女を助けるという建前の元に殺されようと飛び込んだだろう足は動かなかった。代わりに、少女の歌う鼻歌が、少し古いアニメのOP曲だと気づくだけだった。

 

 くるくる回る少女の舞踏は、もうほとんど終わろうとしていた。彼女を取り囲む魔物は一体また一体と花弁を落とし動かなくなっていった。最後の一体が背後から鋭く突き出した葉の上に少女はふわりと飛び乗り、振り返りもせず剣を振る。白が走り、歌が終わる。魔物がびくりと震えた後、花が音も無く落ちた。そして、その魔物も、辺り一面に広がる萎れた魔物も、全てが茶色く枯れていった。

 

 呆然と立ち尽くす俺の前で、少女は閉じていた目をゆっくりと開く。瑠璃色をした美しい瞳が露わになる。

 そして少女は俺に向かって剣先を向け、歯を剥き出しにした野性的な笑みを浮かべながら、こう言った。

 

「どうだ!カッコよかっただろう!!」

 

 首が勝手にカクカクと肯く。森の中に少女の高笑いがこだまする。

 

 それが、俺と彼女の、―――如月怜との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 








(オチが無いと死んじゃう病なので)後編へ続く






……逆に言うと後編はどれだけシリアスになってもオチがあるということだな!安心安心!


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