変なポケモンに懐かれたと思ったら『SCP-682(不死身の爬虫類)』だった件   作:BOMBデライオン

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第2話:マトモな名前をくれ

 なんやかんやあったが、結局私は『えすしーぴー?682』とか呼ばれる正体不明のモンスターを連れて旅に出ることにした。

 

 …というのは建前で、当初はどこかで逃がす予定だったのだ。

 最終的にそれは失敗に終わったが。

 

 この生物、身体の構造を大幅に改変する事が可能なのだと言う。

 こいつが言うには、異常に鼻を利かせる事もできるし、視力をとんでもなく良くすることもできるらしい。この怪物なら、多少距離が離れていようが容易に私を発見できるのだ。

 そもそも移動速度が私とは比べ物にならないくらい速いので、私が逃げるのはハッキリ言って不可能だった。

 

 ならお供にした方が良いと私は考え、私はこいつを連れてとりあえずマサラタウンに戻った。

 ハッキリ言うが、こんな不気味なやつを傍に置いておくのは怖かった。

 いつ食われるか不安で不安でしょうがなかった。

 

 まあそれも、とある()()の生存を確認するまでだったが。

 

「おお! よく戻ったのう、カエデ君。もうとっくに死んでしまったかと思ったぞ」

 

 オーキド博士が私の名を呼びながら近付く。

 なんで死んで(食われて)ないねんお前。

 

 ちなみに後でこの怪物に聞くと、ここで私の知り合いを食べてしまうと私に旅に連れて行ってもらう可能性が低くなると考えたため、オーキド博士を食べなかったらしい。

 何も無かったら普通に食ってたらしいが、私は少しだけ安心した。少なくとも()()食べられないだろう。

 

 ていうか、化け物のくせに賢いな。

 ジジイくらいなら食っても私は何も言わないのだが。

 

「食べられなかったのですね…」

 

「もちろんじゃ、ワシがポケモンに食べられるなどあってはならないからのう」

 

 ポケモン…? 

 もし私にそのような権限があったら、私は容赦なくこいつを病院にぶち込んでいただろう。

 この怪物が一種のポケモンに見えるのなら精神科に行くことをオススメする。

 

「これがポケモンに見えるのですか?」

 

「それ以外の何と言うのかね? 実に可愛らしいじゃないか!」

 

 これが可愛らしい……???? 

 

 これと比べたら断然バリヤードの方が可愛い。

 ほうきを持って必死に掃除をする姿とか愛くるしくね? 

 

 え? そうは思わない? 

 

 お前も精神科行きだ。

 

「ところでカエデ君、君の最初のポケモンはそれかい?」

 

「まあ、なんかめっちゃ懐かれてるので…。他に選択肢がありそうもないですし」

 

 実際どういう訳か知らないが、私はこの怪物にめちゃくちゃ懐かれている。

 めちゃくちゃと言うと多少語弊はあるが、頭を垂れて尻尾を振り、絶対服従の意志を示すくらいだ。犬みたいだなこいつ。

 

 ちなみに振った尻尾が地面に激突し、大地がひび割れたのは内緒だ。

 付近に生息していた野生のディグダには悪い事をしてしまったな。

 

「何故か君だけ昔からポケモンに好かれなかったからのう…。とにかく君に懐くポケモンがいてよかったよ」

 

 そうだ。マサラタウンに住む子供の中で、何故か私だけが昔からポケモンに好かれないのだ。

 むしろ嫌われている…というより怯えられるというのが正しい。理由は不明だが、私は異常にポケモンに怖がられるのだ。

 それは弱いポケモンになるほど顕著になる。

 

 当初は人生最初のポケモンを3匹の中から選べるという事で張り切っていたが…薄々そのうちのどれもが私と旅に出ることを拒否するだろうとは感じていた。

 

「まあどうであれ、それが君の最初のポケモンじゃ。見た事のない新種じゃが…名前はなんと言うのだね?」

 

「えっと…『えすしーぴー682番』?」

 

「………いや、個体名じゃよ。その呼び方では呼びづらいじゃろう?」

 

「個体名ですか」

 

 なるほど、確かにその呼び方では呼びづらい。

 こいつ自身も『不死身の爬虫類』や『クソトカゲ』等と呼ばれる事を嫌っていたし、名前を付けてやるのも悪くはなさそうだ。

 

「じゃあ…………ポチで」

 

「舐めとんのか貴様」

 

 こいつ人前で喋りやがった。

 

「おッひょおおおおお?!?!?!」

 

 そしてオーキド博士がコケた。

 声にならない悲鳴をあげて。

 

 幸いにも他の人には聞かれて無さそうだが──

 

「うおおおお! カエデねーちゃんのポケモン喋るんだ! かっけえええ!」

 

 最悪なことに、この怪物が発した声は近所のはなたれ小僧に聞かれていた。

 小僧の声につられて続々と人が集まり、怪物の周りに群衆ができる。

 

「すげえ! なんだこのポケモン?! 見たことがないぞ!」

 

「なにタイプのポケモンかしら? ゴーストタイプ?」

 

 タイプの概念がこの怪物にあるなら、私もこいつが何タイプか知りたいな。

 見た目は確かにゴーストタイプっぽいが……まあそもそもポケモンじゃないから考察する必要もないだろう。

 

 というか、私以外の全員がこの怪物をポケモンの一種だと認識しているのが非常に不気味だ。

 まるで1人だけ世界の理から外れたような疎外感を感じる。

 考えてても状況は変わらないので、気にしないことにしたが。

 

「カエデねーちゃんのポケモン触っていい? 触ってもいいよね?」

 

 はなたれ小僧が聞く。「どうぞご自由に」と私は言ったが、当の本人は相当嫌だったらしい。

 

「触れるな! この汚らわしい鼻水の群れが! [削除済み(ピー音)]して死ね!!」

 

 と…こんな感じで語彙の暴力で人間を罵倒している。

 今回は逆効果に終わってしまったが。

 

「すごい! このポケモン喋るぞ!」

 

「私にも触らせてー!」

 

「触れるなこの[削除済み(ピー音)]どもめ! [削除済み]に[削除済み]されて[削除済み]しろ!」

 

 話してみて分かったが、このポケモンは相当賢い。もしかしたら人間よりも賢いのではないかと疑うほどだ。

 私との「私の許可無しに人間を食うな」という約束も律儀に守ってくれているし。

 

 おっと…私まで正気を失ってはいけないな。

 こいつはポケモンではない。断じて違う。

 

 


 

 

 とやかくあって、私は怪物とともにマサラタウンを後にした。

 こいつがモンスターボールに入るのを拒否したために私の出で立ちはひどく目立ってしまったが、モンスターボールがこの存在を受け入れるとも思えないので、そこは妥協することにした。

 

 怪物曰く、塩酸のプールに閉じ込められそうだから嫌とのこと。

 こいつどんな人生送ってきたんだ? 

 

 それはそれとして、この怪物をモンスターボールに入れられないとなると連れ歩くしかない。

 ポケモンを外を出して連れ歩くトレーナーもたまに見かけるし、それ自体は別に禁止されている訳では無い。

 

 だが私がそれをした場合、様々な問題が発生する。

 この怪物が小型だったのなら特に何の問題もないのだが……如何せんこいつはイレギュラーな存在だし、身体も大きいので色々と不都合だ。

 よその町に行った時に目立つのを避けるため、一刻も早くこの問題を解決したい。他の人の迷惑にもなってしまうしな。

 

「──という訳で、小さくなれたりしない?」

 

 私が聞くと、怪物はただ一言「可能だ」と言い、異常な速度で脱皮を繰り返し、みるみるウチに小さくなっていった。

 便利な身体してんなこいつ。

 

 肩に乗せられるほどではないが、これならそこまで目立つまい。

 私が背負っているリュックが空であればこいつを入れてやってもいいのだが、横で歩いてくれるのなら首輪をするのも悪くない。ある程度はマトモに見えるはずだ。

 

「我は犬ではない!」

 

 一人称変わってね? 

 まあ別に良いんだけど。

 

「ところでポチ、あそこに気球が浮かんでるよ。ポチを捕まえに来たんじゃない?」

 

「我をそう呼ぶな! まだ『クソトカゲ』の方がマシだ!」

 

 私が指を指す方向──私とこの怪物が初めて会話をした森の上空に、デカデカとRの文字が描かれた気球が浮かんでいた。

 見覚えがあるあのロゴには嫌な予感がするが、地形調査をしに来たのだと考えておこう。

 

 まあ、その地形も誰かさんのせいでボッコボコなのだが。

 まさしく怪物が通ったような痕跡はマサラタウンから続いており、あの気球の乗組員が住民に聞き取り調査でも行ったら厄介だ。

 

「むぅ……。見られた」

 

 怪物が呟く。

 

「え、気球に?」

 

 どうやってかは不明だが、視線を感じたらしい。

 こいつの探知範囲まじでどうなってんだ? 絶対に逃げられないじゃん。

 

「我々は見つかった」

 

 実際に気球がこちらに向かって来ているのを見ると偶然とは考えにくいし、間違いではないようだ。

 旅立って初めてポケモンバトルをするだろう相手が「ロケット団」ってどんな罰ゲームだよ? 

 

「カエデ、あれは何の財団だ」

 

 足元で憎悪の感情を顔に浮かべた怪物が聞く。

 表情らしい表情がないが、雰囲気で何となくわかった。

 

「財団…? あれは違うよ、ロケット団だよ」

 

「何が目的だ」

 

「珍しいポケモンや強いポケモンを集めて作った最強のポケモン軍団で世界征服を目論む連中だよ。ポケモンの強奪・洗脳・強化もしているらしいよ」

 

「哀れな…」

 

 怪物は冷笑した。

 人ならざるものの顔に表情が見えさえした。

 

「かつてこの世界を支配した一族が存在した。その一族は数の力と持って生まれた才能で、怒らせたものを残らず殺すか喰うかして世界を支配した。だが、一族は王座から一匹ずつ蹴落とされ、今ではただ神話の生き残りに過ぎない…」

 

 怪物は息もつかずに呟く。

 

「戦うの?」

 

 私が聞くと、怪物は「貴様の指示に従おう」とだけ言った。

 

「よし…! じゃあバトルしますか!」

 

 昔見たポケモンバトルで、かっこいいポケモントレーナーがいた。

 私は記憶の髄にこびりついたその人の動作を再現する。

 片手を真っ直ぐ伸ばし、私は気球を指さした。

 

「ポチ! 10万ボルトだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「我はポチではない!!!」

 

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