変なポケモンに懐かれたと思ったら『SCP-682(不死身の爬虫類)』だった件 作:BOMBデライオン
「SCP-096(シャイガイ)」
「SCP-173」
SCP初心者へ個人的にオススメするSCPです。
興味が湧いたら是非。
小さな白い雲が浮かぶ青い空に、地面から空に向かって稲妻が走る。
ポチは私に対してだけは非常に従順で、私が命じた「10万ボルト」はロケット団の気球を精確に貫いて燃料に引火、爆散させた。
「……………!」
どう見ても10万ボルトの何十倍──でんきタイプの技では最強級の威力を誇る「らいげき」や「ボルテッカー」「でんじほう」なんか目じゃない威力──の極めて太い雷は空の彼方へと消えていき、私は驚きで頭が真っ白になり、顔を青く染めたまま硬直した。
こんなつもりではなかったのだ。
「望み通り敵は始末した…あの爆発では肉片も残らないだろう…」
怪物は一仕事終わったぜ、みたいな空気であくびをしながら呟いた。
未だに私の脳みそはいつも通り働いてくれていないが、1つだけ言えるのは「すごいコレジャナイ感」だ。
私はどちらかと言えば、ポケモンバトルでカッコよくロケット団を撃退したかったのだが…。
そもそも相手がポケモンを展開していない時点で技を命じたこと自体が間違いだった。
通常なら私の反則負けだろう。まあ相手が無法者なのでルールもクソもないが。
そして、私は重大な事実に気付く。
あの気球には乗組員がいたはずだ。
「ててて、てか気球死んじゃったよ?! どうすんの?!」
「気球は無機物だ。基本的に生命など無い」
今のは完全に動揺していた私のミスだが、一言だけ言わせてもらおう。
違う、そうじゃない。
「気球に乗ってた人……! どうすんの?!」
まさか初めてのポケモンバトルで人を殺めるとは思わなんだ。
……この言い方では語弊があるな。
訂正しよう。生涯を通してポケモンバトルをしていても、事故ならともかく普通は死人など出ないはずなのだ。
大多数の人間は一度も人を殺める事無く天寿を全うするだろうに、最悪なことに私は齢10歳にして少数派の仲間入りを果たしてしまった訳だ。
「人類特有の法的措置か? 心配無用、近辺に
怪物が得意気に話す。
改めて言わせてもらおう。
違う、そうじゃない。
罪に問われるか否か…こいつがそう言うなら私は証拠不十分で無罪放免なのだろうが、問題はそれではない。
ロケット団とか言う犯罪組織に属する人間とは言え、尊い命を奪ってしまったのが問題なのだ。
「人類とは面倒な猿だな。己に仇なす存在を排除して何故、罪の意識に囚われる?」
下から話してるのに随分と上から目線だな、こいつ。
まあこいつの言う事も一理なくも無いが。
「そのロケット団とやらは財団と変わらぬクソ野郎の集まりなのだろう? 世界からゴミが消えたのなら喜ばしい事ではないか」
「私はお前との価値観が合わなさ過ぎてビックリだよ」
それはそうとして、罪に問われないだけ良しとしよう。
さっきのは全て怪物による事故。いいね?
「ポチ、次からはちゃんとポケモンバトルで決着をつけるよ! 先手
やはりポケモントレーナーとしては、どんな争い事もポケモンバトルで決着を付けるべきだと思うんだ。
例え相手がロケット団のような犯罪組織だろうとね。
何ならきちんとポケモンバトルで決着をつける当たり、ロケット団はまだまだ優しい方だろう。
今回の事件は……不幸な事故だった。初心者だから許してもらおう。
私のポケモン(断じてポケモンではないが)が強すぎるのがいけないんだ。
「むぅ……命じたのは貴様ではないか! 理不尽だ!」
ポチは不満そうに訴える。
その言葉に耳もくれず、私は聞こえない聞こえない、と両耳を手で塞いだ。
ポチが色々と言っているが、何も聞こえない。
(理不尽だ!)
こ、こいつ直接脳内に…!
またも新しい発見をしてしまった。
エスパータイプでもない癖に、ポチはまさかの「テレパシー」持ちだった。
たった1発で街一つを滅ぼせそうな威力のでんきタイプ攻撃に加えて、土を食すだけで無限に回復できる「自己再生」、そして「テレパシー」持ちってどんなチートモンスターだ?
本人が言うにはまだまだ出来る事があると言うのだから恐ろしい。
無限の可能性を秘めた、まさしく怪物だ。
夕焼けが青空を真っ赤に染め上げる頃、私は生まれて初めての野営に胸を膨らませていた。
正確にはオーキドに連れられて町の同世代の子たちとキャンプをした事はあるのだが、町を飛び出して今は完全に1人。心躍らないわけが無い。
正確には1人と1匹だが。
「ご機嫌だな…」
「当たり前じゃん! だって初めての野宿だよ!」
怪物は何が楽しいのかサッパリ分からないようで、ややゴツゴツとした地面に不服そうな物言いだった。
それに続いた「塩酸のプールよりは断然マシ」という発言は衝撃的だったが。
日が傾いてからは暗くなるのもあっという間であり、すでに周辺は焚き火の灯りが無ければ一寸先も見えないだろう闇に覆われていた。
私はこの怪物の過去が気になり、思い切って踏み込んでみることにした。
「それ本当の事だったんだ…」
私がそう言うと、怪物は素っ気なく「
「財団の連中は我が外に出るのを良しとせず、脱走する毎に苛烈な攻撃を仕掛けて来やがった…」
それも今となっては昔のことだが、と怪物は付け加える。
話を聞く限り、この怪物は私と出会う前はロケット団のような組織に捕らえられていたのだと言う。
そこでは実験と称して様々な拷問(話を聞く限りは拷問と何ら変わらない)や戦闘を強要され、何回も脱走しては捕縛される事態を繰り返していたらしい。
塩酸のプールと言うのはこの怪物の収容室であり、そこで少しでも動こうものなら、すぐさま警報が鳴るほど厳重な警備体制の中でこいつは生活していたとか。
「そりゃあ、全ての生命に対して憎悪を抱くのも無理はないね…」
怪物は返事をしない。
私はポチの背中を優しく撫でながら呟いた。
硬そうな見た目をしている皮膚は思ったよりも生物的で、人肌よりも暖かい。
こいつに寄りかかって寝れば、どんな場所でも凍え死ぬことは滅多に無くなるだろう。
「………………ん?!」
しばらくしてから、ポチは素っ頓狂な声を出して驚いたような仕草を見せる。
初めてこいつの生物らしい仕草が見れたような気がした。
「え? どうしたの?」
私は首を傾げながら聞く。
その時点では私は自分で自分の言った事に何の疑問も抱いてなかったからである。
「何故それを知って……話した事は無いが…」
「……え?! あ!!」
私は自分の言ったことを何度も反芻してからようやく気付いた。
確かにそうだ。私はこいつの事を何も知らないはずなのに、何故か「
なんだこれ…?
私は頭を抱えた。
余りに不気味すぎる。元々この情報を知っていたが忘れていたとかそういうのではない。
私はこれを今の今まで全く知らなかったのだ。
言うなれば、誰かにたった今その情報を教えられたような気分である。
「…………?」
ふと、私は背後に「何か」の視線を感じて振り向いていた。
そこには何者も存在しておらず、深い闇の森が広がるばかりであったが。
「どうした…?」
ポチが聞く。
「え、いや…」
なんでもないと私は付け加え、用意していた食事に手をつけた。
今日だけで体験した様々な事を全て飲み込むように、食事を流し込む。
この時はまだ、確信していた訳では無いが薄々感じていたのだと思う。
「SCP-682(不死身の爬虫類)」を連れて歩く事がどれだけ異常な事か。そしてその異常実体を狙う輩がどれだけいる事か。
………色々ありすぎてもう疲れた。
「私もう寝る、おやすみ」
「あ、ああ…」
日が完全に沈んでからまだ2時間も経っていないが、その日は精神的にも体力的にも疲れていたので、目を閉じるとすぐ寝付く事が出来た。