変なポケモンに懐かれたと思ったら『SCP-682(不死身の爬虫類)』だった件   作:BOMBデライオン

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第4話:よく考えたら深刻な収容違反

 都会では絶対に見られないだろう幻想的な光景が森には存在する。

 マサラタウンは自然豊かな町なので私にとってその光景はもはや見慣れたものだったが、それでも一人旅最初の朝は格別だった。

 

 草花についた朝露が木漏れ日によってキラキラと輝き、遠くでムックルが鳴く。

 昨日の焚き火跡に薪を追加し、さっそく朝食を頂いた。

 

「あ〜! うめぇ〜!」

 

 起床直後の冷えた身体に、コーンポタージュの温かみが染み渡る。

 だが、どうしても気になる事があった。

 

 ポチの食事である。

 

 別にポケモンがポケモン用のフードを食べていたって、それを気にするポケモントレーナーなどいないだろう。

 だが、私はどうしても罪悪感を感じずにいられなかった。

 

 だってこいつの朝食、石ころが混じった土砂とそこらの草花だぞ? 

(雑な食事と言う意味で)雑食にも程がある。

 

 いやまあ本人はそれで十分なのだろうけども、私が美味しい食事を舌づつみを打っている隣でそんなものを食べられるのは私の精神的によろしくなかった。

 どうしても私が気にしちゃうのである。

 

 新米とは言え私も一端のポケモントレーナーだ。

 自分のポケモンにも美味しい食事をさせてあげたいよなあ? 

 

「──ということで、お金を稼ごうと思うの」

 

 やはり何をするにもお金は必要だ。

 オーキドから貰った小遣いで当分は働かずともポケモンフードくらいは買えるが、一切の収入源が無いとなるとすぐに財布の中身が空となってしまうだろう。

 

「なるほど、人類が決済に使用する価値交換媒体を得るのだな」

 

「そうなの。それで何かいい方法はないかなって」

 

 食事をしたことで先程よりも一回り大きくなった怪物は、少しの間考えてからこう提案した。

 

「…ロケット団とやらの拠点に乗り込み、金目の物を盗──」

 

「却下!」

 

 こいつなら本気でやりかねないか、当然そんな危険な提案は却下だ。

 それに犯罪組織の所有物とは言え、盗品で生活するというのはやはり思うところがある。

 

「な、ならこういうのはどうだ! 襲って来たロケット団を打ち負かしてカツアゲ──」

 

「却下!!」

 

 なぜこうも物騒な意見しか出て来ないのか。

 まあ相手が悪いやつなら何をしても大丈夫だろ、という意見には少しばかり賛同する者もいるだろうが、私はそんな怖い組織に恨みを買ったりしたくないのでNGだ。

 

 いや、もう目をつけられている可能性も無くはないが。

 そんなの考えたくもないな。

 

「これならどうだ! 人類の通貨が保管されている建物に──」

 

「流石にまずいからやめろ!!」

 

 こいつ銀行強盗なんて案を出して来やがった。

 まあポケモンに法律なんて概念ないだろうし、後に待つ法的措置を考えなければそれが一番手っ取り早いのだろうな。こいつなら大金が入ったバッグを抱えて逃げ切るのも可能だろうし。

 

「やっぱポケモンバトルしかないか〜」

 

 腕を頭の後ろで組んで、私は空を見上げながら長いため息をついた。

 

「そのような手段があるのか?」

 

 ポチが不思議そうに聞く。

 争い事の解決策としてのポケモンバトルしかこいつは知らないからだった。

 

「うん、バトルに勝ったら賞金がもらえるの」

 

 ある一種の娯楽として存在するポケモンバトルにそういう決まりきったルールはないが、暗黙の了解としてバトルで負けた人は勝った人に対してお金を支払う義務がある。

 中にはそれで生計を立てるポケモントレーナーもいるとかいないとか。

 

「ではそのようにすれば良いではないか」

 

「え〜」

 

 正直なところ、私はこれでお金を稼ぐのを躊躇っていた。

 理由は簡単だ。どう考えてもポチが強すぎるのである。

 

 最初から強いポケモンがいる状態で他の人にバトルをふっかけるのでは、いささか卑怯じゃないか。

 強いトレーナーが弱いトレーナーに、賞金目的でバトルをふっかける。そんなのカツアゲと変わらないだろ? 

 

「町を出たばかりの新米トレーナーがなに最初から勝つ気でいるんだよ」とか何やら言われそうだが、実際にポチが相手だと誰も勝てないだろうと私は思っている。

 正確には、娯楽としてのポケモンバトルではポチが気絶するほどのダメージは与えられないのだ。

 

 まず「SCP-682(ポチ)」はその名の通り「不死身」だ。どれだけ損害を与えようが、バラバラの細切れ肉にしようが、同等の怪物と戦わせようが今まで死んだ試しがない。

 身体組織の9割近くを喪失しようが、こいつは再生して再び生命活動を再開する。「SCP-682」とは数多の異常存在の確保、収容、保護を理念に掲げるSCP財団ですら手を焼き、例外的に破壊の指令を出すほどの怪物なのだ。

 

 ああ、もう……! 

 また知らないはずの知識が頭に浮かんでくる! 

 

 …もういい、気にしない。

 今まで会って来たポケモンは全部が全部私を怖がって近寄らないし、なのに誰にも懐かないはずの化け物には懐かれるし、私はそういう体質なんだな。

 もう知らね。二度と気にせんわ。

 

 …で、話は戻るけどポチは不死身だからか、かなりのタフネスさを誇る。

 知っての通りらポケモンバトルで勝つには相手のポケモンを気絶、文字通り戦闘不能にしなければならないのだが、ポチを気絶させるにはそれこそ身体を真っ二つにしたりしないといけない。

 

 いくら死なないとは言え、娯楽でそんなこと出来ないだろう? 

 ていうか私以外に誰もポチが「死なない」ことを知らないのだから、そんなことしようとも思わないだろう。

 

 よって、娯楽のポケモンバトルで私が負ける事はない…はずだ。

 一方的に相手から攻撃されても、時間切れか相手のスタミナ切れで引き分けor勝ちを目指すのも可能だろう。

 

 ……ので、最初から負けという選択肢がないポケモンバトルでお金を稼ぐのは、いささか卑怯な気がしていたために私は遠慮していたのだ。

 

「はっ! 人類は赤の他人の気持ちや生活を気にして、自分が損をする道を選択するのか! これは滑稽だ!」

 

 と、自分以外が死のうが生きろうが気にしないやつ筆頭が言っています。

 まあ敵拠点強襲だったり、銀行強盗という案を出した時点でお察しだけども。

 

 ポチを一言で表すなら、自己中心の塊で間違いないな。

 動物らしいと言えば動物らしいけど…。人間の感覚からしたら悪い意味で冷徹で合理的だ。

 

「うるせえ! 私の気持ちの問題だよ!」

 

「…貴様の気持ちの問題なのだろう? なら、気持ちが悪い方向に向かずにバトルをする方法を模索すれば良いではないか」

 

「な、なるほど…?」

 

 ようするに、私がセコいと思わない方法でバトルをしようと言うのだ。

 やっぱこいつ頭いいわ。商売とかやらせたら案外成功するんじゃないか? 

 

 ……いや、多分無理だな。こいつと人類の価値観が合わないのは私が実証済みだった。

 ポチに商売をやらせたら「生物が生きるために必須だから」とか「命には代えられないもんね」とかいう理由で食料や水なんかを法外な値段で売りそうだ。

 もちろん周辺の全ての店を(物理的に)潰して、食料を得る手段を完全に奪ってからな。

 ポチならそれも不可能ではないだろう。

 

 まじでこいつを外に出して良かったのか? 

 ええ? SCP財団聞いてるか?! おまえらのことだよ! 

 なに人類を滅ぼしかねない怪物を収容違反(異常存在の収容に失敗すること)しちゃってんだよ! 

 

 …とまあ愚痴はここらへんまでにして、とりあえず方針は決まった。

 私がセコいと思わない方法でポケモンバトルをする。そして勝ってお金を稼ぐ。以上! 

 

「よし、行くよポチ!」

 

 私は立ち上がり、木の皮をかじっているポチの尻尾を掴んで歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我はポチではない!!!!! 

 それとまだ食事中だ! 手を離せ!!」

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