☆【戦艦戦】
「だークソッ。いるとか聞いてたけどここまでデカいのは想定してないぞ!!」
絢斗と別れた後、無事にフレンチナイトと搭乗者のチャラけたパイロットを爆☆殺したベカスはアジトの最奥にて盗賊団の首領との一騎討ちに臨んでいた。
といってベカスは幾ら強力とはいえBMとしては通常程度のサイズでしかない【ウァサゴ】。対して相手は小規模の軍隊であれば旗艦としても務まるであろう巨大さの【陸上戦艦】である。子供と大人を通り越して最早像とアリンコの戦いの様相を呈しており、ウァサゴを駆るベカスはチャージが終わり次第ビーム砲や搭載された小型ドローンによる射撃戦を仕掛けているが中々決定打が与えられず、また盗賊団駆る陸上戦艦も素早いヴァサゴに対し攻撃を当てられず場は一向に進展のないイタチごっこと化していた。
「ベカス!そっち終わった…ってうわ想像よりもデカい」
そこへタイミング良く芦名絢斗が操る【ガラハッド】が現れる。通信にて友軍の無事に一瞬安堵したが、次いでガラハッドのツインアイに映った敵の陸上戦艦に気付き軽く慄いた。
「良い所に…ってお前やられたのか?」
「…えぇまぁ。最後の最後で自爆特攻じみた事されました」
「そうかそうか!残念だったな!!」
まるで出来の悪い後輩を慰める様にバシバシと叩くウァサゴと、反論できない為甘んじてそれを受けるガラハッド。ここだけ見ると仲の良い先輩後輩だが、ウァサゴのコクピットの中でベカスが「愉悦!」とばかりに悪どい顔をしていたのを同じコクピットに相乗りしていたピンク髪の少女は見逃さなかった。
「ねえねえ。お兄ちゃんのお友だちさん?」
「なんですかスロ…お嬢さん?」
「私のお兄ちゃん。今すっごく悪い顔してたわよ?」
「…なっ!?」
「撃墜スコア全部俺のモンにしてきますね!」
「」
決死の戦場である筈なのにまるで所属組織の母艦の中にいるかの様な軽いやり取り。そんな生温い物を見て敵が何も思わない訳もなく……
『きっさまらバカにしてるのか!?ミサイル斉射!粉々にしろォ!!』
盗賊団長の号令により飛翔した雨の如きミサイル群。普通のパイロットは絶望でしかない光景だが、今ここにいる二名は生憎“普通”とは無縁の存在だった。
方や才能あるものしか辿り着けない【Aランク】に位置しながらも更なる戦果を上げ、企業から「Aランクを超えた者」として【
もう片方は平凡なCランクの三流傭兵でありながら恐ろしい程の剣の冴えを見せ、その他の戦闘技術も高水準な何故Cランクに位置しているのか分からない謎のパイロットベカス・シャーナム。
二人は此方に迫るミサイルの雨を見遣ると――
『『別に、舐めてなんかないさ』』
奇遇にも一語一句同じになった返しに二人は顔を合わせ笑い合うと、タイミングを図ることもなく互いに左右へ機体を跳ねさせる――!
「ハッ!しっかりと捕まってろよマイリトルシスター!!」
コクピットの座席にしっかりと腰を据え。ベカスはウァサゴのブースターを一気に解放し、“翼”を持たないウァサゴを天に羽ばたかせる!
「ならず者の呼吸――壱の型!」
以前絢斗と一緒に読んだ昔の極東の漫画を思い出し、絢斗と共にトレーニングルームにて面白半分に練習した必殺剣技…余談だが「訓練室をそんな遊びに使うな」と管理人にお叱りを受けた。
閑話休題
そんな遊び心でできたこの技。生身で繰り出すなら技名通り薙刀を振るうかのように広範囲を薙ぎ払う技だが、今回のベカスは人よりも遥かに巨大なBMでそれを行う。……しかも剣に見立てて使う武器は、平時は決して近接戦に使われることのない――――
(…何故この凡人は剣技を
ベカスの妹(暫定)は内心そう呟く…そう、必殺剣を繰り出すはずのベカスが取り出したのはビームソードではなくビームライフルだった。無論それはスロカ…妹の幻覚ではなく、コクピット内に設置されたウァサゴの
しかし武器を間違えたことに気付いてないのか、はたまた狙い通りなのか。ベカスは銃の発射トリガーを〈押しっぱなし〉にする。
律儀にパイロットの捜査を受け付けたウォサゴが、ライフルのトリガーを引く。これまた律儀にトリガーを引かれたビームライフルが素直にビームを出す。
もちろん狙いなんてつけていないので明後日の方向へビームが向かっていくが、ベカスはそれを意に介さず頬をニヤリと釣り上げ――
「――
次の瞬間『ビームを放ったまま剣の様に振るった』勿論銃口に追従する形で放たれていたビームもその軌道を曲げ、軌道上にあるミサイルを撃ち…否、斬り捨てていく。
「ハハッマジか!とっさの思いつきだったが丁度良く、嵌ったなっ!!」
そう。ベカスはビームライフルのビームを射撃用ではなく、極長のビームソードとして運用していた。早いところ○Zガンダムのハイパービームサーベルである。無論Z○ガンダムのそれとは違い一瞬しか持たないが…ベカスにとって当てるだけでいいミサイル群など一瞬だけで十分だった。少なくとも何処ぞの極東武帝に一発当てるよりは簡単だ(20-6の悪夢)*1
「おらよ!!」
瞬く間に縦横無尽に斬撃を張り巡らせ、ライフルが焼き付く前に全ミサイルを斬り払う。ウァサゴの周囲には斬られたミサイルが次々と爆発し、ウァサゴを明るく照らしていた。
「な、なんなんだアイツ……!」
ミサイルの逆光によって対照的にウァサゴが暗くなり。陸上戦艦に乗っていた搭乗員には、唯一爛々と光るウァサゴのツインアイとシルエットが、やけに禍々しく感じた。
「さーて、絢斗のヤツはどう乗り切る…?」
コクピット内でそう溢したベガスの目線の先には、紅い軌跡を奔らせながら空中を飛び回るガラハッドと、それを追う無数の飛翔体だった
「チィ!!思ったよりも誘導性と弾速が速い…!」
一方絢斗は、ひとまず速さで引き離しあわよくばそのまま振り切れないかと思い暫くドッグファイトを繰り広げていたが、SSランクの機体の高速機動についてくるという思ったよりも優秀な物だと判明し。
「ならこれでッ…無理か」
軽く焦りを覚えながらも再び振り切るために
「これ使うと全体にガタが来るからあんまり使いたくないんだけどな…!!」
だが背に腹は変えられないと溜息をつくと、一息にガラハッドを『ミサイル群の方へと』向き直らせ――
「……GO!!」
ブースターを点火させ、一気に距離を詰め武器類を撃っていく。パルスアームガンや頭部光子パルスを撃ち込む。勿論数は減ったがそれでもその数は未だ無尽蔵。そのまま激突――――
「【帝騎システム】起動!!!」
――はせず、一瞬にしてガラハッドが掻き消える。
「こっちだ!」
続いてミサイル群の背後から再びガラハッドが出現し、主武装の爆射武器【帝国の光】を撃ち放つ。
ビームなのか弾丸なのかよく分からない閃光が敵を薙ぎ払うが、撃墜出来たのは眼前の数十本のみ。未だ彼の周囲には彼をつけ狙うミサイルが四方から迫っていた。
「ヒュー♪お代わりには困らなそうで何より!」
そう言った絢斗は再び【帝騎システム】――低距離の
「コイツで、最後っ!」
【帝騎システム】の限界時間が過ぎる頃には、彼の視界からはミサイルは一つ残らず無くなっていた。
「…数々の戦場で猛威を振るった【ガラハゲ】の異名は伊達じゃないってか」
感慨深げに脳内にて一時期ほぼ全てのBM関係者から蛇蝎の如く嫌われていた現在の搭乗機に冷や汗を流す…確かにガラハッドはSSランクの中でも別格の強さを誇るが、それは比較的軽い部類に入るガラハッドには少々過剰気味な重武装によって生まれる反動を誤魔化すテクニックと、常人にはマトモに使えることの出来ない【帝騎システム】を使いこなせる卓越した空間把握能力が必須である。それを先程の様に華麗に舞う様に動ける時点で、絢斗の技量が窺い知れた。
『おっ。無事捌けたみたいだな』
「そっちこそ…というかアレまだ覚えてたんですね」
『おう。遊郭編で記憶が止まってるからまた読ませてくれよ鬼○の刃』
「そうなんですか?分かりました実家に来たらまた貸しますね○滅の刃」
『…そんなに面白いの?』
『あぁ面白いぞ?もう数十年前の漫画らしいけどな』
(…正直内容がハードすぎるから仮にも見た目幼いこの御方に進めてもいいのか迷うな)
「ま、まぁ取り敢えず――ッ!!」
しかしそんな漫画談議も長くは続かず、ウァサゴとガラハッドのレーダーに熱源反応が映った。そのままの軌道では二人まとめて激突するので、二人揃って軌道上から逃れる。
ブゥォン!!!
2人が避けた熱源…いや光弾は、ウァサゴ及びガラハッドに勝り得る程の
『ッ!どうやら彼方さんも、痺れを切らした様だな!!』
「みたいですね…ベカスは敵艦の武装の破壊を優先的に。装甲を貫く事は余り考えなくて大丈夫です!」
『応!でお前は?』
「――艦首を叩きます!!」
2人の機体合わせても、瞬間火力が最も高いのはガラハッドの主要武器【帝国の光】だが、それを持ってしても某バスターライフルの様に真正面から排除するのは困難である。
そこでせめて視認性の代わりに防御を薄くした艦首を狙う。
万全の態勢ならば最悪【帝騎システム】を駆使して正面から敵の攻撃やら砲撃を避け、一気に近付きぶっ放せばいいのだが、件の【帝騎システム】はつい先程発動させたばかり。
そのため先ず絢斗はベカスに、自身を狙う敵の武装解除を要請した。敵の攻撃を減らす事が出来るし、絢斗自身も落ち着いて狙撃を行うことが出来る。
『よし。そうと決まれば……』
「攻略、開始ですね!」
……因みにだが2機で陸上戦艦を攻略するのはハッキリ言って自殺行為である。
しかしそんなこと知るかとばかりにガラハッドは【帝国の光】に次弾を詰め込み始め、ウァサゴは実体剣の調子を確かめる様にクルリと回すとブースターを吹かせ、一気に接近する…!
『撃て撃て!即座に撃墜しろ!!』
マイクが公開通信になってることに気付いてないのか、首領がそう号令したと同時に主砲副砲問わずに砲撃銃撃爆撃様々な攻撃が降ってきた。
急な攻撃だが砲手は戦艦に向かうウァサゴに脅威を感じたらしく。ガラハッドの方には大して攻撃が来ず、またウァサゴとそれを駆るベカスは、前者は謎が多いが間違いなく高性能機。後者は前述の通り腕の立つパイロットだ。
光弾は避け、銃撃は盾で逸らし、砲撃と爆撃は剣と銃によって迎撃する。
またガラハッドもウァサゴ程では無いが、そこそこのスピードで進行していた。岩から岩へ、物陰から物陰へと隠密性を意識しつつもベカス1人に任せるわけにはいかないと最大限の速さで進む。
それを繰り返していると……
「……ロック・オン」
【帝国の光】を単発射撃モードへと切り替え、コクピット内で目標補足完了のピピッという簡素な音が響き、撃ち抜ける準備が完了していた。
「ベカス。狙撃準備完了した…いつでもいけるぞ」
『了解だ!こっちもすぐ離脱する』
宣言通りベカスは直ぐに踵を返し、即座にその場から離脱していく。
絢斗の耳には撃退出来たと勘違いしたクルー達の歓声が聞こえてくるが、彼は冷静になる為息を吐き。トリガーに手を掛け――
「―――排除開始」
橙色の閃光が陸上戦艦に迫り、艦首を粉々に砕いた。
☆【依頼の対価】
「おっ。ここが倉庫みたいだな」
「ですねー(キンッ …丁度開きました」
「…贅沢なマスターキーね」
「首領は倒したからOKじゃないか?」
無事陸上戦艦を破壊したベカスたち一行は、BMを降りてアジト内部を探索していた。狙いは勿論盗賊団が溜め込んだ財宝目当てだ。つい先程見つけた一際重厚な扉の鍵をたたっ斬り、強引に解錠したところである。
内部へと入った3人を迎えたのは、数えるのもバカらしい程の金の頭陀袋の数々と、いかにも高級そうな調度品の品々だった。
「成る程…どうやらアイツら、あの村だけじゃなくて他のとこからも略奪してたみたいですね」
「らしいな……連絡頼めるか?」
「オーケーです。なるべく元の持ち主な戻れる様に掛け合いましょう」
そう言うと絢斗は携帯端末を取り出すと連絡を取り始める。
「はい。俺です…えぇ、撃破数から分かる通りそこそこの規模の盗賊団を潰しました。どうやら敗残兵の集まりだった様で……溜め込んだ財宝を見つけたので採算して、俺らの依頼料とは別に元の持ち主達に渡れる様に……ハイ………」
そう担当の人物と連絡を取り合いながらも2人の邪魔になると思ったのか絢斗は部屋から出て行った。
「……持っていかないの?」
少女は言外に「倒したのはお前なんだからお前のものだぞ?」とベカスに伝える。実際盗賊団や野良賞金首を撃破した際の相手が溜め込んだ金銀財宝は基本的に撃破した本人に所有権が移る為、少女が言ったことは何も間違っていない。
しかしベカスに取ってそれは「大間違い」だった。
「いや…俺は別に、これで充分」
そう言うとベカスは、自分の足元に転がっていた金貨を一枚手に取りニヤリと笑い返す。
それは記念コインとして作られている古代の金貨を模したもので、金の含有量が高い為それなりに高い値がつくが…正直今回のベガスの働きからすると不相応にも程がある金額だった。
しかしベカスは本当にそれだけで良いらしくそのまま部屋の中にあった椅子に座り掛け、腰ポケットから味付き爪楊枝を取り出していつもの様に噛む…前に、少女に向かって照れ臭そうに後頭部を撫でながら言った。
「まもなくあの姉妹がくる。彼女たちがすべて
村人に返すはずだ」
「ふーん…バカがお金儲け出来ないのは本当みたいね」
「それだとあの二人だけじゃなく俺もバカ扱いなんだが?」
「そう言ってるでしょ?お兄ちゃん」
「…ったく、酷い妹もいたもんだぜ」
そう与太話をしていると、再び扉が開き絢斗が戻ってくる。携帯端末は既に通話が切られ耳元から離れているので、どうやら連絡は終わったらしい……どこかホクホク顔でそう言い、椎茸お目目で財宝の山を見渡した絢斗だが本来金に困窮している筈のベカスが何の反応も示さない事に違和感を抱いた。
「お待たせしました…向こう側からは好きなだけ持ってけとのことです。俺は一先ず燃料代に色をつけて……ってベカスさん報酬は?」
「あぁ、問題ねーよ。俺はこの硬貨一枚で充ぶ「お兄さん?」…どうした妹ってうおっ!?」
「………ほう?」
カッコつける為に軽く目を瞑りながらそう答えようとしたベカスだが、妹に呼ばれ軽く目を開けると、目の前には軽く首筋に青筋を立てた絢斗がこれまた恐ろしい形相でベカスの前に立っていた。
「ベカス。俺作戦前に言いましたよね?「自分を安売りするな。報酬はきっちり受け取っとけ」って」
「い、いや俺はこれで十分だから〜……」
「俺の借金はどうするつもりだコノヤロウ」
「あぁいやそれはだな…」
言い訳するように両手を上げながら後退するが、元々狭い部屋ではその分部屋の隅に到達するのは早く。あっという間に隅へと追い込まれてしまった……気さくで細かい事は大抵流せるべカスだが、目の前で目を煌々と輝かせ此方を貫くのではないかと思う程の眼光を発する後輩の視線からは逃げられなかった。
「っとと、俺だってただの達成料を受け取ったわけじゃないぜ?ホレ」
「…それ〈アヌビス記念コイン〉ですよね?」
弁解するためにポケットから取り出したコインを出すベカスだが、絢斗はそれを見て尚…いや寧ろそれを見て余計に深い溜息をついた。
「確かにそれは貴重なモノです。骨董品としての価値以外にも元から金属の含有量が多いから物資的な価値もあります。流石先輩妙に目敏い」
そう言う軽く口元を緩ませる絢斗。その様子を見て「これイケるかも知れない」と思い勝利を夢想するが、「…ですが」という絢斗の声によって遮られる。
「…今この砂漠では、〈ワカvs反ワカ連盟〉の戦争が起こっているのは知ってますよね?」
「?勿論だ。というか俺たちはそれで飯を食いにきたんだろう?」
「――仮に…仮にですよ?」
やけに念入りに前提を繰り返した絢斗は、軽く声を抑えながらも切り出す。
「ベカスさんがワカの質屋に行った時にそのメダルを出し、その店の店主が反ワカ連盟に血族や親しい友人が殺された事情がある人だったら……アヌビス*2とかいう反ワカ連盟の象徴が彫られたコイン見せたらどうなると思います?」
「……殺されるな」
簡単に絢斗の言った状況と、その後の未来を簡単に予見出来たベカスは軽く冷や汗を流す。これ簡単に言えば「自らの前で仇を象徴するナニカを出す」という行為だ。実際やられたらベカスでもブチ切れる自信がある。なんならイエスも右の頬を打った後に「左も差し出せ」と言って再度打つ程である。
「それに今この戦争は膠着…悪く言えば泥沼です。長く続いてる分犠牲者も多いでしょうから……今みたいな状況の人はそこそこいると思います」
そう言い軽く肩を竦める事によって、話を締めた。因みにベカスは冷や汗を流している。そりゃそうである。なんせ何となしに選んだ報酬が特大の地雷だったのだ
「なんで、報酬的にも世間体的にも…こっちの方がいいと思います」
言い終わると絢斗は財宝の山へと歩いて行き、上に置いてあった小さい金のずだ袋を取り出しベカスへと渡した。
「いや…だがなぁ……」
未だに未練がましく報酬金を減らそうとするベカス相手にまた溜息を吐く。内心「もうコイツ財宝の山の中に埋めてしまおうか…」と考える自分の中のデビルを抑え込みながらも、彼は再び思案する。
(…正直〈俺への借金〉はどうでもいいんだ。ゴールドは正直言って有り余るほどある)
Aランク故に普段の月給と偶に入る指名依頼程度で遊んでいける程には金がある絢斗。正直ベカスからの数十万ゴールドなんて端金なのだ。
(それよりも問題はこの人が“無償で依頼を受け続ける”という事が問題だ……)ブブブブブ…
「……ん?」
シンプルにベカスを心配する絢斗だったが、そんな折に携帯端末が震えた。
差出人は不明。件名は―――
「――まぁ、それがアンタの信条だっていうのなら否定はしません。…けど今後はもっとよく考えて信条に従って下さい」
「お、おう」
急に踵を返しベカスからの離れた絢斗は、そのまま数点の物資を自身の頭陀袋に放り込むと、そのまま部屋を出て行ってしまった。
「どうしたんだ?アイツ…」
困惑気味にたった今絢斗が出て行った扉を見つめるベカス。しかし「気にしすぎてもしょうがないか」と結論付けると、ふと自身の手に握られた金の頭陀袋を見遣る。
「………………」
それとなくベカスはその袋を宝の山へ戻そうとするが、その直前で手を止め――ポケットの中へ収めた。
(あそこまで口酸っぱく言われちゃあ…聞いとかなくちゃな)
「…さて、俺は今から北アフリカ最大の都市〈カイロ〉へと行く。そこでワカ軍の主力と合流するんだが……どうする?」
ベカスは背後へ振り返ると、己の妹(仮)へと問い掛ける。すると彼女は悪戯っぽく笑い…
「もちろん一緒に行くわ。私の目的地もちょうどその近くなの――あとプリン100個の貸しがあるの、忘れてないわよね?」
「…アンタは悪魔か?」
そんな言葉を交わしながら、二人は共に――若干少女が後ろにいる――部屋から出て行った。
「…助けてもらったのは、確かだからな」
「ん?なんか言ったか?」
「いえ。何も?」
絢斗の後を追いかける為少々早歩きになるベカスの後ろで、スロカイはマントの下で
チラリと一瞬だけ画面を見ると、彼女は満足したような顔をして、端末を再びマントの内側へと仕舞い込んだ。
☆【次なる依頼とその報酬】
「あぁ寒…ほんと砂漠程過ごし難い気候はないな。昼は暑くて夜は寒いなんて」
カイロへ向かう絢斗、ベカス、そして謎の少女の3人組は砂漠内のオアシス内で一夜を明かしていた。夕食では絢斗のおにぎりをベカスが一瞬の隙を突いて奪い取り、結果
しかし、そんな絢斗の背後から「シャク…シャク…」という砂漠の砂を踏み締める足音が響いてきていた。
「…………丁寧語を使った方がいいですか?」
「要らぬよ。万が一彼奴に見られたら面倒くさい」
「寧ろ俺からしたらなんでベカスさんが貴女の顔を覚えてないのが不思議なんですけど……」
「まぁ、確かにな。恐れ跪く凡人は数入れど。あそこまで――親身に接してくるとは思わなかった」
「――褒められてるのか、貶されてるのか分からない評価ですね」
「褒めているぞ?」
絢斗と、その背後に近づき絢斗があらかじめ設置しておいた椅子に座った少女は、まず上記のような軽い話題から会話を展開した。
少女はベガスと共にいた頃のような愛らしい様子と口調は鳴りを潜め、今は絶対的な「上位者」の様な威厳に満ちた様子で絢斗の会話に応じていた。
「で、俺になんの用ですか?――機械教廷現教皇【スロカイ】」
「うむ。まずはこのペンダントを見てくれ」
少女…スロカイは懐から銀のペンダントをパカりと開き、その中に仕舞われた写真を見せた。
「…これは、血族か誰かですか?」
「想像に任せる」
それを見た絢斗は何処となくその写真の人物の人相が目の前の少女と似ている気がした事からそう質問したが、軽く躱される。
「えと…この人を探して欲しいとか。そんな依頼…という解釈でいいんですか?」
少女の表情が後ろめたいそれでは無かったので権力争いの為の暗殺はなさそうだと予想した。
「相違ない。その通りだ」
「俺の手助け要ります?だって貴方……」
「ほぼ世界最高レベルの権力者でしょ?」と言い掛けた絢斗の言葉を塞ぐ様に、スロカイは軽く肩を竦めて見せる。
「今回は所謂“お忍び”というやつでな…余の力を使っての実力行使や敵の排斥なら兎も角。本来の立場を使っての強権や恫喝はしたくないのだ」
「…成る程」
通りで本来教皇を守る立場である筈の【教廷騎士】達が居ないわけだと内心燻っていた疑問が一つ解消された絢斗は、手を組み合わせ頭の乗せ場所とし頭を固定し考え込む。
(となると使えるのは本当に少女としての立場のみか…そりゃ依頼もするだろう)
家や学校で親や教師を探すのとは訳が違う。〈カイロ〉へ向かう道中にて依頼してきた事からその探し人がカイロの何処かにいる可能性が高いが、それでも北アフリカ最大の都市でたった一人の人間を探すのは大変に手間が掛かる。少なくとも一人の少女で成すには荷が勝ちすぎる行為である。
「俺は何をすれば?」
「独自に写真の人物を探してもらいたい」
「……それだけ?」
「ウム?あぁそうだが?」
「えっーと、こう…「〈
「?そんか物に頼りはしない。あくまで自分の力で探し出したいのだ」
「……あっそう」
「それで…受けるのか?受けないのか?」
スロカイはそう言うと、「まさか断るとか言わないよなぁ?」と言わんばかりの眼光で、絢斗の目を真っ正面から射抜いた。
…正直、絢斗からしたらこの依頼を断る理由は特にない。勿論この依頼には前述の通り広い北アフリカから人を探し出すという大変さはあるものの、依頼主から「独自に調査しといて」と言われているので、極論依頼主に「探してる探してる〜」と嘯き全く探さないと言うことも出来る……勿論生真面目な絢斗はそんなことをするつもりはないが。
以上の理由からして特に断る理由もなかった絢斗はスロカイの目を見据え、返答した。
「分かりました……んじゃ、この電子契約書にサインを」
いそいそと携帯端末をスロカイの前に翳すと、立体映像が展開され『SIGN』と上部に書かれた電子書が現れた。
その光景に特に驚く事もなくスロカイはペンの類を持たずにそのまま指を虚空に走らせ、整った筆跡とその後ろに小さく添えられた黒ウサギのイラストを書くと、画面の端ある〈完了〉のボタンを押す。
「これでよいか?」
「…うん問題ない。じゃあ誠心誠意探させてもらいます。依頼料は後日相談という事で」
「…いいのか?こうゆうのは依頼を受けた瞬間に報酬を受け取る物ではないか?」
「俺の信条として「達成できなかった依頼の報酬は受け取らない」*3って決めてるので、俺の依頼は大体後払いになる。だからこれで大丈夫です」
「そうか。ではこれから宜しく頼むぞ?」
「えぇ勿論。取り敢えず連絡を取り合うために連絡先ください」
「おぉそうだったな。ひとまず何か連絡がある際はここに頼む」
その後二人は互いに連絡用の連絡先を交換すると、スロカイはなんだかんだで溜まっていた旅の疲れを癒すため、絢斗は睡眠中のベガスを叩き起こし夜警を交代し寝るために互いの寝床へと戻っていった。
もうストックが燃え尽きたので今後の投稿は超絶不定期になります。