追うのではなく並びたい。(凍結中)   作:korotuki

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キャラの口調が変なシーンがあるかもしれませんが、特にお気になさらず…これが伏線か作者の表現ミスととるかは、貴方自身!!


003

☆【一時の別れ】

 

「さて、アンタとはここでお別れだな」

「そうね。ここまでありがとう」

 

 ベカス一行はあの夜の極秘依頼(絢斗が「ベカスには頼まないのか?」と聞いてみたところ、スロカイは「なんとなくだけどあの凡人には知られたくない」という返答を頂いたらしい)の後、三人は数回の野宿や休息を挟みながらも無事北アフリカ最大の都市、〈カイロ〉に到着した。

 …それと同時に、ベガスと彼の妹“アイリ”の関係はここで終わることになる。

 

「ここで最後のアドバイスだ…その服は目立ち過ぎる。最初みたいな厄介事を避けたいんだったら現地の服を買った方がいい」

「プリン100個」

「……えっ本気で言ってんのか?」

 

 口元をピクピクと痙攣させるベカス相手にアイリはコテンお首を傾げ、小悪魔の様に微笑む。

 

「とぼけるつもり?最低」

「…オイ絢斗お前も黙ってないでなんか言えよ」

「俺からは特に、取り敢えずベカスにはその要求に応える用意があるでしょう?とだけ」

「……くッ!」

 

 まるで裁判で相手に親権を奪われ、今から己の愛する子供と引き裂かれそうになっている親の様な顔でベカスはアジトから入手した金の小袋をプルプルと震えながらもアイリにしっかりと手渡した。

 

(…ピッタリ100個分渡せば幾らか残るだろうになんで全部渡してるんだこの人)

 

 隣で地図と携帯端末を見比べながら凄まじい勢いで何事かを検索する絢斗は、内心そう思いながらも「偶には痛い目に逢え…いや何時も逢ってるか」と思い口に出すことはなかった。

 

「わぁ。これだけあったらプリン100個以上は食べられるね」

「あぁそうかいよかった。これで文句ないよな?」

「フフッ…えぇそうね」

 

 そう言うと、ベカスはウァサゴを跪かせすごすごと操縦席に戻っていった。

 

「――――ん〜…」

 

 その一部始終を見ていた絢斗は、事務仕事で軽く強張った肩をほぐす様に大きく伸びをし、無言でチャットアプリを開くと〈黒ウサギの代弁者〉という名前のユーザーに向けてタカタカッターン!と一文送信した。

 

『あれぐらいだったら俺が渡しましたよ?』

『よい。あの凡人から毟り取ったと言うことが大切なのだ』

 

 というか目の前のアイリ(スロカイ)に向けてである。

 

『ではこっちで暫く写真の人物を探してみますね。何かわかったら連絡します』

『頼む。こちらでも進展があったら知らせよう』

『了解。あと……』

『?』

『これ“相手の容姿が幼くても真面目に仕事をする探偵と情報屋のリストです”』

『む…感謝する』

『あとこれ“お手軽な値段で現地の服が買える店のリストとその電子名刺”です』

『…まさかさっきから端末を操作していたのは』

『そうです。この為です』

『……お前も中々難儀な性格だな』

『……世話焼きなのは自覚してます』

 

 スロカイはチラリと絢斗の方を見遣ると、丸で不憫な者を見るかの様な目でため息を吐くジェスチャーを送ってきた。

 

『ほ、報酬ふっかけるので覚悟しといてください』

『わかったわかった。終わった暁には叶えられる範囲で叶えてやろう』

『…どうも』

 

 なんか偏見を持たれた気がする…!とコクピット内で忸怩たる思いを募らせる絢斗。その際にベカスに無線越しに『まだ行かないのか?』という質問をされたので『撃墜スコアを配分している最中です』と返すと『…そうか!』という跳ねる様な語尾でベカスは納得した。因みに絢斗は確かに撃墜スコアの配分を行ってはいたが、その作業はカイロへ向かう道中に済まされていた。

 

(素直にこのスコア送ったら調子乗って羊料理食べにいきそうだな…)

 

 そんなことを思いつつも、作業が終わった後と送付することなくキープしておいたデータをウァサゴへ向け送信した。

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

 

 声にならない歓声を上げるベカス。きっと、いや多分彼の頭の中には目の前に広がる極東料理や羊料理と、それを貪る自分の姿が写っているのだろう……と同時に絢斗は再び素寒貧となり意気消沈するベガスの様子を夢想した。

 

『では、そろそろ行きます。…必ず見つけてみせます』

 

 絢斗はその一文を打ち切るとチャットアプリを閉じ、ベカスに向かって「そろそろ行きましょう」と声を掛け、自身の機体を立ち上がらせた。

 

「おう!早く行くぞ絢斗!!極東のアヒル焼きが俺たちを待っているゥ!!」

「あーもう散財しすぎないで下さいよ!?あとテンションおかしくなってますから、キャラ崩壊してますから!!」

「…待って」

 

 今にもブースター吹かしてぶっ飛びそうな程ハイテンションなベカスを抑えようとする絢斗だったが、それは一人の少女の声掛けによって遮られた。

 

「なんだ“嬢ちゃん”?」

「…ありがとう」

 

 少女の今までの傲慢な態度からうって変わって深窓の令嬢のよう華麗さで、ペコリとお辞儀をしてみせた。

 

「…おう!またな嬢ちゃん!!」

 

 そんな可憐な様子の少女にベカスは一瞬クラリとした己の意識を立ち直らせ、横に入る絢斗に「行くぞー!」と声を掛けるとそのまま早足気味にその場を去る――因みに絢斗も同様に数瞬身惚れてからベカスの声で正気に戻り、慌ててベガスの後を追った。

 

(…後で顔を隠せるフードとかマントの店も紹介しとこう)

 

 内心、そんな決意をしながら……

 

 


 

 

☆【太陽神の再臨(無関係)】

 

「………えぇ?」

 

 とあるホテルの一室で、絢斗は思わず困惑の声を溢した。

 

「ワカ軍が敗走しただけでも驚きなのにその主要素がかの十二巨神《アヌビス》の主砲【ジャスティス】って……」

 

 絢斗の手は先程はまでそんなニュースを垂れ流していたラジオと、それにつけられたイヤホンに伸ばされ、それぞれ電源を切り、耳から引っこ抜く。

 

 あの後集合場所に到着した絢斗とベガス。そして彼らの同僚と上司にあたるカルシェンとフリーズと合流し、共にワカ軍の作戦会議に参加した。そこで見た目の割に幼い言動が目立つ極東人がワカ軍人達を煽ったりといったトラブルも見受けられたが、概ね無事に進行しその日は解散となった。そして作戦開始前夜である今日に飛び込んできたのが――先程の衝撃ニュースである。

 

「……ひとまず落ち着こう」

 

 そう言い部屋に備え付けられた電子ケトルを持つと、紙コップ付きのインスタントコーヒーへ注ぐ。安物特有の薄い匂いを漂わせながらコップの中の水が黒く染まるさまを見届けた絢斗は息で冷ますことなくそのままグイッと――――

 

 

「アッヅッ!!?」

 

 

 ――結果猫舌の絢斗は思いっきり舌を火傷した。これでは「冷静になろう」ではなく「れれれ冷静になれ」*1である。

 

「…あーもう。寝る」

 

 恥ずかしいやら考えるの面倒臭いやらで何もかもどうでも良くなった絢斗は、そのままベッドにダイブし不貞寝した。

 

 


 

 

「ワカ軍が敗走した?」

 

 翌日。場末の酒場にて合流したフリーズを除く三人組は、顔を突き合わせながら昨日の情報の整理をしていた。

 

「…ハイ。今日の朝刊やネットニュース、情報屋から買った物からして間違い無いかなと」

「こりゃ、すごいニュースだね」

 

 今朝になるまで知らなかったベカスはその事件に瞠目し、前日情報を受け取った絢斗とカルシェンは各々の表情…だが少なくともプラスでは無い感情を顔に浮かべていた。

 

「にしても、十二巨神〈アヌビス〉か……俺の聞いた限りじゃもう動かないって話だった筈だろ?」

「その噂が流れてた当時はって事だろうな。腕のいい整備士でもいたんじゃないか?」

「“腕のいい整備士”で済ませていい範囲ですかそれ……?」

「まぁ兎に角。今作戦でのワカ軍がほぼ壊滅したってのは事実だよな」

「…だな」

「ですねぇ…」

 

 『はぁ…』とため息を吐く三人*2。そりゃそうだ。彼らは幾ら善良でお人好しであっても結局は戦場が生き場の傭兵達。格好の稼ぎ場であった今回の戦争の形成が一気に(不利側へ)逆転したことは間違い無くマイナスである。

 

「…そういえば地下カジノで賭けやってた爺さん見ました?」

「ん?なんだそれ」

「俺も見たぞソレ…怪しいノミ屋の老人が連盟の勝ちに5億も賭けた上で、賭け金最低1万にて「ワカと連盟のどちらが勝つか」で客を集めてたアイツだろ?」

 

 そう言うとベカスは脱力した様に上半身をテーブル上に投げ出しながらも、口元をニヤリと歪めると、顎だけでカルシェンと絢斗に方向を示す。

 その先では、「何かの賭けに敗れたような」様子の傭兵達が一喜一憂…というかほぼ憂いげな顔をして何かの券を握り潰していた。

 

「オレも賭けたかったんだが、あの時は金がなくってさ。今思えば、賭けなくてよかったよ」

 

 ベカスのその言葉に軽く視線を泳がせる絢斗…しかしその隣では少々顔を青ざめさせたカルシェンが「まさか…」と呟く。

 

「あぁ…俺は悪い予感がする……」

 

 その時、バァン!という力強い開閉音と共に、赤髪の女性がヅカヅカと酒場に入ってくる。

 

「あ、フリーズさん。お久しぶりです」

「………………」

 

 絢斗が声を掛けるも聞こえてないのか、はたまたそもそも届いてないのか。赤髪の女性――ベカスとカルシェンが所属する【アンデット小隊】の隊長フリーズは、ベガス達の座るテーブルで停止すると、拳を天へ高々と振り上げ――

 

「チックショ〜ワカ軍め!!!」

 

 ズガン!というこれまた凄まじい勢いでテーブルをぶん殴る。頑丈な木製のテーブルが少し浮き上がり、ミシミシと悲鳴を上げた。

 因みにいの一番に被害を被りそうな男三人は慣れているのかすぐさま自分の飲み物を保持し、衝撃から保護済みである。

 

「賭けてたのか?フリーズ」

 

 ベカスが無事だった自信の酒を飲み喉を潤すと、荒ぶるブリーズへ向け臆さず質問する。

 

「あんっな勝てて当然の勝負で負けたワカ軍は豚以下だっ!」

 

 そう言うと殴り足りなかったのか再び拳を天に突き上げようとするフリーズ。

 

(…ほっといてもいいんだけど)

 

 チラリと絢斗は店のカウンター席にいる店の主人の男を見遣る。

 男の目は今にも振り下ろされようとされているフリーズの拳に集中しており、その顔は「テーブルが壊されてしまうことへの恐怖」が垣間見えた。

 ふと自分の手に握られたビール入りのジョッキを見る。ここの酒は、値段の割に味も量も申し分ないほどに旨かった事を思い出し、そんな素敵な店に迷惑をかけるのは本意ではないことを絢斗は確認する。

 

 振り下ろされる拳に向かって絢斗は腕を振るい、打ち下ろしの進路上に腕を差し出す。勿論フリーズの拳はそのまま絢斗の腕へ向かって行く。

 

「――なんのつもりだ?」

 

 しかしその前にフリーズが絢斗の腕にあわや直撃かとなりそうになった直前に、フリーズの腕がピタリと絢斗の腕に当たる直前で止まる。

 

「いえ別に。それより悪いことあったんなら酒飲みません?」

 

 軽く怒気を放ちながらそう聞いてくるフリーズを前にした絢斗だが、特に動じる事もなくしれっとした様子でフリーズに向かって自身の酒を差し出す。

 

「――――――」

「――――――」

「「…………………(ゴクリ」」

 

 言葉を発する事なく、真正面から睨み合う二人。何処からか「ゴゴゴゴゴ…」という音が聞こえてきそうな緊迫感漂う雰囲気に歴戦の傭兵である筈のベガスとカルシェンは思わず息を飲み込んだ。

 

「………ハッ」

 

 やがてフリーズが手を下ろし、絢斗の手からジョッキを掻っ払うと一息に飲み干した。

 

「昔よりかは図太くなったみたいだな」

「そりゃまぁ。そちらから離れた後も修羅場はありましたし」

「…一先ず私は、ワカ軍との契約を破棄する。またな」

 

 そのままフリーズは酒場を出て行く。出口から外に出る直前に「あぁ因みにオレはあのノミ屋に十万渡して見事にスッた」と言い残し、完全に立ち去っていった。

 

「…なあカルシェン。フリーズに幾ら渡したんだ?」

「六万……」

「そ、それはご愁傷様でしたね…」

「んなこと言ってくれるのはお前ぐらいだよ…」

 

 そう力無く頭を下げるカルシェン。なんとか元気付けようと「そんな事はない」と励まそうと隣のベカスを見てみるが、先程までのグッタリとした様子は何処へやら。無駄に姿勢良く椅子に踏ん反りかえり、足を組んでまでしてカルシェンを見下ろしていた。

 

(………人間って、汚いな)

 

 流石にこれでは「ほらここにも貴方を思ってくれる人がいるんですよ」とは口が割けても言えないので、絢斗は中途半端なフォローになってしまった事を内心謝りながらも。それを誤魔化す為に酒を飲もうと……した瞬間につい先程フリーズによって空にされた事を思い出した。

 

「店主〜!お代わりくれ!!」

「はいただいまー!」

 

 空のジョッキを掲げお代わりを要求し店主からの返事が返された事を確認すると、人差し指でテーブルをコンコンと叩き始める。

 

「実際。今回の件でワカ軍はほぼ壊滅…アチラさんも傭兵雇ってる暇があるなら撤退するだろうし、事実上今回の仕事はパァですかね」

「だな。ひとまずフリーズが降りるならオレも降りるぜ。お前らはどうする?」

 

 絢斗と同じように自分のジョッキを空にしたカルシェンは、自信の酒代を取り出しテーブルに置き席を立つ。

 

「僕は暫くここに居ます。別口で依頼が入ってるので」

「お〜。流石AAランクは違うなぁ」

「…戦闘能力をかわれての依頼ではないんですけどね」

「俺も残るぜ。金を稼がなきゃここからの脱出も出来ないからな」

「…何言ってんだ?国外に出れる程度の金はあるだろ?」

「いやー…アハハ」

 

 カルシェンの疑問の声を誤魔化すように、ベカスは苦笑いを浮かべながら後ろ手で頭を掻いた。

 

「…まさかお前。レストラン・ファラオ*3に行ったのか?」

「あそこの羊料理は絶品だったな」

「…いやだとしても撃墜スコア分の追加報酬が」

「それも俺の腹の中だ」

「「……………」」

 

 もう片方の手で腹を叩いてみせるベカスを、呆れたように見るカルシェンと絢斗。彼らの口からは、自然と同じ言葉が出た

 

「「お前って奴は救いようがないな」」

 

 


 

 

☆【守秘】

 

「残念だが、その写真の女は見つかんなかったな」

「そうか…情報ありがとう。これは金だ」

「半分でいい。達成できなかったからな――あぁそう言えば数日前に、その写真と全く同じものを持ってきた奴がいたぞ」

「本当か!?一体どんな奴だ」

「んー…先ずは、子供だったな?」

「こ、子ども…?」

「んで目立つピンク髪の女の子で…赤と青のオッドアイだった。綺麗な子だったからよく覚えてる」

「………うん?」

「んでもってここら辺でも有名な伝統服着てたな。確か○○○○って店で…あそこ知ってんなら現地の奴かと思ったがあんな子見た事ないんだよなぁ」

「………………」

「写真は撮ってないんだが、鮮明な容姿だったから人相書きなら出来るが…いるか?」

「い、いや大丈夫…また来マス」

「? 大丈夫かお前?お得意さんなんだから体調崩してくれるなよ」

「り、了解です」

 

 期待していた情報を得られなかった失意と、依頼主が同じ場所に来て自分と同じ事を自分よりも早くしていたという事実にほんの少しだけ自尊心(プライド)を傷付けられながらも、彼は馴染みの情報屋を後にした。

 

(そりゃ、リストの一番上に書いたんだから真っ先に行くに決まってるよな……)

 

 「ここまで管理能力落ちてたのか俺…」と自分自身に落胆しながらも、絢斗は携帯端末を取り出しスロカイに渡した情報屋及び探偵のリストを見た。

 

(ここ以外となると…やっぱり非合法な所から当たってみるしかないな。まぁ路地裏とか場末の酒場にいる様な奴らが情報持ってるとは限らないが……)

 

 目を閉じて軽く考えるながら大通りを歩く絢斗。因みに絢斗の燃えるような赤い髪と、〈AA(ダブルエース)の芦名絢斗〉という彼自身の知名度も合わさって周囲では軽いざわつきと喧騒が出来上がっているが、彼自身は集中していたので全くもって気付いていなかった。

 

故に――――

 

ドンッ

 

「おっ?」

「む?」

 

 自身の正面から歩いてきた大柄な男の接近にも気付かず、軽く肩と肩が打つかってしまうのも仕方ない事だった。

 

「すみません。考え事をしてたので…」

「いや、こちらこそ済まなかった。注意不足なのはお互い様だ」

「そう言ってもらえると助かり……っ」

 

 絢斗は写真から目を離し、打つかってしまった男見上げ……思わず息を呑んだ。

 先ずはその体格。絢斗自身170cm後半と決して体を資本とする傭兵稼業に勤めるものとして高いとは言えない身長だが、その絢斗と比べても明らかに大きい。目測でも180cm以上は確実。下手すると2mに届きかねない長身。肩幅や横幅といったものは甲冑とマントが一体化した特殊なものを着服しているため不明瞭だが、それでもその長身に見合う体格をしているのは間違いなかった。

 次にその顔…というか()()*4は、白を基調とする顔全体を覆うフルフェイス型で、頭頂部からはヘラクレスオオカブトの様なツノが生えている――というか文字通りの鉄面皮なので圧力がスゴい。

 最後に…彼自身から放たれるオーラだ。前述の様子で何も無かったらそれはそれで怖いのだが、そんな想像を簡単に打ち壊してしまうほどの殺気…というか闘気を放っていた。しかしそれは絢斗に向けられたものではなくあくまで彼から自然と発せられている……喩えるなら、鞘に納められた業物の刀のようなものを感じさせる。

 

「……っ?」

(いや落ち着け…相手は別に喧嘩腰って訳じゃないんだ)

 

 思わず懐の得物に手を伸ばしそうになる絢斗だが、(本能)が得物に届く直前に(理性)が間一髪で止める事に成功し、そのままゆっくりと、不審にならない程度の速さで手を元の場所に戻した。

 

「…コレからは注意させてもらいますね。では失礼」

「あぁそれでは―――待て

「っ!…何でしょうか?」

 

 彼とすれ違い、そのまま通り過ぎようとした瞬間…鋭い声が絢斗の耳朶を貫いた。正直その言葉だけで絢斗の心臓がワンテンポ早くなるが、それでも表面上はポーカーフェイスを取り繕って応対する。

 

「その写真。見せてもらえないか?」

「………どうぞ」

 

 正直見せたくはないがここで断れば更に相手に不信感を与えてしまうと考え、絢斗は素直に男に向かって写真を渡した(因みにスロカイからの依頼に“守秘義務”があった場合死ぬ気で逃走を図っていた)。

 

「……何故。この女性の写真を持っている?」

「別に?道端で拾ってただ美人だなーってだけですよ」

「少し端に避けようか」

「いやぁ急いでいるので…「ん?」…同行させてもらいます」

 

 誤魔化しが効くとは思えなかったが念の為すっとぼけてみたが、男がこれ見よがしに捲ったマントの内部から垣間見えた高出力ビームソードの威圧と少しドスの効いた声によって阻まれ、そのまま二人は路地裏へと入って行った。

 

――now loading…――

 

「で、何故あの人を探している?」

「…所でアナタ。冗談は通じる?」

「フム…すまんが俺は冗談やジョークの類は嫌いでな。思わず手が滑ってしまうかもしれない」

「――依頼を受けた。その人を探せとね」

「依頼人の容姿や名前は?」

「悪いが、無理。教えられない」

 

 そう言った瞬間。絢斗の喉元にビームソードが突き付けられる――同時に、彼が纏う闘気も変化した。自然体なそれから…標的を定め抜刀された魔刀のソレへ。動かない筈の仮面の、覗き穴に辺る黄金色の双眼から向けられる視線も心なしか鋭い物に変わったような錯覚を覚える。

 

「っ…貴方ミラージュクロスの、選手ですよね?前テレビで見たことがあります」

「そうゆうお前は、芦名絢斗だな?俺もお前を雑誌や酒場で見た事がある」

「ひとまず、その剣を下ろしてくれ。人間には何の為に口が付いてるのか知ってる?」

「余裕だな。まさか偽物とでも思ってるのか?」

「――まさか」

「いいだろう。その度胸に免じて今回は引いてやる」

 

 男は絢斗の喉元からビームソードを離すと、ゆっくりと絢斗から離れて行く。

 

「一つ警告しておく。その人をもし今後も探し続けるというなら…覚悟する事だ」

「っ!アンタこそ、そんなに舐めないで下さい」

「ほう?」

 

 せっかく見逃してもらえそうな雰囲気だったが、絢斗自身の傭兵としてのプライドがそれを許さなかった。何より脳裏によぎったのは依頼主(スロカイ)の、ほんの微かだったが「この人が見つかってくれたらいいな」という願いを感じさせる。哀愁に満ちた顔。

 

(ここで引き下がるのは簡単だ――だがそれは、()()()()()()()()がしちゃいけない事なんだ…!)

 

 今尚も目の前の彼――世界最高峰のBMパイロット集団〈ミラージュクロス〉の正式メンバー【バイロン】の殺気は、抑えられる事なく絢斗を叩き付ける。一定水準以上の腕前も持つと自負する絢斗だが、そんな彼でも思わず情けない声が出てしまいそうになる。しかし男としたな最低限の威厳は保たんと、丹田に力を込め声を抑え込む。

 

「俺は依頼を絶対に達成します。今回も然りです……例外はありません」

 

 絢斗は脂汗を掻きながらもバイロンを見据え、その仮面の奥の彼の瞳に届けと、思い切り睨み付ける。

 

「…………」

「………!」

 

 そのまま暫く見つめあう二人だが、不意にバイロンが「フフッ」とくぐもった笑い声を上げ、仮面の口の部分に空いていた方の手を当て口を押さえた。

 

「笑うところありましたっ?」

「い、いやすまない…ふふっ……俺に向かってそんな啖呵を切ってくる奴は久々でな。つい笑ってクククッ」

「えぇ…?」

「ではな。今度こそ引くとしよう」

 

 一頻り笑い終えたバイロンそう言うと、人間とは思えない程の跳躍を持って屋根上へ飛び立ち。そのまま何処かへ消えて行った。バイロンの気配が消えたと確認すると――

 

「し、死ぬかと思ったぁ…」

 

 思わず地面にへたり込んだ。情けないとは自分自身でも思うが、そんなことを気にするような余裕すらない彼は、プルプルと震える己の腕を見詰めた。

 

(あぁ…ったく。何が〈AA(ダブルエース)〉だ。何が〈一人千色〉だ――情けない)

 

 大きく深呼吸を吐いた絢斗。多少震えが収まった腕を隠すようにもう片方の腕で庇うと、少々煤けた背を晒しながらも歩く。

 

プルプルプル!

 

「っとはい芦名絢斗です。――カルシェンさん?どうしたんですか………貴方の言う「グッドニュース」っていい思い出が無いんですけど」

 

 遥か格上の存在を知り傷心中の絢斗だったが、そんな彼に戦場は癒しの場を授ける事なく次なる戦いへといざなう。次なる任務は「花嫁の暗殺」同僚のベカスと、謎の極東人と共に、絢斗は十二巨神の一角と対峙する。

*1
某遊○王のネタ台詞

*2
ここまで書いてて思ったこと『うそ、私の作品の登場人物ため息付きすぎ…?』

*3
高級レストラン…らしい。名物は羊料理だとか何とか。成人男性一食分で片道分の旅費が消えるのなら確かに高いのかもしれない

*4
仮面なのかヘルメットなのかサイボーグ内海なのか分からん




原作ゲーム内のバイロンさんは、パイロットの中でも随一の格闘値を持つ実力者です。ベカスと違って一般的な感性と度胸の絢斗君が震えるもの無理はないです。
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