☆【作戦会議】
カルシェンの尽力によってカイロ内でもかなりの地位と栄華を誇る高級ホテルの(ベカスと絢斗は二人揃って「超高級ホテルの、それも満室時にスイートルーム取れるとかアイツ何者…?」と首をかしげたが。ありがたかったのは確かなので特に追及することもなかった)一室にてベカスと絢斗はウェルカムフルーツに齧り付きながら作戦会議を行っていた
「取り合えず俺は、
「だな。俺もそれが最善だと思っている」
二人の脳裏には、場末のバーの奥で脚と手を組みながら蛇のような目付きでコチラを品定めしてくる一人の老人の姿を思い浮かべた。
「…正直あの狸爺に頼るのはまっぴらゴメンですけど、依頼達成出来ない方が問題なので飲み込みます」
「相変わらずあの人のこと嫌いなんだな。 詳しく聞いたことなかったから聞くが…何があったんだ?」
「別に……開口一番、俺の出自に対してイチャモンつけてきただけです」
「―――なんだと?」
一瞬ではあるが、ベカスの顔が怒気に包まれる。
「気にしないで下さい……言われた時こそ激昂しましたが、今は決着をつけました」
彼の脳裏にはくだんの「言われた時の激昂」を思い浮かべたのか組んだ手を僅かに力ませる。
「俺だけで行くか?」
「…の方が、いいかもしれませんね。足元見られた日にゃ今度こそキレそうです」
「そこまでかー……」
ベカスは「あちゃー」とでも言いたげに手を額に当て天を仰いだ。
その後も話し合いは続き、決着は絢斗がホテルに残留。気絶中のアイリ(スロカイ)の護衛…という名の待機。 そしてベカスは件の老情報屋に話を聞くためホテルを後にすることになった。
「…ただあの人、情報一つでバカみたいな値段吹っ掛けてくるんだよなぁ。 情報の正確さを考えれば仕方のないことかもしれないが」
「そこは正攻法で突破します」
そう言った絢斗は懐からジャラジャラと『如何にも』な音を立てる頭陀袋を取り出し、ゆっくりと机に置く
「……えっーと、これは?」
「さっき下で卸してきた
「いつの間に……」
「でも、出来るなら安く済ませてほしいです…まぁそこは先輩の交渉術に期待します」
「ハッ…こんなの見せられたら、張り切らないわけにはいかないな?」
平時は己の信念から常に余力を残す後輩が見せる【本気】の目に多少なりとも感化されたベカスは、ニヤリと笑って見せる。そんなベカスに呼応するように絢斗もその瞳に怪しげな光を灯した。
「んじゃ…兵は拙速を尊ぶって言うからな。俺は今から行ってくる」
「了解です。アイリちゃんのことは任せてください」
「応。頼む」
そう言ったベカスは「善は急げ」と早々に部屋から出ていった…片手に、後輩からの
「ふう。ベカスさんの方はこれでいいとして…問題は」
そういった絢斗は、自分の右耳に手をかける。ゆっくりと何かを引き抜くような動作をし手を開くと、彼の手には艶消しされた長方形の黒い物体があった。もう片方の手でソレを慎重に摘み上げると、己の特殊能力の一つである《コール》でピンセットを取り出すと、その小さな黒い物体からこれまた極小の平たい物体―――マイクロSDカードを取り出し、そのままホテル備え付けのパソコンへぶち込む。
パソコンの<PC>から<MSDカード>をクリック。次いで出てきたパスワード入力場面に。 ……一度周囲を確認してからパスワードを入力しアクセスする。
黒い物質…実は彼の一日の行動を丸ごと記録するドライブレコーダーならぬ<アクションレコーダー>は、肉弾戦やBM戦闘の衝撃にも耐えきり、無事絢斗が望む映像をPCに映し出した。
――再生開始――
『依頼人の容姿や名前は?』
『悪いが、無理。教えられない』
――再生終了――
「もっかい」
――再生開始――
『依頼人の容姿や名前は?』(ry
――再生終了――
「も、もう一度…!」
――再生開始――
――再生終了――
「……1/20倍速でも見えない!」
PCの画面を食い入るように見つめていた絢斗だが、三度目で「ダメだ」と悟った彼は勢いよく立ち上がり「ウガーー!!!」と彼らしからぬ叫び声を上げると、そのままベットに倒れこみゴロゴロと転がり始めた。良く言えば<気分転換>。悪く言えば<現実逃避>である。
彼が悩んでいるのは、こうしてホテルに来る前…もっと言うとスロカイと合流する数時間前に遭遇し圧倒的な実力差を見せつけられた剣豪【パイモン】に関してのことだ。
(確証はないが、依頼を達成する過程で絶対にどっかでカチ合う気がする。……対策としては前回生身での戦闘で圧倒されたからBM戦――って言いたいけど、あの人本職
冗談の様な強さから忘れそうになっていたが、
「キツイなぁ…流石はトップパイロット」
呆れる様に…または感嘆する様に深くため息を吐いた絢斗だが、このまま「対策ムリ。ぶっつけ本番で行こう」という訳にもいかないため、何とかできないものかと思考を再開する。
(二手に分かれて片方を囮に…ダメだ各個撃破で終わる。ベカスさんも生身での戦闘が達者な方ではあるけど、アレに太刀打ちできるとは思えない)
上記の他にも〈現地の傭兵を雇っての袋叩き〉や〈目的地に赴く前の深夜に探し出して闇討ち〉といった意見が絢斗の頭の中で生まれたり弾けたりしたが、結局は「
「…やっぱ。
その後暫くウンウン唸っていた絢斗は、ある意味での
「ってなると、アレの準備だな…出所が出所だからあまり使いたくはないけど」
絢斗はそう呟いた後。自分の荷物の一つであり…今回の依頼から一回も開閉されていない黒塗りのジュラルミンケースを取り出した。
「……『我らが道は自らが歩む為にあらず』」
彼が足元のケースを見てそう呟くと、『パシュン』という軽い音とともに、ケースがゆっくりと開き出した。
「あいっ変わらず悪趣味な言葉だ…やな事思い出した」
顔も顰めつつも、絢斗は静かにケースの中身を見つめる。
ケース内に入っていたのは、長靴を骨組みだけにしたらこうなるだろうなと言った風の異形のブーツ。
もう一つはガントレット――丁度絢斗の腕の太さに
そして如何にも「危険です」と言わんばかりのドクロマークが、脳内の危険信号を否応にもなく刺激するタブレッド型の錠剤。
最後に…青と赤の二本線が特徴的な一丁の小銃。
その姿を見遣り、ふと手を伸ばす絢斗。
『お前は機械だ』『なんでお前だけ』『どうして、どうして?』『戦闘機人』『頼むぜリーダー!』『どこのバカだ!』『実験は中止』『助け』
『『『■■■――ッ!!』』』
「…もう前のことだろうに」
目頭を抑える絢斗は、脳内に浮かんできた思い出を振り払うべく頭を振る。
「なんだ…乗り越えられてないじゃないか」
再びケースに手を伸ばした絢斗は、澱みなくケース内の装備を身につけておく。その動作は流れるように淀みなく――まるで幾千回も繰り返して来た動作をなぞっているかのようだった。
「装備完了っと」
誰にいうまでもなくそう呟いた彼は、ふと立ち上がって、部屋に備え付けられていた鏡の前に立つ。
(まるで昔の再現だな…いや、ちょっとだけ殺気がとれたかな?)
多少は険がとれた自身の顔を見て苦笑いを浮かべて、絢斗は部屋で寝ているスロカイを起こさない様にゆっくりと部屋を出た。
……無論。スロカイのいる寝室から先は踏み入れた瞬間死が約束されたトラップルームに改造してから
「んー…ビックリするほど手応えがない」
俺…芦名絢斗は、ベカスさん達と作戦会議をしたところとはまた別の酒場の中心に佇んでいた。
そこそこ広い酒場の中心はテーブルや椅子の一切が取り払われており、穴が空いた様なポッカリとした空間になっている。しかしそこに何もないわけではなく……俺の足元には、全身を使って「私達は荒くれ者でござい」と伝えてる粗野な男達が何人も横たわっている。
(ぶっちゃけ
事の発端は、今俺がいるこの酒場にナントカ…えっーとそうだ「砂漠の蜥蜴」だ。ソイツらが丁度俺に対して接客していた女性ウェイトレスにちょっかいを出し始め、それで俺が注文したヤシの実サイダー(カイロでは滅多になかったので結構楽しみにしていた)を入れたグラスを落としてしまった。
……これで荒くれ者が素直に謝って、頼んだ分を補填してくれたのなら、俺は特にいう事なかった。半分犯罪グループとは言っても同じ穴の狢…それに傭兵なんてのは荒くれ者でナンボみたいなところもあったので、俺自身イラついていたが許す用意もあった。
しかしソイツは、謝るどころかウェイターから頼んだ奴を聞き出し。あろうことが俺に向かって割れたグラスを投げつけてきやがった。
『あぁ、それはダメだな』
元々取り出した武器の試験運用も終え、軽い高揚状態で普段より沸点が低くなっていた俺はそこでぶちのめす事を決めた。
ソイツらが店に入ってきた時見えない様に着用したコンバットグローブでグラスを打ち払うと、店から提供されたウェルカムスナックの【デザートナッツ】*1のローストを
『傭兵は中立だが…法破っていいってことではないよな?』
味方が一人倒され、そこで漸く俺の存在を認知した傭兵達が殺到してくる。
どこかから聞こえて来た「ヒュウ♪」という軽やかな口笛を皮切りに動き出した。近くにいたウェイターを押し除け、近くの席にいた只者ではなさそうな女性二人組に託すと、俺は抜刀してその刃先を傭兵の一人は突きつける。
「刃物を突き付けられる」という直接的な命の危機に思わず硬直した傭兵Aの隙を見逃さず――
……いや流石にここで死人出す気はねぇよ?
どこか安心した様な顔で倒れた傭兵Aを横目に、型もクソもない筋力だけに任せたヤクザキックでAの背後にいた傭兵Bを蹴り飛ばす。
たまらずよろけたBをタックルで突き飛ばし壁にぶつける。
ある程度広いスペースを確保した後は、唯の蹂躙…いや作業だった。腕を振れば顎に当たり脚を払えば胴を薙ぐ、相手の連携の熟度も高くなく、ひどい時は同士討ちじみた事態にもなっていた。
そうして出来たのが、さっきの光景というわけだ。
「……あー、なんかすみませんね同業者が」
「い、いえいえ!こちらこそ助かりました!」
取り敢えず被害に遭っていたウェイターと、店長と思わしき中年男性に頭を下げた。
相手からしたら俺もアイツらと一緒に店内を荒らした“無頼漢”である。最悪出禁と賠償金ぐらいは覚悟していたのだが。店のマスターに罵られるどころか感謝されてしまった……随分と人がいいらしい。
「――いや、だから壊したのは確かなんだから俺とアイツら(の財布から勝手に抜き取って)で払いますって。落とし前は付けさせてください」
「いえいえそうゆうわけには――」
「…何をしてるのかしらあの人は」
「バッカらし〜い。払わなくていいなら払わなきゃいいのに」
押し問答をする俺と店主、呆れた顔を浮かべるお二人と変な光景は数分間続いたが。突如響いた重低音によってその空気は破壊された。
「……オイオイそんなに短気なのかアイツら」
「い、今のは!?」
「BMの駆動音…それも複数体だな」
音の正体を知った俺はポケットのメモ帳から一枚の紙を引き千切り、そこにカイロ警護隊への連絡先と俺の違約金受け取り用の口座へのパスを書き示し店主に渡す。
「店主さん。今すぐその電話番号に連絡、その口座の中から被害額分と慰謝料持ってって!」
おそらく原因は乱闘中に外へと逃げてった奴が報告でもしたのだろう。だとしたら狙いは俺一人、万が一にでもこの店を潰されては困るので、俺は急いで外へと飛び出す――前に、咄嗟に振り抜き先程の女性二人へ向けて叫ぶ。
「あとそこのお二人さん!俺がダメだった時は店の守り頼む!!」
「ハァー?やるわけねぇだ――」
「いいわよ」
「え、エレイン!?」
「貴方がもし負けても、私とセレニティが必ずこのお店を守るわ」
眼帯をした方は断ろうとしたが……というかアイツ『黒の猟兵』か。まじで俺何もしなくてよかったな……黒色の軍服みたいな服が特徴的な人が快く応じてくれた。
それを尻目に俺は加速し一際大きなテーブルを踏み越えて大きく跳躍。天窓を突き破り店の屋根へと着地する。
視線を上げた俺の目の前には、奴らの物であろう低ランクBMのツインアイと目が合った。
『ハハッ!ぺしゃんこにしてやるぜぇー!!』
おそらくは乱闘騒ぎから逃げた傭兵の一人なのだろう。俺を見た瞬間BMの拳を振り上げ思い切り振り下ろした。
「ッチ――」
俺が舌打ちをすると同時にBMの拳が俺を屋根ごと押し潰す……
バ ガ ン !
『ヒャハハハ!俺たちに逆らうからこうなるんだよぉ〜!!』
勝ち誇った事が声音だけで分かる程度には沸き立っていた彼には悪いが、冷や水にかかってもらうことにした。
「生死確認は基本だろ?習わなかったのか?」
『なにぃ〜〜〜い!?』
オープンチャンネルで話しかけると又もや如何にもな台詞を吐き、俺を探そうとBMの首を振る。――生体レーダーでサーチすれば一瞬だろうに、何をしているんだろうか。
降って沸いた疑問を振り払い、頭を強く振る。「チャージは終わった。あとは唱えるだけだ」と己に言い聞かせ、その言葉を告げる
「《チェンジ》――パイモン!」
俺の景色がカイロの騒がしい街並みから一転、無骨な白一色のコクピットへと姿を変える。俺用に調節されたシートと操縦間の感覚を確かめ、パイモンの巨大な腕を相手のBMに突き出した。
『ぬぎゃああ!?何も無いところから――まさか、オメエわぁ〜〜〜!!?』
『何でそういちいち三下みたいな反応してんだよ……』
相手の頭を掴み、生身での戦闘の再現とばかりに地面に擦り付ける。
(BM戦闘は想定外だけど…まぁ問題はないだろ。前の盗賊団よりかは幾分か強いが、それだけだ)
建物を壊さない様に道路の場所を通りながら敵機に近付き、BM戦闘を開始する。
敵は複数機。多くはあるが軍勢というほどではない。最低限の良識はあるのか銃の類は持たず、拳やブレードで武装していた。
その事に安堵した俺は、一応実銃やレーザー兵器、そしてパイモンに搭載された電磁兵器の類をロックして(ないとは思うが万が一の暴発を防ぐためだ)、人間相手にする様に手をクイクイと曲げ挑発をかけた。
『………こいよ!』
俺に視線を向けていたBM達が数秒程硬直した後、堰を切ったように押し寄せた。
犇めき合いながらも向かってくるBM達は「鉄の津波」と形容しても良さそうなほどの威容であり、成る程大規模な傭兵団というのは嘘じゃないんだろう。
『オォォォオオオ!!!』
機体性能が上がるわけではないが、気持ちを昂らせるために咆哮。波に向かって突進する。
(全員を迎撃するのは不可能!だから――一点突破だッ!!)
FSシールドを全面に集中して展開。ブースター吹かし“面”ではなく“点”での突破を敢行した。
『――チェストォォォォ!!!』
体を捻って回転力をかけての飛び蹴りが炸裂する。スリムな体がかえって活かされたのか、俺の蹴りは敵BMの波を俺が通る部分だけ一気呵成に貫き通した。ある機体は体に罅が入り、またある機体は激突時のインパクトによって関節があらぬ方向に捻じ曲がり、そしてまたある機体は胸部装甲が陥没した。
突進の勢いを殺すために地面を両足だけではなく両腕も使い獣のような姿勢で衝撃を吸収し止まる。パイモン格闘型の腕部の爪形プロテクター*2でやるとますます獣っぽいなと思いながらも上体を起こし構え直す。
『なんなんだアイツは!?』
『おいお前行けよ・・・・・・・・・』
『イヤに決まってんだろっ、お前こそ行け!』
『どっから出てきやがった!!』
敵は完全に混乱しているらしく、この好機を逃がすほど俺は愚鈍ではない。
『来ないなら、俺から行くぞ!』
跳躍し敵の団体へと飛び込む、量より質の時代ではあるが未だ数の力は偉大だ。混乱が解けて連携をとられる前にケリをつける・・・・・・!
☆【虚栄】
『貴方がもし負けても、私とセレニティが必ずこのお店を守るわ』
(って言ったけど、この分なら助けは必要なさそうね)
衝撃と轟音に怯える店員と他の客を宥めながらも、エレインはそう判断した。
砂漠の蜥蜴団の横暴な態度に腹を据えかねた(仲間のセレニティは違ったようだが)エレインだが、彼女が手を出す前に彼女達の近くにいた男性が一足早くキレ、傭兵達と乱闘を開始した。半ば自動的に腰のサーベルに手が伸びた自分に疑問を覚えながらも隣のセレニティに「手助けしましょう」と耳打ちするが、エレイン以上に真剣な目つきで男性を見つめていたセレニティの「その必要はなさそうね〜」と言う声で制止された。
思わず眉を顰め語気を強く再び言おうとしたエレインだが、その直前店内に響いた『ゴシャア!』と言う音に反応し、その方向に首を向けた。
すわ飛び出した男性が強く殴られた音かと後悔の念を持ちつつ振り抜いた先の光景は―――自分より縦にも横にも大きい傭兵の頭を掴み地面に叩きつけた
微かに目を細め「ヒュウ♪」と称えるような雰囲気のセレニティが放った口笛が合図だったかのように、絢斗は動き出す。乱闘の側にしたウェイターを自分たちの方へ避難させた後はまさに蹂躙だった。
瞬く間に傭兵達を伸した絢斗は、戦い足りないとでも言うように軽く拳を振ると、その視線を自分たち――正確には結局最後まで傍観していたセレニティ――を一瞬だけ見遣るが、すぐさま店の店長達への謝罪へ移っていった。
そして、店の保護と防衛を任せ。彼は店の天窓から外へ飛び出していった……という訳である。
因みにだがセレニティは現在一番外に近い窓の近くで己の半身である黒い銃剣の感覚を確かめながら店の外に目を光らせていた。
絢斗外に飛び出した時点では「なーさっさと帰っちまおうぜ〜?」と駄々を捏ねていたセレニティだが、エレインの「お願い」と言う声に負け今は渋々店の護衛に当たっていた。
「そっちはどうかしら、セレニティ」
「問題なさそうだよエレイン。最初の一点突破こそ怪しかったがその後はぜーんぜん。ピンチに陥る気配すらないわねー」
「そう。なら良かったわ」
エレインもふと外を見るが、ちょうど彼が操る。自分にも見覚えがある《パイモン格闘型》の右ストレートが敵機のメインカメラを潰し、そのまま頭部を吹き飛ばしたところだった。
遮蔽物を使って敵を分断し、一対多ではなくあくまで一対一を連続で行い撃破する。複数人に囲まれた際は無理せず後退し再び分断にはしる……とどこか作業的な印象も受ける淡々とした戦闘行為は、自己流の戦いをする者が多い傭兵としては異質で、まるで厳しい訓練を重ねた軍人のような雰囲気すら浮かべている。
もし彼が見た目通りの年齢ならあそこまでの練度になるには――――と考えたところでエレインは思考を打ち切った。
「流石に失礼ね…」
連想ゲームの類ではあるが邪推が過ぎると己を諌め、自戒の念をこめて自分の頭をコツリと叩き、エレインはより一層周囲への警戒に力を入れ始めた。
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「見覚えがあると思ったら、アイツ【AAエース】ね」
セレニティは窓の外で戦う絢斗をみてその正体を言い当てた。*3自分たちとその組織へ何かしらの影響力を持つ人物では無いが、それでも有名パイロットの情報は彼女の頭の中にしっかりと残っていた。
「単なる神輿役かと思ったけど、意外とやるのね」
実の所絢斗が戦い始める前までセレニティは“芦名絢斗”と言う存在を認識していなかった。いや…正しく言うなら戦い始めた時点でさえも『なかなか腕の立つ奴』としか思っていなかった。(まぁこれは彼女の脳内タスクの優先順位が何に置いても「エレインLOVE!!」だから仕方ないのだろうが)
セレニティが初めて『コイツは芦名絢斗だ』と認識したのは、乱闘が終わり倒れ伏した傭兵たちの中心にいた絢斗がセレニティに視線を向けた時だった。
――突然だが害意、敵意、殺意、怨恨、恨みと言った人に向けてマイナスのイメージを叩き付ける感情の類は概ね『激情』に区分される。
そして激情とは「激しい情緒」という意である。瞬間湯沸かし器のような短い時間か、カイロのような緩くも長い続くのかは個人によるだろうが……つまり何が言いたいかと言うと個人差はあれどその手の感情には何かしらの燃え盛るモノが介在するはずなのだ。
だが絢斗がセレニティに向けた視線の中には…そのような“熱”が一切無かった。
シュレッダーに入れるべき屑紙を見つけたような、料理に使うために切り分けるための肉類に見るような。“闘争”というよりかは“処理”のような印象をセレニティに与えた。その時、一瞬だけだが確かに……セレニティは絢斗を“恐ろしい”と思った。
その際の状況を思い出し、セレニティは己の相貌が釣り上がるのを自覚し…戦闘狂である己の黒い、その中でも更に黒い部分が鎌首をもたげるのを自覚した。
………戦ってみたい。
セレニティがそう思った瞬間、最後の敵機が崩れ落ちた。
BMの裏から出てきたパイモンと、そこから降りてきた絢斗は、ゆっくり此方に近付き――
「依頼頼んだ後で悪いんだが…もう一個頼んじゃダメか?」
絢斗くんは中々くらい過去を持っています。今は脱却し昔の記憶は殆ど薄れましたが今でもそれを指摘されたり、それを思い出すような行為や戦闘があった時は少しだけ昔になります。