コイキングお嬢様 作:キノココ
旅立ち
コイキング。
それは釣りなどで取れるポケモンである。
図鑑の説明では『ちからも スピードも ほとんどダメ。せかいで いちばん よわくて なさけないポケモンだ』と言う風に認知されている。
使える技は『跳ねる』、『体当たり』、レベル上げると『じたばた』。
ただそれのみである。
故に周囲では使えないポケモンと認知されていた。
──お父様。何故この子はイジメられているんですか?
──それはね、弱いからだよ。
小さいながらに社会の醜さを知った。
弱者は取り除かれ、強いものだけが生きる。
私の父はまさにそんな人だった。
だから私は父のようにはなりたくないと思ったし、この子を守りたいとも考えた。
ただ守りたいだけではない、この子を強くして社会に認められてもらいたいと考えていた。
十二歳の春。
春と言えば出会いと別れの季節だが、私たちからすれば旅立ちの季節である。
新品の靴に春色のワンピース。
お母様から譲り受けた斜め掛けの鞄をかけて鏡を見る。
「──よしっ! これで大丈夫ですね」
そう言いながら、白色の帽子を被って唯一の手持ちを鞄の中にしまう。
これは私がする初めての反抗である。
親の言うことを聞いて、聞いて、聞いて。
そうやって礼儀正しく理想の娘であろうとしていた。
でもきっと、それじゃ私は強くなれないし、この子を強くすることもできない。
だからこれは初めての反抗、家出なのだ。
幸い家はとても広い。
出て行ってもすぐにバレることはそうないはずだ。
私はそっと忍び足で外に出て、門を通り出て行った。
「……ごめんなさい。絶対にいつか、戻りますから」
門に向かってそう言い、私は鞄の紐を握って走り出した。
少し離れたところにある森の入り口。
既に自分の家は見えない位置まで来て、改めてもう戻れないことを知った。
でもそれでいいのだ、いいのだと頭の中で考える。
軽い深呼吸をして辺りを見回す。
誰もいないことを確認して鞄から一つ、ボールを取り出した。
ほんの小さい頃に捕まえた、私の持つ唯一のポケモン。
「コーちゃん」
ボールを投げて、コーちゃんと呼んだポケモンをボールから出す。
出てきたのは元気よくビッチビッチと跳ねるポケモン。
赤く、長い髭を持つ、周囲からは弱いと蔑まれるポケモン。
これが私の唯一にして、大切なポケモン、コイキングである。
「…………」
とにかく陸上で跳ねている。
そこでハッとして私は気づいた。
「み、水! 池はどこですか!?」
少し離れたところにある池に入れると、ようやくコーちゃんは笑顔を見せる。
釣られて私も笑顔になる。
そして地図を広げ、目的地を決めるところから私の旅は始まった。