私の名は武ノ神黑紅。詳細は後々話すが、今現在吸血鬼の前で名乗っていたところだ。私の目の前で上半身と下半身に分かれて転がっている吸血鬼は、頑張って這いつくばり下半身との結合を試みている所だ。
「ゲバ…ゲババババ………神と名乗るか……さっきと打って変わってとんだイカレ野郎を目の当たりにしちまったぜ」
おぉ、こいつ信じてないな。というかこいつはこの体と初対面の筈……一度見た様な物言いは少し気になるな。
「神を愚弄するか吸血鬼。というか初対面だろう。さっきとは何の話だ」
「さっきはさっきさ。ベッドから勢いよく出て家族を見捨てた臆病者が、オレの目の前にいる奴さ…」
……成る程。小夜鳴とかいう奴とこいつは同一人物という訳だな。視界も記憶も共有してる。
「残念ながらその臆病者の魂は私をこの体に移す生贄となった。もうお前の知る人間はここにいない」
「ゲババババババ!!まだ神と言い張るか!そういうのを『厨二病』とか言うんだろ?」
一般的な知識も共有か。そしてこの挑発の仕方……既に再生は完了しただろうな。
「成る程、やはり俗物には理解が難しいらしい。ならばもう一度切り捨て、認めさせるか」
私は霊力を使い、この少年の体と服を作り替える。
10代未満から前半と思われる体を成長させ、服は繊維と色料を変える。
「……お前……
「神と名乗っただろ。そんな事も分からんか」
大体マツギとか何ぞや。この世界特有の言葉か?後で色々調べないとだな。
「……ん?」
背後から殺気……これは…仲間か?
「お父様に……!!何をした!!!!」
若い女の声の後にバチィィィィン!と空気が割れる様な音が後ろからやって来た。この音は電気系統だな。直ぐ様体を45°程曲げ避ける。電気は真横を通り、地面を焦がしていった。……ふむ。人間なら心臓を止めれる電圧だな、これは。
「な…!!私の攻撃が…読まれてた…?!」
「数秒前から殺気に気付いていた。ならばどういう攻撃だろうがこう避けていたさ」
体を傾けたので、声の主を確認する。
先に目についたのは鮮やかな金髪とそれを纏める黒いリボン、赤い目だ。蝙蝠の形の翼を見れば、人外という事は想像し易い。そして攻撃時の発言通りであれば、この少女も吸血鬼であるという結論が出る。
服装はフリフリが多めのドレスみたいな奴を着ている。多分ごしっく何とかと言う奴だろ。胸元は若干大きめに開けてある。開けすぎて心臓を狙われないか心配だな…。見た目通りの10代後半なら胸は大きめだな。吸血鬼の本当の年齢なぞ興味ないが。
「ヒルダ!!何故来た!お前には後始末を任せた筈だぞ!」
「そんな事直ぐに終わらせましたわ。それよりお父様!いつまで這いつくばっているおつもりですか?そんな人間、お父様ならさっさと殺してますでしょう?!」
この小娘、父親と同じ目に合わせてやろうか?
「残念ながらいつまでも此処に留まるつもりは無い」
腰まで届く肩マントの内側に右手を伸ばし、愛刀を取り出す。
日本刀と似た様な形状、鍔部分には銃口とスライド式スイッチが搭載されている。
其の名は、『無双セイバー』
「あら?人間の癖に生意気ね。無限罪のブラドと呼ばれるお父様に血を吸われる事がどれだけの幸福か分からないのかしら?」
「貴様ら吸血鬼の相手より大事な事があるのでな。失礼する」
銃モードに切り替えるバレットスライド*1を引いて、地面に向けて射撃し煙を撒く。目眩し程度ならこれで充分だろう。
「ちょ……あぁもう!!絶対に貴方の血をお父様にプレゼントするんだからーー!!!!」
「………さて。本来の目的に戻るか」
あれから数時間後。私は奇妙な植物が生える深い森の中に身を潜めている。勿論さっきいた森とは次元的にも違う場所に移動している。
「…先ずは武装を増やす事か…」
左手に持つ、赤い果物の装飾を施された錠前型の機械、『ブラッドオレンジロックシード』を見ながら呟く。
冥界から現世に来る際許された装置で、他にも数種類持っていきたいと伝えたが現地調達&精製を言い渡された。まぁ流石に最初からフル装備は人間に優しくないのは事実。だがどういった方法で作って良いかは言っていなかったので、持てる神の力を使ってつくるつもりだ。
「……社畜っていうのかな……私の現状は…」
私がこの世界に来た理由は人類の救済と高らかに宣言したが、別に魔王が世界を支配するとかそんな大規模な話じゃ無い。
冥界神からの新規業務は『死者の削減』である。
冥界は知っての通り死んだ人間の行き先。だが死んだ人間が多すぎるといくら冥界でもパンクしてしまう。そこで、死者の魂の整理整頓をする為に新規の死者を出来るだけ減らす神が必要となったのだ。
年を重ねる度に生者と死者の数が増えていく時代になったので、冥界を楽しむ者には全盛期の姿を提供したり、思う事がなければ冥界のエネルギー、姿を持たせず人魂の様に丸くし収納とかするのだ。
つまり、『死者削減』の過程として『寿命を延ばす、人助けする、命を守る』事になるのだ。
「…人間社会に拠点を作らなければな…」
さっきの吸血鬼の一部の言葉が分からなかったと言うこともあり、この世界での常識も必要だ。しかし武装を増やす事もあるので、材料を手に入れられる必要がある。最悪、悪党達と契約し仕入れする羽目になる。
「……取り敢えず、交流だな」
此処にいても知らない物が知れる訳ではない。移動して情報を集めよう。
ロックシードの鍵を開け、空間に穴を作る。チャックの様な穴の向こう側には、海が見える。付近には何も無い様だ。
周囲を警戒しながらこの空き地らしき陸地に足を置く。人に見られる訳には行かないのですぐに穴を閉じる。
改めて周りを見渡す。陸地から陸地への巨大な橋、長方形ばかりの出島の様な陸地、今私がいるこの島には風車が数m間隔でずらりと並んでいる。前後を見渡し、目測2kmとその半分未満の辺による長方形と仮定する。いやしかし本当に何も無いな。風車しかない。
「……さて、先ずは情報収集か」
そう意気込み、私は『空き地島』と呼ばれる場所から出て行こうとするのだった。
前後合わせて一話分スタイルを行うかもしれません。
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